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「さてと、じゃあ荷物を纏めないと。家具は私がお祖母様の加護を解いていくからデュハン、馬車を手配した後に運びこんで頂戴。洋服と遺品の全てはシャフラ、貴方に任せたわ」
「畏まりました。お嬢様」
「了解致しました。ラゼーネ様っ」
二人が動き出したのを確認してから、動きやすいようにスカートをたくし上げて結ぶ。
お祖母様の加護はとても特殊なものだ。お祖母様の広げた魔力が散った場所は魔力が散った時点に物の状態や場所が戻るようになる。それは常時発動していて、加護を解くには血縁者の血が必要になる。つまり何があっても血縁者の血が無ければ元に戻るように加護が発動し続けるためものを盗む以前に運ぶことすらできないのだ。
家の中を巡って家具に触れていく。短剣でつけた指の傷が泣きたくなるほど大切な思い出と死にたくなるような思い出を呼び起こす。良くも悪くもここで過ごした日々は忘れられないものばかりだ。
「災難の始まりは殿下との婚約…。あれが無ければ私は」
「お嬢様ー?そろそろ終わりましたか?」
玄関の方からデュハンの声が聞こえて部屋から顔を覗かせるとデュハンが駆け寄ってきた。
「お嬢様、ちょっと切りすぎですよっ!?」
「あ、ほんとだわ」
無意識に押し付けた短剣が深く刺さったのか指から血が滴るように溢れてくる。デュハンがポケットに仕舞っていた白いハンカチを巻きつけて血を止める。すぐに白が赤色に染まって大分やらかしてしまったようだと反省する。
「大丈夫ですか?変な感じはしないですか?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさい、手間を掛けて。家具と置物は全部終わったわ。後はよろしくお願いします」
「勿論でございます。休憩なさいますか?であればシャフラを呼びますが」
「うーん。いえ、遠慮するわ。少し外で買い物してこようと思うから」
落ち着いてお茶なんてしていたら悪い方向に物事を考えて自己嫌悪に陥りそうだからと外に出ることにしようと短剣を懐に仕舞う。
「いつ頃にお戻りになられますか?」
「分からないけど、そうね、夕刻には戻るわ。外で何か夜ご飯を買ってくるから、夜ご飯は作らないで待っててね。疲れたらちゃんと休んで頂戴。それじゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
デュハンは私を門まで送って、仕事に戻った。買い物にまでお供に着いて行くと言ってこない、私を理解した従者に自分は本当に恵まれていると感じる。もちろん二人が余計な心配しないように貴族らしい格好を避けて庶民と同じように出かける。
30分程歩いた所で商業街が広がる。色んな店を巡って、店主さんと言葉を交わしながら花の種を買う。プランターはあるから公爵領の家の自室で育てようと鞄に詰め込む。ふらふらと風の吹く方向に足を進めると職人街に出て鍛冶屋を見つけて暖簾をくぐる。
「なんか…」
微妙、という言葉はギリギリ口にはしなかった。剣の装飾が気に入らなかったわけではなく純粋に質が悪い。一般客じゃパッと見良いように見えるように取繕われた粗悪品だ。触れなくても分かる酷さに思わずため息が出た。耳が痛くなるような剣の声に頭がくらくらする。
「はぁ」
隣を見ると女の客が手にとってなまくらの長剣を見ている。せめてもの良心と思って声を掛ける。
「あの、そっちよりこっちの剣のがましだと思いますけど」
鉄の塊を押し付けると女は目を見開いた。驚きのあまり剣を取り落としそうになっていて思わず剣を受け止めた。
「あ、ありがとうございます。剣の良し悪しは良く分からなくて」
こんな粗悪品じゃ鋼の美しさなんて分からないわよねと思いながら、女に耳打ちした。
「この店はやめた方いいですよ。いつ壊れるか分かった物じゃないですから」
うなづいた女に元自領の公爵領にある鍛冶屋を勧めるとお礼を言って去って行った。無事にいい剣に巡り会えたらいいのだけど、彼女が向かった方角に背を向けて私は屋台へ向かった。
「畏まりました。お嬢様」
「了解致しました。ラゼーネ様っ」
二人が動き出したのを確認してから、動きやすいようにスカートをたくし上げて結ぶ。
お祖母様の加護はとても特殊なものだ。お祖母様の広げた魔力が散った場所は魔力が散った時点に物の状態や場所が戻るようになる。それは常時発動していて、加護を解くには血縁者の血が必要になる。つまり何があっても血縁者の血が無ければ元に戻るように加護が発動し続けるためものを盗む以前に運ぶことすらできないのだ。
家の中を巡って家具に触れていく。短剣でつけた指の傷が泣きたくなるほど大切な思い出と死にたくなるような思い出を呼び起こす。良くも悪くもここで過ごした日々は忘れられないものばかりだ。
「災難の始まりは殿下との婚約…。あれが無ければ私は」
「お嬢様ー?そろそろ終わりましたか?」
玄関の方からデュハンの声が聞こえて部屋から顔を覗かせるとデュハンが駆け寄ってきた。
「お嬢様、ちょっと切りすぎですよっ!?」
「あ、ほんとだわ」
無意識に押し付けた短剣が深く刺さったのか指から血が滴るように溢れてくる。デュハンがポケットに仕舞っていた白いハンカチを巻きつけて血を止める。すぐに白が赤色に染まって大分やらかしてしまったようだと反省する。
「大丈夫ですか?変な感じはしないですか?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさい、手間を掛けて。家具と置物は全部終わったわ。後はよろしくお願いします」
「勿論でございます。休憩なさいますか?であればシャフラを呼びますが」
「うーん。いえ、遠慮するわ。少し外で買い物してこようと思うから」
落ち着いてお茶なんてしていたら悪い方向に物事を考えて自己嫌悪に陥りそうだからと外に出ることにしようと短剣を懐に仕舞う。
「いつ頃にお戻りになられますか?」
「分からないけど、そうね、夕刻には戻るわ。外で何か夜ご飯を買ってくるから、夜ご飯は作らないで待っててね。疲れたらちゃんと休んで頂戴。それじゃあ行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
デュハンは私を門まで送って、仕事に戻った。買い物にまでお供に着いて行くと言ってこない、私を理解した従者に自分は本当に恵まれていると感じる。もちろん二人が余計な心配しないように貴族らしい格好を避けて庶民と同じように出かける。
30分程歩いた所で商業街が広がる。色んな店を巡って、店主さんと言葉を交わしながら花の種を買う。プランターはあるから公爵領の家の自室で育てようと鞄に詰め込む。ふらふらと風の吹く方向に足を進めると職人街に出て鍛冶屋を見つけて暖簾をくぐる。
「なんか…」
微妙、という言葉はギリギリ口にはしなかった。剣の装飾が気に入らなかったわけではなく純粋に質が悪い。一般客じゃパッと見良いように見えるように取繕われた粗悪品だ。触れなくても分かる酷さに思わずため息が出た。耳が痛くなるような剣の声に頭がくらくらする。
「はぁ」
隣を見ると女の客が手にとってなまくらの長剣を見ている。せめてもの良心と思って声を掛ける。
「あの、そっちよりこっちの剣のがましだと思いますけど」
鉄の塊を押し付けると女は目を見開いた。驚きのあまり剣を取り落としそうになっていて思わず剣を受け止めた。
「あ、ありがとうございます。剣の良し悪しは良く分からなくて」
こんな粗悪品じゃ鋼の美しさなんて分からないわよねと思いながら、女に耳打ちした。
「この店はやめた方いいですよ。いつ壊れるか分かった物じゃないですから」
うなづいた女に元自領の公爵領にある鍛冶屋を勧めるとお礼を言って去って行った。無事にいい剣に巡り会えたらいいのだけど、彼女が向かった方角に背を向けて私は屋台へ向かった。
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