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 一気に気温が下がり冬の気配がする。

 庭仕事は手先がかじかみ効率が落ちてきた。

 寒いと夜の安眠も難しくなってくる。

「ホットワインを淹れようかな」

 寒い季節は夜によく眠れるように、ホットワインを作って楽しむことが多い。

 以前購入したワインがまだ残っている。

 体を温める効果を高めるためにスパイスを混ぜているが、なにより香りが好きだ。

 シナモンの刺激的な香りがキッチンに広がる。

「ランジ!」

 ちょうど風呂を終えたランジを呼び寄せる。

「どうぞ」

「ん、美味しい」

 ランジもお気に召したようだ。

 レンリも口を付ける。

 シナモンのスパイシーな匂いが鼻腔に広がり、すぐ後にワインのまろやかな風味が追いかけてくる。

 喉を熱い感覚が落ちていき、胃から体が温まっていく感覚。

「これが今年最後のワインか。ちょっと寂しいな」

 思わず口に出ていた。

「ワインが好きなのか?」

「普段はお酒自体あまり飲まないけど、うん、好きなのかもしれない。ランジは?」

「あまり飲む機会がなかったからな。でも、レンリの選んだ酒はどれも美味しい」

「やっぱり食の好みが合うみたいね、私たち」

「ああ、そうみたいだ」

 柔らかく微笑むランジにレンリは嬉しくなって笑みを返す。

 慕う相手と好きなものを共有できることに幸せを感じた。

「……あ」

 カップに口を付けるがすでに飲み干してしまっていた。

 正直まだ飲み足りない。

「ねえランジ。もう眠いかな?」

「いや」

「まだお酒、飲みたい?」

「レンリが飲むなら」

「少しだけ、いいかな」

 去年漬けた梅酒を取り出す。

 常備してあるアルコールはこれだけ。

 量に限りがあるので頻繁に飲むことはない。

「お湯割りにする?」

「ああ」

 湯気の立つカップをランジの前に置く。

「乾杯」

 静かにカップを合わせひと口含む。

 程良い甘みと温かさでほっと肩の力が抜けていく。

 ホットワインで温まり始めていた体はすぐにぽかぽかしてくる。

 わずかに体がふらつく。

「おい、大丈夫か」

 思ったよりも回りが早く、レンリは椅子にだらしなくもたれかかった。

「もう寝た方が良い」

 ランジの手が肩に触れている。

 あったかい大きな手が嬉しくて頬を寄せる。

「ランジの手、好き……」

 ぴくりと彼の手が跳ねた。

 頻繁に触れる機会のない彼の手。

 恋人同士なら触れ合ってもいいのだろうが、どうしても照れが出てしまって行動に移せないことが多い。

 だが今はアルコールの力で理性は弱まり、いつもより大胆なこともできそうな気分。

 そこまでお酒に弱いつもりはなかったが、温度の関係もあってかいつもより酔いが回っていた。

「っ、……レンリ、もう寝ろ。抱き上げるぞ」

 酔いではない浮遊感。

 抱き上げられ重心が不安定になり、とっさに彼の首に腕を回す。

 彼の髪から良い香りがする。

「良い匂い」

 思わず口に出していた。

 ほんのり甘い香りが心地よくて、すんと鼻を鳴らす。

「ッレンリ! 待て!」

 抱き締められたランジの首は逃げようもなく、匂いを嗅ぎ続けるレンリにされるがままだった。

「ん、良い匂い。好き」

 ランジの話を聞いていないレンリは香りに夢中だ。

 すぐに抵抗を諦めたランジは、レンリをそのまま好きなようにさせながら寝室へと運ぶ。

「ほら、今日はもう寝ろ」

 ゆったりベッドに降ろされるが離れがたい。

 必死に首にしがみつく。

「どうした?」

 大きな手が髪を撫でる。

 心地よくて安心する。

「一緒に寝ようよ」

「はあ?」

 ランジの大きな声が響く。

「だから、一緒に寝よう?」

「いや聞こえなかったわけじゃなくて」

 ランジが困った顔をしている。

「じゃあなんで寝室に連れてきたの?」

「あ」

 今もまだレンリは調合室のソファーベッドで眠っている。
「ついくせで……すまない。俺も酔ってるみたいだ」

「いいじゃない、たまには一緒に寝ましょうよ」

「さすがにそれは……」

「だめ?」

 自分が思ったよりも弱々しい声になっていた。

 気温が下がってきたせいか、どことなく心細くなっていたらしい。

 一考したランジが大きなため息をついた。

「……酷なことを言う」

 吐息交じりのその言葉は聞き取れなかった。

 彼に聞き返す前に、ランジの広い胸へと抱きすくめられた。

 
 
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