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第一二七話 シャルロッタ 一五歳 蒼き森 〇八
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「確かに古代エルフの叡智……素晴らしい……これこそ英雄たる存在の力というわけですね」
デサルトは攻撃魔法を放つ手を休めて感心したように笑みを浮かべる……予想以上に広葉樹の盾が展開している魔法が強固であることで、ゴリ押しが難しいとようやく理解したからだ。
悪魔は基本的に人間やそのほかの種族を見下している……彼らに敵う能力などないとわかっているからだ……しかし、それに匹敵する能力を持つものに対しては礼儀を持って対応することもできる。
デサルトは恭しく広葉樹の盾に向かって見事なまでに美しい所作で頭を下げた。
「……素晴らしい、エルフという種族の中でありながらこれだけの能力、魔法を扱う研鑽を経たとは……感服いたします」
「それはどうも、これでわかったと思いますが……さっさとこの森から出ていくことをお勧めしますよ」
「クカカカッ! それは難しいですねえ……私も使命がありますので」
デサルトの表情はあくまでも飄々としたもので、広葉樹の盾から見てもこの悪魔の態度や表情には焦りのようなものが感じられない。
そこに奇妙な違和感を感じるも、それでも油断なく結界を隙間なく展開し直していく……攻撃で傷ついた結界を消失させ、新しい結界を瞬時に生み出していく。
神業といっても良い……デサルトの目から見てもこれだけ強固な結界を組み上げられるのはこの世界には彼女だけだろうと思わせる繊細さがある。
「……私はこのシャルロッタ・インテリペリ様を守ると決めました……一〇〇〇年積み上げた結晶、それを打ち砕くことは難しいと知りなさい」
「いえいえ、確かに私の持つ魔法能力や格闘戦ではこの結界を打ち砕くのは難しい……だが、私も一人で来たわけではないのでね……」
「何を……ゲフッ……!?」
広葉樹の盾の体に異変が起きる……喉の奥から血が、そして口から堪えきれずに血を吐き出し膝をついた彼女の周りに、不気味な黒いモヤのようなものが漂っていることにその時初めて気がついた。
これは……全身に強い痛みと、内臓を締め上げるかのような違和感を感じて口から漏れた自らの血を手で拭うが、吐き出した血の中にドス黒い何かが混じっていることで、彼女は初めて気がついた。
……敵意を持つあらゆる攻撃を防ぐはずの聖なる館を貫いて何者かの攻撃を受けたのだ、と。
「……ば、バカな……敵意を持って攻撃するものを全て遮断するはずなのに……」
「それは私からお答えしましょう……」
デサルトの背後から染み出すようにもう一人の怪物……直立するネズミのような外見に薄汚れたローブを纏った死病の悪魔マシャルが出現する。
もう一人の悪魔が何かしたのか?! と広葉樹の盾がなんとか立ちあがろうとするが、彼女の生命力を削り取るかのように全身の筋肉に凄まじい締め付けるような激痛が走り、彼女は再び何度か血を吐きながら咳き込む。
「死病の悪魔である私は疫病を撒き散らすことが可能です、私が扱う病には意思がない……敵意を感知して働く防御機構など意味がないのですよ」
「……そ、そうか……この黒いモヤのようなものは……」
「そう、病を運ぶ細菌のようなものです……ただ漂い、透過し相手の肉体へと浸透していく……差し詰め黒病とでも言いましょうか……全身を締め付けるような痛み、内臓を拗らせるような苦しさ、そして高熱……放置すれば二日程度に死に至ります」
その言葉に合わせるかのように広葉樹の盾の全身に締め付けるような痛みが走る……苦しさから何度も咳き込み、押さえた口元から血の混じった吐瀉物を吐き、もはや喋ることすら叶わない。
展開していた聖なる館が消滅していく……それは彼女がすでに戦闘能力を失ったということに等しい。
「く、くそっ……わ、私はシャルロッタ様を守る……そのために……」
「いえいえ、貴女はそこで見ていてください、強き魂が起き上がることもなく無惨に死んでいくことを」
歪んだ笑みを浮かべながらデサルトがゆっくりと彼女の脇を歩いて、花の揺り籠に寝かされているシャルロッタへと歩み寄っていく。
なんとか体を動かそうと必死にもがくが、すでに生命力を削り切られている広葉樹の盾は膝をついたまま立ち上がることすらできない。
アンスラックスの後継者……シャルロッタ・インテリペリを守ると誓い、友であり心より愛する勇者のために力になろうと決めたのに、たかだか第三階位の悪魔の奇策に敗れ、世界を救う希望を失うなど……両目からボロボロと涙をこぼして必死に立ちあがろうとする彼女を見て、マシャルとデサルトは歪み切った笑顔を浮かべた。
「……や、やめ……やめてえええええっ!」
「いいですね! 絶望に歪んだ表情……美しいエルフが悲しむその顔が私たちにとって素晴らしい供物です……さあ、ここでゲームセットと参りましょう!」
デサルトの腕がボコン! という音と共に盛り上がる……確実にここで少女を殺し、その首を引きちぎる……生首を持ってエルフの森を一周し、絶望に涙する彼らの前に晒してやろう。
指の先に鋭く禍々しい爪が伸びる……長剣ほどもある長さを持ったその爪が煌めき、エルフの悲鳴と悪魔の嘲笑が部屋の中へと響き渡る。
「これで世界は混沌のものへと……混じり合う最高の世界が今ここに……ッ!」
「……クフフッ! さすが金級冒険者ということでしょうか……」
「うおおおおっ!」
デ・ルカスと剣を交えるエルネット……そして彼を援護するように、悪魔の死角を狙って矢を放つリリーナ……神の加護による一撃を的確に加えてくるエミリオ、そして弱体化などを織り交ぜた魔法を繰り出すデヴィット。
四人が積極的にお互いを補完するような動きを見せて「赤竜の息吹」は以前敵わなかった闘争の悪魔と互角の戦闘を繰り広げている。
意外なほどにしぶとく、そして多対一であることをうまく利用して力や魔力には劣るはずの人間が、これほどまでに己を手こずらせていることに驚きを隠せない。
「……クカカッ! だが絶対的な能力はやはり人間の域を出ていない……決定打に欠けますね」
「……それは織り込み済みだっ!」
まるで予測していたかのようにデ・ルカスが繰り出そうとした剣に向かって盾を叩きつけるエルネット……シビッラとの訓練において絶対的な腕力や能力は、人間は悪魔には決して敵わないという大前提をもとに戦術を組み立てている。
悪魔の死角から飛んできた矢が、その装甲のような皮膚を貫き肉体へと突き刺さる……鏃に特殊な金属を使っているのだろう、全ての矢がそうではないにも関わらず、この破壊力の高い矢がいつ飛んでくるのかわからない。
致命傷にはならないが、その攻撃を受け続けるとまずいと考えたデ・ルカスがそちらに気を取られると、頭部に強い衝撃が加わる。
「神よ! 我に力をッ!」
槌矛の一撃が脳を揺らす……悪魔は人を模して作られた姿をしているため、人体に近い構造を踏襲している。
それ故に脳を揺らされると、一瞬だが如何に強力なデ・ルカスであっても動きが止まってしまう……左腕で小賢しい女神の神官を振り払う……動きも鈍くなっているのだろう、エミリオはその攻撃を後方へと跳躍することで簡単に避けてしまう。
体勢が崩れたところへ、火球が衝突しいくつかの爆発を巻き起こす……デ・ルカスは衝撃で身を逸らしてしまうが、そこへエルネットの長剣の一撃が叩き込まれる。
「クハハハッ! これは予想外……ッ! 人間如きにこれほど苦戦するとは……」
「うおおおッ!」
エルネットは左腕にくくりつけた盾をデ・ルカスへと叩きつける……さらなる衝撃に悪魔が蹈鞴を踏んでフラフラと後退していく。
ああ、一発一発は致命傷などにならないが、良いように遣り込められている……誰が? この闘争の悪魔である私が?! 人間如きに?! ありえないッ!
デ・ルカスがふわりと後方に飛んだ時、エルネットだけでなく「赤竜の息吹」のメンバーの反応がほんの少しだけ遅れた……悪魔の顔に歪んだ笑みが浮かぶ。
「面倒です……では全てを一気に吹き飛ばして仕舞えば……それで万事解決ではないですかぁッ!」
「ま、まずい……エミリオ結界をっ!」
「神よ……その慈愛を持って我らを守りたまえ!」
両手を広げて魔力を集中させたデ・ルカスを中心に、小規模な魔力爆発……自分を中心とした一定範囲の空間を一気に焼き尽くす漆黒の炎が渦を巻いて出現していく。
この魔法は以前シャルロッタと戦った肉欲の悪魔オルインピアーダも使用した、ドス黒く邪悪な地獄の炎を呼び出す混沌の眷属だけが使用できる特殊な攻撃魔法である。
「悪の音色を聞かせたまえ、悪魔の炎!!」
「うおおおおっ!」
周囲一帯が漆黒の炎へと包まれていく……それは辺りに散らばっていた樹木や死体などを一掃する勢いで吹き荒れ、全てを焼き尽くし溶解させていく。
だが「赤竜の息吹」が生きている……漆黒の炎に抗うように、大時化の海原を舞う小舟のように彼らの周りを神の加護である結界が守り、そしてその身を守っている。
だが緩やかに結界に込められた加護が次第に崩壊を始めている……このままでは、とエルネットだけでなく仲間の全ての表情に焦りと恐怖の色が浮かんでいる。
それを見て歪んだ笑みを浮かべたデ・ルカスがさらなる魔力を込めようと、力を入れた瞬間……バクンッ! という肉体を一飲みするような音を立てて悪魔の左腕が何かに噛みちぎられた。
「は……? あ……?!」
あまりに一瞬の出来事だったがデ・ルカスが放った魔法が消滅し、それと同時に「赤竜の息吹」を守っていた結界が消滅していく。
一瞬で噛みちぎられた左腕を見て呆然とした顔を浮かべていた悪魔の前にドス黒い漆黒の毛皮を纏い、真紅に光り輝く瞳を持った巨大な獣……幻獣ガルム族ユルの姿が現れる。
だがその身に纏う魔力は尋常のものではない……ユルは一度エルネット達へと優しい視線を送ると、大きく吠え声をあげた。
「……我主人……シャルロッタ・インテリペリ様がお目覚めである……我はここに宣言する、この世界を守る最強の魂が今ここに蘇るっ!」
デサルトは攻撃魔法を放つ手を休めて感心したように笑みを浮かべる……予想以上に広葉樹の盾が展開している魔法が強固であることで、ゴリ押しが難しいとようやく理解したからだ。
悪魔は基本的に人間やそのほかの種族を見下している……彼らに敵う能力などないとわかっているからだ……しかし、それに匹敵する能力を持つものに対しては礼儀を持って対応することもできる。
デサルトは恭しく広葉樹の盾に向かって見事なまでに美しい所作で頭を下げた。
「……素晴らしい、エルフという種族の中でありながらこれだけの能力、魔法を扱う研鑽を経たとは……感服いたします」
「それはどうも、これでわかったと思いますが……さっさとこの森から出ていくことをお勧めしますよ」
「クカカカッ! それは難しいですねえ……私も使命がありますので」
デサルトの表情はあくまでも飄々としたもので、広葉樹の盾から見てもこの悪魔の態度や表情には焦りのようなものが感じられない。
そこに奇妙な違和感を感じるも、それでも油断なく結界を隙間なく展開し直していく……攻撃で傷ついた結界を消失させ、新しい結界を瞬時に生み出していく。
神業といっても良い……デサルトの目から見てもこれだけ強固な結界を組み上げられるのはこの世界には彼女だけだろうと思わせる繊細さがある。
「……私はこのシャルロッタ・インテリペリ様を守ると決めました……一〇〇〇年積み上げた結晶、それを打ち砕くことは難しいと知りなさい」
「いえいえ、確かに私の持つ魔法能力や格闘戦ではこの結界を打ち砕くのは難しい……だが、私も一人で来たわけではないのでね……」
「何を……ゲフッ……!?」
広葉樹の盾の体に異変が起きる……喉の奥から血が、そして口から堪えきれずに血を吐き出し膝をついた彼女の周りに、不気味な黒いモヤのようなものが漂っていることにその時初めて気がついた。
これは……全身に強い痛みと、内臓を締め上げるかのような違和感を感じて口から漏れた自らの血を手で拭うが、吐き出した血の中にドス黒い何かが混じっていることで、彼女は初めて気がついた。
……敵意を持つあらゆる攻撃を防ぐはずの聖なる館を貫いて何者かの攻撃を受けたのだ、と。
「……ば、バカな……敵意を持って攻撃するものを全て遮断するはずなのに……」
「それは私からお答えしましょう……」
デサルトの背後から染み出すようにもう一人の怪物……直立するネズミのような外見に薄汚れたローブを纏った死病の悪魔マシャルが出現する。
もう一人の悪魔が何かしたのか?! と広葉樹の盾がなんとか立ちあがろうとするが、彼女の生命力を削り取るかのように全身の筋肉に凄まじい締め付けるような激痛が走り、彼女は再び何度か血を吐きながら咳き込む。
「死病の悪魔である私は疫病を撒き散らすことが可能です、私が扱う病には意思がない……敵意を感知して働く防御機構など意味がないのですよ」
「……そ、そうか……この黒いモヤのようなものは……」
「そう、病を運ぶ細菌のようなものです……ただ漂い、透過し相手の肉体へと浸透していく……差し詰め黒病とでも言いましょうか……全身を締め付けるような痛み、内臓を拗らせるような苦しさ、そして高熱……放置すれば二日程度に死に至ります」
その言葉に合わせるかのように広葉樹の盾の全身に締め付けるような痛みが走る……苦しさから何度も咳き込み、押さえた口元から血の混じった吐瀉物を吐き、もはや喋ることすら叶わない。
展開していた聖なる館が消滅していく……それは彼女がすでに戦闘能力を失ったということに等しい。
「く、くそっ……わ、私はシャルロッタ様を守る……そのために……」
「いえいえ、貴女はそこで見ていてください、強き魂が起き上がることもなく無惨に死んでいくことを」
歪んだ笑みを浮かべながらデサルトがゆっくりと彼女の脇を歩いて、花の揺り籠に寝かされているシャルロッタへと歩み寄っていく。
なんとか体を動かそうと必死にもがくが、すでに生命力を削り切られている広葉樹の盾は膝をついたまま立ち上がることすらできない。
アンスラックスの後継者……シャルロッタ・インテリペリを守ると誓い、友であり心より愛する勇者のために力になろうと決めたのに、たかだか第三階位の悪魔の奇策に敗れ、世界を救う希望を失うなど……両目からボロボロと涙をこぼして必死に立ちあがろうとする彼女を見て、マシャルとデサルトは歪み切った笑顔を浮かべた。
「……や、やめ……やめてえええええっ!」
「いいですね! 絶望に歪んだ表情……美しいエルフが悲しむその顔が私たちにとって素晴らしい供物です……さあ、ここでゲームセットと参りましょう!」
デサルトの腕がボコン! という音と共に盛り上がる……確実にここで少女を殺し、その首を引きちぎる……生首を持ってエルフの森を一周し、絶望に涙する彼らの前に晒してやろう。
指の先に鋭く禍々しい爪が伸びる……長剣ほどもある長さを持ったその爪が煌めき、エルフの悲鳴と悪魔の嘲笑が部屋の中へと響き渡る。
「これで世界は混沌のものへと……混じり合う最高の世界が今ここに……ッ!」
「……クフフッ! さすが金級冒険者ということでしょうか……」
「うおおおおっ!」
デ・ルカスと剣を交えるエルネット……そして彼を援護するように、悪魔の死角を狙って矢を放つリリーナ……神の加護による一撃を的確に加えてくるエミリオ、そして弱体化などを織り交ぜた魔法を繰り出すデヴィット。
四人が積極的にお互いを補完するような動きを見せて「赤竜の息吹」は以前敵わなかった闘争の悪魔と互角の戦闘を繰り広げている。
意外なほどにしぶとく、そして多対一であることをうまく利用して力や魔力には劣るはずの人間が、これほどまでに己を手こずらせていることに驚きを隠せない。
「……クカカッ! だが絶対的な能力はやはり人間の域を出ていない……決定打に欠けますね」
「……それは織り込み済みだっ!」
まるで予測していたかのようにデ・ルカスが繰り出そうとした剣に向かって盾を叩きつけるエルネット……シビッラとの訓練において絶対的な腕力や能力は、人間は悪魔には決して敵わないという大前提をもとに戦術を組み立てている。
悪魔の死角から飛んできた矢が、その装甲のような皮膚を貫き肉体へと突き刺さる……鏃に特殊な金属を使っているのだろう、全ての矢がそうではないにも関わらず、この破壊力の高い矢がいつ飛んでくるのかわからない。
致命傷にはならないが、その攻撃を受け続けるとまずいと考えたデ・ルカスがそちらに気を取られると、頭部に強い衝撃が加わる。
「神よ! 我に力をッ!」
槌矛の一撃が脳を揺らす……悪魔は人を模して作られた姿をしているため、人体に近い構造を踏襲している。
それ故に脳を揺らされると、一瞬だが如何に強力なデ・ルカスであっても動きが止まってしまう……左腕で小賢しい女神の神官を振り払う……動きも鈍くなっているのだろう、エミリオはその攻撃を後方へと跳躍することで簡単に避けてしまう。
体勢が崩れたところへ、火球が衝突しいくつかの爆発を巻き起こす……デ・ルカスは衝撃で身を逸らしてしまうが、そこへエルネットの長剣の一撃が叩き込まれる。
「クハハハッ! これは予想外……ッ! 人間如きにこれほど苦戦するとは……」
「うおおおッ!」
エルネットは左腕にくくりつけた盾をデ・ルカスへと叩きつける……さらなる衝撃に悪魔が蹈鞴を踏んでフラフラと後退していく。
ああ、一発一発は致命傷などにならないが、良いように遣り込められている……誰が? この闘争の悪魔である私が?! 人間如きに?! ありえないッ!
デ・ルカスがふわりと後方に飛んだ時、エルネットだけでなく「赤竜の息吹」のメンバーの反応がほんの少しだけ遅れた……悪魔の顔に歪んだ笑みが浮かぶ。
「面倒です……では全てを一気に吹き飛ばして仕舞えば……それで万事解決ではないですかぁッ!」
「ま、まずい……エミリオ結界をっ!」
「神よ……その慈愛を持って我らを守りたまえ!」
両手を広げて魔力を集中させたデ・ルカスを中心に、小規模な魔力爆発……自分を中心とした一定範囲の空間を一気に焼き尽くす漆黒の炎が渦を巻いて出現していく。
この魔法は以前シャルロッタと戦った肉欲の悪魔オルインピアーダも使用した、ドス黒く邪悪な地獄の炎を呼び出す混沌の眷属だけが使用できる特殊な攻撃魔法である。
「悪の音色を聞かせたまえ、悪魔の炎!!」
「うおおおおっ!」
周囲一帯が漆黒の炎へと包まれていく……それは辺りに散らばっていた樹木や死体などを一掃する勢いで吹き荒れ、全てを焼き尽くし溶解させていく。
だが「赤竜の息吹」が生きている……漆黒の炎に抗うように、大時化の海原を舞う小舟のように彼らの周りを神の加護である結界が守り、そしてその身を守っている。
だが緩やかに結界に込められた加護が次第に崩壊を始めている……このままでは、とエルネットだけでなく仲間の全ての表情に焦りと恐怖の色が浮かんでいる。
それを見て歪んだ笑みを浮かべたデ・ルカスがさらなる魔力を込めようと、力を入れた瞬間……バクンッ! という肉体を一飲みするような音を立てて悪魔の左腕が何かに噛みちぎられた。
「は……? あ……?!」
あまりに一瞬の出来事だったがデ・ルカスが放った魔法が消滅し、それと同時に「赤竜の息吹」を守っていた結界が消滅していく。
一瞬で噛みちぎられた左腕を見て呆然とした顔を浮かべていた悪魔の前にドス黒い漆黒の毛皮を纏い、真紅に光り輝く瞳を持った巨大な獣……幻獣ガルム族ユルの姿が現れる。
だがその身に纏う魔力は尋常のものではない……ユルは一度エルネット達へと優しい視線を送ると、大きく吠え声をあげた。
「……我主人……シャルロッタ・インテリペリ様がお目覚めである……我はここに宣言する、この世界を守る最強の魂が今ここに蘇るっ!」
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