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   王都の公爵家に着くと既に泣き腫らした少女が私に抱きついてきた。


「ラゼーネしゃまぁぁぁあっ!どうしてですか?反論しないんですかっ?私達は解雇されるんでしゅかぁぁぁあ!?」


   いつもはしっかりと整えられたメイド服が乱れに乱れて、ホワイトプリムに至ってはもはや原型が保たれていない。


「シャフラ、ちょっと大変なことになってるじゃない。ねぇ、離して。とってもはしたないことになってるわよっ。シャフラッ」


   がっつりとホールドされた体は腕の一本も動かせずに困ってしまう。本当に私の従者達はいい子揃いで困ったものだ。


「ねぇ、デュハン。貴方の奥さんをどうにかして頂戴。デュハン?ちょっと何貴方まで泣き始めてるの。わわっ、危なっ」


   デュハンにシャフラ纏めて抱きつかれ床に倒れこんだ私は流石に手に負えずに苦笑した。大人しく抱きかかえられながら過去の思い出に目をやった。




「もっ、申し訳ございませんでした。ラゼーネ様」


   二人が泣き止むまで羽交い締めにされながらもなんとか息絶えずに生還した私は美味しいお茶にやっと一息つけた。


「構わないわ。それだけ私を大切に大切に思ってくれているという事でしょう?これに勝る喜びはないわ」


   私が微笑むのを見て二人は安心したように笑った。目こそ腫れてしまっているけど、いつもの様子を取り戻したようでなんだかこっちも安心する。


「でもシャフラ。女の子がスカートをまくらせたままに抱きついてくるのは少し頂けないことよ。気をつけなさい」

「はい。すみませんでした」

「分かってくれるならいいの。あんまり落ちこみ過ぎないでね」

「はい。その、ラゼーネ様、はこれからどうなさるおつもりなのでしょうか?」


   ぎこちなくシャフラが尋ねてきて、なんと答えるのが一番良いのか考える。でも誤魔化してしまうのは仕えてくれる二人に悪い気がしてそのまま正直に話すことを決心した。


「私ね、小さい頃から冒険者になりたかったの」


   目を瞬かせながらも口を挟まずに話を聞いてくれることに感謝して言葉を連ねた。


「好きな時に仕事をして、食べたいものを好きに食べて、誰にも靡かずに生きたいように、気の赴くままに旅をしたり、沢山の人と話をして繋がりを持ったり。ずっと憧れていたの。だから幼い時に父に反対されても護身用にと理由を作ってデュハンに剣を習っていた。でも貴族として生まれてしまったからにはそんな夢叶わないと思ってた。きっとこれは神様がくれたチャンスね。だから私冒険者になるわ」


   シャフラは口を開こうとして閉じた。何か言いたげな瞳で見つめられたら困ってしまう。


「ごめんなさいね、シャフラ。デュハンも」

「で、でもっ領地のお屋敷を守る役目は必要ですよねっ?」

「まぁ、そうだけど領地のお屋敷はお祖母様の加護が掛かっているから」

「お嬢様、どうか雇って頂かなくても結構です。シャフラだけでも置いてやって頂けませんか?」


   デュハンにまでも頭を下げられてどうしたらいいか分からなくなる。だから私はもう頷くしかなかった。

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