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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】
第46話【第1試合〜剛腕のオルガ〜】
しおりを挟む帝都ティルトル剣術祭の開会式が終わると、俺たちはすぐにさっきまで居た出場選手用の観客席へ戻った。
1回戦はみさととオルガという冒険者の戦いだ、だから先程あいつとは軽く会話を交わして別れた。
「さ、もう試合が始まるぜ。」
俺が椅子に座るとほぼ同時に、右側に座っているスザクがそう言う。
すると――
「えー皆さん!これから剣の部第1試合を行いますッ!」
「「うぉぉぉぉ!!」」
ものすごくテンションの高い(おそらく実況者)声が競技場全体に響き、すぐに歓声が湧き上がった。
今の声の響き方――こいつもドーブルを使ってんのか。
この手の役職をしてる奴には必須な魔法なのかもしれんが。
「では!第1試合の選手入場ですッ!」
実況がそう言うと、フィールド内に2人の冒険者が入場して来た。
俺たちから見て左側の入り口から出て来たのがみさとで、反対側の入り口から出て来たのが相手のオルガだ。
「おーい!みさとー!頑張れよー!」
「みさと!頑張れぇ!」
左側でちなつとくるみもフィールドに入場して来たみさとに歓声を送る。
しかし、そんな事よりも今俺の眼中にはもう片方の冒険者、オルガしかいなかった。
「あ、あれって……!?」
「やっぱり何度見ても迫力のあるやつだな」
そう、今回みさとが戦うオルガという冒険者の特徴はなんと言っても異様なまでに大きな体格だ。
身長2.5メートルはありそうな身長に、まるで山の様な体型、そして、試合だから木製ではあるが手に持っている巨大な戦斧が更に迫力を増していた。
「――でもよ、あれだけ見た目に特徴があるのに俺はあいつの事を冒険者ギルドで目撃した事がねぇぞ?」
「ん?あぁ、それはだな――」
するとそこで、裏の階段から上がって来た男がスザクの言葉の続きを放った。
「あいつは普段ワイらが使ってる冒険者ギルドとはまた別のギルドを使っとるんや、前街を見て回った時にもチョロっと見たはずやで」
「って、レザリオ。お前なんでここに来たんだ?」
こいつ、開会式も仕切ってたし関係者側じゃ無いのか?
しかし、レザリオが言うには「毎年開会式と閉会式はしてと言われているが、それ以外はやる事が無いから全然大丈夫」との事だった、まぁそれなら全然良いんだが。
「それにしてもみさとちゃん、初戦目から運悪いなぁ」
「やっぱり相手、実力のある奴なのか?」
「あぁ、実力も何も、この街で今一番上級に近い冒険者や。」
「最近だと、ひとりでオーガを倒したって少し話題になってたな」
ひ、ひとりでオーガだと……?
上級に近いって事は俺たちと等級は同じなのかと少し安心していたが――力の差はありまくりじゃねぇか!
「ちょっと待ってくれ……みさとに勝てるチャンスはあるのか……?」
俺は恐る恐るそう聞く。
しかしそれに対してスザクは、
「チャンス?どっちにも全然あると思うぞ?」
「え?でも相手はオーガをひとりで倒したって……それって相当な力を持ってる証拠じゃねぇのかよ?」
「まぁな。確かにオルガは冒険者の中でも最前線にいるすげぇ奴だ、それは間違いない。」
「ならなんで――」
「でも、それは相手が巨大なモンスターだったからだ。」
スザクは続ける。
「オーガは攻撃力、防御力共にモンスターの中でもトップクラスに高い。でもな、ひとつ決定的な弱点があるんだ。」
「弱点……?」
今まで戦って来た中で一番強いモンスターがオーガの俺にはどこが弱点なのかがさっぱりなんだが。
「それはスピードだ。」
「……ッ!」
「あのモンスターの力とタフさは認めるが、スピードはまるで無い。そしてそれに勝ったオルガを見てみろ。」
俺は視線を再びオルガに向ける。
気が付けばフィールド上に立っている2人は共に真ん中辺りまで移動しており、もうすぐ試合が始まりそうな雰囲気だ。
確かにオルガの体型はオーガに類似していた。
だが、果たしてスピードという点だけでみさとが勝つ事は出来るのだろうか……?
するとそこで、試合の準備が整ったらしく、
「では!これより第1試合を開始致します!よーい――」
「「始めッ!!」」
実況者がそう声を上げると同時にフィールド内に居る審判が手に持っている旗を上げ、試合がスタートした。
---
「始まった……!」
俺はフィールドの中心に対峙して立つみさととオルガだけに視線を絞る。
すると、試合が始まってすぐ、まずオルガが動いた。
「うぉぉぉぉ!!」
オルガはフィールドを強く踏み込むと、競技場全体から聞こえて来る歓声にも劣らない地鳴りの様な叫びを上げながらみさとの方へと突進して行く。
そして戦斧を振り上げ、みさとの脳天をかち割らんとばかりにそれを振り下ろした――が、
オルガのモーションが大きかったという事もあり、ここはみさとがバックステップで回避した。
そして、それにより地面にぶつかった戦斧はドンッという音を鳴らし、軽くめり込む。
(な、なんて力……!?なんなのまともに食らったらいくら木で出来てるとしても死ぬぞ……!)
俺はそんなオルガの怪力に背筋が寒くなるが――でもこれはみさとにとってはものすごくチャンスな場面だった。
今オルガは戦斧が地面に少し刺さっており、すぐに2発目を放つ事は出来ない。対してみさとはバックステップで軽く後ろに下がっただけ。
何時でも攻撃を仕掛けられる。
――だか、みさとがそこで攻撃をする事は無かった。
ただ、そこに佇んで相手の攻撃を待つ。
それが今フィールド上で戦っているみさとだった。
「アイツらしくねぇな……」
「だよな」「うん、結構グイグイ行くタイプなんだけどね」
すると、そこでオルガは地面に刺さっていた戦斧を抜き、再び構えると、今度は横に振りかぶり、脇腹を狙う一撃を放つ。
おそらく、先程のことがあって、地面に刺さらない攻撃方法で行く事にしたのだろう。
しかし――またもやみさとは、先程と同じ様に攻撃を回避すると、反撃をする訳でもなく、静かにそこで相手の出方を見ていた。
そしてそれが5、6回繰り返された辺りで――スザクが腕を組みながら一言、こう呟いた。
「あいつ、何を狙ってやがるんだ……?」
流石にあの巨体でここまで連続して動くと息が切れたのか、片腕を腰に当ててはぁはぁと肩を上下させるオルガ。
その時、微かにみさとの口角が上がった。
---
「みさとの奴……やっぱりこれも作戦の内って訳か……?」
「少なくともあの行動がただ単にオルガの攻撃が怖くて後ろに下がってるならただのビビりだが――まぁんな訳無いだろうな。」
スザクは少しだけ口角を上げると、「ここから試合が動くぞ」そう言っているかの様に真剣に戦っている2人の方へ視線を向けた。
すぐさま俺もそれに合わせて視線を移動させる。
するとそこで、今まで避けてばかりだったみさとが初めて剣を構えた。
そして、息を上げているオルガに何か言っているのか、相手をバカにしているかの様な顔で、口が動く。
すると次の瞬間――
みさとの言った言葉の内容に腹が立ったのか、オルガは最初の叫び以上の雄叫びを上げ、力強く突進して行く。
対してみさとは先程の様にバックステップで避けそうな雰囲気は無く、未だに剣を正面に構え、何時でも相手を切り捨てられる体制だ。
こいつ……本当に何を狙ってやがるんだ……!?
「この勝負、決まったな」
「――って、え?」
横にいるスザクがそう言ったのは、オルガがみさとに向かって走り始めた瞬間だった。
いや、それはどっちが勝つって意味だよ!?
俺は急いで今にも決着の着きそうなフィールドに目を向ける。
するとその時にはもうオルガはみさとを戦斧で捉えられる位置まで来ており、振り上げたその手を勢い良く下ろしている瞬間だった。
しかし、その時、みさとはニヤリと笑うとまるでオルガの攻撃パターンを読んでいたかの様に、当たらないギリギリで、しかし一切ムダの無い動きで前に身体を傾けながら避け、カウンターで渾身の一撃を山のような巨体に叩き込んだ。
「うぉぉぉぉぉ!?!?」
そう叫び声を上げながら地面に倒れるオルガ。
すぐにそこへフィールド上にいた審判が駆け寄って行く。
そしてその審判はしばらくオルガの容態を確認した後――実況者のいる方へ腕を横に降った。
「おぉッ!あの一撃で決まりました!!まさかまさか!あの巨体を一撃で倒したッ!」
「第1試合を制し、準決勝に進むのはみさと選手ッ!!」
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