1話完結の短編集

月夜

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雨の日に犬を拾いました

2 雨の日に犬を拾いました

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 それから特に緊張もなく翌日を迎えると、私は着ていく服を適当に選び着替え、準備は完了。
 あとは宮飛くんが迎えに来るのを待つだけだと思っていると、スマホの通知音が鳴る。

 バッグから取り出し画面を見ると、何やら知らないアドレス。
 本文を確認すると待ち合わせ場所が書かれており、これは間違いなく宮飛くんからだとわかった。

 場所は近くの駅。
 私が駅に着くと、すでにそこには宮飛くんの姿があり、私に気付き笑顔で手をブンブンと振ると駆け寄って来る。



「ちょっと聞きたいんだけど、何で私のアドレス知ってるわけ」

「高野さんの親友から聞いたから」

「親友よ……」



 そんなこともありつつ、私達は当初の目的であるお出掛けをするわけだが、まだどこへ行くのか聞いていない。
 宮飛くんに尋ねても、秘密と言って教えてもらえないまま連れて行かれたのは、何故か私が学校帰りに通る道。

 ここだよ、と言って立ち止まった場所には何もなく首を傾げると、忘れちゃった、と尋ねられ、宮飛くんの視線の先を見て思い出す。
 そう、ここは、宮飛くんのお兄さんである、あの怖い男性と私が初めて会った場所。

 でも、何故ここへ、と思い視線を向けると、宮飛くんはあの日の事を話し始めた。

 彼は私と出会う前、見た目が怖い故に皆から避けられていた。
 怪我をすれば、喧嘩をした。
 目が合えば、睨んだ。
 そう思う人ばかり。
 学校でも、仲のいい友達なんて一人もいない。
 彼の居場所はいつだってどこにもなかった。



「雨か……」



 大学の帰り、外は雨が降っていたが傘は持っていなかった。
 雨が止むのを待つにしても、これは明日まで止まないだろう。

 仕方なく雨に濡れて帰路を歩く。
 濡れた服が体に貼り付いて鬱陶しい。
 周りを歩く人は彼を避けて歩いていく。
 誰も彼に声など掛けはしない。

 喧嘩もしたことがない。
 睨んでもいないのに、人は見た目だけで人を判断する。
 誰も彼などを心配したりしない。
 そう思うと、歩くのも疲れ、道の端に座り込む。

 自分に振り注ぐ雨。
 まるで彼の心のようだった。

 だがその雨が、突然彼の上に振らなくなったと思うと、声が聞こえた。



「風邪、引きますよ」



 顔を上げると、そこには同じ大学の女がいた。
 大学に通う人全てを覚えているわけではないが、一番後ろに座る彼からは、女が一番輝いて見えていたから覚えている。
 確か高野と呼ばれていた。

 表情を見ればわかる。
 本当は怖いのに声をかけてくれたんだと。
 心配してくれる優しい女。
 でも、きっとまた怖がられる。



「傘忘れちゃって。スブ濡れで寒くて、動けねェ」



 そう言えば、突然女は彼を自分の家へと連れて行きお風呂に入れた。
 それも服まで用意して。

 こんな風に親切にされたのは初めての事だった。


 その日家に帰った彼は、自分が怖く見られないようにするために色々研究しまくった。
 いつもはしているピアスを外し、髪型も怖く見られないように、ヘアバンドで前髪を上げる。

 だが、これだと睨んでるように見られがちな目が更に見やすくなってしまう。
 どうするべきかと考えたとき、ある事を思い出す。
 まえに見たアニメで、カワイイ男キャラはピンを留めたりして女みたいなことをしていたことを。

 一度試してみようとヘアバンドを外すと、クリップ代わりに使っていたヘアピンで前髪を留める。



「あー……これ、カワイイのか?」



 まぁ、ヘアバンドで前髪を全部上に上げるよりはいいだろうと思い、髪型は完成した。

 次は服装だが、それは問題ない。
 彼が怖がられているのは服装ではないからだ。

 だが、最後にもう一つ問題が存在する。
 それは話し方。
 普段人と話さないせいか無口。
 これはマズイと思い、カワイイアニメキャラ男子が出てくるアニメを観て研究する。



「それで翌日、高野さんの家に行ったわけなんだけど、いざとなって緊張したせいで弟なんて言っちゃったんだ」

「てことは、アナタはあの男性の弟くんじゃなくて、あの日の……」



 驚きに何も言えずにいると、嘘ついてゴメン、と、少し悲しげに謝られ、何だか胸がキュンと切なく痛む。

 怖がられないように、私の為に頑張ってくれたんだと思うと、嬉しくて口が緩みそうになる。

 宮飛くんの言う通り、私は彼が怖かった。
 でも今の、本当の彼を知ったら怖くなんてない。
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