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第二〇〇話 シャルロッタ 一六歳 打ち砕く者 一〇
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——ハーティ近隣を舞台としたベイセル・インテリペリ率いる辺境伯軍先鋒部隊と、ディー・パープル侯爵軍の戦いは終わった。
侯爵軍敗退の報は王国に訪れた冬の到来と同時に驚きを持って伝えられた。
数だけ見れば優勢な侯爵軍は六〇パーセント近い損害を出して撤退、さらには当主であるイアン・ディー・パープル侯爵の死によって侯爵家自体の威信が揺らいでいる。
イアンには二人の息子がおり、それぞれカヴァデール子爵家とターナー子爵家の名を持って侯爵領内に領地を得ていたが、その二人のどちらを当主にするかで揉めることになった。
寄子であった貴族同士の内紛が発生し侯爵領は混乱を来しており、内乱に首を突っ込んだことによる天罰だとさえ囁かれているのだ。
「アンダース殿下知っていますか? 市井では今起きている王子同士の内乱を習って、侯爵領でも同じことが起きた、と囁くものがいるそうですよ」
「牢に入っておきながら随分と口の減らないことだアーヴ」
牢の中で憎々しげに睨みつける人物……イングウェイ王国前宰相であったアーヴィング・イイルクーンが薄汚れた囚人が着用する粗末な服で檻の外にいる男へと話しかける。
そこにはアンダース・マルムスティーン国王代理が立っている……だがその目は冷たく感情を映さないどこか空虚なものであり、その目に射すくめられると背中に寒気が走る気がした。
アーヴィングは国王代理として命令を発するアンダースに面と向かって反論し、怒りを買って投獄された。
国王であるアンブローシウス・マルムスティーンは謎の病により倒れ、その間の政治をアンダースが代行する、それ自体はアーヴィングも了承したことだった。
「……私は政治の空白を防ぐために了承しただけです、悪戯に内乱を起こそうとする殿下のことを諌める必要があります」
「弟とその婚約者、それにインテリペリ辺境伯家は内乱を起こしている……それを討伐して何が悪い」
「すでに二度の侵攻を跳ね返されております、特にこれからは冬ですよ?! 悪戯に兵を損ねてなんとしますか!」
アーヴィングは元々インテリペリ辺境伯家への攻撃に反対していた……あくまで王権交代はアンダースが継承権一位にいるため、クリストフェル自身は大公として国内に新しい領地を得ることが決まっていたからだ。
それに辺境伯家は国防の要にもなる貴族であり、その重要性をアンブローシウスはきちんと理解していた……だからこそ第二王子の婚約者にシャルロッタを選んだのだから。
しかし第一王子派の貴族達は一方的にクリストフェル達を糾弾し、反逆者として扱い……結果的に第二王子派は辺境伯家を筆頭にアンダースの元から離れつつある。
第一王子派はこれに対して辺境伯家への攻撃を押し通したが……結果的には撃退されてしまった。
「元々武力に長けた辺境伯家を敵として……本来であれば真っ先に取り込まなければいけない相手ではありませんか!」
「……勝てる見込みがあるから戦うまでだ」
「二度も負けています……それに戦費は貴族だけでは賄いきれません、国庫からも支援を行っています……それに第一王子派の領地だけで王国全土の事業を賄い切れるわけではないのですよ?! 無駄に浪費を重ねるのは国主としての自覚を……」
いきなり首根っこを掴まれてガツン! と檻に叩きつけられたアーヴィングだが、その顔を怒りや殺気……狂気にもにた感情を映す瞳で睨みつけるアンダースの表情を見て思わず息を呑む。
昔のアンダースはこんな人物ではなかった……確かに揉め事も多く起こす人物で、火消しに回ったことは二度や三度ではない。
だが悪ガキ……といった印象だった以前と違い現在のアンダースはどこか近寄りがたい人間味を感じない何か、のように見えるのだ。
そうまるで悪魔のような……そこまで考えてふと彼の顔をじっと見つめたアーヴィングだったが、その視線に気がついたのかアンダースがいきなりニヤリと笑った。
「……ああ、そうか痛みが必要なんだなお前は……」
「な、何を……」
「そうだろう? 欲する者よ」
アンダースの言葉に暗闇の中からコツコツと靴音が響き、一人の女性が現れる……奇妙な人物だ、その女はいつの間にか宮廷に入り込んでいた。
男であれば誰でも欲情を隠せなくなるグラマラスな体型、滑らかでむしゃぶりつきたくなるような美しい黒髪、怪しく輝く赤い瞳。
蝋燭の淡い光の下に現れた彼女はアーヴィングですら一瞬見惚れてしまうような妖しい魅力を振り撒いている……だがどこか本質的には人間ではないような、どこか超自然的な存在のようにすら思える完璧な美貌が、牢の中から自分を見つめるアーヴィングの視線に気がつくとぐにゃりと歪んだ笑いを浮かべる。
「ええ殿下……私愛する殿下のために良いものを用意いたしましたの」
その言葉と同時に、暗闇の中から不気味な肉塊……紫色の皮膚を保つ巨大な肉塊と管と申し訳程度の毛が生えたとても生物には見えない物体がずるり、ずるりと音を立てて姿を表す。
クキキキキ、という奇妙な音を立てながら数本ある管のような器官が牢の中にいるアーヴィングに気がついたのか、一斉にその長さを伸ばすと呆気に取られていたアーヴィングの体に吸盤を使って張り付く。
次の瞬間……身を捻じ曲げられるような、全身に数万本の針を突き刺されたような痛みが走りアーヴィングは声もあげることすらできずに悶絶する。
「……あら、思ったよりも強すぎたかしら」
「う、あ……あ……」
「壊していないだろうな?」
「今は壊していませんわよ?」
くすくす笑うと欲する者は激痛で意識が飛びかけ、ぴくぴくと震えるアーヴィングを見てから、アンダースへと視線を戻す。
その目に欲情の色が宿っているとわかったアンダースはそっと彼女を引き寄せると、彼女の美しい唇を貪るように求める……その間にもアーヴィングは謎の生物による絶え間ない激痛に何度も意識が遠くなるが、意識が飛びかけると再び覚醒させられるという永遠とも思える地獄のような責苦を味合わされていた。
その合間もアンダースと欲する者はお互いの昂りを隠しきれないかのように、お互いの唇を貪っている……いつからだ? いつからこんなことに……アーヴィングは声すら上げることも許されない。
横目でその様子を見ながら、欲する者はそっと呟く……ゾッとするような瞳で、まるで汚い何かを見るかのような目で。
「……もっと苦しめてから殺さないとね、王国はこの代で終わるの……アンダースは王になり、勇者の器は断頭台のつゆと消える……それが定め」
「……酷い格好だよシャル! ……それに怪我は大丈夫なのかい?」
「平気ですわ、治しましたので……」
わたくしの姿を見て、呆れたような表情を浮かべたクリスがそっと外套を私へとかけてくれたが、確かに今の姿はどうなってるの? と思うような酷い格好であることには異論はない。
鎧はまあ良いとしてだ、返り血でべったり濡れているし腹部の辺りの衣服は切り裂かれ、わたくしのお腹が見えている状況……あちこちは泥に塗れ、とてもではないけど貴族令嬢とは見えない格好。
下手すると暴行された被害者にも見えるだろうなあ……とは思いつつ、愛想笑いを浮かべているとクリスははあっ、とため息をつくと手に持っていたマントをばさりと頭からかけてくれた。
「……ッ! ありが……とう、ございます?」
「淑女がそんな格好を人目に晒しちゃだめだよ、兵士たちは気が昂っている……君が強いとはいえ劣情を抱く者もいるだろう?」
全く……とブツクサ呟きながらもクリスはわたくしの手を取って馬上へと引き上げると片手で包む混むように抱きしめられた。
そしてわたくしを見つめて優しく「皆を守ってくれてありがとう」と耳元で呟いた……意外なほどに優しい言葉だったので私は驚いてクリスの顔を見上げる。
そんなわたくしをクリスは見つめ返すと過去一番に優しい目で微笑む……私はなんだか恥ずかしくなって顔を伏せてからお礼の言葉を伝えた。
「……ありがとうございます」
「……全く、強いのはわかってるけどあれほどとは聞いてなかったよ」
まあそうだよね……能力の一端である剣技はクリスも理解してただろうけど、規格外の能力を持っているなどと知るわけもないのだから。
ふと視線を感じてその方向へと目を向けると、侍従のマリアンさんがまるで怪物でも見るかのような恐怖心を隠せない瞳でこちらを見ているのがわかった。
そうだよね、普通はこういう目を向けてくるんだ……純粋に理解できないもの、強すぎるもの、怪物にしか思えないものを見る目。
その視線に居た堪れない気持ちになって思わず目を逸らしてしまうが、その仕草を見たクリスがわたくしをそっと抱き寄せた。
「……僕は君のことを怖いなんて思っていない、僕に取って大切な人だと言ったろう? どんな姿でも君は君だ」
「で、でも……わたくしあのような姿でも……」
「ダメだよシャル、君は強い……強いものは確かに孤独だ、でも僕のように君のことを大事に思っている人間が一人でもいると気がついてほしい、あんな戦い方はもう見たくないよ」
クリスが少しだけ辛そうな表情でわたくしをじっと見つめる……あんな戦い方とは攻撃を避けもせず、命を捨てるかのような攻撃を繰り出したことだろうな。
でもあれはわたくし自身があれでは死なないと理解していたからで、別に捨て身で戦ったわけではないんだよな……多分クリスが思ってる以上にわたくしは自分自身の能力をちゃんと信じている。
どこまでは死ぬ死なないなど、線引きはきっちりしているつもりだ……痛いのは嫌だけど、でも痛みを堪えて戦わなくてはいけないことだってあったのだから。
「……クリス……わたくしその……怖くないのですか?」
わたくしの問いかけにクリスはキョトンとした顔で私を見る。
そうだ、あんなの見たら普通怖いと思うだろ……半身ちぎれかけたり、腕が吹き飛んでも、首を貫かれても死なない女だぞ? 不死者か!? そうだろ?! って普通思うよ、うん。
今回はちょっとやりすぎた感はあるのは自覚している……でもあれくらいやらないと打ち砕く者は倒せなかったんだ。
それくらい相手も強かったし、こちらの想像を超えた能力を持ってきたのだから……でも、その姿は人ではないように思えてマリアンさんのように恐怖に慄く目で私を見ることすらあるだろう。
だが……クリスはその言葉を聞いても本当に普通に、いつもの調子でわたくしへと笑顔で話しかけてきた。
「怖くなんかないよ、僕の大事な婚約者で最も愛するものだからね……だから変わらないよ僕の愛は君だけに捧げられているのだから」
侯爵軍敗退の報は王国に訪れた冬の到来と同時に驚きを持って伝えられた。
数だけ見れば優勢な侯爵軍は六〇パーセント近い損害を出して撤退、さらには当主であるイアン・ディー・パープル侯爵の死によって侯爵家自体の威信が揺らいでいる。
イアンには二人の息子がおり、それぞれカヴァデール子爵家とターナー子爵家の名を持って侯爵領内に領地を得ていたが、その二人のどちらを当主にするかで揉めることになった。
寄子であった貴族同士の内紛が発生し侯爵領は混乱を来しており、内乱に首を突っ込んだことによる天罰だとさえ囁かれているのだ。
「アンダース殿下知っていますか? 市井では今起きている王子同士の内乱を習って、侯爵領でも同じことが起きた、と囁くものがいるそうですよ」
「牢に入っておきながら随分と口の減らないことだアーヴ」
牢の中で憎々しげに睨みつける人物……イングウェイ王国前宰相であったアーヴィング・イイルクーンが薄汚れた囚人が着用する粗末な服で檻の外にいる男へと話しかける。
そこにはアンダース・マルムスティーン国王代理が立っている……だがその目は冷たく感情を映さないどこか空虚なものであり、その目に射すくめられると背中に寒気が走る気がした。
アーヴィングは国王代理として命令を発するアンダースに面と向かって反論し、怒りを買って投獄された。
国王であるアンブローシウス・マルムスティーンは謎の病により倒れ、その間の政治をアンダースが代行する、それ自体はアーヴィングも了承したことだった。
「……私は政治の空白を防ぐために了承しただけです、悪戯に内乱を起こそうとする殿下のことを諌める必要があります」
「弟とその婚約者、それにインテリペリ辺境伯家は内乱を起こしている……それを討伐して何が悪い」
「すでに二度の侵攻を跳ね返されております、特にこれからは冬ですよ?! 悪戯に兵を損ねてなんとしますか!」
アーヴィングは元々インテリペリ辺境伯家への攻撃に反対していた……あくまで王権交代はアンダースが継承権一位にいるため、クリストフェル自身は大公として国内に新しい領地を得ることが決まっていたからだ。
それに辺境伯家は国防の要にもなる貴族であり、その重要性をアンブローシウスはきちんと理解していた……だからこそ第二王子の婚約者にシャルロッタを選んだのだから。
しかし第一王子派の貴族達は一方的にクリストフェル達を糾弾し、反逆者として扱い……結果的に第二王子派は辺境伯家を筆頭にアンダースの元から離れつつある。
第一王子派はこれに対して辺境伯家への攻撃を押し通したが……結果的には撃退されてしまった。
「元々武力に長けた辺境伯家を敵として……本来であれば真っ先に取り込まなければいけない相手ではありませんか!」
「……勝てる見込みがあるから戦うまでだ」
「二度も負けています……それに戦費は貴族だけでは賄いきれません、国庫からも支援を行っています……それに第一王子派の領地だけで王国全土の事業を賄い切れるわけではないのですよ?! 無駄に浪費を重ねるのは国主としての自覚を……」
いきなり首根っこを掴まれてガツン! と檻に叩きつけられたアーヴィングだが、その顔を怒りや殺気……狂気にもにた感情を映す瞳で睨みつけるアンダースの表情を見て思わず息を呑む。
昔のアンダースはこんな人物ではなかった……確かに揉め事も多く起こす人物で、火消しに回ったことは二度や三度ではない。
だが悪ガキ……といった印象だった以前と違い現在のアンダースはどこか近寄りがたい人間味を感じない何か、のように見えるのだ。
そうまるで悪魔のような……そこまで考えてふと彼の顔をじっと見つめたアーヴィングだったが、その視線に気がついたのかアンダースがいきなりニヤリと笑った。
「……ああ、そうか痛みが必要なんだなお前は……」
「な、何を……」
「そうだろう? 欲する者よ」
アンダースの言葉に暗闇の中からコツコツと靴音が響き、一人の女性が現れる……奇妙な人物だ、その女はいつの間にか宮廷に入り込んでいた。
男であれば誰でも欲情を隠せなくなるグラマラスな体型、滑らかでむしゃぶりつきたくなるような美しい黒髪、怪しく輝く赤い瞳。
蝋燭の淡い光の下に現れた彼女はアーヴィングですら一瞬見惚れてしまうような妖しい魅力を振り撒いている……だがどこか本質的には人間ではないような、どこか超自然的な存在のようにすら思える完璧な美貌が、牢の中から自分を見つめるアーヴィングの視線に気がつくとぐにゃりと歪んだ笑いを浮かべる。
「ええ殿下……私愛する殿下のために良いものを用意いたしましたの」
その言葉と同時に、暗闇の中から不気味な肉塊……紫色の皮膚を保つ巨大な肉塊と管と申し訳程度の毛が生えたとても生物には見えない物体がずるり、ずるりと音を立てて姿を表す。
クキキキキ、という奇妙な音を立てながら数本ある管のような器官が牢の中にいるアーヴィングに気がついたのか、一斉にその長さを伸ばすと呆気に取られていたアーヴィングの体に吸盤を使って張り付く。
次の瞬間……身を捻じ曲げられるような、全身に数万本の針を突き刺されたような痛みが走りアーヴィングは声もあげることすらできずに悶絶する。
「……あら、思ったよりも強すぎたかしら」
「う、あ……あ……」
「壊していないだろうな?」
「今は壊していませんわよ?」
くすくす笑うと欲する者は激痛で意識が飛びかけ、ぴくぴくと震えるアーヴィングを見てから、アンダースへと視線を戻す。
その目に欲情の色が宿っているとわかったアンダースはそっと彼女を引き寄せると、彼女の美しい唇を貪るように求める……その間にもアーヴィングは謎の生物による絶え間ない激痛に何度も意識が遠くなるが、意識が飛びかけると再び覚醒させられるという永遠とも思える地獄のような責苦を味合わされていた。
その合間もアンダースと欲する者はお互いの昂りを隠しきれないかのように、お互いの唇を貪っている……いつからだ? いつからこんなことに……アーヴィングは声すら上げることも許されない。
横目でその様子を見ながら、欲する者はそっと呟く……ゾッとするような瞳で、まるで汚い何かを見るかのような目で。
「……もっと苦しめてから殺さないとね、王国はこの代で終わるの……アンダースは王になり、勇者の器は断頭台のつゆと消える……それが定め」
「……酷い格好だよシャル! ……それに怪我は大丈夫なのかい?」
「平気ですわ、治しましたので……」
わたくしの姿を見て、呆れたような表情を浮かべたクリスがそっと外套を私へとかけてくれたが、確かに今の姿はどうなってるの? と思うような酷い格好であることには異論はない。
鎧はまあ良いとしてだ、返り血でべったり濡れているし腹部の辺りの衣服は切り裂かれ、わたくしのお腹が見えている状況……あちこちは泥に塗れ、とてもではないけど貴族令嬢とは見えない格好。
下手すると暴行された被害者にも見えるだろうなあ……とは思いつつ、愛想笑いを浮かべているとクリスははあっ、とため息をつくと手に持っていたマントをばさりと頭からかけてくれた。
「……ッ! ありが……とう、ございます?」
「淑女がそんな格好を人目に晒しちゃだめだよ、兵士たちは気が昂っている……君が強いとはいえ劣情を抱く者もいるだろう?」
全く……とブツクサ呟きながらもクリスはわたくしの手を取って馬上へと引き上げると片手で包む混むように抱きしめられた。
そしてわたくしを見つめて優しく「皆を守ってくれてありがとう」と耳元で呟いた……意外なほどに優しい言葉だったので私は驚いてクリスの顔を見上げる。
そんなわたくしをクリスは見つめ返すと過去一番に優しい目で微笑む……私はなんだか恥ずかしくなって顔を伏せてからお礼の言葉を伝えた。
「……ありがとうございます」
「……全く、強いのはわかってるけどあれほどとは聞いてなかったよ」
まあそうだよね……能力の一端である剣技はクリスも理解してただろうけど、規格外の能力を持っているなどと知るわけもないのだから。
ふと視線を感じてその方向へと目を向けると、侍従のマリアンさんがまるで怪物でも見るかのような恐怖心を隠せない瞳でこちらを見ているのがわかった。
そうだよね、普通はこういう目を向けてくるんだ……純粋に理解できないもの、強すぎるもの、怪物にしか思えないものを見る目。
その視線に居た堪れない気持ちになって思わず目を逸らしてしまうが、その仕草を見たクリスがわたくしをそっと抱き寄せた。
「……僕は君のことを怖いなんて思っていない、僕に取って大切な人だと言ったろう? どんな姿でも君は君だ」
「で、でも……わたくしあのような姿でも……」
「ダメだよシャル、君は強い……強いものは確かに孤独だ、でも僕のように君のことを大事に思っている人間が一人でもいると気がついてほしい、あんな戦い方はもう見たくないよ」
クリスが少しだけ辛そうな表情でわたくしをじっと見つめる……あんな戦い方とは攻撃を避けもせず、命を捨てるかのような攻撃を繰り出したことだろうな。
でもあれはわたくし自身があれでは死なないと理解していたからで、別に捨て身で戦ったわけではないんだよな……多分クリスが思ってる以上にわたくしは自分自身の能力をちゃんと信じている。
どこまでは死ぬ死なないなど、線引きはきっちりしているつもりだ……痛いのは嫌だけど、でも痛みを堪えて戦わなくてはいけないことだってあったのだから。
「……クリス……わたくしその……怖くないのですか?」
わたくしの問いかけにクリスはキョトンとした顔で私を見る。
そうだ、あんなの見たら普通怖いと思うだろ……半身ちぎれかけたり、腕が吹き飛んでも、首を貫かれても死なない女だぞ? 不死者か!? そうだろ?! って普通思うよ、うん。
今回はちょっとやりすぎた感はあるのは自覚している……でもあれくらいやらないと打ち砕く者は倒せなかったんだ。
それくらい相手も強かったし、こちらの想像を超えた能力を持ってきたのだから……でも、その姿は人ではないように思えてマリアンさんのように恐怖に慄く目で私を見ることすらあるだろう。
だが……クリスはその言葉を聞いても本当に普通に、いつもの調子でわたくしへと笑顔で話しかけてきた。
「怖くなんかないよ、僕の大事な婚約者で最も愛するものだからね……だから変わらないよ僕の愛は君だけに捧げられているのだから」
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