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【第一章】 捨てられた少女
旅の苦労
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次の日、ぐっすり眠ることのできた私は、部屋を出ようとしておかしなことに気付く。
「あれ……。鍵が開いている……?」
それどころか、自分の魔法アラートが鳴った形跡もある。
「え? え? 嘘、え!? 私、もしかしてアラートにも気付かないで寝ちゃってたの!?」
盗られたものがないかを探ってしまう。
「……あっ、でも施錠魔法が解除されてないってことは、魔法的な施錠は解除できなかったってことか」
よかったぁ。
これなら盗られたものはないということになる。
けど――、
アラートにすら起きない自分の耳は一体どうなっているのであろうか……。
むずがゆい思いをしながらも、宿の食事処でご飯を済ませ、次の街を目指していく。
ところが、食事の時から相部屋にいた三名がこちらをじっとりと睨みつけてきており、宿から出るとそのままついて来るのであった。
関わりたくないと思ったので小走りで道を進んでいく。
だが、曲がり角を曲がったところで一人が待ち構えていた。
後ろにはもう二人が来ている。
「なあお嬢ちゃん、ちょっと俺らとお茶しな――」
ヤバいっ!
話しかけられた!
私はそのまま走って路地側へと逃げていく。
「あ、おい! 待て!」
額に脂汗を浮かべながら、見知らぬ道を右へ左へととにかく逃げていく。
だが運悪く――、
「袋小路……!」
背後には既に三人が追い付いていた。
「へへ、この街は俺らの庭みたいなもんだぜ?」
「そうそう、ここは叫んでもなかなか人が来ねぇ場所だ。昨日の晩は何でか扉が開かなかったから諦めたが、ここならいくらでも楽しめそうだ」
ってことは鍵が開いていたのはこいつらのせいか。
歯をしっかりと食いしばりながら、エルガさんに習ったこういうときの対処方法を思い返す。
えっと、まず自分の主張をちゃんしながら、相手側の主張を――
「俺らといいことして遊ぼうぜぇ!」
なんて思っていたら、思考に時間を割く余裕もなく一人目の男が飛び掛かって来た。
「ひぃぃぃっ! 【ブレスファントム】」
風が弾け、踏み出した男がその場から消える。
「「へ?」」
思わず手が出るならぬ魔法が出たのだが、一切加減をしなかったせいで、男が石壁にめり込んでいた。
悲鳴一つ上げることなく倒れ伏す。
あー……。
やり過ぎた……?
いや、けど、これはチャンス。
これで私のことを脅威と思ってくれればそのまま身を引いてくれるはず!
「ど、どお? これに懲りたら――」
「てっめぇ! やんのかおら!?」
「ぶっ殺してやる!」
「ひぃぃぃぃ!」
残り二人の目つきが途端に害意に満ちる。
「こっちがおだててるうちに乗っておけばいいものをっ! いい気になるなよ女。痛い思いじゃ済まなせねぇぞ! 【ストーンボディ】」
「【クイックブースト】」
片方は体を石のように硬くする身体強化魔法、もう片方は速度を大幅にあげる身体強化魔法だ。
「はんっ! 乗り切れるか? 石壁のごとく迫る俺と、目にも止まらぬ速さで迫るもう一人。今土下座して素直に可愛がられんなら、許してやらなくもないぜ?」
男が迫る。
「や、やめて下さい! 【ファイヤーランス】」
炎槍を放って石体となった方を焼いていく。
「おいおい、今俺の身体は石と同等になってんだぜ? 火が利くわけ――」
しかし、ありえないことが起きて男の顔が引きつっていった。
「なっ! なんだこれ!? あぢぃ!! あぢぃぃぃぃ!! ぎゃあああ!」
男は後ろにすっころびながらたじろいでいた。
「え……?」
初級の魔法だし、そこまで強い威力ではなかったはずなのだが……。
なんだか拍子抜けな思いをしているのも束の間、死角方向からわずかな音が聞こえてきた。
それを頼りに、高速魔法を纏って飛来してきたそやつを捕まえて、そのまま空中で回転しながら地面にたたきつける。
この手の攻撃はビーザルさんから幾度ももらっているので対処は簡単だ。
それに攻撃速度もビーザルさんよりだいぶ遅い。
「【サンダーボール】」
倒れた彼は簡単な電撃魔法で感電失神させる。
残るは未だに地面で火傷の痕を擦る石男だったのだが、彼の方を睨むだけで、男は震えがあがってしまった。
「ひ、ひぃぃ!」
チャンス!
相手はこちらに恐れをなしている。
ならば、このタイミングでちゃんと言っておくべきだ!
「もも、もう、わわわ私に関わらないでくだしゃい!」
あっ……噛んだ……。
「は、ははあ」
格好がつかないで落ち込む私に対し、男は男で、まるで王様にでも傅くかのごとく頭を下げているのだった。
男から目を離さないように横をすり抜けて、そそくさと去っていく。
しばらく走って、街の外まで逃げてきたところで、へたり込むように息を吐き出してしまった。
「はぁぁぁぁ。死ぬかと思ったぁ……」
世の中は怖いことがいっぱいあると教えられてきたが、想像以上に危険がいっぱいのようだ。
ビーザルさんは「いや、ミュリナが普段魔物狩りをしてる魔邪の森のがよっぽど危険だけどな」なんて言っていたが、どう考えても人を相手にする方が怖い。
それに、魔邪の森に出てくる魔物なんてだいたい一撃で片付けられる相手ばかりだったので危険というにはいくつもの疑問が湧いてしまう。
「はぁ……。でも、勇者になるんだもんね。頑張れっ、私!」
そんな具合に、旅人としての経験を積みながら、どうにかこうにか、ようやく人族との国境にまでやってくるのだった。
「あれ……。鍵が開いている……?」
それどころか、自分の魔法アラートが鳴った形跡もある。
「え? え? 嘘、え!? 私、もしかしてアラートにも気付かないで寝ちゃってたの!?」
盗られたものがないかを探ってしまう。
「……あっ、でも施錠魔法が解除されてないってことは、魔法的な施錠は解除できなかったってことか」
よかったぁ。
これなら盗られたものはないということになる。
けど――、
アラートにすら起きない自分の耳は一体どうなっているのであろうか……。
むずがゆい思いをしながらも、宿の食事処でご飯を済ませ、次の街を目指していく。
ところが、食事の時から相部屋にいた三名がこちらをじっとりと睨みつけてきており、宿から出るとそのままついて来るのであった。
関わりたくないと思ったので小走りで道を進んでいく。
だが、曲がり角を曲がったところで一人が待ち構えていた。
後ろにはもう二人が来ている。
「なあお嬢ちゃん、ちょっと俺らとお茶しな――」
ヤバいっ!
話しかけられた!
私はそのまま走って路地側へと逃げていく。
「あ、おい! 待て!」
額に脂汗を浮かべながら、見知らぬ道を右へ左へととにかく逃げていく。
だが運悪く――、
「袋小路……!」
背後には既に三人が追い付いていた。
「へへ、この街は俺らの庭みたいなもんだぜ?」
「そうそう、ここは叫んでもなかなか人が来ねぇ場所だ。昨日の晩は何でか扉が開かなかったから諦めたが、ここならいくらでも楽しめそうだ」
ってことは鍵が開いていたのはこいつらのせいか。
歯をしっかりと食いしばりながら、エルガさんに習ったこういうときの対処方法を思い返す。
えっと、まず自分の主張をちゃんしながら、相手側の主張を――
「俺らといいことして遊ぼうぜぇ!」
なんて思っていたら、思考に時間を割く余裕もなく一人目の男が飛び掛かって来た。
「ひぃぃぃっ! 【ブレスファントム】」
風が弾け、踏み出した男がその場から消える。
「「へ?」」
思わず手が出るならぬ魔法が出たのだが、一切加減をしなかったせいで、男が石壁にめり込んでいた。
悲鳴一つ上げることなく倒れ伏す。
あー……。
やり過ぎた……?
いや、けど、これはチャンス。
これで私のことを脅威と思ってくれればそのまま身を引いてくれるはず!
「ど、どお? これに懲りたら――」
「てっめぇ! やんのかおら!?」
「ぶっ殺してやる!」
「ひぃぃぃぃ!」
残り二人の目つきが途端に害意に満ちる。
「こっちがおだててるうちに乗っておけばいいものをっ! いい気になるなよ女。痛い思いじゃ済まなせねぇぞ! 【ストーンボディ】」
「【クイックブースト】」
片方は体を石のように硬くする身体強化魔法、もう片方は速度を大幅にあげる身体強化魔法だ。
「はんっ! 乗り切れるか? 石壁のごとく迫る俺と、目にも止まらぬ速さで迫るもう一人。今土下座して素直に可愛がられんなら、許してやらなくもないぜ?」
男が迫る。
「や、やめて下さい! 【ファイヤーランス】」
炎槍を放って石体となった方を焼いていく。
「おいおい、今俺の身体は石と同等になってんだぜ? 火が利くわけ――」
しかし、ありえないことが起きて男の顔が引きつっていった。
「なっ! なんだこれ!? あぢぃ!! あぢぃぃぃぃ!! ぎゃあああ!」
男は後ろにすっころびながらたじろいでいた。
「え……?」
初級の魔法だし、そこまで強い威力ではなかったはずなのだが……。
なんだか拍子抜けな思いをしているのも束の間、死角方向からわずかな音が聞こえてきた。
それを頼りに、高速魔法を纏って飛来してきたそやつを捕まえて、そのまま空中で回転しながら地面にたたきつける。
この手の攻撃はビーザルさんから幾度ももらっているので対処は簡単だ。
それに攻撃速度もビーザルさんよりだいぶ遅い。
「【サンダーボール】」
倒れた彼は簡単な電撃魔法で感電失神させる。
残るは未だに地面で火傷の痕を擦る石男だったのだが、彼の方を睨むだけで、男は震えがあがってしまった。
「ひ、ひぃぃ!」
チャンス!
相手はこちらに恐れをなしている。
ならば、このタイミングでちゃんと言っておくべきだ!
「もも、もう、わわわ私に関わらないでくだしゃい!」
あっ……噛んだ……。
「は、ははあ」
格好がつかないで落ち込む私に対し、男は男で、まるで王様にでも傅くかのごとく頭を下げているのだった。
男から目を離さないように横をすり抜けて、そそくさと去っていく。
しばらく走って、街の外まで逃げてきたところで、へたり込むように息を吐き出してしまった。
「はぁぁぁぁ。死ぬかと思ったぁ……」
世の中は怖いことがいっぱいあると教えられてきたが、想像以上に危険がいっぱいのようだ。
ビーザルさんは「いや、ミュリナが普段魔物狩りをしてる魔邪の森のがよっぽど危険だけどな」なんて言っていたが、どう考えても人を相手にする方が怖い。
それに、魔邪の森に出てくる魔物なんてだいたい一撃で片付けられる相手ばかりだったので危険というにはいくつもの疑問が湧いてしまう。
「はぁ……。でも、勇者になるんだもんね。頑張れっ、私!」
そんな具合に、旅人としての経験を積みながら、どうにかこうにか、ようやく人族との国境にまでやってくるのだった。
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