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 翌朝。

 重苦しい頭を抱えながらレンリは目覚めた。

 ほんのり熱っぽい気はするが動けなくはない。

 体を起こしてみるものの、思ったよりしんどい。

 そのままもう一度ベッドに突っ伏してしまいたい衝動に駆られるが、ランジにすべてを任せっきりするのも忍びない。

 動いているうちに調子が出てくることを祈り、ひとまず朝の準備へ向かう。

 キッチンにはすでにランジがいて朝食の支度を始めていた。

「おはよう、ランジ」

 ふと昨夜の出来事がよぎるが、照れを必死で抑え込み素知らぬ顔をする。

「ああ、おはよう」

 ランジもいつもと変わらず若干不愛想。

 彼の隣に並び準備を手伝おうと手を伸ばす。

「待て」

 ランジに手首を掴まれた。

「まだ万全じゃないだろう?」

「そんなことは」

「顔色が良くない」

 レンリが答える前に体が浮いた。

 ランジに抱き上げられている。

 デジャヴ。

「なんで無理して起きてくるんだ」

「大丈夫かなって思って」

「もっと自分を大事にしろ」

 自分をないがしろにしていたつもりはなかったが。

「頑張りすぎなんだ」

 寝室のベッドに降ろされる。

「レンリ」

 ランジの手が頭を撫でる。

「もっと自分を甘やかせ」

 彼を見ると悲痛な面持ち。

「昔からそうだ」

「昔?」

「いや、なんでもない」

 少し乱暴に前髪が掻き乱された。

 すぐに穏やかな手付きに変わり、乱れた髪が整えられていく。

 無理をしてるつもりはなかったが、ランジに撫でられるごとにふわふわと体の力が抜けていく気がした。

 ランジの言葉が気になったが、どんどん意識がぼんやりしてくる。

 起きたばかりなのに、再びまどろみへと引っ張られていった。

「もう少し寝てろ」

 彼のその言葉を聞いたのが最後、すっと意識を手放した。




 なにかが割れる音で目が覚めた。

 硝子や木材ではない、もっと軽やかななにかが割れる音。

 様子を見に行った方がいいだろうか。

 どうしようかと迷っているうちに控えめなノックが響いた。

「起きてたのか」

 皿を持ったランジが入ってきた。

 彼はベッドサイドの椅子へと腰掛ける。

「気分はどうだ」

 喉がつっかえて声が出ない。

 ひどく乾燥しているようだ。

 頷いて意思表示をする。

「声、出ないか? 氷を砕いてきた。少しは和らぐかもしれない」

 氷室の場所は随分前にランジに伝えていた。

 倦怠感や熱がある時はよく氷を含んで紛らわせている、と彼に話したことがあった。

 覚えていてくれたことが嬉しい。

 体を起こそうとするがすぐに止められた。

「ほら」

 氷の欠片をランジが摘まんで差し出す。

 素手なのか、と驚いたが抵抗はない。

 ただ、少々照れる。

 ランジは素知らぬ顔をしているので、意を決して口を寄せる。

 冷たい感触が口内を冷やして気分がすっきりしていく。

「まだいるか?」

 ランジが再び差し出す。

 一度越えてしまえばなんてことはない。

 再び彼の手から直接氷を頬張る。

 勢いあまって彼の指まで食んでしまった。

 彼の手がぴくりと震えたが、歯は立てていないので大丈夫だろう。

 含んだ氷を味わう。

 冷たさが心地いいので、やはりまだ熱があったのだろう。

 その後も何度かランジから氷をもらい、不快感が幾分か和らいだ。

「もう少し寝てるといい」

 髪を撫でられる感触がするがほとんど閉じてしまった瞼は開かず、意識もまどろみへ落ちかけていた。

「おやすみ」

 額に柔らかな感触がする。

 なにが触れたのかを確かめる前に、レンリの意識は再び眠りに落ちていった。

 
 
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