白き魔女と金色の王

ヒツジ

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第十一話

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ウォンイが進化の話をしてから3ヶ月。
3人は再び白の里を訪れていた。

「進化……ですか。我々の存在にそんな秘密があったなんて……」
「まだそうだと決まったわけではないが。長も何か心当たりはないか?それを聞きたくて今日は来たのだ」

3人は長の部屋でウォンイの仮説を説明していた。
長の両隣にはクロとシロ、イソラとイザナがいて、4人ともウォンイの話に驚いている。

「………混乱を招くといけないと思って里の者には隠していたのですが………。白の人の里がもう一つあることはご存知ですね。そちらの長から相談されたことがあるのです。白の人同士は子ができにくく、産まれても身体が弱かったり糸の力が弱いように感じると。うちの里は向こうほど子供が産まれていないのでなんとも言えなかったのですが、それも何か関係があるのでしょうか」

長の話にウォンイは考え込む。

「……文献では、血の近い者同士で子を作り続ければ体の弱い者が産まれてくるようになるともあった。それと同じことなのか。何にせよまだ推測の域をでないな」
「ひとまず、まだ里の者にはこのことは伏せておくのが良さそうですね。ここにいる者達でできることをしていきましょう。イソラ、イザナ、シロ、クロ。ウォンイ殿を手助けしてあげてください」

4人は大きく頷き、話し合いは終わりとなった。


「カダ!久しぶりだな!会いたかったよ!」
「私は時々顔を出しているだろう。訓練は怠ってないな」
「はは。お前は怒ったら怖いからな。ちゃんとやってるよ」

長の部屋を出るとツギハが待っていた。
嬉しそうに駆け寄ってきて、カダの肩を叩く。

「チヤも久しぶりだなぁ。そちらさんは?」
「ウォンイだよ。僕の夫」
「ってことは王様の弟?うわっ。俺、王族なんて初めて会ったよ」
「お前がツギハか。そう畏まらなくていい。里での暮らしはどうだ?」
「みんないい人で楽しいよ。来るの悩んでたのがバカみたい」
「ツギハ。ウォンイ様付きの兵士を目指すなら、せめて敬語を使え」
「そういえば、なんでお城の兵士になりたいの?それもウォンイ付きなんて」
「え?それは~。まあ、色々っていうか」

ツギハがチラッとカダを見る。
カダは視線に気づいていないが、チヤはその意味を理解した。

「そっか~。応援してるから頑張ってね」

なぜか急にウキウキしだしたチヤにカダとウォンイは不思議な顔をしている。ツギハは笑顔で「ああ!」と答えた。


その後はシロ達の家に落ち着き、長と話したことについて相談することになった。

「関係あるのかわからないけど、ツギハの糸は僕らのよりはるかに強いんだよねぇ。手脚の再生は大差無さそうだけど」
「そうか。やはり混血であることが何か関係しているのか」

何の話?と戸惑うツギハにカダが説明する。

「あ~。俺が女だったらシロと子供作って混血の子ができるのになぁ」
「それなら僕もウォンイとの子を作れたらよかったのに」
「いや、お前が子供を産めたらそもそも俺と結婚してないだろ」
「あ。そうか」
「クロ。子供を研究対象として考えちゃダメだよ。男でも女でも、俺はクロならなんでも好きなんだし」
「あ。うん。わかった……」

急に照れるクロに、シロがヨシヨシと頭を撫でる。

「なんかあの2人、前にチヤ達が来た時から妙にラブラブなんだよね」

イソラがチヤに耳打ちする。
チヤは2人が仲良さそうにしているだけで幸せだった。

「……白の人のことを兄上に話してはダメだろうか」

穏やかな雰囲気がウォンイの一言で急に引き締まった。

「それは……なぜ話したいんだい?」

イソラの問いにウォンイは神妙な面持ちで答える。

「今回のことは普通の人にも関係のあることだ。ならば国としても対処しなければならない問題だろう。国王である兄上の協力を得られれば、情報を得るにしても何かを調べるにしても動ける幅がかなり変わるのだが」

ウォンイの言いたいこともわかるので、全員がう~んと唸る。

「っていうか、それなら長の許可もいるだろ。なんでさっき話さなかったんだ?」

シロが最もな質問をする。
するとウォンイが少し言いにくそうにして口を開いた。

「……俺1人では判断しかねてな。みなの意見を聞いてから長に話をしたかったのだ」

その言葉にカダとツギハ以外がニヤニヤしだす。

「そっかそっか~。俺は王さんに話すの賛成だよ」

シロが嬉しそうにしている。

「里も外と繋がりを持たないといけないし」

イザナはいつもの無表情だが少し楽しそうだ。

「僕たちはウォンイの味方だしね」

イソラは底抜けに笑顔で。

「あとはチヤさえ良ければだな」

クロはチヤを優しく見つめる。
見つめられたチヤは頷いて、ウォンイに顔を向ける。

「ジンイ様なら信じられる。僕も賛成だよ」

みんなの姿を見て、カダがとても嬉しそうにしていることにツギハは気づいた。

「何?みんなどうしたの?」
「……ウォンイ様はもう1人ではないのだな。頼れる味方ができたのだ」

ずっと孤独な背中を見てきたカダだけが、それがどれだけ尊いことかを理解していた。


みんなの意見も揃ったので長に相談に行くと、ウォンイに一任するとのことだった。

「今回の件はツギハを捜すことから始まりました。全てウォンイ殿にお任せしますよ」

なぜか楽しそうにしているシロ達を見て、長も何か勘づいたのだろう。里の未来は里の若者達に託したいという思いがよぎった。

「どうぞ。白の人達の未来を導いてください」


長との話が終わり、城へ戻る3人を見送るためにみんなで里の入り口へ向かう。
するとクロがウォンイの隣にやってきた。

「おい。ウォンイ」
「………はい」

相変わらずクロに話しかけられただけで震え上がるウォンイが返事をする。

「俺が外に出れないことについて、シロが話をしたそうだな」
「はい。すみません………」

2人のことに首を突っ込んだから怒ってるのだろうかと、ウォンイはひとまず謝った。

「なんで謝るんだよ。………シロがあれから苦しそうな顔しなくなったんだよ。いつも俺を里に閉じ込めてるって自分を責めてたのに。だから、ありがとう」
「はい。すみま………へ?」

間抜けな顔をするウォンイに、クロがふっと笑う。

「俺が外に出れないのはシロのせいじゃない。約束がなくても外には出なかった。それでも俺を外に連れ出せる力が自分にないことが許せなくて、俺だけに苦しさを背負わせたくなくて、シロはあの約束をさせたんだ。俺は俺と一緒に苦しもうとするシロを見るのが、外に出れないことより辛かった」

クロが前を歩くシロを見る。

「いつか俺が外に出れるようにするって言ったんだって?最近シロが、外に出れるようになったらあそこに行こうこれをしようって、楽しそうに話すんだよ。お前のおかげだな」

幸せそうに笑うクロは、思わずウォンイが見惚れてしまうほど美しかった。

「………2人の気持ちが軽くなったなら良かった。チヤも喜ぶ」
「ふん。チヤとのことはこれからも口を出すが、それでもチヤは見る目があったって認めてやるよ」

それだけ言ってクロはチヤの方へ走っていく。
その姿を嬉しそうに見るウォンイの隣に、今度はシロがやってきた。

「素直じゃないでしょ、あいつ」
「ああ。でもチヤの言った通り、強くて美しい人だ」
「………惚れちゃダメだからね」

シロの嫉妬にウォンイは笑ってしまう。
そして、この人達を守りたいと心から思ったのだった。



里から帰って数日後。
ウォンイとチヤはジンイの自室に来ていた。白の人について話をするためだ。
説明の後にジンイとリョクヒの前でチヤが腕を切る。心配するリョクヒが手を伸ばそうとすると、みるみる傷が塞がった。

「これで信じていただけたでしょうか?」

不安そうに聞いてくるチヤに、ジンイとリョクヒは頷きあう。

「お前達の話はわかった。白の人という存在についても信じよう。あとは国王としてどう判断するかだが……」

部屋に緊張が走る。国を預かる者としては、ウォンイ達のように感情論では判断できないだろう。

「白の人は国に大きな利益をもたらす存在だろう。戦場に出れば強大な戦力になり、糸の力は人にはできないことを可能にする。悪い言い方をすれば、利用価値がある」

チヤが顔を歪ませる。
ウォンイが口を開きかけたとき、ジンイが「だが……」と続けた。

「他国の者から奪い従わせるようなことを続けていては、いつまでも戦乱の世は終わらないだろう」
「それに、大切な王弟の妃の故郷にそのような扱いはできませんものね」

リョクヒがチヤに優しい眼差しを向けながら付け加える。

「白の里とは同盟を結ぼう。ただし混乱を避けるため、しばらくはここにいる者のみ里の存在を知ることとし、ウォンイに責任者として全権を与える」

ウォンイは「はっ!」と頭を下げる。
チヤも頭を下げ、「ありがとうございます……」と涙ぐんだ。

「これで少しはあなたにお礼ができたかしら」

そう言うとリョクヒは嬉しそうに微笑んだ。
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