14 / 15
第一章(12)
しおりを挟む屋敷を出て辻馬車の停留所を目指し歩くこと半刻。
思った以上に距離を稼げずにメレディスは焦っていた。
もうすぐで夜が明けるころだ。
雨も止み始め、東の空が薄紫色になってきた。
もしかすると朝一番の便には間に合わないかもしれない。
朝メレディスがいないことに気が付いた家族が捜索を始めたら、捕まる可能性は高い。
馬を使って探されたらあっという間だろう。
その前にどうにか馬車に乗りたいのに、情けないことにメレディスは疲弊し始めていた。
体温が低くなり足が重い。吐く息も荒くなり、自分の体力がなくなっていくのが分かる。
無謀だったのかもしれないと後悔が過ぎる。
だが、あの時をもって逃げ出すほかはなかった。
もし時を置いていたら、オーランドがどう出るかは分からない。
――――あのときの彼の瞳。怒りの炎が燃え盛っていた。
父も婚約破棄からずっとメレディスの結婚に焦っていたし、シルヴェスターも協力的だ。
もしかすると半年を待たずに結婚を強行する可能性だってあった。
(大丈夫……私は……大丈夫……)
自分にそう言い聞かせて弱った身体を奮い立たせる。
今は辛くとも、無事に修道院に辿り着けば報われるのだと。
――――ところが。
メレディスはサッと顔色を変えた。
遠くから馬の足音が聞こえてきたのだ。
しかも全速力で走らせているであろうその音は、メレディスの背中にゾクリとした悪寒を走らせた。
誰かが来る。
しかも馬に乗って、こちらに。
そう気づいた瞬間に頭に浮かんだのはオーランドだ。
騎士団にいた彼ならば、馬を走らせるなど造作もないことだ。
音のする方向に視線を巡らせてその距離を測る。
今は豆粒ほどの大きさだが、それはあっという間に大きくなった。
メレディスは正体を確認するまでもなく走り出す。
馬上にいるのがオーランドでもクラントリアの家の者でも、まったく関係ない人でも。こんな時分に女性一人が道を歩いている姿など見られたくはない。
身を隠せる場所を探して、最後の気力を振り絞る。
どうか、どうか。
オーランドではありませんように。
メレディスはひたすらに祈り続けた。
0
お気に入りに追加
859
あなたにおすすめの小説
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
【完結】夫が愛人と一緒に夜逃げしたので、王子と協力して徹底的に逃げ道を塞ぎます
よどら文鳥
恋愛
夫のザグレームは、シャーラという女と愛人関係だと知ります。
離婚裁判の末、慰謝料を貰い解決のはずでした。
ですが、予想していたとおりザグレームとシャーラは、私(メアリーナ)のお金と金色の塊を奪って夜逃げしたのです。
私はすぐに友人として仲良くしていただいている第一王子のレオン殿下の元へ向かいました。
強力な助っ人が加わります。
さぁて、ザグレーム達が捕まったら、おそらく処刑になるであろう鬼ごっこの始まりです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる