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しおりを挟むほろ酔い気分で帰ってきた私は、隊長やミルくんに支えながら歩いていた。
「大丈夫か?」
隊長の低く優しい声が耳に響いて心地いい。
足元が覚束なくなってよろける私の腕をミルくんが掴んで、引っ張って行ってもくれているからなされるがままだ。けれども、自分の部屋に行けるかも危うい今の私にはありがたい。
後ろにいるイグニスさんも、ただそんな私たちの姿を見ているだけだったけど、時々後ろにふらついた私の身体を手で支えてくれてたりしていた。
こんなに飲んだの久しぶりだ……。
いつもは次の日も朝早く起きて家事をしなきゃいけないから、適当なところで飲むのをやめるんだけど、最後だからって思ったらついつい酒が進んでしまった。隊長にも『遠慮せずに飲め』って言われたし、ミルくんも『明日のイグニスの朝ご飯は適当に林檎食べさせておくから』って言われて、『じゃあ、お言葉に甘えて』と調子に乗ったらしい。
まずいなぁ。
みんなはああ言ってくれたけど、やっぱり仕事は仕事として最後までちゃんとしなきゃいけないのに。
水を飲んで体内のアルコールを薄めて、あとはゆっくり寝れば大丈夫になるかな?
そんなことを考えているうちに私の部屋にたどり着いた。
三人とも送ってくれたので、狭い私の部屋があっという間に人口密度が高くなる。
そういえば、この部屋とももうすぐでお別れなんだよな……と木目の天井を見ながらぼんやり思った。
もともと一年しかいないつもりだったから荷物もそんなに多くないけど、でもそれなりに荷造りもしなきゃいけないだろうし、次使う人のためにピカピカに掃除しておかなきゃ。
何だか、名残惜しい。
この部屋と別れるのも、……この三人と別れるのも。
さっきは案外平気かな? って思っていたけど、やっぱり違ったみたい。
今寂しくて寂しくて仕方がない。
だって、大変だったけど楽しかった。
三者三様の生活困難者ばかりだけれども、みんないい人たちばかりなのだ。
隊長はギャンブル狂だけど、面倒見が良くて優しくて頼れる人。
イグニスさんは大食漢だけど、本能に忠実なだけでそれが満たされれば案外素直な人だし。
ミルくんは力加減を知らないけど、元気いっぱいでときどき私の手伝いなんかもしてくれる。
そんな三人と過ごしたこの一年は、思った以上に簡単に捨てきれない大切なものだったらしい。
何だか鼻の奥がツンとして、泣きそうだ。
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