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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】

第56話【準決勝1回戦〜本気のスザク〜】

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『お知らせ致しますッ!只今の時間を持ちまして、昼休憩は終了となりますので、剣の部準決勝第1試合に出場する該当選手は、フィールド前のエリアへ移動を開始して下さい!繰り返しますッ!只今の――』

「お、もうそんな時間か。」
「話してたらあっという間に過ぎて行ったわね。」
「だな。」

 くるみの試合を見てから30分。俺たちは選手に配られた食べ物を食べながら談笑を楽しんでいたのだが、まさかこんなに早く終わるとはな。
 ――って、さっきのアナウンス、準決勝って言ってたよな?

 考えたらまず出場選手が各部8人なんだから当たり前かもしれないが――もうそんな所まで来たのかよ。
 こんな感じであっという間に決勝も過ぎていきそうだな。

「――っし、じゃあ俺は離れた入場ゲートの方へ行って来るぜ。みさとちゃんはさっきと同じ場所に行ってくれたら良いからな。」

 そこで、アナウンスを聞いたスザクはレザリオ、ミラボレアとの会話を止め、身体を伸ばしながら立ち上がると、後ろ姿のままみさとにそう言う。
 そうか、準決勝の1試合目はみさととスザクがやり合うんだったな。

「え、えぇ。分かったわ。」
「ってかスザク。お前は離れた方の入場ゲートに行くって言うが、特に誰がどっちとかは決まってないのか?」

 俺は何となくスザクに質問する。
 これは実はさっきから気になっている事だった。
 1回戦の時は俺たちから見て左側の入場ゲートが近いからそっちに行っていたが、次の試合からは出場選手が全員今居る選手席ここに集まって居るからな。

 するとそれに対してスザクは、

「まぁ特には決まっていないな。さっきまでの試合なら互いに近い方のゲートに行くが、今回みたいにどちらも同じ場所に居る場合は話し合いでどちらに行くか決めたりしたりする。」
「へー。なんかそこら辺のルール緩いよな。」
「まぁ、レザリオちゃんが最初のルール説明をぉ、するくらいだからねぇ。」
「ん?なんか今失礼な事言ったよなぁ!?」

 まぁとりあえずはそう言う事らしい。
 俺はそっちの方が堅苦しく無いからやりやすいがな。

 
「――じゃ、いい加減行ってくるぜ。」
「よし!なら私も行ってくるわ。」

 そこでみさとも立ち上がると、階段を降りて行ったスザクに続く様に階段の方へ歩いて行く。

「よし!俺たちじゃあ行ってこい!」
「頑張れよ!」
「私たちはどんな結果でも最後まで応援するからね~!」

 俺たちはそんなみさとの後ろ姿に声援を送る。
 するとみさとは――

「せっかくここまで来たんだから、スザクをギャフンと言わせてやるわ!!」

 相手が上級冒険者という事を感じさせない満開の笑顔でこっちを振り向き、去り際にそう言い残して行った。

 ---

 それから数分後。
 俺たちは誰1人喋らずに、実況者のアナウンスを待っていると、そこでやっと競技場全体に声が鳴り響いた。

『ではッ!大変お待たせ致しましたッ!これより昼休憩を挟んだ剣の部準決勝第1試合、みさと選手VSバーサススザク選手の試合を開始致しますッ!』
「「うぉぉぉぉ!!」」

 流石準決勝、更には互いに初戦をインパクトのある勝ち方で勝っているという事もあり、歓声は初戦よりも数段大きい。
 これも決勝になると更に大きくなるのかね?だとしたら鼓膜が破れそうだぞ。

「やっと来たな……」
「なんか私まで緊張して来ちゃったよ……」
「おいおい、まだ2人ともフィールドに入って来てすらないんだぜ!そりゃ流石に早いだろ。」
「そう言うとうまは緊張してないのか?」
「いや、めちゃくちゃしてる。」
「ほら!してるじゃねぇかよ!」

 ――頑張れよみさと……確かに相手は強いがお前ならやれるはずだ……!
 俺は胸の前で腕を組むと、心臓の鼓動がドンドン早くなっている事を感じながら心の中でそう呟く。

 するとそこで、入場のアナウンスが入った。

『ではッ!両選手入場!』

 その合図と共に2つの入場ゲートから2人の冒険者がフィールドへ入って来る。
 あぁ……マジで緊張してきたぁ……

 そしてそのまま2人はフィールド中心部分まで歩くと、今までの試合と同じ様に決められた場所で止まった。

『それではッ、これより初戦でオルガ選手を下したみさと選手と、初戦で上級冒険者、ラゴ選手を下したスザク選手の試合を開始致しますッ!』

 そのアナウンスで、これまでずっと鳴り響いていた歓声は、まるで何かを待つように静まり返る――
 
「……ゴクリ……」

『試合――――開始ッ!!』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」

「行けみさとぉッ!!」
「やってやれッー!」
「頑張れッ!」

 その合図と同時に鳴り響く歓声に合わせて、俺たち3人も声を上げる。
 こうして、試合の火蓋が切って落とされた。

 ---

 試合が開始されて早々、最初に動いたのはスザクだった。
 普通の槍とは違う――刃の部分が横にも伸びた十文字槍の形をした木の武器を持つスザクは、己の凄まじいスピードでみさとの前まで一瞬にして間合いを詰めると、最初の一振を横から仕掛ける。

『おぉ――って!?』

 それに対して実況者は早速実況しようとするが――一緒にしてその声は止まってしまう。
 なぜならその時にはもう、みさとが動いていたからだ。

 スザクの初手に対してみさとは、自身のユニークスキルを使ったのかまるで最初から分かっていた様に後ろへバックステップを使い回避した。

 しかし、それに対して初手をいきなり軽く避けられたスザクは表情を一切変える事無く、後ろに下がったみさとを追い詰めるように更に前へ進み、今度は上から槍を振り下ろす。
 
 そう、彼はみさとのユニークスキルの内容を事前に聞いている。だから一度攻撃を軽々しく避けられたところでなんとも思わないのだ。

 ――だが、だからと言ってそれがなんだというのもみさとの考えだろう。
 連続で仕掛けてきたスザクの攻撃をみさとは、今度は横に身体をずらして避ける。
 更に今回は、それにプラスして攻撃を空ぶったスザクに横からの斬撃カウンターを放った。

 しかし、スザクもやはり上級冒険者。
 普通の冒険者ならそこでまんまとカウンターをくらい、初戦のオウガの様に倒れていたのかも知れないが、涼しい顔をしてなんとジャンプ。
 みさとの頭ほどの高さまで飛び、カウンターを回避した。

 そしてここまでをほんの数秒間でしているという事と、実況者がさっきからずっと何かを言おうとし、止めているのも加味して俺はそこで試合を見ながらこう呟いた。

「他人の付け入る隙もねぇなこりゃ……」
「だよな……スザクの動きが人間離れしている事はともかく、私たちとずっと一緒に冒険者をしていたはずのみさとがまさかここまで動けるとは……」
「凄すぎるよ……」

 いや、確かにみさとも凄すぎるがお前らもだぞ。
 これ見てて思ったんだがなんか俺だけ全然目立って無くね?
 まぁ俺のユニークスキルは複数人で――更にそれが女の子じゃないと発動しない力だからタイマン勝負の帝都ティルトル剣術祭なら目立たんのもしょうがないんだろうが……

 なんかみんな俺もユニークスキルを持ってるって事、忘れてそうで怖いぜ。

 すると、どうやらみさとがスザクについて行けている事に驚いているのは俺たちだけでは無かった様で――レザリオもそこで口を開いた。

「いや、ほんまにみさとちゃん、予想以上に良い動きするやん。こりゃワイ負けてまうかもな。」

 
 今のは100パーセント冗談なんだろうが、それでも狂乱の戦士バーサーカーとまで呼ばれている冒険者にそう言わせるみさとはほんとすげぇな。
 そこで俺はさっきから更に深く感心する。

 だが、その時――試合が大きく動いた。

『――あ、あぁっとッ!?』

 いきなりの出来事に、今まで超高速で試合が進み過ぎて全然実況出来ていなかった実況者も声を上げる。
 そこでなんと、これまで完璧に攻撃を避け続けていたみさとが大きく後ろへ吹き飛ばされたのだ。

 これには競技場全体が大きく盛り上がる。

 どうしたんだ……?みさと、さっきまでは完璧だったってのに。
 しかし、最初からずっと試合を見ていたからこそ言える事なんだが、特にみさとの動きが落ちたとか、そう言う事では無さそうだ。
 ミスも無い――というか、ユニークスキルで相手の考えを読める時点でミスもしようが無いしな。

 ならなんで急に……?
 しかし、ひとつだけ分かる事があった。
 それはさっきまでずっと余裕の顔――なんなら試合を楽しんでいるのか笑っていたみさとが、非常に余裕の無い顔をしていると言う事だった。

 すると――そこでずっと黙って試合を観戦していたミラボレアが一言、

「やっと始まったわねぇ。」
「ん?なんで今始まったって言葉が出るんだよ?試合はさっきから始まってたぞ?」

 俺はそんなミラボレアにそう言う。

「いやぁ、これからよぉ。ほらぁ、スザクちゃんがやっと力を出し始めたわぁ。」

 ん?やっと力を出し始めた……?って事は、今までスザクは本気を出していなかったって事かよ……?

「だとしたら……」

 ---

 みさとの完璧な動きが崩れだしたのはそこからだった。
 まず、先程までずっと攻撃を避けてはカウンター。という形の攻め方は完全に消え、自ら前に出て攻撃をし始める。

 一般的に見て別にこれが悪いという訳では無い。
 だが――今回に限っては、良い手段だとは言えなかった。
 それはみさととスザクの武器関係にある。

 まず、みさとは俺やちなつと同じ。一般的な剣を使っている。それに対してスザクはどうだろう?リーチの長い槍だ。

 ――この場合、みさとは近距離で戦いたくて、スザクは中距離で戦いたい。当たり前だよな。

 だが、この場合みさとにとって、距離を詰めるというのは大変難しい事だった。
 それも当然――相手はリーチの長い槍、簡単に懐へ潜り込む事は出来ない。

 だから今までの様な、自ら距離を詰めてくるスザクにカウンターという攻め方が1番適切だったのだが――
 スザクが力を出し、今までより速度が上がったという事からの焦りが出たのか、みさとの動きから一貫性が無くなったのだ。

「くっ……」
「おい!みさと!どうしたんだ!」
「頑張ってみさとー!」

 正直これはみさとにとっては最悪な展開だった。
 今までみさとはずっとユニークスキルで相手の思考を読み、事前に動きを知る事でそれを避け、完璧なカウンターを繰り出していたが、スザクがその動きをする速度を上回るスピードで攻撃をしてくる様になったせいで、攻撃を避ける事が出来なくなってしまったのだ。

 更には先程も言った様にみさとは今がむしゃらにユニークスキルを使って何とか食らいついているという状況。
 ――オマケに忘れてはいないだろうか、みさとのユニークスキルは使う度に体力が削られるという事を。

 そこでなんと、体力が尽きたのかみさとは剣を地面に落としてしまった。

「「あっ!」」

 そしてその致命的なミスを、百戦錬磨の上級冒険者が見逃す訳が無い。
 とうとうそこでみさとは、スザクの攻撃にダイレクトヒット。

 後ろに数メートル飛ばされ、地面に倒れた。

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」

 それには観客も耳を張り裂けそうになる位の歓声を放つ。
 そしてそのまま審判が倒れたみさとの元まで駆け寄って行き、戦えない事を確認すると実況者に試合終了の合図を出した。

『只今の試合――スザク選手の勝利ッ!!』
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