10 -第ニ部-

ヒツジ

文字の大きさ
上 下
13 / 21

それぞれの立場

しおりを挟む
「ルリ様、動かなくなっちゃいましたよ~。どうしましょう」
「う~ん。どこか壊れたんだろうか」

14年前。アサギが5歳の頃。教会のおつかいの帰りに声が聞こえたので見ると、2人の子供が顔を突き合わせて困っていた。1人は泣きそうな顔をして、もう1人は手に持った何かをあちこち調べている。

「どうかしたの?」

声をかけると驚かれたが、泣きそうになってた子が人懐っこく事情を話してきた。

「ルリ様のおもちゃが動かなくなっちゃったんだ。飛んでる時にそこの木にぶつかっちゃって」

もう1人の子の手を見ると、鳥の形をしたおもちゃを握っている。

「あの……僕、機械直すの得意だから見てみようか?」

おもちゃを握ってる子は少し警戒しているようだったが、もう1人の子にあと押しされておもちゃを渡してくれた。
アサギはいつも持ち歩いてる簡易の工具で調べてみる。

「あ、ここが外れてるんだ。ほら。直したついでに外れにくくしとくね」

説明しながらテキパキと修理をする。直ったおもちゃを飛ばすと、2人から「おお~」という感嘆の声があがった。

「ありがとう!ルリ様、良かったですね!」
「ああ。ありがとう。父上が送ってくれた物だったから、壊れてしまって困っていたんだ」

2人が嬉しそうな顔でお礼を言ってくる。アサギは機械を触るのが好きだが、こうやって喜んでくれることが何より好きだった。


教会の本部。ラボの一室でアサギは空を見ていた。飛んでいる鳥を見て昔の記憶を懐かしんでいる。

『2人は元気かな。会いたいな………』

友人の顔を思い出しながら、手元に視線を落とす。そこには上層部からの通達が書かれた紙が握られていた。

『武器開発部門への異動………僕が武器を作るなんて………絶対したくない。でもどうすれば………』

悩みに歪んだ顔で再び空を見る。鳥はいつのまにか姿が見えなくなっていた。



ニセのルリ救出作戦から3日。ルリと再開できたソラはすっかりこぎげんで昼食をとっていた。

「相変わらず大きなおにぎりねぇ。背が大きい分、たくさん食べないといけないものね」

ヒワがどんどん消えていくおにぎりを感心しながら見ている。

「はい。それだけ大きくなってくれたら食費を払ってきた甲斐もあると両親に言われました」
「はは。ソラのご両親は楽しい人だね」

クレナはソラが素直に育った理由が何となくわかる気がした。

「ごちそうさまでした」

きちんと手を合わせるソラの後ろにリンドがやってきた。

「あんた、午後からは事務所待機でしょ。射撃の訓練するわよ。隊長、いいですよね」
「うん。いいよ」

ソラの返事を待たずにリンドは首根っこを掴んで引きずっていく。「またこのパターンかぁ」と思いながらソラはされるがままに任せた。


「どうしても右肩があがるわね。意識して下げなさい」
「はい」

リンドの指示は的確だ。言われたからといってすぐ直せるものではないけれど、自分のできていないところをしっかり教えてもらえるのはとてもありがたい。

「一回休憩にするわ。水分しっかり摂りなさいよ」

リンドと並んで休憩する。決して覚えの良いほうではない自分に根気よく付き合ってくれるリンドに、ソラは感謝の気持ちを伝えた。

「あの、リンドさん。ありがとうございます」
「いいのよ。ソラが強くなることはこの町のためにもなるんだから。それに、まだやるべきことは終わってないんでしょ」

全てを見透かすようにリンドがソラを見る。

「なんでわかるんですか?」
「あんたは分かりやす過ぎるのよ。ほら。やるべきことがあるならもっと鍛えないと。休憩はもうおしまい」

再び銃を構えるように指示するリンドに、「はい!」と元気に返事をしてソラは訓練を再開した。



その頃、ルリはスーツ姿の男性と会っていた。

「ご足労いただきありがとうございます、ロウさん」
「いや、武器開発への対処は急務だからね。一ヶ月後にはかなりの人数が開発課へ移動させられる。君の幼馴染もその中に含まれているよ」
「やはりそうですか」

ルリがはぁっとため息をつく。

「例えば君の友人をラボから連れ出す、というだけなら簡単にできるんだが。君たちの目的はそうではないんだろう」
「はい。アサギは自分だけ助かっても喜ばないでしょうし、武器の開発そのものを止めないと意味がない」

ルリの回答にロウは満足したようだった。

「武器の開発を止めるとなると、需要をなくすのが一番だろうね」
「そうですね。貴族が地上に上がることによる治安の悪化をどうするか。姉上と対策を模索中です」
「地上に上がる人数は減らせないのかい?」
「バカンス目的なら規制はできますが、物資の輸入など必要な目的もありますので。無理に地上行きをやめて食糧不足でも起きれば、元も子もないですから」

ルリがアゴに手を当てる。考え込む時の彼の癖だ。

「ある程度の対策ができれば、組織の力で教会は黙らせられるんだけどね」
「ヒスイ君ですか。できれば彼の立場は使いたくないのですが」
「優しいね。彼は覚悟の上だと思うけどね。まあ10年で効果の切れる保証に頼るよりは、根本的な対策を講じた方が建設的か」

ロウは自分に言い聞かせているようだった。

「まあここからは君達、貴族の仕事だ。検討を祈るよ。私で力になれることがあればいつでも言ってくれ」

ルリの肩をポンと叩いてロウは去っていく。1人残され、ルリはずっと考え込んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

処理中です...