新米魔術師の私が手違いで腹黒な王子様を隷属させてしまいました（でも何故か王子はノリノリで私に命令してと言ってきます）

２１．「――おそらくですが、自分の存在意義がほしいから、ですかね」

　彼の話に胸がむず痒くなる。

　嬉しいような恥ずかしいような不思議な感覚だ。



　シリルとは、本当に世間話程度にしか話さなかった。

　ミリウスはさっさと彼を帰そうとするし、ユニも王子相手に軽々しく声を掛けられる立場でもない。



　顔見知りの他人、という間柄。

　それなのに今はこんなにも近い。



「ねぇ、どうしていつもそんなに一生懸命なの？　仕事が好きだから？　それともそういう性格？　まさか、ミリウスのため……ってことはないよね？」



　どうしてと聞かれて、ユニはうんと頭を捻る。

　あまり考えたことはなかった。



　性格かと言われればそうだろうし、仕事が好きだからと言われればたしかにそれもそうだ。

　何故ここでミリウスの名前が出てくるのかは分からないが、彼にいっぱしの魔術師として認めてもらいたいというのもある。



　けれども、いずれも理由としては弱い。

　もっと根底に大きなものがある気がする。



　そう、ユニが魔術師になる前。

　もっと昔に。



「――おそらくですが、自分の存在意義がほしいから、ですかね」



　自分で口にして少し気恥ずかしくなる。

　けれども、シリルにはそれがピンと来ていないようで、不思議そうに瞬いているのが見えた。



「生きてここにこうしているだけでも、ユニは充分尊い存在だと思うけれど。それ以上に必要なの？」

「そ、そう言っていただけて嬉しいです！　私は誰かに認めてもらうこと自体嬉しいですし、それが殿下であればなおさら……」



　不意打ちで褒められて、顔を真っ赤に染め上げる。

　そんなことを言われて、嬉しくて舞い上がって早口で捲し立てた自分がまた恥ずかしい。



　きっとそう言ってもらえるのは、ユニが魔術師として生きるようになったからだろう。

　それまでの自分は、価値のない人間だった。

　当時はそう思っていた。