上 下
3 / 88
第1章1部【始まりの街〜ラペル〜】

第3話【初めての依頼〜元ヒキニート、仕事をする〜】

しおりを挟む

「これです。」

 受け付けのお姉さんはそう言いながら、俺たちに一枚の依頼が書かれた紙を渡した。
 そこには、こう書かれていた。

=========================
酪農家お手伝いクエスト
・内容:モーウの出したモノを集める。
・報酬:銅貨5枚
・場所:メディー牧場
・期限:特に無し。
・依頼主:テオ・メディー
・備考:酪農に興味のある方は是非
=========================

 なるほど、酪農か。
 確かにそれならモンスター討伐の様な危険は無いだろう。

「お前らはどう思う?」
「良いと思うわよ?」

 みさと以外の2人も、同じように首を縦に振った。
 ――ならこのクエストで良いか。別に一日一回しか出来ない訳でも無いだろうからな。

「じゃあこのクエストにする。」
「了解致しました。それではこの紙を持って依頼主の元へ行き、内容にあることをした後、紙のどこかにサインを書いてもらい、ここまで持って来て下さい。」
「分かった。」

 そうして俺たちのこの世界に来て初めての仕事(俺にとっては人生初の)「酪農家のお手伝いクエスト」が始まった。

 ---

「ここか……」
「思ったより遠かったわね。」
「全くだ。」「うん、私疲れたよ……」

 あれから冒険者ギルドを出た俺たちは、村人に目的地のメディー牧場の場所を教えて貰い、10分程かけてそこへ行った。
 どうやらこの町は山の麓にあるらしく、目的地の牧場は山を切り分けて作った為に、道のりは終始上り坂だった。
 たく……もっと行きやすい場所に作って欲しいものだ。

「みてみて!牛さんだよ~!可愛い!」
「お、ほんとね。肉になる前は初めて見たわ。」
「おいおい肉になる前って。言い方が怖いな。」

 メディー牧場というのは当たり前だが個人経営らしく、山小屋の様な小さな家に柵がくっ付いており、そこに牛――この世界で言うモーウが放し飼いになっていた。
 だから道からその様子が見えるのだ。
 (やっぱりこの世界にも普通な生き物、居るんだな。)

 ここに来る途中で馬車を使って荷物を運んでいる村人を数人見かけたが、この世界には馬だけでなく、牛もいるらしかった。
 するとそこで、

「――なんじゃ?若いもんがここに来るのは珍しいのぉ」
「あ、この牧場の経営者さんですか?」

 俺たちの声に気づいたのか、家の中からおじいさんが出てきた。

「あぁ、いかにもこのワシがメディー牧場の経営者、テオ・メディーじゃが?」
「俺たち、あなたが冒険者ギルドに出していた依頼を受けに来たんです。」

 俺はそう言うと、ポケットの中に入れていた依頼の書かれた紙を取り出し、テオさんに見えるように紙を広げる。
 するとテオさんは、

「おぉ!そうかそうか、よし、じゃあまずは家に入ってくれ、仕事内容を説明してやる。」

 笑顔で手招きしながら扉を開け、俺たちを歓迎した。

 ---

「じゃあ、今言った通り放牧地に落ちているモーウのフンをカゴに集めて持って来てくれ。」
「はい……」

 その後、家の中で説明を受けた俺たちは、モーウたちのいる放牧地(柵の中)にカゴを持って入った。――のは良いんだけどよ……
 (まさかモーウの出したものってのがう○こだとは思わなかったぜ……)
 俺的には、乳搾りとかそういうのを想像していたんだが。

 まぁでも、こうやって仕事を受けたからには最後までやるしか無いよな。

「よし、じゃあ俺は奥から集める。お前らは手分けして家に近い方のう○こを集めてくれ。」
「え?私たちもするの?」
「――は?」

 ちょっと待て。コイツら全員テオさんが家に入ったからって態度をコロッと変えやがったな?
 なんだよ今の「え?私たちにもそんな汚いことをさせるの?ひどぉ~い。」みたいな言い方は!

「まさかお前らする気も無かったのにさっき冒険者ギルドで「良いと思うわよ?」みたいな返事しやがったんじゃないだろうな?」
「違うわよ、まさかう○ちを集める仕事だとは思わなかったの。」
「うんうん」「その通りだ。」
「俺だって思わなかったよ!!」

 (はぁ……ダメだコイツら……、一向に仕事をする気が無い。)

 このまま今のような言い合いを続けていても埒が明かないと思った俺は、仕方なくひとりでモーウのう○こ集めを始める事にした。

 ~そこから20分後~

 まさかの仕事を俺以外しないというアクシデントもあったが、俺は何とかモーウのう○こだらけになりながら、全てをカゴに集め切った。

「お、終わったか、お疲れ様。」
「おつかれ~」
「あれ?みさとのやつは?」

 俺がくっさいう○こだらけのカゴを背負いながら家の方へと歩いて行くと、ちなつとくるみは居たが、みさとの姿は無かった。

「みさとならとうまが頑張ってる間に暑いからって家の中に入っちゃったよ?」
「あ、あいつなぁ……」

 たく……まぁ姿が無いイコールそういう事だとは思ったが、仕事をしないにしてもせめて見届けるくらいはしろよな。
 今日は俺の人生初仕事だったんだぞ?

「――まぁ良い。とりあえずテオさんに終わった事、言おうぜ。」
「そうだな。」「うん。」

 ---

「今日はご苦労だった。ほら、紙にサインはしたから、これを冒険者ギルドに持って行けば報酬が貰えるはずじゃ」
「ありがとうございます。」

 俺はメディー牧場の前でテオさんからサインをして貰った紙を受け取る。
 あれからテオさんに仕事が終わったことを報告して、OKをもらった俺たちは、ここに長居しても仕方ないという事で、冒険者ギルドに戻る事にしたのだ。

 どうやら俺たちは昼頃に転生してきたらしく、仕事が終わった頃には夕日が出ていたからな、そろそろ今日泊まる宿を探さないと。

「じゃ、気を付けて帰るんじゃぞ。」
「はい、ではこれで。」「おじさん、ばいば~い!」

 こうして俺たちの――いや、俺の初めての仕事が幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

処理中です...