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第69話【一時の平穏から】

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 サンボイルにて起こるはずだった「冒険者同士の大規模な殺し合い」を阻止してから数日後。
 あの後、デスティニーレコードから5月4日に冒険者同士の殺し合いが起こるという文章が消えた事を確認した俺は次の日に協力してくれたウェイリスさん、レイバー、イザベル。そしてケティ、セリエラと共にフレイラへ帰った。

 ちなみに、ケティたち以上に色々と知っているマーニは「もしなにかが起きた時」の為にフレイラについてきてくれている。

 ――だが、あれからもイザベルの様子がおかしくなるという事も無く、俺からしたら久しぶりの日常へと戻っていた。
 これで惨劇が終わってくれれば……心の中で切にそう願っている。

 そして、今日はそんな日常の1ページから始まる。


 いつも通り依頼を終えた俺はケティ、セリエラと冒険者ギルドで別れると家に帰った。
 そしてひとりで自身の剣を研いでいるとそこで扉を誰かがノックする音が聞こえる。

 なんだ?来客が来るなんて予定が無いが。

 俺は椅子から立ち上がると玄関の方へ歩いて行き、扉を開ける。

「誰だ――って、」
「今大丈夫か?」「……」

 すると、そこに立っていたのはレイバーとイザベルの2人だった。
 2人ともしっかりと全身に鎧を纏っており、おそらく依頼を終えた帰り道だろう。

「レイバーにイザベルじゃねぇか。どうしたんだ?」
「いやそれがな、俺たちもさっき知ったんだが――ウェイリスがひとりの冒険者に襲われたらしい。」
「……ッ!?」

 その瞬間、一気に心臓を締め付けられた感覚に陥った。
 ウェイリスさんが……襲われた……?

「まぁ返り討ちにして捕らえたらしいんだが。」
「よ、良かった!?びっくりしたぞてっきりウェイリスさんが大怪我でも負ったのかと……」

「そんな訳あるか、あのウェイリスだぞ」両手を腰に当ててそう言うレイバー。

「それに、なんでもその襲ってきた冒険者が初めて見るやつみたいでな、他の街の冒険者の可能性があるみたいだ。」
「違う街の冒険者……?余計になんで襲うんだ……?」
「分からん、分からないからこそ今お前のところに来たんだよ。これからケティとセリエラにも言って、みんなでウェイリスの屋敷へ行かないか?」

 なるほど、要するにそのいきなりウェイリスさんを襲った冒険者がどんなやつかを見に行く訳か。そんなの――

「分かった、すぐに準備する。――あ、後一応マーニも連れて行って良いか?」
「ん?あぁ、サンボイルで泊まらせてもらったやつだよな。良いぞ。」

 そうしてその後、ケティ、セリエラ、マーニの3人にも同じ説明をして合計6人でウェイリスさんの屋敷へ向かった。

 ♦♦♦♦♦

「おいウェイリス!!来たぞ!!」
『今開けるわ、勝手に入ってきてくれるかしら。』

 ウェイリスさんの屋敷へ着いた俺たち。
 早速閉まった門の前でレイバーがそう叫ぶと、どこからかウェイリスさんの声が聞こえる。
 それからしばらく経つと門が開いた。

 これ、やっぱり何度見てもすごい技術だよな。

「じゃあ入るぞ」
「あぁ」

 俺たちはウェイリスさんの屋敷へと近付いて行く。


 そうして屋敷の扉の前まで来たところで、ウェイリスさんの姿が見えた。

「待ってたわよ。全く、いきなり襲われたからびっくりしたわ。」
「大丈夫だったか?」

 ため息をつきながらそう言うウェイリスさんに俺は問う。
 というか、俺はなんで襲われたばかりなのにこんなにウェイリスさんがケロッとしてるのかが謎で仕方ないんだが……

「えぇ、怪我はしてないから大丈夫よ。とりあえず、そいつを縛ってひとつの部屋に入れてるわ。とにかく、入りましょ。」
「相変わらず怖いやつだな、なんかこうあるだろ?怖かった~とかよ。」
「怖かったですって?このウェイリスがそんな事言う訳ないでしょう?レイバーもしっかりしなさい。ほら、ちゃんと着いてきてよね。」

「なぁハヤト、やっぱりウェイリスはおかしいよな?」
「あぁ、今回だけはレイバーの意見に同意だ。」

 そんなこんなで、改めてウェイリスさんの精神の図太さを確認した俺たちは屋敷の中へ案内してもらった。


「ウェイリスを襲った冒険者はこの部屋の中よ。」

 それからしばらく歩くと、そこでウェイリスさんはある部屋の前で歩みを止めた。

「……」

 ゴクリ、俺は喉につっかえていた唾を飲み込む。
 この先に……ウェイリスさんを襲った冒険者が……!!

 そうしてウェイリスさんは扉を開ける。

 するとそこには――両手両足を縄できつく縛り付けられ、地面に転がるひとりの男の姿があった。

「……ッ!?こ、こいつがウェイリスさんを……」
「えぇそうよ。ウェイリスが屋敷の中に入ろうと門の前で立っていたところを、いきなり剣で斬りかかって来たの。」

「まぁ、殺気がバレバレだったからすぐに分かったけれど」そう付け加えるウェイリスさん。

 話している間にも男は黙ってこちらを睨んでくる。

 そこでレイバーはそんな男に近づくと、

「お前か、ウェイリスを襲ったのは。率直に聞かせてもらう。なぜそんな事をした?」

 レイバーには珍しく、落ち着いた口調だ。本当に疑問なのだろうな。
 そして、その気持ちは俺にも共感出来た。
 仮に他の街から来たウェイリスさんの存在を知らない冒険者だとしても、わざわざでかい屋敷の前に立っている様な人間を襲うか?

 すると、それを聞いた男はこう返した。

「ファブリス様の命令だからだ!!それ以外にはなにもない!!」
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