94 / 409
第八三話 シャルロッタ 一五歳 暴力の悪魔 一四
しおりを挟む
——寒い……血がかなり流れ出している、ワシはもうすぐ死ぬ……。
すでに強い痛みを感じない、死ぬ間際には痛みすら感じないというが本当だろうか……トビアスは動かなくなっていく体を大きな木に預けて美しい月が浮かぶ夜空を眺めている。
だがいきなり引き裂かれた腹部が強く痛み、苦しさから何度も咳き込むが鍛えられた肉体と、頑強な精神力が彼を死の淵へと誘うのをひたすらに遅らせていた。
マルヴァースの夜空に浮かぶ月は美しい……白く輝いており、神の住まう場所として古くから信仰の対象となっていた。
象徴する神は一定周期でその身を隠すために帷を下ろすと言われており、地上から見れば満ち欠けを繰り返していくのだ。
今日は満月、その美しい姿は一種神々しくもあった。
「雛鳥……逃げおおせたかな……グフっ……」
独り言を話すだけでも辛い……喉の奥から血が吹き出していく……これはもう助からんな。
トビアスの肉体は鎖鋸剣によりズタズタに切り裂かれており、内臓の一部に大きな裂傷……しかも回転する刃によって引き裂かれており、この傷はどんな神官にも治療することができないものとなっている。
戦場で何人もの同僚を送った……トビアスは幸運にも大怪我を負うことはあっても死ぬような傷を負ったことがない、戦場の申し子とも呼ばれ、彼はひたすらに功績を上げ続けた。
死ぬ時は戦いに敗れた時だ、と何となくずっと思っていた……だから戦いの中で死ねるのは幸せなのかもしれない、と今では思っている。
「ディルクや……じいじは頑張ったよ、お前は生き延びてくれ……」
ディルク……孫さえ生き残っていればエドガイ準男爵家は残る、彼が成長した時に祖父が勇敢な戦士だったと、誰かが伝えてくれればそれでいい。
ぼうっとする意識の中、トビアスの視界にふと銀色に光る何かが映った……なんだ? と思って目を凝らすと、その姿が朧げながら見えてくる。
思わず息を呑みそうになった……その姿はまさに月の女神が地上に降臨した、と言われても信じられるくらいの美しい少女が悲しそうな表情でトビアスをじっと見ていたからだ。
「……間に合いませんでしたね……ごめんなさい」
長い白銀の髪は月の光を受けてキラキラと美しく煌めいており、瞳はエメラルドグリーンに彩られている。
整った顔立ちはまだ幼い……一〇代だろうか? だがその服装は高位貴族の令嬢が狩猟に同行するときに選ぶようなジャケットをベースに動きやすいスカートを着用している。
その雰囲気も相まって神話に登場する狩猟の女神を連想させる美しさを感じ、思わず口元が綻んでしまう……そうかもう死ぬから、最後に神様が自分の前に美しい幻覚を見せてくれているのか。
「シャル、内臓までズタズタです……これはもう」
「わかっている……送ることしかできないけど、せめて痛みを和らげてあげないと……」
銀髪の少女はそっとトビアスの頬に手を沿わせると優しく何かを呟く……嘘のように痛みが消え失せ、不思議なくらいの幸せな気分が心の中へと広がっていく。
だがずっと体は冷え切っている……痛みは無くなっても死に一歩ずつ近づいているのは変わらない、助からないがなぜだか不思議と恐怖感は感じていない。
そして別の声がした……トビアスは霞む目でその声の方向を見るが、ドス黒い毛皮に地獄のような赤い目をした怪物がじっと自分を見つめている。
これはワシの魂を案内する役目か……地獄の番犬、彷徨える魂を案内するというガルムが本当に迎えに来たのだ。
「……地獄への道案内か……悪くない、美しい女神と獣に見送られるならそれもまた良い……狩猟の女神よ、名前を教えてくれ……地獄の土産に持っていきたい」
「……シャルロッタ……シャルロッタよ……助けられずに、ごめんなさい」
「……シャルロ……ッタ……美しいな、孫の嫁に欲しいくらいだ……美しい女神よ、雛鳥達を助け……あ……て……」
トビアスの意識が暗闇の中へと落ちていく……最後の光景は美しい銀髪の少女の頬に光る涙、悲しそうな顔で自分をじっと見つめている女神とも思える少女の美しい顔。
視界が完全に暗転すると、そこは真っ暗な闇の中だった……そうか、もう死んだのか、となぜか納得した気分でトビアスは周りを見渡す。
暗闇の中から自分を呼ぶ懐かしい声が聞こえた気がしてそちらを振り返ると、自分を呼ぶ愛するべき息子の姿がそこには朧げな姿で映っている。
その隣には遠い昔に失ってしまった愛する女性の姿があり、彼はその隣に行かなければと歩き始める……ふと耳に誰かの声が囁いた気がした。
『……お疲れ様、ゆっくり休んで頂戴……』
「や、やったぞ……何かを破壊した……これで死ななきゃ本当に化け物だ……」
エルネットがゆっくりと悪魔の体から愛剣を引き抜くが、ドロリと青黒い液体が傷口から漏れ出し、凄まじい臭いに思わず彼は咳き込んでしまう。
左腕に強い痛みが走り、思わず盾を取り落とす……死に物狂いの攻撃で、無理やり繋げた左腕の骨が完全に砕けたようだ。
治療にはかなりの時間と手間がかかるが、大丈夫もっと酷い怪我をした冒険者が数ヶ月で現場復帰したこともある。
「……いてえ……当分はゆっくり休暇をもらわないとだめだな……」
「エルネット……あああ……よかった……よかったよぉ……」
呻き声をあげて左腕を押さえて地面へと崩れ落ちるエルネットに慌てて駆け寄るリリーナ……彼の体を支えると、涙でぐしゃぐしゃの顔を胸の中に埋めるように彼にしっかりと抱きつく。
そんなリリーナの肩をそっと抱いて、優しく彼女の髪の毛に口付けるエルネット……そんな二人を見ながらエミリオがホット息を吐いてから、黒い巨大な悪魔を見つめる。
「……しかし思っていたよりも混乱していましたな……」
「何だろう、戦いの素人のようなそんな動きに見えたよな……」
エミリオの言葉にデヴィットも同意する……最初の襲撃の時からも思っていたが、攻撃は大雑把で力任せ。
強力な攻撃を繰り出すがあまり戦い慣れをしていないような、そんな不思議な戦い方だった……あの時唯一死ぬかもしれないと思った攻撃は左腕を一瞬で再生させて振り回した攻撃で、最初からあの光線を放たれていたら有効な防御手段を持たない「赤竜の息吹」全員が今頃は肉塊と化していただろう。
緊張から解放された全員が疲労を感じてその場に座り込みそうになった瞬間、無機質な声が巨体から発せられる。
「……承認を確認した……強制進化……開始」
「っ!!」
エルネット達は慌てて飛び上がるように武器を構え直すが、正直言って再びこの化け物と戦うのかという強い恐怖を感じる。
武器を持つ手が震える……握力も限界に近く、息が上がっている……あの強力な攻撃を再び繰り出されて立っていられるか? という強い不安が全身に冷たい汗を滲ませる。
強制進化? 何だそれは……これ以上何かをしてくるのか? 「赤竜の息吹」のメンバー全員の顔色は恐ろしく悪い……先ほどまでで気力を使い果たしたのだ、持てる手は全て出したのに。
死んだはずの巨体がブルブルと震え、まるで中で何かが暴れているかのような、おかしな人形劇のようなそんな光景が目の前で起きている。
「ま、まだ生きてるのか……?」
次の瞬間、バリイッ! という何かを破るような音が響くと、悪魔の巨体が二つに割れる……そこから眩いくらいの光が漏れ出し、中から虹色に輝く外皮を持つちょうどエルネット程度の太さの腕が突き出す。
そして巨大な触覚……これは体の半分程度の長さがある非常に長くしなやかなものでいくつかの節によって連結している昆虫の触覚のような形状である。
肉体は二メートル程度だろうか、虹色の外皮が全身を覆い硬質な光沢を持って鋼鉄の鎧を身に纏った騎士のような出立ちにも見える外見だ。
だが巨体から抜け出す肉体のしなやかな動きは、その鎧にも見える外皮が硬質さと柔軟さを持った外皮であることを匂わせている。
そして……それまで巨大な複眼と顎を持っていた顔は、まるで彫刻のような理知的な人間に非常に似た形状を持った……まるでこの世のとは思えない、美しくも悍ましい昆虫人間のような怪物が目の前へと現れる。
「……お待たせした……我はダルラン、進化により第三階位闘争の悪魔となりし者……」
「第三階位……? 闘争の悪魔だと?」
「その勇敢なる戦いぶりを神はお認めになっている……暴力ではなく闘争により君たちを神の元へと送る」
ダルラン……闘争の悪魔は非常に流暢な言葉を発し、その彫刻のような顔はまるで人間を見ているかのように自然な表情を浮かべている。
これが先ほどまで知性を感じさせなかった化け物なのか……? と混乱しながらエルネット達は武器を持つ手に力を込める。
ミシミシとダルランは肉体を膨張させていく……口元には歪んだ笑みが、そして全身からは恐ろしいまでの魔力の波動があたり一面へと広がっていく。
「武器を構えろ……っ! デヴィット魔法だ、エミリオ加護を……っ!」
「やらせないっ!」
エルネットの指示に反応してデヴィットは魔法の炎を放ち、エミリオは神の加護を乞う……そしてリリーナは抜く手も見せずに短弓に矢をつがえると悪魔に向かって放つが、ダルランは高速で飛来する矢を簡単に指先でつまんで見せ、ニヤリと笑う。
次の瞬間デヴィットの放った破滅の炎、稲妻状の炎がダルランの体に命中するがしなやかな外皮は魔法の炎による衝突をいとも簡単に消失させてしまう。
「ま、魔法が効かない?!」
「いい魔法だ、しかし魔力が足りぬな……」
「神の一撃をっ……うぐうぁあっ……!」
エミリオの持つ槌矛による一撃がダルランの顔面に叩き込まれる……先ほどまではこの加護を有した攻撃で大きくのけ反ったはずの体はびくともしていない。
それよりもエミリオの手にはまるで超硬質の金属の塊へと武器を叩きつけたような、そんな凄まじい感覚が伝わっており反動で彼は手を痛めて思わず悲鳴をあげる。
苦しむ彼にダルランが軽く手を添えると、まるで衝撃波に吹き飛ばされたかのように、エミリオの体が宙を舞う。
だがその間隙を縫ってエルネットが、虹色の悪魔へと剣を構えて突進してきた。
「……俺は、俺はお前を倒して無事にみんなと一緒に帰るんだっ!」
すでに強い痛みを感じない、死ぬ間際には痛みすら感じないというが本当だろうか……トビアスは動かなくなっていく体を大きな木に預けて美しい月が浮かぶ夜空を眺めている。
だがいきなり引き裂かれた腹部が強く痛み、苦しさから何度も咳き込むが鍛えられた肉体と、頑強な精神力が彼を死の淵へと誘うのをひたすらに遅らせていた。
マルヴァースの夜空に浮かぶ月は美しい……白く輝いており、神の住まう場所として古くから信仰の対象となっていた。
象徴する神は一定周期でその身を隠すために帷を下ろすと言われており、地上から見れば満ち欠けを繰り返していくのだ。
今日は満月、その美しい姿は一種神々しくもあった。
「雛鳥……逃げおおせたかな……グフっ……」
独り言を話すだけでも辛い……喉の奥から血が吹き出していく……これはもう助からんな。
トビアスの肉体は鎖鋸剣によりズタズタに切り裂かれており、内臓の一部に大きな裂傷……しかも回転する刃によって引き裂かれており、この傷はどんな神官にも治療することができないものとなっている。
戦場で何人もの同僚を送った……トビアスは幸運にも大怪我を負うことはあっても死ぬような傷を負ったことがない、戦場の申し子とも呼ばれ、彼はひたすらに功績を上げ続けた。
死ぬ時は戦いに敗れた時だ、と何となくずっと思っていた……だから戦いの中で死ねるのは幸せなのかもしれない、と今では思っている。
「ディルクや……じいじは頑張ったよ、お前は生き延びてくれ……」
ディルク……孫さえ生き残っていればエドガイ準男爵家は残る、彼が成長した時に祖父が勇敢な戦士だったと、誰かが伝えてくれればそれでいい。
ぼうっとする意識の中、トビアスの視界にふと銀色に光る何かが映った……なんだ? と思って目を凝らすと、その姿が朧げながら見えてくる。
思わず息を呑みそうになった……その姿はまさに月の女神が地上に降臨した、と言われても信じられるくらいの美しい少女が悲しそうな表情でトビアスをじっと見ていたからだ。
「……間に合いませんでしたね……ごめんなさい」
長い白銀の髪は月の光を受けてキラキラと美しく煌めいており、瞳はエメラルドグリーンに彩られている。
整った顔立ちはまだ幼い……一〇代だろうか? だがその服装は高位貴族の令嬢が狩猟に同行するときに選ぶようなジャケットをベースに動きやすいスカートを着用している。
その雰囲気も相まって神話に登場する狩猟の女神を連想させる美しさを感じ、思わず口元が綻んでしまう……そうかもう死ぬから、最後に神様が自分の前に美しい幻覚を見せてくれているのか。
「シャル、内臓までズタズタです……これはもう」
「わかっている……送ることしかできないけど、せめて痛みを和らげてあげないと……」
銀髪の少女はそっとトビアスの頬に手を沿わせると優しく何かを呟く……嘘のように痛みが消え失せ、不思議なくらいの幸せな気分が心の中へと広がっていく。
だがずっと体は冷え切っている……痛みは無くなっても死に一歩ずつ近づいているのは変わらない、助からないがなぜだか不思議と恐怖感は感じていない。
そして別の声がした……トビアスは霞む目でその声の方向を見るが、ドス黒い毛皮に地獄のような赤い目をした怪物がじっと自分を見つめている。
これはワシの魂を案内する役目か……地獄の番犬、彷徨える魂を案内するというガルムが本当に迎えに来たのだ。
「……地獄への道案内か……悪くない、美しい女神と獣に見送られるならそれもまた良い……狩猟の女神よ、名前を教えてくれ……地獄の土産に持っていきたい」
「……シャルロッタ……シャルロッタよ……助けられずに、ごめんなさい」
「……シャルロ……ッタ……美しいな、孫の嫁に欲しいくらいだ……美しい女神よ、雛鳥達を助け……あ……て……」
トビアスの意識が暗闇の中へと落ちていく……最後の光景は美しい銀髪の少女の頬に光る涙、悲しそうな顔で自分をじっと見つめている女神とも思える少女の美しい顔。
視界が完全に暗転すると、そこは真っ暗な闇の中だった……そうか、もう死んだのか、となぜか納得した気分でトビアスは周りを見渡す。
暗闇の中から自分を呼ぶ懐かしい声が聞こえた気がしてそちらを振り返ると、自分を呼ぶ愛するべき息子の姿がそこには朧げな姿で映っている。
その隣には遠い昔に失ってしまった愛する女性の姿があり、彼はその隣に行かなければと歩き始める……ふと耳に誰かの声が囁いた気がした。
『……お疲れ様、ゆっくり休んで頂戴……』
「や、やったぞ……何かを破壊した……これで死ななきゃ本当に化け物だ……」
エルネットがゆっくりと悪魔の体から愛剣を引き抜くが、ドロリと青黒い液体が傷口から漏れ出し、凄まじい臭いに思わず彼は咳き込んでしまう。
左腕に強い痛みが走り、思わず盾を取り落とす……死に物狂いの攻撃で、無理やり繋げた左腕の骨が完全に砕けたようだ。
治療にはかなりの時間と手間がかかるが、大丈夫もっと酷い怪我をした冒険者が数ヶ月で現場復帰したこともある。
「……いてえ……当分はゆっくり休暇をもらわないとだめだな……」
「エルネット……あああ……よかった……よかったよぉ……」
呻き声をあげて左腕を押さえて地面へと崩れ落ちるエルネットに慌てて駆け寄るリリーナ……彼の体を支えると、涙でぐしゃぐしゃの顔を胸の中に埋めるように彼にしっかりと抱きつく。
そんなリリーナの肩をそっと抱いて、優しく彼女の髪の毛に口付けるエルネット……そんな二人を見ながらエミリオがホット息を吐いてから、黒い巨大な悪魔を見つめる。
「……しかし思っていたよりも混乱していましたな……」
「何だろう、戦いの素人のようなそんな動きに見えたよな……」
エミリオの言葉にデヴィットも同意する……最初の襲撃の時からも思っていたが、攻撃は大雑把で力任せ。
強力な攻撃を繰り出すがあまり戦い慣れをしていないような、そんな不思議な戦い方だった……あの時唯一死ぬかもしれないと思った攻撃は左腕を一瞬で再生させて振り回した攻撃で、最初からあの光線を放たれていたら有効な防御手段を持たない「赤竜の息吹」全員が今頃は肉塊と化していただろう。
緊張から解放された全員が疲労を感じてその場に座り込みそうになった瞬間、無機質な声が巨体から発せられる。
「……承認を確認した……強制進化……開始」
「っ!!」
エルネット達は慌てて飛び上がるように武器を構え直すが、正直言って再びこの化け物と戦うのかという強い恐怖を感じる。
武器を持つ手が震える……握力も限界に近く、息が上がっている……あの強力な攻撃を再び繰り出されて立っていられるか? という強い不安が全身に冷たい汗を滲ませる。
強制進化? 何だそれは……これ以上何かをしてくるのか? 「赤竜の息吹」のメンバー全員の顔色は恐ろしく悪い……先ほどまでで気力を使い果たしたのだ、持てる手は全て出したのに。
死んだはずの巨体がブルブルと震え、まるで中で何かが暴れているかのような、おかしな人形劇のようなそんな光景が目の前で起きている。
「ま、まだ生きてるのか……?」
次の瞬間、バリイッ! という何かを破るような音が響くと、悪魔の巨体が二つに割れる……そこから眩いくらいの光が漏れ出し、中から虹色に輝く外皮を持つちょうどエルネット程度の太さの腕が突き出す。
そして巨大な触覚……これは体の半分程度の長さがある非常に長くしなやかなものでいくつかの節によって連結している昆虫の触覚のような形状である。
肉体は二メートル程度だろうか、虹色の外皮が全身を覆い硬質な光沢を持って鋼鉄の鎧を身に纏った騎士のような出立ちにも見える外見だ。
だが巨体から抜け出す肉体のしなやかな動きは、その鎧にも見える外皮が硬質さと柔軟さを持った外皮であることを匂わせている。
そして……それまで巨大な複眼と顎を持っていた顔は、まるで彫刻のような理知的な人間に非常に似た形状を持った……まるでこの世のとは思えない、美しくも悍ましい昆虫人間のような怪物が目の前へと現れる。
「……お待たせした……我はダルラン、進化により第三階位闘争の悪魔となりし者……」
「第三階位……? 闘争の悪魔だと?」
「その勇敢なる戦いぶりを神はお認めになっている……暴力ではなく闘争により君たちを神の元へと送る」
ダルラン……闘争の悪魔は非常に流暢な言葉を発し、その彫刻のような顔はまるで人間を見ているかのように自然な表情を浮かべている。
これが先ほどまで知性を感じさせなかった化け物なのか……? と混乱しながらエルネット達は武器を持つ手に力を込める。
ミシミシとダルランは肉体を膨張させていく……口元には歪んだ笑みが、そして全身からは恐ろしいまでの魔力の波動があたり一面へと広がっていく。
「武器を構えろ……っ! デヴィット魔法だ、エミリオ加護を……っ!」
「やらせないっ!」
エルネットの指示に反応してデヴィットは魔法の炎を放ち、エミリオは神の加護を乞う……そしてリリーナは抜く手も見せずに短弓に矢をつがえると悪魔に向かって放つが、ダルランは高速で飛来する矢を簡単に指先でつまんで見せ、ニヤリと笑う。
次の瞬間デヴィットの放った破滅の炎、稲妻状の炎がダルランの体に命中するがしなやかな外皮は魔法の炎による衝突をいとも簡単に消失させてしまう。
「ま、魔法が効かない?!」
「いい魔法だ、しかし魔力が足りぬな……」
「神の一撃をっ……うぐうぁあっ……!」
エミリオの持つ槌矛による一撃がダルランの顔面に叩き込まれる……先ほどまではこの加護を有した攻撃で大きくのけ反ったはずの体はびくともしていない。
それよりもエミリオの手にはまるで超硬質の金属の塊へと武器を叩きつけたような、そんな凄まじい感覚が伝わっており反動で彼は手を痛めて思わず悲鳴をあげる。
苦しむ彼にダルランが軽く手を添えると、まるで衝撃波に吹き飛ばされたかのように、エミリオの体が宙を舞う。
だがその間隙を縫ってエルネットが、虹色の悪魔へと剣を構えて突進してきた。
「……俺は、俺はお前を倒して無事にみんなと一緒に帰るんだっ!」
2
お気に入りに追加
833
あなたにおすすめの小説
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
寡黙な男はモテるのだ!……多分
しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。
俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。
そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。
俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。
そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる