1話完結の短編集

月夜

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遠回りの恋/テーマ:子どもの頃の友達 ※別サイトにて優秀作品

2 遠回りの恋

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「裏切り者ー! そうやって蒼は私の先を行くんだー」

「何だそれ」



 蒼は意味がわからず眉を寄せているけど、これは私が勝手に拗ねているだけ。
 今まで沢山助けてもらったんだし、蒼の恋を応援してあげようじゃないかと、バッと伏せていた顔を上げると「うわっ!? 今度はなんだよ」と驚く蒼。

 私に好きな人を話すのが気まずいなら陰ながら応援しようと、立ち上がった私は蒼の両肩に手を置き「任せてね」と言って席につく。
 何がなんだかわからない蒼は「何をだよ……」なんて言ってたけど、兎に角二人の関係が更に親密になるようにすればいいんだから、いっちょ私が一肌脱ぐかな。


 その日のお昼。
 中学までの私なら、自然と蒼と一緒にお昼を食べていたけど、今回は違う。
 先ず蒼の席に行き「学食行くか」と言った蒼の言葉のあとに私はチラリと森川さんに視線を向けて「森川さんも一緒にお昼食べない?」とさり気なく誘う。

 今まで私と蒼が二人でお昼を食べていたことを知ってる森川さんは自分が誘われたことに戸惑ってたみたいだけど「ダメかな?」と言う私の言葉に「うん、いいよ」と返事をしてくれた。



「学食は一階の奥だったよね」

「ああ、学校案内のパンフレットに載ってたからな」



 いい感じに話す二人と学食へ向かう途中、私は「あっ! 用事あるの忘れてた」と今思い出したかのようによそおいその場から離れた。
 本当は何の用事もない私は、購買でパンを買って教室に戻ると自分の席でお昼を食べる。

 これで好きな人と二人になれたんだから、蒼は私に感謝すべきね。
 こんな感じで二人きりになる機会をつくれば、お互いに惹かれ合ってゴールインになるかもしれない。
 そう思ったら嬉しいはずなのに、心がモヤモヤするのは何故だろう。

 パンを食べていた手は止まり私の表情は曇る。
 森川さんは良い人だし、しっかりしているのに明るくて可愛い一面もある。
 蒼も小さい頃から女の子みたいに可愛くて、髪を変えた今なんてまるで本当の女の子みたいで、正直二人はお似合いだと思う。



「私も、森川さんみたいだったら……」 



 ポツリと口から出た言葉に、私は口元を手で隠す。
 私が森川さんみたいだったらなんだというのか。
 なんで森川さんになりたいなんて思ったんだろう。

 わからない。
 ただ、嫌なんだ。
 蒼が私から離れていくみたいで。
 もう、今までのような関係が続けられないんじゃないかって。



「違う……そんな理由じゃなくて。私は蒼が──」

「おい! なかなか戻ってこねーから来てみれば、何でお前は教室でパン食ってんだよ」 



 自分の気持ちに気づいた瞬間、教室に蒼が現れるなんてついてない。
 この気持ちを伝えたところで蒼にとって迷惑にしかならないから、私は黙って蒼の恋を応援しなくちゃいけない。

 それが、幼馴染である私がするべき事のはず。
 なのに何で、涙が溢れちゃうんだろう。



「っ!? おい、どうし──」



 心配する蒼の言葉を遮り、私は教室を飛び出した。
 蒼、驚いた顔してた。
 当たり前だ、突然泣き出したんだから。
 教室に居た人たちの顔までは見れなかったけど、きっと皆に見られたに違いない。

 泣くつもりなんてなかったのに、何で私の涙は未だに止まらないんだろう。
 早く枯れてしまえばいいのに。
 そうしたら「驚かせてごめんね」って、笑顔で蒼に言えるのに。

 とうとう屋上まで来てしまった私は、呼吸を乱して肩で息をする。
 教室にも戻りづらいし、蒼とも顔が合わせづらくなってしまった。

 このまま授業をサボって屋上にいるのも悪くない。
 その間にこの気持ちも涙も収まるかもしれないから。



「はぁはぁ……お前な、何で逃げんだよ」



 扉に視線を向ければ、息を切らした蒼の姿。
 追いかけてきて何てほしくなかったのに、放っておいてくれればよかったのに。



「何で追いかけてきたの。森川さん、待ってるんじゃない。早く行ってあげなよ」

「今は森川よりお前だろ。何かあったのかよ」



 優しい言葉なんてかけないで。
 森川さんより私なんて言わないで。
 折角押し込めようとしている感情を引きずり出さないで。

 背を向けていた私の頭にぽんっと手が置かれ。
 まるであやすようなその手の温もりに、私は口にしてしまう。
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