【完結】ZERO─IRREGULAR─

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第8章 それはきっと普通の日常

1 それはきっと普通の日常

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 花火作戦は成功を収め、俺は二つの目標を達成できた。
 だがそれも、今となっては一週間以上前の事。
 夏休みも残り僅かとなった今日、俺は計画的にコツコツと宿題を進めていたので問題はない、はずだった。

 あの花火作戦以降、何故か二番と五番だけでなく一番さんと四番まで俺の部屋を頻繁に訪れるようになり、入れ替わりで来たりすることもあって宿題のペースがゆっくりと遅れていき、今の俺は焦っていた。



「まだ休みは一週間あるんだろ? なら焦る必要ないんじゃねーか」

「元々決めてやってたのが遅れれば計算が狂うんだよ。つーかいつの間に二番は俺の部屋にいんだよ」



 机の上に予定より遅れて出来なかった宿題を置き、昼飯を作る時間までに少しでも進めて遅れを取り戻そうとしていれば、いつの間にかいた二番。
 ノックしても返事がなかったから入ってきたらしいが、まあ問題ない。
 基本二番は大人しく座って漫画を読んでるだけだし、話しかけないように伝えればとくに影響はない。

 問題なのは、今こちらに近づいてくる騒がしい足音だ。
 今日は一段と騒がしくまさかと思えば、部屋の扉が開いて二人の人物が入ってくる。



「佳っチ、四番に言ってやってよ!」

「このアホが佳は自分に惚れてるとか言ってるけど違うだろ!?」



 五番は騒がしさから予想がついたが、まさか四番まで一緒だとは。
 足音の多さで二人いるのはわかっていたけど、一体この会話はどこからツッコめばいいんだ。
 そもそも今の俺にそんな時間は存在しない。

 取り敢えず二人を無視して宿題を進めれば、俺が何も言わないのをいいことに二人が好き放題なことを言い始める。
 何も反応しないのは、当たり前のことを聞くなって意味だとか言う五番に、僕は佳の友達なんだぞと苦しい反論を返す四番。
 そこに更に加わったのが二番。
 四番の友達発言に反応して「それなら俺のが上だな。俺は佳の親友だからな」と勝ち誇った笑み。

 仲良くなってくれたのは良かったが、何故俺の部屋に集まるんだ。
 兎に角無視を続けていると、部屋に新たなノックが響き一番さんまで来てしまった。
 まさか四人が揃うとは。
 只でさえ狭い部屋に五人、そして煩さもこの部屋では倍増し、俺のイラつきは夏の暑さと予定外のノルマの宿題でピークになる。



「お前ら……騒ぐなら出てけーッ!!」



 二番、四番、五番は、初めて見る俺の怒りに驚いたのか「はい!!」っとハモって返事をすると出ていく。
 部屋に残ったのは一番さんだけ。
 あの三人が煩くてまだ話を聞いていなかったと思い「一番さんはどうしたんですか?」と尋ねれば「宿題を手伝いに来たんだが、タイミングが悪かったみたいだな」と静かに言う。

 一番さんはあの花火をして以降、他の皆とも話すようになり、昨日三番さんが「五番達が彼の部屋に頻繁に出入りしてるみたいだから、多分予定より宿題が遅れて慌ててるんじゃないかな」と言ってたのを気にして様子を見に来てくれたようだ。

 邪魔しに来るアイツ等と、俺のことまで気にかけてくれる一番さんとの違いは何なのか。
 年齢、と言いたいところだが、アイツ等の場合は皆脳内が子供なんだろう。
 まあ、実際の子供である四番は兎も角、何故明らかに年上の二番と五番が挑発的なのかを考えれば簡単な答えだ。
 とくに二番は俺と同い年なんだよな、と少し遠くを見つめる。


 その後、昼飯を作る時間まで一番さんの協力を得ながら宿題は順調に進み、この調子なら昼飯の後にもやれば夕飯を作る時間にはノルマが片付きそうだ。
 これというのも全ては一番さんのお陰。



「ありがとうございました。この調子なら後は一人で大丈夫そうです」

「そうか、ならよかった。お前には色々と世話になったからな。お陰で皆昔みたいな関係に戻りつつある」



 一番さんの口は弧を描き、俺がした事は皆の力になれたんだと嬉しくなる。

 二人部屋から出ると、俺は宿題を手伝ってくれた一番さんに改めてお礼を伝えてからキッチンへ向かう。
 その途中、何やら美味しそうな香りがして、キッチンに近づいていくにつれその香りは強さを増す。
 今から昼飯だってのに、待ちきれない誰かが自分で作り出したんだろうか。

 ジュージューと何かを炒める音。
 そしてソースの香り。
 これは焼きそばだ。
 調理の音と話し声が聞こえ、どうやら一人ではないみたいだ。

 キッチンにつくと、そこではキャベツなどを刻んでいる三番さんと、それを使い麺と絡めている二番の姿。
 更に出来た物を運んでいるのは四番と五番。



「おや、宿題は無事片付きましたか?」

「いえ。でも、後はお昼を作ったあとにやれば夕飯を作るときには終わると思うので」

「なら佳はこれを部屋に持って行って続きをチャチャッと終わらせろよ。食器は後から取りに行くからさ」



 昼飯は今二人がすでに作っている焼きそばにしたらしく、二番は焼きそばが乗った皿を俺に差し出すと、部屋に戻るよう促す。
 四番や五番も後は任せてと言っている。
 もしかしなくても、皆なりの俺への気遣いなんだと思ったら嬉しくなる。

 さっきは騒ぐだけの子供だとか思ったが、本当は気にかけてくれてたんだな。
 なんて思いながら子供発言に心の中で謝罪したとき「お前が宿題終わらねーと遊べねーからさ」という言葉が付け足され、俺は全てを察した。
 三番さんは俺のことを気遣ってくれたのかもしれないが、他の三人は全く違う理由だと。
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