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第一部 名家の暴走と傀儡となった女王

新しい魔法への挑戦

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「ちょっと、プライス辞めてよ……その格好で公共施設の敷地で食べながら歩くなんて事をしたら王国魔導士団の評判が悪くなるでしょう?」
 「昨日の夕方から何も食ってないのに、昨日の夕食にも今日の朝食にも俺を呼ばない上に食べる物も用意していない我が家の両親及びメイド達が悪い」

 王国魔導士団に臨時的に採用されてしまった俺は、農園で貰ってきたリンゴを齧りながら、エリーナ姉さんと一緒に新しい魔法の実験をするという場所へと向かっていた。
 恐らく王国魔導士団の訓練所で実験をするのだろう。
 あそこは魔法障壁が厳重に張られているから、仮に失敗したとしても外への影響が無いだろうし。

 「ほら、着いたから! さっさと食べ終わりなさいよ!」
 エリーナ姉さんの話を無視しながらリンゴを食べていたら訓練所に着いた。

 中に入ると黄色い腕章が目立つ新人魔法使いと王国魔導士団にまだ入れていないと思われる魔法使い達が訓練をしていた。
 ……それにしても、王国魔導士団に入ってない魔法使いでも良い杖持ってる人は持ってるんだなあ。
 おいおい、新人の中にも金貨数枚は出さなきゃいけないレベルの杖持ってる奴いるじゃねえかよ。

 俺なんて杖すら持ってないのに。

 まあ、詠唱短縮《ショートキャスティング》を取得したとはいえ、威力が必要な時は普通に詠唱するから俺も杖必要なんだけどなあ。
 杖なしの俺に比べてエリーナ姉さんの杖は賢者の杖じゃねえかよ。
 金貨数十枚は下らないですね。
 さぞ稼いでるんだろうなあ……。

 「皆ー! 訓練一旦中断! 新しい魔法の実験するからちょっと集まって!」
 エリーナ姉さんの声を聞いて、訓練をしていた魔法使い達が訓練を中断して俺達の前へ集まる。

 百人は居ないだろうけど結構人数いるな。
 ……この人達よりエリーナ姉さんは上なんだな。
 命令に従うってことは。
 しかも半分以上がエリーナ姉さんより歳上だ。

 本当に俺は魔法使いにならなくて良かったとつくづく思う。

 もしも俺が魔法使いになっていたら、目の前にいる魔法使い達のように合格出来るのか分からない王国魔導士団に入る為の努力なんてしなかっただろうから。

 実力は無いくせに大賢者の息子という変なプライドが邪魔して、目の前にいる魔法使い達のように年下の上司に素直に従うなんて事が出来なかっただろうから。

 「これから、新しい魔法"融合《フュージョン》"の実験をするから怪我すると良くないしちょっと端で見てて」
 集められた魔法使い達は訓練所の端の方へと移動していった。

 「エリーナ姉さん? 新しい魔法を見つけるのは良いし、新しい魔法の実験をするのは良いんだけどさ、それ有給休暇の日にやること?」
 若干俺は呆れていた。
 こんなこと別に訓練と称して仕事の日にやれば良いのに。

 「いや、私普段は王宮内で女王様達の警護あるから、訓練所に来るなんてこと無いの。それとプライスが王都にいる内にこの魔法を完成させたかったの」
 突然真剣な顔をしだすエリーナ姉さん。
 そして、俺をじっと見て言葉を続ける。
 
 「少ない魔力で威力がある魔法が沢山使えるようになれれば、プライスは正式な王国魔導士団員に必ずなれるし、重要な戦力になる。だから、この魔法を完成させて来年王国に支える魔法使いとして入ってきなさい。本当なら今年入って貰って融合を覚えて貰うつもりだったんだけど……」
 「だったんだけど?」
 「プライスが王都から突然居なくなったんじゃない! 私とママはちゃんとプライスの事考えていたのに!」
 「……」

 意外だった。

 まさか、エリーナ姉さんとお袋がそこまで考えていたなんて。

 どうせ、ベッツ家の人間が定職に就かないなんて世間体が悪いと考えて取り敢えず魔法使いにさせようとしているだけだと思っていた。

 俺の魔力量でも、王国魔導士団に入ってエリーナ姉さんのように国の戦力になる魔法使いになれるよう考えていてくれたとは。

 ……ま、エリーナ姉さんとお袋は、ってことは親父ともう一人の姉は俺を見限っているってことだけどな。
 
 そういや騎士になるか? なんて聞かれたことも誘われたこともねえな。

 しかし、困ったな。

 もう俺は王国に仕える気は既に無くなっているんだけどな。

 あの男が次のイーグリットの国王になる。

 この国に仕える気が無くなった理由なんてそれだけでも十分だ。

 だが、この魔法を覚えておいて損はない。

 力付くで俺を魔法使いにさせようとするエリーナ姉さん達と戦う羽目になるかもしれん。

 せめて、エリーナ姉さんを倒せる実力は持っていなければ、俺の王国に仕えないという望みは果たせないし、何より生きていく事も出来なくなるだろう。

 俺は騎士王と大賢者の間に産まれてしまったのだから。

 でも、今の俺の実力のままじゃエリーナ姉さんを倒せない。

 だから、ここは従っておこう。

 ◇

 「まずはそれぞれの手に違う魔法を出してみて。取り敢えず初級攻撃魔法で良いから」
 エリーナ姉さんは発見されたばかりの魔導書を見て、俺に説明する。
 残念ながら俺は正式な王国魔導士団の一員では無いため、その魔導書を読ませて貰うことは出来なかった。
 
 初級攻撃魔法か…
 出来るだけ魔力を使わない魔法にしよう。
 一発で成功するわけないし。

 「火《ファイア》」
 まず最初は左手に火属性の初級攻撃魔法を出した。
 「風《ウィンド》」
 次は右手に風属性の初級攻撃魔法。
 俺の魔法詠唱を見た姉さんは驚いていた。

 「本当に詠唱短縮取得してたんだ……プライス。威力はショボそうだけど詠唱そんなに短く出来るんだ」
 「エリーナ姉さん? 俺、この二つの攻撃魔法エリーナ姉さんに当てて帰っちゃうよ?」
 「分かったわよ! それで融合の詠唱は……」
 
 全く失礼な……。
 驚くだけじゃなくて威力をバカにするなんて。
 実際威力がショボいのは認めるけど。
 この二つは初級攻撃魔法の中でも比較的覚えやすい魔法で威力も低い魔法なのに詠唱短縮なんてしたらそりゃショボくもなるさ。
 
 てか、融合の詠唱も詠唱短縮出来るんじゃ?

 「融合」
 エリーナ姉さんの話を聞かず、勝手に融合の詠唱を詠唱短縮した。
 すると、火《ファイア》と風《ウィンド》が一体となり一つの魔法になった。
 誰も居ない所へ放つ。
 魔法障壁に少しビビが入った。
 すぐに元通りになったが。
 
 「おお、初級魔法の上に詠唱短縮をしている割には威力あるなあ。これ成功でしょ?エリーナ姉さん」
 「うーん……確かにそうだけど……っていうか融合の詠唱ちゃんと聞きなさいよ! 融合まで詠唱短縮したら本来の威力じゃないでしょ!」

 あ、話聞いてないのバレたわ。
 しかし、一つ俺はこの魔法に疑問があった。
 「この魔法、威力は上げられるかもしれないけどさ、最初に魔法を二つ詠唱して、最後にこの魔法の詠唱して完成でしょ? 最低でも三つの魔法を詠唱とか時間掛かりすぎ」
 「だからこの魔法は取得しようとする魔法使いが今まで出てこなかったのね……。でもこの魔法の詠唱者を周りが守れば強大な威力を誇る魔法を作り上げる事が出来るわね。もう一つ三位一体《トリニティ》って上級魔法があるんだけ……」
 「いや、俺上級魔法は使えないから」
 「諦め早いわねえ」
 
 上級魔法が使えてたら俺だって王都から逃げ出すなんて事してないから。

 しかし、融合か。
 確かに普通の詠唱なら時間が掛かるけど、詠唱短縮でやればかなり早く威力のある魔法が放てる。
 ……試す価値あるな。

 「それと、属性によっては融合出来ない場合もあるようね。火属性と氷属性とかはダメみたいだし」
 「分かった。それならちょっとエリーナ姉さん離れて。もっと威力がある火属性と風属性の魔法二つを一体化させて放ってみるから」
 「分かったわ」
 エリーナ姉さんも端に寄っていた魔法使い達の方へ行く。

 「火炎《フレイム》」
 左手で同じ火属性の初級魔法だけど、さっきより威力のある魔法を出して。
 「突風《ガスト》」
 右手でも同じように風属性の初級魔法だけど、さっきより威力のある魔法を出して。
 「融合!」
 また二つの魔法を一体化させて誰も居ないところへ放つ。

 さっきより魔法障壁にヒビが入った。
 魔法障壁が元に戻るのも時間が掛かっている。

 「凄いわ! プライス! これで初級魔法の掛け合わせなんでしょ!? 大分威力あるじゃない!」
 エリーナ姉さんが嬉しそうにはしゃいでいる。
 その周りにいる魔法使い達にも嬉しそうに喋っている。

 こうなると、中級魔法二つでやってみたくなるな。
 「エリーナ姉さん! 中級魔法でやってみるからそっちに被害が出ないように魔法障壁張っといて!」
 「分かったプライス! 任せといて!」
 エリーナ姉さんは嬉しそうに自分達の周りに魔法障壁を張る。

 よし、これで周りに被害が出ないな。
 まあ、エリーナ姉さんが魔法障壁張ってるんだし人が怪我する心配は無いな。
 段階を踏んでやるのもアホらしい。
 いっそ俺が使える火属性と風属性の中級魔法最大の攻撃魔法で行くか。

 「大火災《コンフラグレイション》」
 左手で俺が使える最大威力の火属性の魔法を出して。
 「竜巻《トルネード》」
 右手で俺が使える最大威力の風属性の魔法を出す!
 
 この二つが一体になった魔法なら上級魔法並の威力になる。
 
 そうすればエリーナ姉さんの背中も見えてくる。

 「融合《フュージョン》!」
 一体化に成功した! ……のは良いんだが。
 ……アレ? ヤバくね?
 これ俺が思ってるよりも絶対威力あるわ。
 こんなの放ったら被害が出かね無いぞ。
 だからってこのレベルの魔法を消す魔法を俺は覚えてないしこれからも覚えられる気がしないぞ。
 これどうしよう威力マジであるわ。

 「いけー! プライス! やっちゃえー!」
 楽しそうだな姉さん。
 もう知らねえわ。
 放ったら瞬間移動《テレポーテーション》で逃げよう。
 この魔法名付けるなら何だろう。
 もしかしたら融合しなくても使えるかもしれないから名前付けておこう。
 そういや自然災害で炎の竜巻が発生することがあるらしいが、ファイアネードと言うらしい。
 そのままパクろう。

 「炎《ファイア》の竜巻《ネード》」

 俺はこの魔法を放った。
 そして直ぐに魔法障壁を張った。
 これ生身じゃ死ぬ。
 そう直感したのだ。

 俺が放った二属性の中級魔法の最大威力の魔法を融合させた魔法は余りにも威力がありすぎた。
 障壁が無ければとっくに吹っ飛ばされてそうな風の強さに、このレベルの火事が起きたら集落が一つ灰になるレベルの炎。

 訓練所に張られていた魔法障壁はピキピキとヒビが入っていく、しかしまだこの融合魔法は全く弱まる気配がない。

 パリン!

 あっ……訓練所の魔法障壁割れた。
 もう終わりだ。
 
 「皆! 訓練所の魔法障壁を張り直して!」

 エリーナ姉さんが指揮を執り、外に被害が出ないように力を合わせる。更にエリーナ姉さんは俺の周りにも分厚い魔法障壁を張ってくれた。

  百人近くの魔法使いが力を合わせている為、訓練所の魔法障壁がみるみる内に元に戻り出した。
 
 「皆! 耐えるんだよ! 踏ん張り所だよ!」

 格闘する事数十分。

 ようやく収まった。

 訓練所は全焼は免れたものの、俺が融合魔法を放った建物の南側は丸焦げになってしまった。

 よし、逃げよう。

 「瞬間移……」
 「拘束《リストレイント》」
 突然俺の体が動かなくなる。
 何か皆黙ってるからおかしいと思ったよ。
 拘束魔法を詠唱してたのね。

 「あのー……解放して貰って良いですか?もう逃げないんで……」
 「プライス(笑)」
 笑顔でエリーナ姉さんが魔法で拘束されている俺の所に寄ってくる。
 「明日までに訓練所、魔法で直しておいてね?」
 「やっぱりそうなった!」

 結局、その後はエリーナ姉さんや魔法使いの方々に監視されながら一晩かけて訓練所の修理をする羽目になった。

 無事直し終わった翌日の朝には、また魔力切れを起こしかけたのは言うまでもなかった。
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