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始まりの章 女神領の決闘 編

プロローグ 公称帝王の誕生〜転生〜

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  [異世界転生]という言葉がある。

  若くして大切な一生を失った者が、神様やら何やらのご厚意によって、有り難くも二度目の人生を異世界で送れるという例のアレ。

 本当にそれは存在しているのだろうか。
 そんな事をふと考えてみる。逆にこの状況で考えないという選択肢はないだろう。

 理由は実に簡単なことだ。

・・・目覚めたら見知らぬ空間に居た訳だからな、俺。

 直前の記憶も曖昧な中、その謎の空間で自らを閻魔様とわざわざ様付けで名乗る体長五メートル、あごひげ推定七メートルのおじさんと出会った(ちなみに、髪の毛の方は推定できる程の長さがなかった。というかまず、髪の毛が残っていたかも分からない)。

 そして、そこで衝撃の真実を告げられた。

・・・俺が、トラックなんかに轢かれちまったこと。

 この際、死んでしまったことに関して素直に納得する。しかし、そんなありきたりな転生は許せない。
 当然、そのすぐ後に魔法ありありの異世界に飛ばされる事を伝えられるまでは反抗の意志を示した。

 その後、意味もなく雑談を挟み、何やかんやで転生関連の求人募集案内を渡された。

・・・んな感じで、俺はこの地に立っている.....って事で合ってるよな、オーケー俺。

 そう言えば、今朝の星座占い、[車輪のある乗り物には全般的・全面的に気を付けないと、あなたという存在は消えてしまうでしょう]とアナウンサーが笑顔で言っていた気がする。

 もし、あの占いと笑顔が本当だったなら、今頃は全世界から魚座人間と、アナウンサーから恨みを買った全ての人間が絶滅していることだろう。

・・・えっ、もしかして俺を轢いたのアナウンサーじゃないよね?

 だとしたら本当に怖いので考えないでおく。


 .....と、多少なり無駄な事もあったが、そんなことを思う今日この頃だ。

 先刻の記述の通り、この男は、時間で言えば今さっき死んだばかりだ。ちょっと前に閻魔を名乗る厨二病患者からいろいろと説明された後のこと。

 しかし、そんな事が現実なんて信じていない。トラックに轢かれて死んだなんてのは何かの間違いだ。
 故に、死んだなんてこともないんだ。

 それに、普通に考えて、異世界転生なんて有り得ない。妄想が過ぎれば変なものを現実と考えてしまうこともあるはず。

 それらの考えから、テレビの新手なドッキリと仮定して平然とあろうと決めたばかりだ。....それなのに、変な汗が絶えず頬を伝っていく。

 これには、平静を装いきれずに笑みをひきつらせるのには、ちゃんとした理由がある。

 最初からずっと、現実を受け入れきれずに無視を続けていたのだ、視界にチラチラと入る背中から翼を生やした人たちを。本音はとても気になってしょうがないに限る。

 パッと見で数十名、漏れなく全員がこちらを訝しげに見守っている。まるで、ダンスパーティーで一人、盆踊りを踊ってしまった時のような空気感、この視線はきっと、目を合わせたら危ない人たちだ。

 この場合、一旦は冷静に考えるべきだと今更思う。

 翼の生えた人々.....一言でファンタジーだ、どう見てもそう。はい、結論出ました。

 ...となると、

・・・俺はもちろん、迷いなく逃げを選択するね。

 とりあえず考えるのはやめたその時、背後から誰かに肩を掴まれた。

 刹那の思考、聞いたことのあるパターンで考えれば、この後に頭を鉄の棒で叩かれ、気が付くと体が小さくなっている可能性が高い。と、何故か考えた。

 ここで選択するべき行動は、とりあえず間を取る。肩に置かれた手を振り払い、素早くステップを踏んで強打が入るのを回避。後のことは未来の自分に任せる。

 そうして振り向いた先、目の前に女神の如く振る舞いに在る女性が居なければ、実際に考えたままにそう行動していただろう。

・・・どう、ど、どど、どうど、どど。

 表側よりも先に心の方の言語能力が崩壊してしまった。無理もない.........だって、そこに女神が居るんだから....。
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