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第一章(12)

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 屋敷を出て辻馬車の停留所を目指し歩くこと半刻。
 思った以上に距離を稼げずにメレディスは焦っていた。

 もうすぐで夜が明けるころだ。
 雨も止み始め、東の空が薄紫色になってきた。
 もしかすると朝一番の便には間に合わないかもしれない。

 朝メレディスがいないことに気が付いた家族が捜索を始めたら、捕まる可能性は高い。
 馬を使って探されたらあっという間だろう。
 その前にどうにか馬車に乗りたいのに、情けないことにメレディスは疲弊し始めていた。

 体温が低くなり足が重い。吐く息も荒くなり、自分の体力がなくなっていくのが分かる。
 無謀だったのかもしれないと後悔が過ぎる。

 だが、あの時をもって逃げ出すほかはなかった。
 もし時を置いていたら、オーランドがどう出るかは分からない。

 ――――あのときの彼の瞳。怒りの炎が燃え盛っていた。

 父も婚約破棄からずっとメレディスの結婚に焦っていたし、シルヴェスターも協力的だ。
 もしかすると半年を待たずに結婚を強行する可能性だってあった。

(大丈夫……私は……大丈夫……)

 自分にそう言い聞かせて弱った身体を奮い立たせる。
 今は辛くとも、無事に修道院に辿り着けば報われるのだと。

 ――――ところが。

 メレディスはサッと顔色を変えた。
 遠くから馬の足音が聞こえてきたのだ。
 しかも全速力で走らせているであろうその音は、メレディスの背中にゾクリとした悪寒を走らせた。

 誰かが来る。
 しかも馬に乗って、こちらに。

 そう気づいた瞬間に頭に浮かんだのはオーランドだ。
 騎士団にいた彼ならば、馬を走らせるなど造作もないことだ。

 音のする方向に視線を巡らせてその距離を測る。
 今は豆粒ほどの大きさだが、それはあっという間に大きくなった。

 メレディスは正体を確認するまでもなく走り出す。
 馬上にいるのがオーランドでもクラントリアの家の者でも、まったく関係ない人でも。こんな時分に女性一人が道を歩いている姿など見られたくはない。
 身を隠せる場所を探して、最後の気力を振り絞る。

 どうか、どうか。
 オーランドではありませんように。

 メレディスはひたすらに祈り続けた。


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