上 下
1 / 15

序章

しおりを挟む


 この世に無上の幸福というものがあるのなら、はたしてそれは目に見えるものなのだろうか。
 これ以上の幸せはないと人々はいつどうやって判断するのか。
 上を見ればキリがなく、堕ちようと思えばとことん堕ちるのが人間というものだ。

 それでもメレディス・クラントリアは恵まれていると自負している。
 過ぎた幸せをこの身に受けているのだと常日頃から感じ、そして感謝していた。

 慈しんで育ててくれた母に。
 厳しくも優しい手で抱き締めてくれる父に。
 そして、この良縁に。

 オーランド・ギャスゲーティアとこうやって顔を突き合わせて会い、言葉を交わして微笑み合うことのできる人生に、何とも言えないほどの多幸感を持たずにはいられなかった。

 オーランドはギャスゲーティア伯爵の次男で、同じ伯爵家の令嬢であるメレディスの婚約者候補だ。
 両家の父は旧知の仲で、その昔互いの子供を結婚させようと約束を固く交わし合った。運よくクラントリア家には女児のメレディスが、ギャスゲーティア家には男児のオーランドとその兄のバラットが産まれ、親たちは喜んで両家で婚約を交わしたのだ。

 だが、今はまだ婚約者『候補』だ。
 オーランドかバラットか。どちらに嫁ぐかを見定めているうちは正式なものではない。
 メレディスの十三歳の誕生日を迎えたその日にギャスゲーティア家にどちらを夫にするかを伝え、そうしてようやく婚約者となる。
 
 メレディスが十三歳になるまで約ひと月半と差し迫った今日。
 父と一緒にギャスゲーティア邸に赴き、婚約者候補二人と一緒にお茶をしていた。定期的に設けられた両家の交流会である。

 今日はオーランドの話題でいつもより盛り上がっていた。
 彼が歴代最年少で騎士団入団が認められたのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

こんなに好きでごめんなさい〜ポンコツ姫と捨てられた王子〜

キムラましゅろう
恋愛
わたし、イコリス王国第一王女ニコルには大、大、大好きな婚約者がいます。 彼はモルトダーン王国の元第一王子。 故あって廃嫡され、よりにもよって弱小国の次期女王の王配となるべく我が国に来ました。なんてかわいそうな……。 その弱小国の次期女王というのがわたしなんですけどね。 わたしは彼が大好きだけど、でも彼は違う。 今でも破談になった元婚約者を想っているらしい。 うっ……辛いっ! ※要約すると 自分の婚約者になんとか好きになって貰おうとするポンコツ姫のお話です。 完全ご都合主義、ゆるゆる設定で書いて行きます。 物語の進行上、リアリティを追求出来ない場合も多々あります。 リアリティがお好きな方は心の平穏のために回れ右をお薦めいたします。 小説家になろうさんの方でも投稿しております。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

処理中です...