10 -第ニ部-

ヒツジ

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星の子祭り

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「はいはい。星の子祭りに来た子は順番に案内するからこっちに並んでね~」

トキとの話し合いから一ヶ月後。ソラはなぜか広場で祭りの案内をしていた。

「しかし、隊長もなんで急に祭りをやろうなんて言い出したんだ」
「ほんとにね。まあでも、子供達も喜んでるしいいんじゃない」

一緒に案内をしているカナリとリンドは突然の祭り開催に戸惑いながらも、子供達の楽しそうな姿に張り切って働いていた。

『うちの隊の人たちは本当にこの町が好きだよなぁ』

ソラは自分の隊のそういうところが好きだった。
祭りの内容はシンプルで、町の子供達を広場に集めて星にまつわる話の紙芝居をしたりお菓子を配ったり。ついでに防犯についての講座もすることで、軍のイベントとして隊長が無理矢理開催したものだった。

『これが組織に接触することと、どう関係があるんだろう』

疑問を抱えたまま、ソラは精一杯祭りの運営として走り回っていた。



「今日はありがとうございました。あとは後片付けだけお手伝いお願いします」

トキが手伝ってくれたボランティアの人たちに挨拶をして、みんなで後片付けにかかる。

『結局普通にお祭りをしただけだったな』

そう思いながら片付けをしていると、トキがやってきた。

「ソラ君、ちょっとコッチを手伝ってくれるかな」
「?はい」

素直についていくと、トキは会場から出てどこかへ向かっているようだった。

「あの、隊長、どこへ」
「こんなお祭りで本当に組織と接触できるのか不安になったよね。ごめんね」
「え?あ、はい」

早足で歩くトキが角を曲がる。

「でもこんな名前の祭りが軍の主催で行われたら、彼らは見に来ずにはいられないはずなんだよ。そうだろう、クキ君」

曲がった道の先には男性がいた。どこか軽い雰囲気のする男性が、やはり軽い声で答えた。

「あ~。やっぱりバレてた。だから来るのイヤだったんだよ。トーカが全部押し付けるから」

ブーと口を尖らせる。緊張感のカケラもない態度に、ソラは自分が何をしにきたのか忘れそうになる。

「どうせトーカは私に会いたくなくて逃げたんだろう。君も苦労するね」
「そうなんだよ~。トキさんの部隊がやってることなら悪事じゃないだろうから自分はパスって。で、なんでこんな回りくどいことしてるの?」

シレッと本題に入られる。掴みどころのなさにソラは頭がついていかない。

「いや、なに。うちの子がね。おたくの組織に聞きたい事があるらしくて」

2人の視線がソラに集まる。急に話を振られてあたふたしながらソラが説明をする。

「あの、ルリ様、ノゼ・ルリがあなたの組織に協力してると聞いたんです。俺、会いたくて。あ、幼馴染なんです。名前はソラと言います」

しどろもどろな説明にクキの頭にはハテナが浮かぶが、ある事を思い出して手を叩いた。

「もしかして君がマイトくんの言ってたソラくんかい?」
「はい!そうです!」

どうやら中央での会話をマイトから聞いていたらしい。クキは話の内容を理解してくれた。

「は~。まさかこんな手まで使ってルリくんを追いかけてくるなんて。凄いガッツだね」
「絶対に諦めないところが長所だとルリ様に褒められたので」
「ん~。ルリくんからしたら複雑な気持ちかもしれないね」

クキがハハッと笑う。トキから聞いていた組織のイメージとは結びつかない穏やかな人柄に、ソラは気持ちが緩みそうになる。

「でもルリくんは君に会いたくないって言ってるよ」

容赦ない言葉である。やっぱりこの人は組織の人間なんだと、覚悟をした人間の言葉の重さにソラは負けそうになる。

「………でも、ルリ様が何か事件に巻き込まれているなら助けたい。どんくさい俺をいつも信じてくれて、俺にもできることがあるって言ってくれたルリ様の力になりたいんです」

涙が出そうになるのをグッと堪える。このチャンスを逃せば後がない。なんとかしてルリに会いたい気持ちが溢れ出した。

「誰かのためにか。その言葉には弱いんだよね。………いいよ。ルリくんに会えるように協力してあげる。うちの可愛い弟を助けようとしてくれたお礼だよ」
「本当ですか!」

弟って誰のことだろうと思いながら、ルリに会える希望がでてきたことで他のことはどうでも良くなった。

「と言うか、うちの協力者になれば話は早いんじゃないの?」

クキのもっともな問いにトキが険しい顔でソラの前に立つ。

「彼にはあなたの組織のことは何も教えていない。彼が望まない限りは教える気もない」
「え?そうなの?なら、協力者は無理だね~。わかった。どうするか考えてまた連絡するよ。今日はとりあえず帰るね」

今度ご飯に行こうと誘うような軽さで約束をして、クキは去っていった。

「隊長。ありがとうございます」
「いやいや。ソラ君が頑張った結果だよ。でもここからは私は何もできない。君が自分で決めて進んで行くんだよ」
「はい!」

ソラは気づかなかったが、優しいトキの声には少しの不安と何かへの期待が混ざっていた。
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