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第24話だぞ【衝撃の夜食】

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 それから数十分後、我は今回泊まる和室の事や仕事の事などを悠介さんと話していると――

「おふたりとも、食事の準備が出来ましたので一階の宴会場まで来て下さい」

 愛子さんからそう夜食の準備が出来た報告を貰った。
 お!遂に来たか……!

「了解だ。よし悠介さん、早く行くぞ」
「あぁ――だがお前、テンション上がりすぎではないか?鼻血出ているぞ」
「は?――って、」

 そこで我は己の鼻を触る。そして指先を見ると――なんと本当に血が出ていた!?

「は、はぁぁぁ!?な、何故だ……!?こんな事初めてだぞ!?」
「はぁ……だろうな。俺もこんな奴初めて見たぞ。――ほら、ティッシュだ。」
「す、すまん」

 ま、まさかこの魔王である我が食事ごときで血を流すとは……無意識にどれだけ楽しみにしていたというのだ!?(まぁあの和菓子があれだけ美味ければ当然と言えば当然か)

「と、とにかくいくぞ!」

 こうして我は鼻にティッシュを詰めると、悠介さんと共に階段を降りて行く愛子さんの背中を追った。


 そして、一階に降り、宴会場と言われる場所に行くと、そこはひとつの広場の様な空間で、その中心に大きな長テーブルと椅子が並べられていた。

「――あ!来たわねふたりとも!」
「魔王さんっ!早く食べましょう!」

 そして、入った瞬間そう声をかけられる。どうやらもうゆうりとえなは来ていたみたいだ。
 我は軽く腕を上げ、それに応えると椅子の方まで歩いて行き、悠介さんと隣り合う様に座った。

「って、どうしたのよアンタ、その鼻……」
「ん?あぁ!?す、少しぶつけてしまってな!」
「そうなんですか?魔王さんらしくないですね」
「あぁ、全くだ」
「……」

 って、おいおい悠介さん……?なんだというのだその哀れな者を見るかの様な視線は……?
 (だが、本当の事をバラされなかっただけまだマシか)

 と、するとそこで我たちが入って来た入り口とはまた違う入り口から、銀次さんと愛子さんが食べ物を次々と運んで来た。

「って、な、なんだこの料理は……!?」
「お!来たわね。――ふふ、いつもサンドイッチばかり食べてるアンタにとってはこんな和食も初めてなんじゃない?」
「あ、あぁ……!見た事も無いぞ……!」
「わぁ!鯛だ!私鯛大好きなんですよっ!」

「鯛?それはこの真ん中に置かれた魚か?」
「はいっ!って、魔王さんお魚食べるのも初めてなんですか?」
「あぁ、この世界ではもちろん、前も何度か話していたが前の世界でも我は森の奥に住んでいたからな、海に行く機会などそう無かったから、当然そこに住んでいる生き物も食べた事は無い。」
「へぇ、この鯛はね?銀次おじちゃんが今日遊んだ海で釣って来た物なのよ」
「そうなのか?」

 そうして我は次々と料理を運び込んでくる銀次さんの方を見る。すると銀次さんはドヤ顔で両腕の服の裾を捲ると筋肉が良く見える様にポーズを決め、

「いかにも、今日はゆうりたちが来ると聞いて久しぶりに漁師魂に火が着いたんでな」
「ほう、やるではないか」
「はっは、童にそう上から目線で言われるとはワシも落ちたかの」
「もう銀次さん?そんな事言ってないで早く食事を出して行って下さい」
「あぁ、すまぬ」

 今、あえて何も言わなかったが銀次さん、見た目では自分の方が歳を取っている様に見えるかもしれんが、我はもう何百年生きたか数えてもいないぞ。

 ――と、そろそろ食事の準備が出来た様だ。

「おほん、じゃあワシから軽く一言。今日は来てくれてありがとう。この料理は近海で取れた幸をふんだんに使った海鮮料理じゃ。いっぱい食べるのじゃぞ」

 料理を並べ終わった銀次さんはアゴの白髭をいじりながら自信に満ち溢れた顔でそう言う。
 ほぅ……?よほどこの料理に自信があるか……!良いだろう……!我がどれだけの物か試してやろう!

「よし!いただきま~す」
「いただきますっ!」
「いただくぞ」
「じゃあ我も――」

 そうして我は皆が食べ始めた事を確認してから箸を持ち、真ん中に置かれた鯛とやらに伸ばす。

「……ッ!」

 するとそれを箸で触れた途端、その身にスルッと箸が入って行った。

「見た目とは違い、とても柔らかい身だな。それに外は赤だというのに中はプリプリの白身だ。」
「まぁ鯛だからな。ほら、冷めない内に早く食べてみろ」
「あ、あぁ」

 い、いかん……今になって少し緊張して来たぞ……!
 そうして我はゆっくりと箸で掴んだ鯛の白身を自分の口の中へと進め、中に入れた。――途端、

「……ッッッッッ!?!?」

 我の口の中をプリッとした食感と海風を思わせる様な塩辛い風味、そして底から上がってくる身の甘みが満たした。

「う、美味い……!?美味すぎる……!?」
「ふふ、驚いてるわね」
「魔王さんっ!そのままご飯をかきこむんです!」
「わ、分かったぞ」

 我はそのまま言われた通りに手元に置かれた米を口の中へ投げ入れて行く――――すると、
 今度はその米が既に口一杯に広がっていた鯛の旨みと混ざり合い、味を何倍にも膨れ上がらせる。

ふまひ!ふまひぞ!美味い!美味いぞ!
「ふふ、お口に合って良かったです。」
「若いもんは食いっぷりが良いのう」
「ほら魔王、この貝も美味しいわよ」
「これか?どれどれ――って、これもやばいではないか!?美味すぎるぞ!?」

 こうしてこの夕食は先程食べた和菓子の衝撃をあっという間に吹き飛ばし――我の記憶に鮮烈に刻み込まれたのであった。
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