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夜の魔女
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「マヤ~!」
僕を呼ぶ声がする
世界で一番、愛しい声
「カコ、うるさい。」
それに僕は応じる
「え~!?マヤひどい~」
今のはつい、当たりが強すぎたとは思うけど
僕の家の前だから、少し小さくしてほしい
近所迷惑になってしまう
「ココ、どこだと思ってんの!?」
「マヤん家の前」
案外あっさりと応えた
わかっているなら静かにしてくれ
と言おうとしたが喉で詰まった
「はあ、一回、家入ろ」
諦めて家に入ってもらうことにした
「は~い」
カコは慣れた手つきで鍵を取り出し
扉を開けた
真っ先にリビングに向かい
荷物を置き
洗面所へと向かった
それはまるで
ココはカコの家だと
錯覚させるほどに
もう付き合ってから
1年は経つ
付き合うまでが長かったから
遅く感じる
僕たちがもし
同性じゃなければ
もっと早く付き合えてただろう
でも、伝わってよかった
カコが手をぶらぶらしながら戻ってきた
水滴が少し飛んできた
「タオルなかった?」
「うん、どこの引き出し?」
「2番目」
そう言うと洗面所に駆けて行った
濡れてる手だから
開けずに手をぶらぶらしてきたのだろう
僕にとってはそっちの方が迷惑だけど
「あった!タオル借りま~す」
「はーい」
リビングにも届く大きな声に
呼応するように返事をした
今度はカコがタオルで
手を拭きながら戻ってきた
「ね~、どこ行くの~?」
考えてなかった
今日はカコとデートできる日で
それが嬉しくて
どこに行くかを考え忘れていた
「ごめん、考えてない」
「やっぱり~!マヤはいっつもじゃん!
どうせ、私と会うのが楽しみだったくせに~」
図星すぎて何も言えない
恥ずかしくて、顔が真っ赤になる
「もお~!マヤってば~私大好きじゃん!
もちろん私もマリ大好きだよっ!」
カコはそう言って僕に抱きついてきた
「ずるい、カコばっかり」
いっつもカコは不意打ちで
僕に好き好き言って、可愛いすぎだし
僕ばっかりはなしだから!
カコの頬にキスをした
カコの顔を見ると
顔が赤く…
なんてことはなかった
「マヤ、かわいい~!」
「いっつも僕ばっかり~!!」
カコは首を傾げている
今日は失敗だ
また今度にすることにした
「カコはどこかあるの?」
「こことかどう?」
カコはスマホを見せてきた
そこには、カフェが表示されていた
用意周到すぎる
やっぱり僕のこと見てただろ
なんでわかってんの
「どう?」
「うん、いいと思う」
否定する理由もないので同意する
「じゃ、行こ」
それに頷く
弾む気持ちを鼻歌に乗せて
玄関に向かう
カコとの時間は
僕にとっての心の支え
ずっと続けばいいと常々思う
終わりとかには見ないふりをして
「忘れ物ない?」
財布、スマホ、鍵、その他いろいろ
「大丈夫、カコは?」
「もちろん、大丈夫!」
僕は扉を開けた
夜の光が目に飛び込む
鍵を掛け、カコの手をとった
「カフェこっちだよ!?」
「どっち?」
楽しみでつい、先を考えずに
行こうとしてしまった
不覚、不覚
「こっちですよ~私についてきてね!マヤちゃん」
「そんなことしなくても大丈夫だから!」
「と言いつつ、手は繋ぐんだね!
マヤってば~かわいい~」
「いいでしょ!」
そんないつものように
何気ない話をしながら歩く
「あ、あれがカフェ?」
僕はカコの手を引いて
カフェのほうに走った
だからか、右からくる影に気づかなかった
「マヤ!!!」
聞いたこともない声
見たことない顔
カコは
見たこともないような力で
僕を押した
見たことのない光景
絶対に見たくなかった光景
目を占拠する赤が
終わりを告げている
気づいたら病室にいた
包帯で全てを覆われた人
それはカコだとすぐに分かった
カコが僕を庇って車に轢かれて
その後は記憶がない
きっと救急車で一緒にきたのだろう
「僕のせいでカコは…僕は…僕は」
僕はカコを殺した
僕がいなければカコは死ななかった
笑って生きれてたんだ
全てが僕を責めているようで
現実逃避をしたくて窓を開ける
カーテンが舞って、夜が広がる
僕の生きる世界が広がっている
日を浴びれない僕の見てきた世界
夜の魔女のみた世界
僕は魔女の家系に生まれた
もちろん僕も魔女の血を継いだ
それでも人として生きた
憧れの母のように
母は優しくて、あたたかった
母は魔女で、ただ
魔法を絶対に使わないと
強く心に決めていた
『平和のためには魔法なんていらない』
かっこいいなって思った
それが憧れだ
魔女として、人としての
僕は魔女の血が母よりかなり薄く、
少し魔法の使い方が特殊だ
だから魔法を使わないというのもある
そんなあたたかい思い出を思い出す
冷たい夜風が肌を掠める
そして現実へと戻す
時計の秒針の音と外の音が混ざる
時刻は午前2時を指していた
日が昇るまで、それまでに
覚悟を決めなきゃいけない
答えなんて決まっていた
助けられたんだから
助けなくちゃいけない
愛する人を救わなきゃいけない
それでも母との記憶が過ぎる
今になって楽しかったことばっかりだ
きっとまだ覚悟なんて決まってない
だから、覚悟が決まるまで、日が昇るまで
今は、記憶に浸らせてくれ
時間を浪費するが、許してくれ
憧れの母との思い出が頭を染める
「マヤ、私たちは特別なの。
人を簡単に傷つけてしまえる。
でもね、その力を使っちゃダメよ?」
「なんで?」
「昔、魔女が大量虐殺を犯した。
それにもちろん、人間は怒って魔女を火炙りにした。
絶対に自分に返ってくる。不幸を招く。
それと、大きな争いになりかねない。
平和のためには使ってはいけない。
わかった?」
「うん、僕、守る!」
「ありがとう。マヤはいい子ね」
頭で何度も再生する
答えは出てる、覚悟だって決めてるはずなのに
それは間違ってなんかいないのに
今度は違う記憶だ
おばあちゃんとの記憶が頭を支配する
おばあちゃん家に行くと
毎回毎回おばあちゃんがぶつぶつ何かを言っていた
今なら何となくわかる気がするが、わかりたくない
「マヤ!あなたは魔女なのよ!
もっとしっかりなさい!
あなたはアイツの分まで魔女でいないとなのよ!
あの時代を取り戻すため、強くなるのよ
もっと、もっと強い魔女にならないとなの!」
「わたし、まじょ?」
「もっと、強くいてちょうだい!
男より強い方がいいわね
自分のことは僕と呼びなさい!」
「わたし、ぼくっていうの?」
パチン
「いた、いたいよ」
「こんなので泣かないの!!
そうね、髪を切りましょう。」
その後、髪を切られて
私と言う度、頬を打たれた
だから必然的に僕と言うようになった
おばあちゃんはもういないけど
私と言うと記憶が蘇るから
頬の痛みが蘇るから
怒られるのが怖いから
僕のままでいた
僕は普通の人でいたかった
人間生活をしてみたかった
悲しんで
苦しんで
楽しんで
喜んで
笑って
僕は人間になりたかった
カコみたいに
こんな生活、紛い物だ
感情も
記憶も
魔法も
全て
全部が作りものだ
所詮は人間の遊戯の道具でしかないのだ
最初から魔女だなんて空想だ
人間が作った作り話だ
娯楽で使われる道具でしかない
だって僕は機械なんだ
いつから魔女にされたんだ?
日の光で記憶のプログラムが消える
でも、元から僕には日の光がないと魔法なんて使えない
記憶のプログラムが消えて
感情のプログラムが消えて
そしたら僕はどうなるのか
怖い
感情を失うのが
思い出を失うのが
カコを忘れてしまうのが
記憶なんて作りものに縋るほど
それを理由に逃げてしまうほど
怖くて仕方がない
足が震えて、頭が空っぽになって、
怖いという感情が根を張る
こんなのならいらなかった
無駄に現実味を帯びた記憶も
邪魔でしかない感情も
それは僕が存在した証拠であるが
偽物だ
僕の存在なんて否定されている
でも、君と過ごした時間は
偽物じゃなかった
全て本物だった
君は僕を守った
そして、死んだ
僕の、存在は君が証明してくれた
僕は怖がってはいけない
でも、心残りなんだ
この展開を笑っている人間が
僕を娯楽のために作り鑑賞し楽しんでる人間が
僕を魔女にしたヤツが
そのせいで苦しめられている
だから、お返しだ
最悪の結末を
君の隣に座る
肌を撫でた
いつもみたいに暖かくはなかった
僕にいつも
「手まで冷たい」と言って笑う君は
いなかった
再び罪悪感が僕を睨む
でも、逃げれないんだ
決めたから
感情が消えても
記憶が消えても
君と過ごした日々がなくなっても
君を助けるって
今度は僕がするって
ずっと、ずっと
僕の隣で笑ってくれて
僕に好きって言ってくれて
しょうもない会話をしてくれて
たくさん、いろいろ、してくれて
「ありがとう」
ずっと君に言えなかった言葉
もっと、早く言えたらよかったのに
カーテンが揺れる
明るい日が差し込んでくる
「僕は、魔法を使うことにしたよ、お母さん。」
プログラムでしかない人物に呟いてみる
だけど、愛する人のために使うから、安心して。
愛している君のためになら、全てを捨てる
そして魔女として死んでやる
それでも最後に
愛する人を想う気持ちだけはせめて人間だと言わせてくれ
手を組んで祈った
今までにないくらいに
「カコよ、蘇れ。」
暖かい日差しが僕を奪っていく
「ありがとう」
カコ、愛してる
ーさようなら
ーーーーーーー
《said カコ》
目が覚めるとそこは
綺麗な朝日の差す病室だった
窓は開けられていて
カーテンが透き通っていた
そして風が吹くたびに舞っている
隣には君がいた
眠っているように見える
私は、事故に遭ったんだ
車がきて、君を突き飛ばして
病院に運ばれた?
よかった、君が無事そうで
一晩、隣にいてくれたんだ
「ありがとう」
すると、君が起きた
思わず抱きついてしまった
「マヤ!よかった!無事で~!!」
やけに無表情なマヤの顔が刺さる
まるで、マヤじゃないみたいだった
「……えっと、だ、誰ですか?」
意味がわからない
頭が思考をやめた
きっと、勘違いで
私を驚かそうとして
「すいません、……えっ…と、か、帰ります、ね」
早歩きで扉に向かい
病室の扉を閉める
その後ろ姿をただ眺めることしか出来なかった
私を、忘れてる
いや、嘘だ
それから1時間は待ったと思う
連絡も返ってこなくて
マヤは私が嫌いになったのだろうか
不安が胸を縛り付けた
そしてしばらく私は空を眺めていた
愛する君は、私を忘れて
私の世界から出ていった
君がいない世界なら
もういらない
もう用はない
最後に言えばよかった
愛してるって
もっと言えばよかった
大好きって
ちゃんと言えばよかった
ありがとうって
窓へ向かう
カーテンが舞って私を隠した
暖かい風が吹いて私を押す
「ありがとう」
マヤ、ずっとずっと愛してる
ーさようなら
僕を呼ぶ声がする
世界で一番、愛しい声
「カコ、うるさい。」
それに僕は応じる
「え~!?マヤひどい~」
今のはつい、当たりが強すぎたとは思うけど
僕の家の前だから、少し小さくしてほしい
近所迷惑になってしまう
「ココ、どこだと思ってんの!?」
「マヤん家の前」
案外あっさりと応えた
わかっているなら静かにしてくれ
と言おうとしたが喉で詰まった
「はあ、一回、家入ろ」
諦めて家に入ってもらうことにした
「は~い」
カコは慣れた手つきで鍵を取り出し
扉を開けた
真っ先にリビングに向かい
荷物を置き
洗面所へと向かった
それはまるで
ココはカコの家だと
錯覚させるほどに
もう付き合ってから
1年は経つ
付き合うまでが長かったから
遅く感じる
僕たちがもし
同性じゃなければ
もっと早く付き合えてただろう
でも、伝わってよかった
カコが手をぶらぶらしながら戻ってきた
水滴が少し飛んできた
「タオルなかった?」
「うん、どこの引き出し?」
「2番目」
そう言うと洗面所に駆けて行った
濡れてる手だから
開けずに手をぶらぶらしてきたのだろう
僕にとってはそっちの方が迷惑だけど
「あった!タオル借りま~す」
「はーい」
リビングにも届く大きな声に
呼応するように返事をした
今度はカコがタオルで
手を拭きながら戻ってきた
「ね~、どこ行くの~?」
考えてなかった
今日はカコとデートできる日で
それが嬉しくて
どこに行くかを考え忘れていた
「ごめん、考えてない」
「やっぱり~!マヤはいっつもじゃん!
どうせ、私と会うのが楽しみだったくせに~」
図星すぎて何も言えない
恥ずかしくて、顔が真っ赤になる
「もお~!マヤってば~私大好きじゃん!
もちろん私もマリ大好きだよっ!」
カコはそう言って僕に抱きついてきた
「ずるい、カコばっかり」
いっつもカコは不意打ちで
僕に好き好き言って、可愛いすぎだし
僕ばっかりはなしだから!
カコの頬にキスをした
カコの顔を見ると
顔が赤く…
なんてことはなかった
「マヤ、かわいい~!」
「いっつも僕ばっかり~!!」
カコは首を傾げている
今日は失敗だ
また今度にすることにした
「カコはどこかあるの?」
「こことかどう?」
カコはスマホを見せてきた
そこには、カフェが表示されていた
用意周到すぎる
やっぱり僕のこと見てただろ
なんでわかってんの
「どう?」
「うん、いいと思う」
否定する理由もないので同意する
「じゃ、行こ」
それに頷く
弾む気持ちを鼻歌に乗せて
玄関に向かう
カコとの時間は
僕にとっての心の支え
ずっと続けばいいと常々思う
終わりとかには見ないふりをして
「忘れ物ない?」
財布、スマホ、鍵、その他いろいろ
「大丈夫、カコは?」
「もちろん、大丈夫!」
僕は扉を開けた
夜の光が目に飛び込む
鍵を掛け、カコの手をとった
「カフェこっちだよ!?」
「どっち?」
楽しみでつい、先を考えずに
行こうとしてしまった
不覚、不覚
「こっちですよ~私についてきてね!マヤちゃん」
「そんなことしなくても大丈夫だから!」
「と言いつつ、手は繋ぐんだね!
マヤってば~かわいい~」
「いいでしょ!」
そんないつものように
何気ない話をしながら歩く
「あ、あれがカフェ?」
僕はカコの手を引いて
カフェのほうに走った
だからか、右からくる影に気づかなかった
「マヤ!!!」
聞いたこともない声
見たことない顔
カコは
見たこともないような力で
僕を押した
見たことのない光景
絶対に見たくなかった光景
目を占拠する赤が
終わりを告げている
気づいたら病室にいた
包帯で全てを覆われた人
それはカコだとすぐに分かった
カコが僕を庇って車に轢かれて
その後は記憶がない
きっと救急車で一緒にきたのだろう
「僕のせいでカコは…僕は…僕は」
僕はカコを殺した
僕がいなければカコは死ななかった
笑って生きれてたんだ
全てが僕を責めているようで
現実逃避をしたくて窓を開ける
カーテンが舞って、夜が広がる
僕の生きる世界が広がっている
日を浴びれない僕の見てきた世界
夜の魔女のみた世界
僕は魔女の家系に生まれた
もちろん僕も魔女の血を継いだ
それでも人として生きた
憧れの母のように
母は優しくて、あたたかった
母は魔女で、ただ
魔法を絶対に使わないと
強く心に決めていた
『平和のためには魔法なんていらない』
かっこいいなって思った
それが憧れだ
魔女として、人としての
僕は魔女の血が母よりかなり薄く、
少し魔法の使い方が特殊だ
だから魔法を使わないというのもある
そんなあたたかい思い出を思い出す
冷たい夜風が肌を掠める
そして現実へと戻す
時計の秒針の音と外の音が混ざる
時刻は午前2時を指していた
日が昇るまで、それまでに
覚悟を決めなきゃいけない
答えなんて決まっていた
助けられたんだから
助けなくちゃいけない
愛する人を救わなきゃいけない
それでも母との記憶が過ぎる
今になって楽しかったことばっかりだ
きっとまだ覚悟なんて決まってない
だから、覚悟が決まるまで、日が昇るまで
今は、記憶に浸らせてくれ
時間を浪費するが、許してくれ
憧れの母との思い出が頭を染める
「マヤ、私たちは特別なの。
人を簡単に傷つけてしまえる。
でもね、その力を使っちゃダメよ?」
「なんで?」
「昔、魔女が大量虐殺を犯した。
それにもちろん、人間は怒って魔女を火炙りにした。
絶対に自分に返ってくる。不幸を招く。
それと、大きな争いになりかねない。
平和のためには使ってはいけない。
わかった?」
「うん、僕、守る!」
「ありがとう。マヤはいい子ね」
頭で何度も再生する
答えは出てる、覚悟だって決めてるはずなのに
それは間違ってなんかいないのに
今度は違う記憶だ
おばあちゃんとの記憶が頭を支配する
おばあちゃん家に行くと
毎回毎回おばあちゃんがぶつぶつ何かを言っていた
今なら何となくわかる気がするが、わかりたくない
「マヤ!あなたは魔女なのよ!
もっとしっかりなさい!
あなたはアイツの分まで魔女でいないとなのよ!
あの時代を取り戻すため、強くなるのよ
もっと、もっと強い魔女にならないとなの!」
「わたし、まじょ?」
「もっと、強くいてちょうだい!
男より強い方がいいわね
自分のことは僕と呼びなさい!」
「わたし、ぼくっていうの?」
パチン
「いた、いたいよ」
「こんなので泣かないの!!
そうね、髪を切りましょう。」
その後、髪を切られて
私と言う度、頬を打たれた
だから必然的に僕と言うようになった
おばあちゃんはもういないけど
私と言うと記憶が蘇るから
頬の痛みが蘇るから
怒られるのが怖いから
僕のままでいた
僕は普通の人でいたかった
人間生活をしてみたかった
悲しんで
苦しんで
楽しんで
喜んで
笑って
僕は人間になりたかった
カコみたいに
こんな生活、紛い物だ
感情も
記憶も
魔法も
全て
全部が作りものだ
所詮は人間の遊戯の道具でしかないのだ
最初から魔女だなんて空想だ
人間が作った作り話だ
娯楽で使われる道具でしかない
だって僕は機械なんだ
いつから魔女にされたんだ?
日の光で記憶のプログラムが消える
でも、元から僕には日の光がないと魔法なんて使えない
記憶のプログラムが消えて
感情のプログラムが消えて
そしたら僕はどうなるのか
怖い
感情を失うのが
思い出を失うのが
カコを忘れてしまうのが
記憶なんて作りものに縋るほど
それを理由に逃げてしまうほど
怖くて仕方がない
足が震えて、頭が空っぽになって、
怖いという感情が根を張る
こんなのならいらなかった
無駄に現実味を帯びた記憶も
邪魔でしかない感情も
それは僕が存在した証拠であるが
偽物だ
僕の存在なんて否定されている
でも、君と過ごした時間は
偽物じゃなかった
全て本物だった
君は僕を守った
そして、死んだ
僕の、存在は君が証明してくれた
僕は怖がってはいけない
でも、心残りなんだ
この展開を笑っている人間が
僕を娯楽のために作り鑑賞し楽しんでる人間が
僕を魔女にしたヤツが
そのせいで苦しめられている
だから、お返しだ
最悪の結末を
君の隣に座る
肌を撫でた
いつもみたいに暖かくはなかった
僕にいつも
「手まで冷たい」と言って笑う君は
いなかった
再び罪悪感が僕を睨む
でも、逃げれないんだ
決めたから
感情が消えても
記憶が消えても
君と過ごした日々がなくなっても
君を助けるって
今度は僕がするって
ずっと、ずっと
僕の隣で笑ってくれて
僕に好きって言ってくれて
しょうもない会話をしてくれて
たくさん、いろいろ、してくれて
「ありがとう」
ずっと君に言えなかった言葉
もっと、早く言えたらよかったのに
カーテンが揺れる
明るい日が差し込んでくる
「僕は、魔法を使うことにしたよ、お母さん。」
プログラムでしかない人物に呟いてみる
だけど、愛する人のために使うから、安心して。
愛している君のためになら、全てを捨てる
そして魔女として死んでやる
それでも最後に
愛する人を想う気持ちだけはせめて人間だと言わせてくれ
手を組んで祈った
今までにないくらいに
「カコよ、蘇れ。」
暖かい日差しが僕を奪っていく
「ありがとう」
カコ、愛してる
ーさようなら
ーーーーーーー
《said カコ》
目が覚めるとそこは
綺麗な朝日の差す病室だった
窓は開けられていて
カーテンが透き通っていた
そして風が吹くたびに舞っている
隣には君がいた
眠っているように見える
私は、事故に遭ったんだ
車がきて、君を突き飛ばして
病院に運ばれた?
よかった、君が無事そうで
一晩、隣にいてくれたんだ
「ありがとう」
すると、君が起きた
思わず抱きついてしまった
「マヤ!よかった!無事で~!!」
やけに無表情なマヤの顔が刺さる
まるで、マヤじゃないみたいだった
「……えっと、だ、誰ですか?」
意味がわからない
頭が思考をやめた
きっと、勘違いで
私を驚かそうとして
「すいません、……えっ…と、か、帰ります、ね」
早歩きで扉に向かい
病室の扉を閉める
その後ろ姿をただ眺めることしか出来なかった
私を、忘れてる
いや、嘘だ
それから1時間は待ったと思う
連絡も返ってこなくて
マヤは私が嫌いになったのだろうか
不安が胸を縛り付けた
そしてしばらく私は空を眺めていた
愛する君は、私を忘れて
私の世界から出ていった
君がいない世界なら
もういらない
もう用はない
最後に言えばよかった
愛してるって
もっと言えばよかった
大好きって
ちゃんと言えばよかった
ありがとうって
窓へ向かう
カーテンが舞って私を隠した
暖かい風が吹いて私を押す
「ありがとう」
マヤ、ずっとずっと愛してる
ーさようなら
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