上 下
8 / 40

(8)

しおりを挟む


 ほろ酔い気分で帰ってきた私は、隊長やミルくんに支えながら歩いていた。

「大丈夫か?」

 隊長の低く優しい声が耳に響いて心地いい。
 足元が覚束なくなってよろける私の腕をミルくんが掴んで、引っ張って行ってもくれているからなされるがままだ。けれども、自分の部屋に行けるかも危うい今の私にはありがたい。
 後ろにいるイグニスさんも、ただそんな私たちの姿を見ているだけだったけど、時々後ろにふらついた私の身体を手で支えてくれてたりしていた。

 こんなに飲んだの久しぶりだ……。

 いつもは次の日も朝早く起きて家事をしなきゃいけないから、適当なところで飲むのをやめるんだけど、最後だからって思ったらついつい酒が進んでしまった。隊長にも『遠慮せずに飲め』って言われたし、ミルくんも『明日のイグニスの朝ご飯は適当に林檎食べさせておくから』って言われて、『じゃあ、お言葉に甘えて』と調子に乗ったらしい。

 まずいなぁ。
 みんなはああ言ってくれたけど、やっぱり仕事は仕事として最後までちゃんとしなきゃいけないのに。
 水を飲んで体内のアルコールを薄めて、あとはゆっくり寝れば大丈夫になるかな?

 そんなことを考えているうちに私の部屋にたどり着いた。
 三人とも送ってくれたので、狭い私の部屋があっという間に人口密度が高くなる。

 そういえば、この部屋とももうすぐでお別れなんだよな……と木目の天井を見ながらぼんやり思った。
 もともと一年しかいないつもりだったから荷物もそんなに多くないけど、でもそれなりに荷造りもしなきゃいけないだろうし、次使う人のためにピカピカに掃除しておかなきゃ。

 何だか、名残惜しい。
 この部屋と別れるのも、……この三人と別れるのも。

 さっきは案外平気かな? って思っていたけど、やっぱり違ったみたい。
 今寂しくて寂しくて仕方がない。

 だって、大変だったけど楽しかった。
 三者三様の生活困難者ばかりだけれども、みんないい人たちばかりなのだ。

 隊長はギャンブル狂だけど、面倒見が良くて優しくて頼れる人。
 イグニスさんは大食漢だけど、本能に忠実なだけでそれが満たされれば案外素直な人だし。
 ミルくんは力加減を知らないけど、元気いっぱいでときどき私の手伝いなんかもしてくれる。

 そんな三人と過ごしたこの一年は、思った以上に簡単に捨てきれない大切なものだったらしい。

 何だか鼻の奥がツンとして、泣きそうだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

「おまえを愛している」と言い続けていたはずの夫を略奪された途端、バツイチ子持ちの新国王から「とりあえず結婚しようか?」と結婚請求された件

ぽんた
恋愛
「わからないかしら? フィリップは、もうわたしのもの。わたしが彼の妻になるの。つまり、あなたから彼をいただいたわけ。だから、あなたはもう必要なくなったの。王子妃でなくなったということよ」  その日、「おまえを愛している」と言い続けていた夫を略奪した略奪レディからそう宣言された。  そして、わたしは負け犬となったはずだった。  しかし、「とりあえず、おれと結婚しないか?」とバツイチの新国王にプロポーズされてしまった。 夫を略奪され、負け犬認定されて王宮から追い出されたたった数日の後に。 ああ、浮気者のクズな夫からやっと解放され、自由気ままな生活を送るつもりだったのに……。 今度は王妃に?  有能な夫だけでなく、尊い息子までついてきた。 ※ハッピーエンド。微ざまぁあり。タイトルそのままです。ゆるゆる設定はご容赦願います。

二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

2wei
BL
【ANNADOLシリーズ3】 アイドル 三木颯太。 彼の所属する事務所にはありえない裏社会があった。 それは性欲処理をするために作られたパーティーというシステム。 願わずそこへ足を踏み入れた颯太の運命は……? 。.ꕤ……………………………………ꕤ.。 『とけて つぶれる』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/76237087/438907337 『番外編』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/76237087/733907343 。.ꕤ……………………………………ꕤ.。 🚫無断転載、無断使用、無断加工、 トレス、イラスト自動作成サービス での使用を禁止しています🚫 。.ꕤ……………………………………ꕤ.。 START:2024.6.9 END:2024.8.28 。.ꕤ……………………………………ꕤ.。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

【完結】2愛されない伯爵令嬢が、愛される公爵令嬢へ

華蓮
恋愛
ルーセント伯爵家のシャーロットは、幼い頃に母に先立たれ、すぐに再婚した義母に嫌われ、父にも冷たくされ、義妹に全てのものを奪われていく、、、 R18は、後半になります!! ☆私が初めて書いた作品です。

【完結】男装令嬢、深い事情により夜だけ王弟殿下の恋人を演じさせられる

千堂みくま
恋愛
ある事情のため男として生きる伯爵令嬢ルルシェ。彼女の望みはただ一つ、父親の跡を継いで領主となること――だが何故か王弟であるイグニス王子に気に入られ、彼の側近として長いあいだ仕えてきた。 女嫌いの王子はなかなか結婚してくれず、彼の結婚を機に領地へ帰りたいルルシェはやきもきしている。しかし、ある日とうとう些細なことが切っ掛けとなり、イグニスに女だとバレてしまった。 王子は性別の秘密を守る代わりに「俺の女嫌いが治るように協力しろ」と持ちかけてきて、夜だけ彼の恋人を演じる事になったのだが……。 ○ニブい男装令嬢と不器用な王子が恋をする物語。○Rシーンには※印あり。 [男装令嬢は伯爵家を継ぎたい!]の改稿版です。 ムーンライトでも公開中。

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

処理中です...