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第三一話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 〇一

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一五歳編開始します~、王立学園編となります!

【あらすじ】
マルヴァースにあるイングウェイ王国、インテリペリ辺境伯家の令嬢シャルロッタ・インテリペリ。
銀色の髪に美しいエメラルドグリーンの瞳を持つ通称辺境の翡翠姫アルキオネ……彼女には誰にも言わない秘密が存在する。
前世で別の世界レーヴェンティオラで魔王を倒し世界を救った勇者の生まれ変わりなのだ。
一三歳となった彼女は本人が望んだわけでもないが、イングウェイ王国第二王子クリストフェル・マルムスティーンとの婚約を成立させる。
その道すがら王都に潜伏していた疫病の悪魔を打ち倒し、王子の呪いを解くことに成功する。
だが王都に潜伏していた訓戒者はその異変に気がつくと歓喜に震えているのであった。
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「準備が整いましたよシャルロッタさま、毎日お綺麗でいらっしゃいます」

「ありがとうマーサ、わたくし王立学園の制服は似合っているかしら?」
 あの戦いから二年が経過した……一五歳となる今年、イングウェイ王国の貴族の子弟及び平民の中から選ばれたものは一八歳になるまで王立学園への入学が法律で定められており、本日よりわたくしは王立学園へと通うことになっている。
 姿見に映る自分の姿を見て、正直照れ臭いようなそうではないような不思議な気持ちになってしまう……何せ前世のわたくしは平民出身の男性、勇者ラインであったにもかかわらず今世では絶世の美女であるシャルロッタ・インテリペリとなっているのですから。
「可憐ですわ、何を着てもお嬢様は似合いますね」

「そうですか? ……なんだか恥ずかしいですわね」
 姿見に映る自分の姿を改めて見つめる……白銀の美しい髪を結え、少し横に垂らした格好で、わたくしの愛称である辺境の翡翠姫アルキオネの由来となったエメラルドグリーンの目と、愛らしくも非常に整った顔立ち、そして白磁のように滑らかな肌を持っている。
 さらに体型は王立学園の制服に包まれているがとても一五歳には見えないほどに成熟し、この年齢にしては大きめの胸と細い腰……形の良いお尻など、制服からでもわかるくらいにスタイルが良い。
 身長は二年前からそれほど伸びず一五七センチメートルしかないので、一九〇センチメートル近いお父様やお兄様からすると見下ろす格好になるが、それでも王国の女性としては平均的と言える高さだろう。

 ぶっちゃけ自分で自分を褒めたくなるくらい、どんなに控えめに見ても絶世の美女! と言いたくなる素晴らしく美しい少女がそこには映っているのだ。
 本当に自分なのかなーとか思っちゃうけど、これ本当にわたくしなんだよねえ……不思議な気分だ。
 今わたくしがいるのはインテリペリ辺境伯の王都にある別宅、とはいえ本宅である領地の屋敷と遜色のない素晴らしい内装、家具、調度類などが揃えられており一八歳までの三年間、辺境伯領に帰ることはなくわたくしはここに住むことになっている。
「同級生となる殿下の婚約者に相応しい美しさ、我が家の宝でございますよ」

「う……そ、そうですわね……殿下も同級生でしたわ……」
 イングウェイ王国第二王子クリストフェル・マルムスティーン殿下の婚約者が公式に発表されたのが、殿下にお会いした数ヶ月後に王国内に大々的に告知され、新聞の号外が配られたとかで話題になっていた。
 それまで辺境伯領に籠っていた辺境の翡翠姫アルキオネ……インテリペリ辺境伯の愛娘と王都に住む第二王子の婚約は国をあげて祝福され、一年ほど前から式典だなんだとかなり忙しく、わたくしとマーサ、そしてユルは王都に移り住んでいた。
「殿下も定期的に真っ赤な薔薇をお送りいただいて、本当にシャルロッタ様のことを愛されているのですねえ……今朝も届いておりましたよ」

「……う……そ、そうですね……学園で会いましたらわたくしからお礼を申し上げておきます……」
 殿下は一週間に一回必ず決まった本数の薔薇の花束と手紙を添えた贈り物を送ってくるようになった。
 最初は毎日送ると言われていてわたくしもかなり頑張って手紙を返していたが、流石に返事を書く時間が面倒になったのと、忙しいはずの殿下にそのような気を使わせては申し訳ないので、別に今後やり取りはいいですよとやんわりと断ったはずだった。
 だけどその返事を返した数日後、いきなり領地の我が家へと押しかけてきた殿下はわたくしの手を両手でしっかりと握って懇願するような目でをしてきた。

「一週間に一回、それだけは許してほしい……本当は毎日君に会いたいのだがそうも行かなくなってしまっていて、だから一週間に一回僕からの気持ちだと思って受け取って欲しい」

 王族にさせちまったんだぞ……単なる臣下の伯爵家令嬢にすぎないわたくしは、そのお願いを断れるわけもなく伏し目がちに黙って頷くしかなかった。
 それからわたくしと殿下は一週間に一回殿下より贈り物を受け取り、メッセージを確認した後お返しの花と、当たり障りのない直筆の手紙を送り返すようになっている。
 まあこのやりとりがどこからか漏れ出したのか、それとも王族側でわざと宣伝したのかは分からないのだけど王都に住む民の間で「第二王子と辺境の翡翠姫アルキオネの恋文」とかいう噂話になってしまい、それを元に演劇まで作られており、さらにそれが割と人気になっているとか聞いて正直辟易しているところなのだ。
「あの時気持ち以外何もいらないって断ればよかったですわ……」

「それは無理でしょうな……クリストフェル殿下は言葉だけでなく気持ちを花に込めたと話してました、それを拒絶した場合はシャルの立場が非常に悪くなるに違いありません」
 わたくしの傍に控えている大型の狼サイズを維持した幻獣ガルム……ユルが訳知り顔で得意気に答える。
 ユルは二年でかなり成長した、というか体のサイズは自由に変えられるため普段は大型の狼サイズにとどまっており、本気で動く時は四メートルを超える巨大な体へと変化できる。
 身体能力は元々高くて二年前と大して変わらないのだけど、魔法の行使能力や一般常識などの知識レベルが向上していて、お父様からも「これで人間だったらなー、執事も任せるんだけどなー」と言われているレベルにまで成長した。
「ぐ……ユルが小姑みたいな性格になってきてますわ……」

「あと一〇年も経過すれば人化の能力なども使えるようになります……ちょっと間に合いませんでしたが、シャルに子供ができたらその時は心置きなく仕える次第です」
 得意気な顔をしているユルだが、お前わたくしに子供ができるとかそういうこと言うのやめろよ……わたくしはいまだにこの婚約に納得がいっていないし、密かに考えている「殿下の婚約者すり替え大作戦」を行使すればこの婚約もなかったことリスト行きでわたくしは晴れて自由の身になれるわけなのだから。
「結婚は……ま、まだ考えていませんわ……」

「そうなのですかー……シャルの子供は女子がいいですなあ、思い切り可愛がれますし……」

「ユルが執事になれば、素晴らしい淑女になりそうですね、殿下とシャルロッタ様の娘を想像するに美しいでしょうし……」
 ユルとマーサが和気藹々と笑顔で話しているけど、殿下は確かにイケメンだし将来は王族ではあるが、大公として領地を得るだろうと噂されているくらいの将来性の高い人物ではある。
 わたくしを婚約者としたのは王家として将来的に殿下に対してインテリペリ辺境伯領近くの領地を与えるのではないか、という話もあるくらいだ。
 実はここ一年ほど他国の情勢があまり良くない……インテリペリ辺境伯領に隣接する隣国マカパイン王国を支配してきた老王が退位し、その息子であるトニー・シュラプネル・マカパイン三世が即位したばかりなのだが、イングウェイ王国との国境を超えてマカパイン辺境軍が度々侵入を繰り返しており、双方の外務大臣による交渉が今も続いている。
「そういえばシャルロッタ様、殿下は時折領地にいらしてお父上に会われていたようです、その割にはシャルロッタ様とのお時間をあまり取られないのが不思議でしたが……」

「ああ、それはですね……多分隣国との交渉について方針や進捗を伝えているのだと思いますわ」
 隣国の指導者が変わったら確かにそれまでの方針が一八〇度変わってしまうのはありがちなことではあるが、今このマカパイン王国との関係は非常に繊細な問題になりつつある。
 と言うのもマカパイン王国との国境はわたくしの実家であるインテリペリ辺境伯領が近い……というか一部被っているため、辺境伯領の民は戦争の危機に怯えている。
 そこで第二王子の結婚を機に大公として領地を与えインテリペリ辺境伯領と隣接させることで、マカパイン王国への押さえを作り出し国境を強化しよう、という一部の動きがある。

 インテリペリ辺境伯の一人娘と第二王子が結婚、殿下は大公として広大な領地を得る……大公領は辺境伯領のお隣な上に、大公妃は辺境伯領出身者……そりゃもう密接な繋がりができること請け合いだ。
 そしてその布石としてわたくしと殿下の婚約が大々的に流された、と言う裏の事情などがあるのだとか……つまりわたくしが密かに企んでいる「殿下の婚約者すり替え大作戦」を行使すると、国家的な戦略が最初からやり直しになるという割と洒落にならない事態が起きつつあり、これもわたくしの頭痛の種になっている。

「つまり婚約者に会いに来た体で国家の外交、軍事機密を伝えに来ていたと言うことですか……」
 ユルの言葉にわたくしは黙って頷く……公式に婚約者となったわたくしに殿下が会いにくる、と言うのは実に自然だし隣国を刺激する材料にはなりにくい。
 王国の大臣や摂政は相当なやり手揃いで、流石に何百年もこの国を平和に治めてきた英傑の子孫だな……とは思っている。
 とはいえ、この国家戦略に巻き込まれるのは正直いただけない……わたくしは殿下のことは友人としては十分好ましいとは思っているが、彼ほど熱烈なアプローチはしていないし割とそっけない対応を繰り返していて、お父様からは「もう少しなんとかならない?」と苦言を呈される始末なのだ。
 二人に聞こえないくらいの小声でわたくしはぼそっと呟く。

「……正直婚約破棄したらどうなるのか本当にわからないから、下手に動きが取れないし……困ったわ……」
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