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静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ
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「はい、これで大丈夫よ」
「うぐっ、看護師の、ひっく、おねえ、ちゃん、あ、ありがと、ひっ」
ヴィアは、すり傷を負った尻尾に軟膏を優しく塗ってあげた。痛さから半べそをかいている小さな女の子に微笑むと安心したのか女の子も笑顔を返してくれた。
「何かあったらいつでもおいで」
ヴィアは女の子の目線まで屈むとエプロンの外ポケットに入れてあった小さなキャンディを小さな手に包むように渡すと嬉しそうに受け取り早速口の中へと放り込んでいた。
「うんっ!ありがとうっ!」
処置も終わり機嫌が直った女の子を見送るため診療所の外まで出ると、近くにある大木の隙間から女の子と同じくらいの背丈の男の子が此方をチラチラと様子を見るようにヴィアたちの方へ視線を向けていた。
(あの男の子は・・・)
女の子は男の子の存在に気付くと怯えるようにヴィアの背後へとすぐさま隠れてしまった。その状況から女の子に怪我を負わせた子だと察知したヴィアは、その男の子の側まで近づき両手を腰に当て威嚇するよう見下ろした。
「女の子に意地悪しちゃ駄目でしょっ!」
「わっ!?・・・ちょっ、ちょっと尻尾触っただけなのにすげー勢いで怒ってきたから・・・つい」
「キミは人間だからわからないかもしれないけど、半獣人だけじゃなくて動物の尻尾には神経があって掴まれたり引っ張られると痛いの。だから優しくしてあげて欲しい」
「・・・うん。なんか動きが可愛くて、つい触っちゃったんだ。別に意地悪しようと思ったわけじゃないんだ」
怒った女の子から受けたと思われる頬にできた引っ掻き傷を見つけたヴィアは、男の子の目線に合わせるようにしゃがみ絆創膏を貼ってあげた。いつまでも気まずそうな表情の男の子に女の子同様ポケットからキャンディーを取り出し手渡した。
「・・・カイくん、さっきはお顔引っ掻いちゃってごめんなさい」
女の子はおずおずと近づくと男の子の頬の絆創膏を見つめ申し訳なさそうに謝ってきた。
「ううん。僕こそ、しっぽに怪我させてごめんなさい」
(可愛らしいな・・・私もこんな時があったな)
小さな二人は仲直りをすると笑顔が戻り、ヴィアもその光景に微笑ましく心を和まされた。女の子がヴィアに礼と別れを告げると二人は手を繋ぎ仲良く家路へと帰って行った。
「ヴィア、お疲れ様。仕事はもう終わったか?」
二人を見送りヴィアが診療所へ戻ろうと踵を返した刹那、背後から聞き慣れた優しい男性の声が耳に伝わりすぐさま振り返った。
生成り色の麻のシャツを羽織り、長身の青年がヴィアに微笑みながら近づいてきた。
「お疲れ様。リディスも今日は終わり?」
「ああ。今日は朝から近々隣国への公務のため第一王子の警護の件と戦地にいる第二王子が率いる部隊の近況報告の会議だけだったから早々に終わったよ。ただ、ずっと座りっぱなしだったせいで尻が痛かった」
「ふふ、それはお疲れ様でした。大変だったね。それより今日は宿舎じゃないのね」
「今日は下の弟、サリルの誕生日だからな。それよりさっきの女の子・・・半獣人か、珍しいな」
リディスは先程去って行った女の子を思い出しポツリと呟いた。
「うん。学校でも習ったけど獣人は既に絶滅してるし、その名残りの遺伝子を持つ半獣人もここ数百年くらいで減少してるからね」
「そうだな。王宮図書館にある古文書によれば、昔は理性が効かず人間を襲う獣人もいたらしいしな。今は人間の血の方が濃くなったせいもあって獣人がらみの事件は少なくなったけど」
ヴィアがいる世界は人間と獣人が共存し互いに尊重し合う社会となっていた。ヴィアたちが生まれるずっとずっと昔は獣人たちが半数を占めていたが、当時疫病が流行。人間、人間と獣人の混血種には何の影響もなかったが、純血種の獣人たちには影響があり、その病魔が原因で絶滅の一途を辿ることとなった。
「それより仕事の方はもう慣れ、うッ・・・」
「どうしたの、大丈夫!?」
リディスは急に鼻と口の辺りを自身の手で覆い背中を丸め一瞬苦し気な表情を浮かべた。ヴィアが心配そうに身体に触れようとした瞬間、彼は拒絶するように片方の手を前に出し頭を左右に振り心配ないことを表現した。
「・・・大丈夫だ。今日は慣れない会議で少し疲れたのかもしれない。もう落ち着いたから心配するな。それより暗くなる前に帰ろう」
リディスの言葉でヴィアがふいに天を見上げると少し前まで薄青い空も気付けばオレンジがかった暗闇へ変化していた。リディスに軽く急かされたヴィアは診療所から自身の荷物を取りに一旦入りすぐさまリディスの元へと戻って来た。
「ほんとに大丈夫?辛かったら診療所で少し休む?」
「いや、もう大丈夫だ。遅くなると皆心配するから急いで帰ろう」
先程まで苦し気な表情を見せていたリディスだが、回復したのかいつもの雰囲気に戻り、その姿にヴィアは安堵した。
ヴィアとリディスは幼い頃からの付き合いで三つ違いの幼馴染。リディス・シャル・シスフェルは侯爵家の次兄にあたり、彼の兄は現在第二王子を護衛する第三騎士団副団長として戦地へと赴いていた。ヴィアの家は高い身分の貴族ではないが、母親同士が幼馴染で昔から仲が良かったこともあり交流があった。
シスフェル家は広大な領地を所有しているが、傲慢さは全くなく領民思いで非常に慕われた侯爵家であった。それは、息子たちも同じで彼の兄もリディスも品行方正、文武両道、眉目秀麗・・・どの言葉も当てはまる程の人間性で華があり非常に人気があった。
性格的には兄は物腰柔らかい中世的な性格。弟のリディスは基本優しいのは一緒だが、硬派で真面目な性格、少し不器用なところがまた良いと令嬢たちを虜にしていた。
そのことから彼らが社交界に顔を出そうものなら会場内全ての令嬢たちからは恍惚とした眼差しを向けられ、肉食令嬢たちからは猛アピールをされる始末。優雅な社交界が気付けば戦場なみになることも屡々・・・。そんなことがあったせいかは不明だが、二人ともそういった華やかな場に出るのはなるべく避けているようだった。
そんなリディスをヴィアは幼い頃から兄のように慕い、いつしか恋心が芽生えるも全く相手にはされていないのは年齢を重ねるにつれ身に染みていた。それでも、果敢に挑むも・・・。
「あのね、リディス・・・騎士団のお仕事が休みの時にでも一緒にセントール庭園に行かない?夜なんだけど期間限定でライトアップされてるらしくて。今若い女の子たち・・・カップルの間でも人気があるみたい」
「夜は・・・。昼間なら休憩中に少し出れるが」
「ライトアップだから昼間じゃ意味ないと思うけど・・・」
「はは、確かに。まあ、俺はそういうのわからないし時間も合わないしな。友人と行って来たらいいんじゃないか?その周辺は夜でも安心な地区だし出歩いても問題はないだろうが、なるべく人通りがあるうちに家へ帰るんだぞ。もし何かあれば宿舎に連絡してくれ。迎えには行ってやれると思うから」
まるで、父親のような言い方に自分を一人の女性として見ていないことは会話の端端で伝わった。
「・・・そっか、リディス忙しいし仕方ないね。無理言ってごめんなさい」
少し泣きそうになるのを堪えながら誤魔化すように笑みを向け、空元気を振り撒きながらリディスと一緒に家路へと向かった。
――――――――――
「ヴィア、おはよう」
「おはようございます、医院長」
診療所に着いたヴィアは開業医で叔父のジアースに挨拶をし、早速仕事着へと着替え開始準備を始めた。ヴィアの世界では16歳になると成人とみなされ働くものや教養などを身につけるためのアカデミーへ通うものなどに別れたが、後者はどちらかと言うと身分の高い貴族などが主でヴィアのような身分のものたちはほとんどが働く選択肢を選ぶことが多かった。
数カ月前に16歳になったヴィアは、まだ職に付いていなかったこともあり丁度産休を取っている看護師に代わり見習い雑務要員として叔父の診療所で数カ月前から働かせてもらっていた。
「ヴィア。朝からすまないが、騎士団施設内にいる医療部隊宛に医薬品を届けてくれないか?戦地で必要らしく急ぎのようだ」
ヴィアが了承すると大きな箱に入った医薬品類を手渡され、早速向かう準備を始めていると叔父が改まった表情で訊ねてきた。
「ヴィア・・・その最近、兄さ・・・お前の父親から何か聞かされたか?」
急に理解不能な質問をされ、ヴィアがきょとん顔で何も聞いていないことを伝えると目頭を押さえ小さく溜息を吐いた。
「そうか・・・まあ、お前の気持ちを考えるとな。・・・準備の手を止めてすまない、気を付けて行って来てくれ」
「はい・・・行ってきます」
(・・・?)
歯切れの悪い叔父の言葉に首を傾げ怪訝な表情で大きな箱を抱えると早速王宮内にある施設へと向かった。
王宮敷地外にある門へと向かい門番に使いに来たことを伝えると敷地内へ入る許可を得た。ヴィアのような身分のものが基本入ることが許されない場所なため、不審がられない程度でキョロキョロと辺りを見渡していると遠くから訓練中の騎士たちの姿が目に入った。
(偶然リディスに会えないかしら。最近、忙しいのかなかなか会えないし)
そんな淡い気持ちを持ちつつも叔父に頼まれていた荷物を騎士団が管轄する医療施設へと向かっていると手入れされた木々の中、騎士と令嬢らしき女性が隠れるように密会している姿を目にしてしまった。
(こんな朝早くに)
ヴィアは羨ましさ半分、呆れ半分の表情で視線を向けるとそこには優しく微笑むリディスと煌びやかな雰囲気を纏わせた令嬢が懇ろにしている姿を垣間見てしまった。
「え?・・・」
それは誰が見てもお似合いで・・・自分では到底手に入れられるようなものではないことをまざまざと思い知らされた気分だった。
その後、どうやって施設から帰って来たのか、その日何をしたのか全く覚えがないような状態で気付けば夕方になり診療時間は終わっていた。
(いつの間にかこんな時間に・・・。手元に荷物がないってことはちゃんと渡して戻って来たのね)
心ここにあらずの様子で帰宅の準備を始めていると叔父に呼び止められ診療室へと招かれた。
「今日は朝からすまなかったな。少し話したい事があってだな・・・その・・・ヴィアがリディスから今言うことを聞かされてるかは不明だが、もし聞かされていないのなら他人からワンクッション挟んで聞いた方がショックが少ないかと思って・・・。勿論、私が言うことではないのは承知なんだが・・・。実はな、リディスには既に心に決めた女性がいるらしんだ。それがあって最近は社交界にも顔を出さなかったらしい。近々、その女性に求婚すると・・・数日前、リディスの父親が酒の席で兄さんに内密話として言ってたらしくてな。お前の父親も私もお前がリディスを兄以上の気持ちで慕っていることは見るからにわかっていたから・・・」
言葉を選びながら心苦しそうに話す叔父の話しを聞きながら今朝見た光景を思い出しヴィアは下唇を強く噛み締めた。次の瞬間、叔父に笑みを向けるとヴィアは気にしていない素振りを見せる。
「やだなー叔父様、気にし過ぎよ。・・・そうなんだ、その話は知らなかったわ。確かにリディスに恋心は抱いていたけど向こうには全く相手にされてないし自分でも不釣り合いなことはこの歳になって充分理解しているつもりよ。彼の身分や将来的な地位を考えたら同等身分の令嬢が傍にいるのがいいと思う。だから、そんなに気にしないで。ふふ、私よりも今の叔父様の方が辛そうで心配だわ」
「・・・そうか、お前がそう思ってるならいいんだ。兄はお前の哀しむ顔を見たくないからなかなか言い出せずにいたみたいだな。私も可愛い姪が辛い想いをするのを見たくはないんだ。私は独身だが、お前を娘のように幼い頃から可愛がってたつもりだ。幼い頃の二人を知ってるだけに複雑でな・・・本当だったらお前たちが・・・・・・いや、何でもない。引き留めてすまなかった。気を付けて帰りなさい」
「はい」
叔父の心苦しさが伝わり、それ以上の言葉が出なかったヴィアは再び帰り支度を済ませ外へ出た。暑かった夏がようやく終わりを告げ、夕風が少し肌寒く感じ左手で右腕を軽く擦った。
『僕ね、おっきくなったら体強くなってヴィアを護れるようなかっこいい騎士になるから!だからずっと僕の傍にいてね!絶対離れちゃダメだよっ!!ヴィアは僕のお嫁さんになるんだからね!約束だよっ』
『うんっ♪約束するっ!』
(自分で言ったくせに・・・嘘つき)
ヴィアは幼い頃の約束を信じていたが、大人になるにつれ現実的ではない口約束に何の効力もないことは頭ではわかっていた。事実、今のリディスの態度は自分に全く気がないのも伝わっていた。それでも、もしかしたら・・・という甘い感情が消しても消しても生まれヴィアを縫い留めていた。
それも今日見た出来事、叔父の話で見込みがゼロなんだと突きつけられどこか吹っ切れた部分もあった。囚われていた呪いの言葉の毒牙が身体から抜け落ち軽くなった分、どこか空虚で虚しさが生まれ複雑な心内にヴィアは苦笑いを浮かべた。
☆☆☆
「ヴィア、お父様がお呼びよ」
家に戻りしばらく放心状態でベッドに横になっていると、母親の声に呼ばれ応接間で座って待つ父親の向かいへと座った。
「疲れているとこすまないな。・・・ヴィア、お前ももう16になった。そろそろ・・・その・・・相手をだな」
口籠りながら歯切れ悪く話す父親が何を言いたいのか察したヴィアは、真っ直ぐ見据えニコリと微笑んだ。
「そうですね。私も成人した身ですし、叔父様の職場も産休中の看護師さんが戻ってくれば用済みになります。そういったお話をお受けするにはそろそろ良い機会になりますね」
「そ、そうか!ヴィアがそう言ってくれるなら・・・実は、父さんの知り合いの息子さんで――――」
父親との会話が終わり、部屋へ戻るとすぐさまベッドへダイブした。今日は色々なことが起こり過ぎて片頭痛を拗らせてしまい、以前鎮痛剤として処方してもらった粉薬を口に含んだ。
「笑って“おめでとう”って言えるかな。向こうは・・・もし私がお嫁に行ってもきっと笑って言うんだろうな」
ヴィアは、今朝の幸せそうに微笑むリディスを想い出すと目元がカッと熱くなった。
雫がポロポロと止めどなく溢れ出し寝具を濡らすと濃く大きな濡れ染みを広げていた。
――――――――――
「おはよう。なんかすごく久しぶりだね。いつもの注射?」
あの日から数週間が経ち、ヴィアが診療開始前に外掃除を済ませていると前からリディスが笑顔で手を振り近づいてきた。
「おはよう。ああ、今日は診察日だから。本当はもっと早く診てもらいたかったんだが、戦地からの救援物資を頼まれて俺らの部隊がそれを届けに行ってたからなかなかこっちに寄れなかったんだ。思ったよりも長丁場になりそうで兄の様子も気になっていたが、案外元気そうで逆に発破をかけられて帰って来たよ」
やれやれといった表情でリディスは大きな溜息を吐き出した。
「それより少し見ない間に痩せたか?」
誰も気付かなかったヴィアの些細な変化をリディスに当てられ心臓がチクリと痛んだ。気付いてくれたことへの嬉しさ、逆に何故そんな些細なこと気付くんだというもどかしさが入り乱れ複雑な心境になった。
「うん・・・ちょっと今ダイエット中なの」
「ダイエット、って・・・「リディス、おはよう。準備は出来てるからもう中に入っていいぞ」
リディスが話しをしている最中、遮るように叔父が出入口の扉から顔を出し入るよう手招きした。リディスは今の体型から想像すらつかないが、幼い頃は線が細く彼を知らない人が見れば女の子とよく間違えられるほどだった。体も弱く、すぐ体調を崩すため当時開業したての叔父の診療所で世話になることも屡々だった。その名残りで持病が再発しないよう大人になった今も定期的に注射投与や処方薬を貰いにやって来ていた。
「ヴィア、今日は大事な話をしに家へ帰る予定だし、勉強会が終わったら迎えに行くから一緒に帰ろう。・・・あとヴィアにも伝えなくてはいけないこともあるし」
診察が終わり鍛錬所へ向かうリディスを見送りに外へ出たヴィアは、改まって話す彼に以前一緒にいた女性を想い出した。
(そっか・・・正式に話すのね)
下唇を噛み締め、俯きそうになる顔を必死にリディスへ視線を向けると口元を引き伸ばした。
「私もね、話さなきゃいけないことがあって・・・。私、リディスがいない間にお見合いしたの。それでね、今日その人とお食事の約束をしてて。・・・だから一緒には帰れないんだ、ごめんなさい」
「え・・・見合い?」
驚いた表情で固まるリディスだったが、次の瞬間表情が見る見ると変わり凄まじい勢いでヴィアの両肩へ痛みを与えるほど強く掴み押さえた。
「いつの間にそんな話が・・・俺のいない間、何があったんだ!?」
「いたっ!」
「あ・・・悪い。あまりにも想像の範囲を超えた話で驚いてしまって・・・。そうか、・・・おめでとう。俺の話はまた今度にするよ。楽しんでおいで」
両肩を押さえていた大きな手がゆっくりと離れ、リディスは笑顔を向けるも弱々しい足取りでヴィアの元を去って行った。
(何であんな・・・自分だって結婚報告するつもりだったんでしょ)
妹と思っていた存在が急に手元から離れる兄の気持ち・・・というものなんだろう。そう思いながら診療所へ戻るとその声を聞いていたのか周りの看護師や診察に訪れた年配の女性患者たちがニヤニヤしながらヴィアに詰め寄った。
「やだー、ヴィアちゃんおめでとー♪んもうっ、言ってよー。ねえ、ねえお相手はどんな男性なの?」
「えっ・・・えっと・・・」
「ほら、ほら仕事中なんだからねー」
根掘り葉掘り聞こうとする皆を制止させる叔父の声が間に入ってくれたおかげで皆からの追及の難を逃れた。
午前の診療時間が終わり昼休憩となったため一旦診療所を閉める準備をしていると叔父からランチに誘われ近くの食堂へと足を運んだ。
「で、その見合いはどうだったんだ?この前会ったんだろ?」
食事中は他愛もない話をしていたが、やはり気になっていたのか食後の珈琲を飲みながら叔父は改まった表情でヴィアに様子を窺ってきた。
「すごく優しそうな男性だった、でも・・・。実は、このお話はお断りしたの。今後動くことのない気持ちのまま会うのは相手に失礼だなと思って。それに私、この仕事好きだから看護師になれるよう勉強しようかなって思ってるの。そしたら自分で働いて自立できるし、そうなれば未婚でも文句は言われにくいかなって。だから今は恋愛なんてしてる暇なんて私にはないの」
「ヴィア・・・。そっか、わかった。ヴィアの人生だ、お前がやりたいようにやればいいし俺で手伝えることがあればいくらでも協力してやるから遠慮なく言いなさい」
「ありがとう、叔父様」
☆☆☆
(時間潰しに教会図書館で本読んでたらいつも以上に遅くなっちゃった)
午後診察終了後、リディスに怪しまれぬよう帰宅時間を少しズラすため図書館で時間を潰すつもりが、本を読むのに夢中になってしまいいつもよりかなり帰宅が遅くなってしまった。
ヴィアは家に着き玄関扉を開けようとした時、背後から低く鋭い声色で名を呼ばれ恐ろしさから肌が泡立つ感覚に襲われた。恐る恐る振り向くと目を眇め、殺伐とした表情のリディスが足早に此方へと近づいてきた。
「お前の見合い相手は自宅に送ってもくれないのか!?こんな時間に女性を一人で帰宅させるなんてあまりいいものではないと思うが。本当にそんな男と婚姻を結んでいいのか?」
「リ・・・ディス?」
リディスに詰め寄られたヴィアは気迫から身体を強張らせ一歩後退した。恐々としながら彼を見上げると、全身からどす黒い気配を纏わせ思わず息を呑んだ。
「そっ、そんなのリディスには関係ないでしょ」
「関係ないわけないだろっ!大事な幼馴染に何かあったら俺は・・・」
(何よ・・・これ以上搔き乱さないでよ)
ヴィアは歯を食い縛り、握り拳を作るとぎゅっと力を籠めた。
「リディス・・・もう私は子どもじゃないんだから干渉しないで欲しいの。リディスだってちゃんと幸せにしたい女性いるでしょ?私のことは気にしなくて大丈夫だから大事に想う女性に注いであげて。・・・じゃあ、おやすみなさい」
リディスの返事を聞くことなくヴィアは逃げるように家の中へと立ち去った。それ以来リディスは、ヴィアの前に姿を現すことはなかった。定期的に診療所へは来ているもののそれは敢えてなのか偶々か定かではないが、ヴィアの公休日ばかり来院しているようだった。
その間、見合いを断ったせいなのか父親の落胆する姿を見る度申し訳ないと思いながらも、ヴィアは時間がある時は看護の勉強を独学で始めていた。
それから更に数週間が経ち、叔父から借りた医学書を手に帰宅するため診療所を後にした。
(学校に通うためにも早くお金を貯めなくちゃ)
最近少しずつだが、時間がある時に皆からアドバイスを受けたり医学用語など覚えてきたヴィアは、楽しくてしょうがない様子で早く家に帰って勉強しようと足早に家路へと向かっていた。
「ヴィア、おかえり」
「リディス!?どうし・・・って大丈夫!?顔色悪いけど・・・」
夕暮れの中、血の気が引き蒼白い顔色のリディスがヴィアの帰宅する道を塞ぐように立ちつくしていた。
久々に会ったリディスに困惑した表情を向けるヴィアとは対照的に、穏やかな表情を向けるリディスと視線が重なる。
「わっ!大丈夫!?どうしてこんな。どうしよ・・・叔父様を呼ん「待って」
ヴィアに近づこうとした刹那、急にリディスが眩暈を起こしたのか倒れそうになったところを寸前で走り寄ったヴィアによって抱き抱えられた。リディスとの体格差から思わずヴィアの足元がグラつき、逆にリディスに支えられ言葉を遮られた。
「すまない、大丈夫だ・・・最近、ちゃんと眠れてないだけだ。ここから少し歩いたところにシスフェル家が所有するゲスト用宿泊施設があるんだ。すまないがそこまで連れて行ってもらえないか?そこで少し休めば落ち着くと思うから」
少し息が荒くなった180センチある体格のリディスをヴィアは何とか抱え、言われた場所へと向かう。街からどんどん外れていき、鬱蒼とした木々で覆われた道を不安げな表情で歩いてゆく。まだ明るいはずの空模様が木々で隠れ薄暗さが色濃く薄気味悪さから背筋を冷たくさせた。
(・・・ほんとにこんなとこにあるの?)
不安げな様子で兎に角案内を受けるがまま進むと重厚感のある立派な洋館が現れた。年代を感じさせる外観だが立派な造りというのは素人目線のヴィアにもわかり『さすが侯爵家』と思わせるような造りの建物だった。
「だい、じょうぶ?着いたよ、っと」
無人の屋敷に使用人なんているはずもなく、ヴィアは事前に手渡されていた鍵で玄関扉を開錠すると何とか一階にあった客室へと入りベッドへ寝かせた。向かっている最中、そして今もずっと無言のまましんどそうな表情のリディスを心配そうに見つめながらヴィアは考え込む。
「何もないよね・・・どうしよ。一旦家に帰って何か持ってこようか、それとも街に戻って何か買って来ようかしら」
あれこれ考えながらとりあえず一旦部屋から出ようとドアノブに手を掛けた刹那、背後から目元と口元を同時に塞がれ取り押さえられ動きを阻止された。
「むーーっ、んーーーッッ」
押さえつけられている大きな手を口元から剥がそうと抵抗するも力強く全くビクともしない。
「はあ・・・さっきも我慢するのが大変だったが、やっぱり安心する・・・この匂い」
すんすんと項から肩口付近をリディスに嗅がれ、その度に鼻息がかかり擽ったさから身を捩る。何度も両手を使って抵抗するもリディスは一向に止めてくれず、しまいには舌を耳の縁に這わせ耳朶を舐めしゃぶられた。
「んッーッ・・・ふんッ、んッッ」
(あれ?リディスってこんな毛深かったっけ?それになんかリディスの舌が・・・人間の舌ってこんなに大きいモノなの・・・ん?ん?)
「駄目だ・・・もう限界、抑えられない」
「ふあッ!?」
勢いよくぐるりと向かい合うよう変えられるとすぐさまリディスに貪られるような口づけをされた。・・・いや、貪る以上に
(食べられてない!?私の口っ!)
ヴィアは大きく口を開けさせられるとリディスの大きな舌が咥内に捻じ込まれむしゃぶりつかれた。
キス自体も初めてのヴィアは瞑っていた瞼を恐る恐るゆっくりと開けた。薄暗かった部屋はカーテン越しの隙間から満月が見え、柔らかな月明かりが室内に差し込んできた。そこには、今まで見たこともない欲情するリディスの姿を露わにすると同時にヴィアは自身の目を疑った。
頭頂部付近に二つの耳、前に突き出した鼻と大きな口。その口元からは噛みつかれたら痛そうだなーなんて思う程の鋭く尖った牙が見え隠れしていた。そして180センチもある見慣れた体格より更に一回り大きくなったカラダ・・・。頬辺りから伸びる細くピンと張った白銀の髭と琥珀色の瞳に吸い込まれ思わず魅入ってしまった。
「・・・えっ?狼っ!?ちょっ、なん・・・リディス、獣人だったの!?いや、そんなはずは・・・だって今までそんな姿見たことないし、そもそもシスフェル家は獣人家系ではなかったはず」
「そうだ、シスフェル家は後にも先にも人間の純血種で獣人の遺伝子は入ってない。昔、俺が乗馬中大怪我をし手術したのを覚えてるか?多分あの時の輸血に半獣人の血が混ざってたんだ。しかも普通なら半獣人になるはずが、何故か完全な獣人になれてしまうから困ったもんだよ」
「で、でも、普段は普通だったし・・・こんなことがあればみんな気付くはずなのになんで」
「輸血後、すぐこうなったわけじゃない。実際、俺自身も獣人になるなんて数年前まで気付きもしなかった。ただ、ここまで至るにはあるきっかけがあったんだ」
「きっかけ?」
「・・・匂いだよ。成長期に差し掛かった頃合いから特定の人物の匂いを嗅ぐとカラダが変化を起こし始めた。初めは誰にも言えなかったが、医院長・・・ヴィアの叔父さんにだけ相談したんだ。彼は若い頃、獣人研究をする教授の元にいたのを父から聞いたことがあったからね。それからは、変貌しないよう抑制剤の注射と処方薬で何とか抑えることが出来たんだ」
「んっ、こ・・・アッ、のこと、おじ様たちはご存じ、うンッ、なの?」
「家族は俺が獣人の血が入ってることはまだ知らない。それをこの前伝えようとしたが、それどころではなくなってしまった」
リディスは鼻先をヴィアの首筋に宛がい再び嗅ぎだすと恍惚な表情をし充足感に満たされているようだった。
「本当はもうしばらく言うつもりはなかったんだ。抑制剤もあるし、更に俺がもう少し精神を鍛えさえすればコントロール出来ると思っていた。しかし色んな事があったせいか最近、抑制剤を打っても抑えが効かず暴走しそうになっていた・・・厳密に言えば、普段は問題なかった。仕事をしていれば邪まな感情は忘れられたからな・・・だが」
「んッ・・・やっ、いっ・・・ん」
リディスの大きく長い舌が首元を舐め上げ甘噛みされた。正直、恐怖はなかった。姿が変わっていても微かに彼から放たれる安心するような香りがそのままだったから。それでも、理性を失いかけたリディスから普段以上の力が加わっているためか押さえる腕の力が強すぎてヴィアの身体に痛みが走る。
鋭い爪が何度も衣服生地に引っかかりその度ビリビリと裂ける音が聞こえ、気付けばほぼ裸のような状態になっていた。ヴィアは自身の現状に驚いた表情で彼の顔を見つめると先程の琥珀色から深い赤みがかかり更に煽情的な空気を漂わせていた。
(どうしよ・・・何とかいつものリディスに戻ってもらわなきゃ)
「リ、リディス、こんなことお互いに良くないと思うの。絶対後悔するから止めよ?」
理性を失っているからとはいえ、リディスには心に決めた女性がいる限りこんな状況下で襲えば確実に彼が後悔することは目に見えている。誰も幸せにならないこの行動を何とか抑えてもらおうとヴィアは何度も説得した。
「後悔?初めからそんなもの持ち合わせていたらこんなことはしない。・・・そうだな、もしこのまま俺がお前を犯せば見合い相手とは破談になってしまうな」
不気味な笑みで見下ろすリディスに畏怖したヴィアは声を出せなくなってしまった。
「ふあっ!」
(お、お、お、お姫様抱っこ!?!?)
急に身体を持ち上げられた勢いで変な叫び声をあげてしまいヴィアの頬が一気に熱を帯びた。そんな様子を気にすることなくリディスはヴィアを横抱きに抱え、そのままベッドへと下ろし覆い被さった。咄嗟に逃げ出そうとするヴィアを押さえつけ顔を近づけた。
「怖がるな。直、慣れる」
「んふッ・・・ヴッ・・・ん」
リディスの大きな口から現れた熱い舌先でヴィアの咥内を蹂躙し食される。ヴィア自身、先ほど初めて唇を奪われただけでもパニックを起こしているのにまさか獣人姿のリディスに犯されるとは思いも寄らなかった。
「ふぁめ・・・ふぉんな・・・ん、あっ、んん」
「見合い相手に操でも立てているのか?それは残念だったな。綺麗な身体でもうそいつの元へは戻れないな」
厭らしい笑いをヴィアに浴びせ首筋に甘く牙を立て噛み痕を刻んでゆく。痛みと込み上げる甘い痺れに涕と口端から唾液が溢れシーツを濡らしていった。
「はは、綺麗な痕がついたな。これで俺の物だ・・・ふふっ」
「はッん、んッ・・・あっ、あっ・・・」
引き裂かれた生地からこぼれ出る胸元を大きな手で包み込み揉みしだく。小さな痙攣が全身に伝わり快楽を逃がすようにシーツを力いっぱい握り締めた。
「甘いな・・・ヴィアわかるか?お前の乳首が硬く美味しそうなベリーみたいになってるぞ」
「ふぐッ、んッ・・・うっ・・・」
ぴちゃぴちゃ、わざと大きな音を立てながら先端を舐めしゃぶられ、厭らしい水音が鼓膜に響き耳を覆いたくなった。何度も止めてくれるよう懇願するもリディスは効く耳を持たず行為を止めようとはしなかった。
「もう俺の服もボロボロだな」
自嘲しながらリディスは、裂けてしまった着衣を全て脱ぎ捨て生まれたままの姿になる。人間の姿で何度か彼の上半身裸の状態を見たことはあったがそれ以上の逞しい胸板、腹筋に圧倒されそのまま視線を下げていく。
(おっ!?・・・む、無理、無理、無理ッッ!!!)
今まで大人の男性器を見たことがないヴィアでも規格外というのは漠然とながら感じ取った。
「やっ!だめっ、だめっ!!」
無理矢理ショーツを脱がされたヴィアは抵抗するも全く歯が立たず両膝を広げられ秘部を晒されてしまった。はあ、はあ、と昂奮しているのかリディスは息を荒げ舌を割れ目に沿って舐め上げた。
「ひぃッ・・・あッ・・・あァッ」
「指は爪を整えていないから今日は舌で気持ち良くしてやるよ」
膣口に長く厚みのある舌が這入り込み膣内を蠢いた。奥まで伸びる舌はヴィアがおかしくなる場所まで辿り着くと激しい動きでヴィアを翻弄させた。そのたびに厭らしい淫靡な水音が下肢から響き、臀部へと零れ落ちた。
「あッ・・・あァッ、んぐっ・・・なん、へん・・・あっ、ンンッ!」
リディスの口元が動く度、前にある牙の先端が陰核を掠め強い刺激に襲われる。膣内と陰核へ同時に刺激が加わるせいでヴィアは自然と下腹部に力を入れる。ゾワゾワと下半身から沸き上がり無意識に腰が浮きだした瞬間、身体を何度も弾ませ小さな痙攣が止まらなかった。
「イッたか。初めてのくせにヴィアがこんなに厭らしい女とはね」
リディスはヴィアの体液で濡れた口周りを大きな舌でべろりと舐め上げるとピクピクと身体を震わせぐったりするヴィアをうっとりとした表情で見下ろしていた。
「はあ、はぁ・・・、ち、が・・・」
仕事での疲れとは全く違い、初めて感じる身体中を支配する気怠さと痺れのせいで涕でぐちゃぐちゃになった顔を手で拭う元気さえも残されていなかった。
「そろそろ俺もキモチ良くしてくれ」
抵抗出来る力を持ち合わせていないヴィアは、だらりと伸びた両脚の膝を掴まれると左右に大きく開かされた。リディスはごくりと生唾を呑み、屹立し凶暴化した自身の逞しいモノを濡れ光るヴィアの秘部の中へ割って入ると上下に何度も擦りつけた。時折、気持ち良いのかリディスから小さく婀娜めく声が洩れ恍惚な表情で自身を扱いた。
目的の場所で動きがピタリと止まるとだらだらと溢れ出る膣口にモノの先端を宛がう。
「んっ・・・はっ・・・狭・・・いッッ・・・くっ」
「痛・・・っい・・・リ・・・んっ、や、挿れちゃ、んッ!痛いッ・・・ひっ」
モノが大きすぎて中々前へと進めず拒まれているような気分になったリディスは、泣きながら止めてくれるよう懇願するヴィアを無視し己の欲望を無理矢理彼女の身体に打ち付けようとしていた。
先端部分がずずず・・・と膣口を大きく拡げ挿入り込み、その行為によって更に激痛が襲ってきた。
「も、うやだーッッ、うぅッ、こわいッ・・・よぉ、ひぅッ・・・はっんッ・・・ひッ、ひっ」
初めて自身の身体が下肢から真っ二つに裂けてしまうような感覚を味わったヴィアは、恐怖と激痛から限界の糸がプツリと切れパニックを起こし幼児のように大声を出しながら泣き叫んだ。
ここまでの感情を出した見たことのないヴィアの姿を目の当たりにし正気に戻ったリディスは、膣口付近を圧迫していた先端部分を急いで引き抜いた。
「俺は・・・なんて、ことを・・・すまないっ!ヴィア・・・こんな泣かすつもりはなかったんだ。ただ・・・ただ・・・お前の傍にずっといたかっただけなのに」
我に返ったリディスは、覆い被さっていた自身の上体を起こしヴィアを引き起こすと力いっぱい抱き締めた。理性を取り戻したリディスはいつの間にか元の人間の姿に戻りいつもの見慣れた姿になっていた。
「すまない・・・すまない・・・」
何度も何度も唱えるようにヴィアに贖罪を乞う。先ほどまでの激しさから一転、弱々しく身体を震わせ声を詰まらせた。リディスの見たことのない姿に少しずつ落ち着いてきたヴィアは、腕を背に回し赤ん坊をあやす様に背中をテンポよく優しく叩いてあげた。
「もういいよ。いつものリディスに戻ってくれたから。私は大丈夫だからもう泣かないで。でもだめだよ、あんな綺麗な女性泣かせることしちゃ」
「綺麗な女性・・・誰のことを言ってるんだ?」
抱き締めていた手を緩めヴィアを見据え首を傾げ放心した表情をするリディスに、誤魔化しているのかと感じヴィアは軽く睨んだ。
「前に見たの・・・隠れるようにリディスとどこかの令嬢が逢引しているところ。他の人にあんな表情を出すリディス見たことなかった・・・正直哀しかったけど、貴方が心に決めた女性なら私は応援しようって思ってる」
泣きそうになるのを歯を食い縛りながらグッと堪え微笑んだ。それでも尚、リディスはキョトンとした表情で考え込み何かを思い出したかのように声をあげた。
「俺が気を許した表情で喋るとしたら・・・クラディス家の令嬢。・・・・・・なるほどそういうことか」
一人納得し解決してしまったリディスを怪訝な表情で見つめていると、先ほどとは全く違う見慣れた優しい笑顔を零しヴィアの頬に指先でそっと触れた。
「これはまだ正式に発表してない手前、俺の口から言うのは躊躇うんだが、ヴィアに誤解を生んだままは嫌だし言うよ。実は、彼女はクラディス家の三女のベリーナ嬢で・・・兄の恋人だ」
「クラディス家ってあの公爵家の!?そんな凄い方が・・・んっ?兄の恋人って・・・セルディア兄様!?」
あまりに衝撃的な内容について行けず眩暈を起こしそうになった。
「兄とベリーナ嬢はアカデミーの同級生でね、周りには内緒で交際していたんだ。兄が騎士団に入ってからは遠征や公務で忙しくて国を離れることが多くなって。だから、俺が渡せる環境がある時は彼女が書いた手紙を兄に直接届けていたんだ。内容は検閲官に見られたくなかったらしくて・・・規律違反になるからこっちも命がけなのに二人ともこき使ってくれて」
リディスは、はあー・・・と呆れから大きな溜息を吐き滅入るような表情をしていた。
「そうだったんだ、だからあんな安心したような表情を」
「まあ、いずれは義姉になる女性だから無意識に家族と話すような表情になっていたのかもしれないな。俺たち家族は何となく兄から聞かされていたが、戦地から戻り次第、正式に発表する予定だったんだ・・・。それなのに以前酔った勢いでヴィアの親父さんにチラッと口が滑ったらしくて・・・嬉しいのはわかるが、困ったもんだ」
(・・・ってことは、前に叔父さんが言ってた話はリディスではなく、セルディア兄様のことだったんだ。きっとお父様も酔ってたからちゃんと話しを聞いてなかったのね)
ヴィアもリディス同様、呆れ嘆息を洩らしていると再びリディスに強く抱き締められ彼の胸元に顔を埋める体勢になった。
「ヴィアが見合いをしたって聞いて頭に血が上った。それと同時に頭にもきた。幼い頃の約束を破られて・・・俺は約束を守るため弱かった体を鍛えた、王宮騎士団にも入った。それなのにヴィアは・・・。俺のことなんてどうでもよくなったんだって思った。・・・ヴィアが成人するのを俺がどれほど待ち侘びていたか今まで気付きもしなかっただろ」
哀し気な声色が胸元から伝わり、頬を寄せるヴィアはキュッと心臓が締め付けられた。
「じゃあ、なんで私の誘いを断ってたの?近づいたら離れるし・・・あんな態度されたら」
「確かにそうだな・・・。仕方なかった。さっきも言ったが匂いが・・・ヴィアから漂う香りが理性を崩壊させるんだ。そうならないために鍛錬していたはずなのに」
「え?私、なんか臭いの!?」
リディスの言葉に咄嗟に胸元から距離をとりショックな表情をしながらくんくん、と自身を嗅いでいると上から噴き出す笑い声が降ってきた。
「違う、違う。そういう匂いじゃなくて・・・んー、フェロモンみたいなもんだな。ヴィアの近くにいるだけで欲情しそうになって、少しでも人通りがある時間帯なら自制も出来るが流石に二人っきりになったら・・・。ヴィアが大人の女に近づけば近づく程、正直限界だった。俺も男としての機能が発達するにつれ獣人の力を抑えるのに必死で。医院長には無理を言って強めの薬を処方してもらうこともあったな」
「いつも診察してたのは獣人の力を抑えるためってこと?てっきり持病薬を処方してもらいに来てるものだと」
リディスは小さく頷き虚ろな表情を向けヴィアの乱れた髪を手櫛で直し頭を撫でた。
「持病は、とっくに完治している。隠している手前そういうことにしてあっただけだ。それより・・・本当にすまなかった。こんなことならないために鍛えていたのに水の泡だ。嫌われても仕方ないとは頭ではわかっているが・・・そうなったら俺は」
力なく笑うリディスにヴィアは彼の胸元に再び飛び込んだ。
「・・・こんなことをして言うことではないが、ギリギリ見合い相手を裏切らせることにならずに済んで幸いだった。もしあのまま無理やりヴィアを犯していたら誰も幸せにはなれなかった」
あ・・・ヴィアは見合いの話しを断っていることを知らせていないことに気付き、慌てるようにリディスにそうなった経緯も一緒に伝えた。
「ってことは、俺は自分で自分の首を絞めていたのか・・・自業自得だ。はあ・・・」
リディスは何度も自分の不甲斐なさに怒りと情けなさに卑下を繰り返し呟いているとヴィアは軽くキスをした。
「ヴィっ!?」
「それは私が成人するまで、しっかりと大人になるまで待っていてくれてたってことでしょ?手を出そうと思えば出せたのにずっと我慢して。何も知らなかったとは言え・・・私、リディスにたくさん我慢をさせていたのね。ごめんなさい」
「それは違うっ!俺が甲斐性がないだけであって」
互いに互いを庇い合う態度に同時に含み笑いが零れ大声で笑い合い口づけを交わした。
「でも、本当に良かった。もしヴィアが結婚でもしようものなら俺はきっとお前を・・・いや、何でもない」
何となく語尾の言葉に恐ろしさを感じ取り身震いしたヴィアは、敢えて触れないでおこうと心の中で思案した。
「それよりっ、体調は大丈夫なの?」
「あー、あれは演技だから心配ない。・・・とは言っても寝不足は本当だ。お前が見合いなんて言う衝撃ワードを投げてきたせいで寝れなかったのは事実だ。・・・だから今夜は朝まで看病してもらうぞ」
「リ、リディス・・・み、耳が・・・」
全身ではないが、一旦元に戻ったはずの獣耳がぴょこんと顔を出し薄っすら瞳の色が変わり始めていた。
「大丈夫だ。今は自我があるから暴走はない、完全体にはならないよ。それにさっきよりは小さいからヴィアがリラックスすればすんなり挿入できるだろう」
「え?いや・・・ちょっと待っ、ひぃッ」
再びベッドに押し倒されたヴィアは、リディスに唇を塞がれた。先ほどの食べられる感覚はないが、また違った感覚で貪られ脳内がとろんと溶けるような刺激に襲われる。
熱く厚みのある舌が咥内を蠢きヴィアの舌へ絡みつく。
「もう・・・いいか?先ほどお預けをくらったせいで下半身がおかしくなりそうだ」
ヴィアは、肩で息をしながら汗でしっとりとしたリディスの胸元の皮膚に触れ小さく頷いた。リディスは片手で張り詰めた竿を持ち、膨らみ硬くなった先端を濡れた膣口へ口づけするようにピタリと張りつけた。
「さっきよりはマシだと思うが、やはり痛いか?力をかけると痛みが増すから力を抜け」
「いーーーっ・・・うぅッ・・・んんッッ」
本当に先程よりもマシなのか?と思う程、ほとんど変わりない激痛と大きな異物がメリメリと引き裂くように膣肉をかき分け貫いてゆく。思わずはしたない声をあげぎゅっと目を閉じ下唇を噛み締める。
(世の中の女性はこんな大変な思いをして愛する男性を受け入れているの!?)
「いっ・・・!」
「あ、アッ・・・ご、めんな・・・ンッ」
「ああ、気にするな。お前の痛みが少しでも楽になるなら傷の一つや二つ造作無い。逆に嬉しいくらいだ」
リディスの腕の皮膚にヴィアから力強く掴まれた手の爪が食い込むと薄っすら血を滲ませたが、全く気にすることなく律動する。はっ、はっ、と息を荒げ小刻みに腰を動かし膣内へと穿ちながらリディスは愉し気な表情でヴィアを見下ろしていた。
目いっぱい拡げられた膣内はリディスのモノでぴたりと埋め込まれ、時折収縮し締め上げられるたびリディスから婀娜めく声が上がり膣内でピクピクと痙攣するのが伝わった。
「本当に俺はどうしようもない男だな。ヴィアが苦しんでいるのに何故か心が躍るんだ。俺で啼かされているんだと思うと下半身が熱くなる」
「ひっ・・・んうッ・・・ん」
それってもうただのヘンタ・・・と脳内で浮かぶもヴィアは正直それどころではなく律動のたびに身体を揺さぶられ嬌声しか出せなかった。
「何も隔てるものがないと理性が飛んで行ってしまいそうだな・・・んっ、はっ・・・」
厭らしい声が上から降ってきたと同時にヴィアはふと我に返った。
(・・・あれ?普通こういった行為をする時は赤ちゃんが出来ないよう男性器に膜のようなものを付けるって・・・そんなもの持ってないし着けてなかった・・・よね?)
「やっ、ちょっちょっと止まって、止まって!このままじゃ大変なことになっちゃうからっ!!リディス!お願い!一旦抜いてっ」
ヴィアは現実に戻され今のこの状態はかなり危険なことを察知し再びリディスに行為を止めてもらうよう懇願した。
「大変・・・あー、大丈夫だ。そもそも、先ほどヴィアの家族には俺の気持ちをしっかりと告げてきた。だからもしそうなっても大丈夫だから気にしなくていい」
「ふぇっ?あ、待っ・・・そんな・・・動いちゃ・・・あっ」
太く長い大きな塊がぐぷぐぷと卑猥な粘着音をさせ膣内で抽挿し壁を擦られるたび身震いし痺れに襲われた。根元まで咥え込むと最奥にある子宮口にあたり更に刺激を与えられ身体が勝手に仰け反った。
「あー、気持ちいい・・・こんな快感初めて味わう。ずっとヴィアの膣内に埋めていられればいいのに」
「あ、やっ!おかし・・・ひっ、なんか・・・へ、ん・・・んッ、あぁッ、あッ」
リディスは何度も締め付けるように収縮する膣内に耐えながら激しく腰を打ち付け律動を繰り返す。ぱんぱんと皮膚を打ち付ける破裂音と共に迫り上る快感が脳天まで一気に突き抜けた瞬間、ヴィアは大きく身体を痙攣させ意識が遠のいてしまった。
「俺も・・・もう、はっ、イ・・・でる・・・あっ、射精る、イクっ、んくッ!!」
開いた子宮口に宛がうように脈を打ち膨らんだ鈴口部分から大量の熱い白濁が子宮内目掛けてびゅるびゅると注ぎ込む。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
荒い息を整えながらリディスは、いまだ衰えない自身を名残惜しそうにヴィアの膣内からゆっくり引き抜くと、膣口からどろりと白濁が零れ落ち尻に伝う。その様子にごくりと喉を鳴らすも気絶してしまったヴィアにこれ以上の無理は出来ないと観念し歯を食い縛りながら耐えていた。
「まあ、先は長いんだ。今はこれで我慢するよ」
隣で気絶し眠るヴィアを起こさないようにそっと優しく口づけするとリディスは彼女を見つめながら嬉しそうに尻尾をパタパタと靡かせていた。
「うぐっ、看護師の、ひっく、おねえ、ちゃん、あ、ありがと、ひっ」
ヴィアは、すり傷を負った尻尾に軟膏を優しく塗ってあげた。痛さから半べそをかいている小さな女の子に微笑むと安心したのか女の子も笑顔を返してくれた。
「何かあったらいつでもおいで」
ヴィアは女の子の目線まで屈むとエプロンの外ポケットに入れてあった小さなキャンディを小さな手に包むように渡すと嬉しそうに受け取り早速口の中へと放り込んでいた。
「うんっ!ありがとうっ!」
処置も終わり機嫌が直った女の子を見送るため診療所の外まで出ると、近くにある大木の隙間から女の子と同じくらいの背丈の男の子が此方をチラチラと様子を見るようにヴィアたちの方へ視線を向けていた。
(あの男の子は・・・)
女の子は男の子の存在に気付くと怯えるようにヴィアの背後へとすぐさま隠れてしまった。その状況から女の子に怪我を負わせた子だと察知したヴィアは、その男の子の側まで近づき両手を腰に当て威嚇するよう見下ろした。
「女の子に意地悪しちゃ駄目でしょっ!」
「わっ!?・・・ちょっ、ちょっと尻尾触っただけなのにすげー勢いで怒ってきたから・・・つい」
「キミは人間だからわからないかもしれないけど、半獣人だけじゃなくて動物の尻尾には神経があって掴まれたり引っ張られると痛いの。だから優しくしてあげて欲しい」
「・・・うん。なんか動きが可愛くて、つい触っちゃったんだ。別に意地悪しようと思ったわけじゃないんだ」
怒った女の子から受けたと思われる頬にできた引っ掻き傷を見つけたヴィアは、男の子の目線に合わせるようにしゃがみ絆創膏を貼ってあげた。いつまでも気まずそうな表情の男の子に女の子同様ポケットからキャンディーを取り出し手渡した。
「・・・カイくん、さっきはお顔引っ掻いちゃってごめんなさい」
女の子はおずおずと近づくと男の子の頬の絆創膏を見つめ申し訳なさそうに謝ってきた。
「ううん。僕こそ、しっぽに怪我させてごめんなさい」
(可愛らしいな・・・私もこんな時があったな)
小さな二人は仲直りをすると笑顔が戻り、ヴィアもその光景に微笑ましく心を和まされた。女の子がヴィアに礼と別れを告げると二人は手を繋ぎ仲良く家路へと帰って行った。
「ヴィア、お疲れ様。仕事はもう終わったか?」
二人を見送りヴィアが診療所へ戻ろうと踵を返した刹那、背後から聞き慣れた優しい男性の声が耳に伝わりすぐさま振り返った。
生成り色の麻のシャツを羽織り、長身の青年がヴィアに微笑みながら近づいてきた。
「お疲れ様。リディスも今日は終わり?」
「ああ。今日は朝から近々隣国への公務のため第一王子の警護の件と戦地にいる第二王子が率いる部隊の近況報告の会議だけだったから早々に終わったよ。ただ、ずっと座りっぱなしだったせいで尻が痛かった」
「ふふ、それはお疲れ様でした。大変だったね。それより今日は宿舎じゃないのね」
「今日は下の弟、サリルの誕生日だからな。それよりさっきの女の子・・・半獣人か、珍しいな」
リディスは先程去って行った女の子を思い出しポツリと呟いた。
「うん。学校でも習ったけど獣人は既に絶滅してるし、その名残りの遺伝子を持つ半獣人もここ数百年くらいで減少してるからね」
「そうだな。王宮図書館にある古文書によれば、昔は理性が効かず人間を襲う獣人もいたらしいしな。今は人間の血の方が濃くなったせいもあって獣人がらみの事件は少なくなったけど」
ヴィアがいる世界は人間と獣人が共存し互いに尊重し合う社会となっていた。ヴィアたちが生まれるずっとずっと昔は獣人たちが半数を占めていたが、当時疫病が流行。人間、人間と獣人の混血種には何の影響もなかったが、純血種の獣人たちには影響があり、その病魔が原因で絶滅の一途を辿ることとなった。
「それより仕事の方はもう慣れ、うッ・・・」
「どうしたの、大丈夫!?」
リディスは急に鼻と口の辺りを自身の手で覆い背中を丸め一瞬苦し気な表情を浮かべた。ヴィアが心配そうに身体に触れようとした瞬間、彼は拒絶するように片方の手を前に出し頭を左右に振り心配ないことを表現した。
「・・・大丈夫だ。今日は慣れない会議で少し疲れたのかもしれない。もう落ち着いたから心配するな。それより暗くなる前に帰ろう」
リディスの言葉でヴィアがふいに天を見上げると少し前まで薄青い空も気付けばオレンジがかった暗闇へ変化していた。リディスに軽く急かされたヴィアは診療所から自身の荷物を取りに一旦入りすぐさまリディスの元へと戻って来た。
「ほんとに大丈夫?辛かったら診療所で少し休む?」
「いや、もう大丈夫だ。遅くなると皆心配するから急いで帰ろう」
先程まで苦し気な表情を見せていたリディスだが、回復したのかいつもの雰囲気に戻り、その姿にヴィアは安堵した。
ヴィアとリディスは幼い頃からの付き合いで三つ違いの幼馴染。リディス・シャル・シスフェルは侯爵家の次兄にあたり、彼の兄は現在第二王子を護衛する第三騎士団副団長として戦地へと赴いていた。ヴィアの家は高い身分の貴族ではないが、母親同士が幼馴染で昔から仲が良かったこともあり交流があった。
シスフェル家は広大な領地を所有しているが、傲慢さは全くなく領民思いで非常に慕われた侯爵家であった。それは、息子たちも同じで彼の兄もリディスも品行方正、文武両道、眉目秀麗・・・どの言葉も当てはまる程の人間性で華があり非常に人気があった。
性格的には兄は物腰柔らかい中世的な性格。弟のリディスは基本優しいのは一緒だが、硬派で真面目な性格、少し不器用なところがまた良いと令嬢たちを虜にしていた。
そのことから彼らが社交界に顔を出そうものなら会場内全ての令嬢たちからは恍惚とした眼差しを向けられ、肉食令嬢たちからは猛アピールをされる始末。優雅な社交界が気付けば戦場なみになることも屡々・・・。そんなことがあったせいかは不明だが、二人ともそういった華やかな場に出るのはなるべく避けているようだった。
そんなリディスをヴィアは幼い頃から兄のように慕い、いつしか恋心が芽生えるも全く相手にはされていないのは年齢を重ねるにつれ身に染みていた。それでも、果敢に挑むも・・・。
「あのね、リディス・・・騎士団のお仕事が休みの時にでも一緒にセントール庭園に行かない?夜なんだけど期間限定でライトアップされてるらしくて。今若い女の子たち・・・カップルの間でも人気があるみたい」
「夜は・・・。昼間なら休憩中に少し出れるが」
「ライトアップだから昼間じゃ意味ないと思うけど・・・」
「はは、確かに。まあ、俺はそういうのわからないし時間も合わないしな。友人と行って来たらいいんじゃないか?その周辺は夜でも安心な地区だし出歩いても問題はないだろうが、なるべく人通りがあるうちに家へ帰るんだぞ。もし何かあれば宿舎に連絡してくれ。迎えには行ってやれると思うから」
まるで、父親のような言い方に自分を一人の女性として見ていないことは会話の端端で伝わった。
「・・・そっか、リディス忙しいし仕方ないね。無理言ってごめんなさい」
少し泣きそうになるのを堪えながら誤魔化すように笑みを向け、空元気を振り撒きながらリディスと一緒に家路へと向かった。
――――――――――
「ヴィア、おはよう」
「おはようございます、医院長」
診療所に着いたヴィアは開業医で叔父のジアースに挨拶をし、早速仕事着へと着替え開始準備を始めた。ヴィアの世界では16歳になると成人とみなされ働くものや教養などを身につけるためのアカデミーへ通うものなどに別れたが、後者はどちらかと言うと身分の高い貴族などが主でヴィアのような身分のものたちはほとんどが働く選択肢を選ぶことが多かった。
数カ月前に16歳になったヴィアは、まだ職に付いていなかったこともあり丁度産休を取っている看護師に代わり見習い雑務要員として叔父の診療所で数カ月前から働かせてもらっていた。
「ヴィア。朝からすまないが、騎士団施設内にいる医療部隊宛に医薬品を届けてくれないか?戦地で必要らしく急ぎのようだ」
ヴィアが了承すると大きな箱に入った医薬品類を手渡され、早速向かう準備を始めていると叔父が改まった表情で訊ねてきた。
「ヴィア・・・その最近、兄さ・・・お前の父親から何か聞かされたか?」
急に理解不能な質問をされ、ヴィアがきょとん顔で何も聞いていないことを伝えると目頭を押さえ小さく溜息を吐いた。
「そうか・・・まあ、お前の気持ちを考えるとな。・・・準備の手を止めてすまない、気を付けて行って来てくれ」
「はい・・・行ってきます」
(・・・?)
歯切れの悪い叔父の言葉に首を傾げ怪訝な表情で大きな箱を抱えると早速王宮内にある施設へと向かった。
王宮敷地外にある門へと向かい門番に使いに来たことを伝えると敷地内へ入る許可を得た。ヴィアのような身分のものが基本入ることが許されない場所なため、不審がられない程度でキョロキョロと辺りを見渡していると遠くから訓練中の騎士たちの姿が目に入った。
(偶然リディスに会えないかしら。最近、忙しいのかなかなか会えないし)
そんな淡い気持ちを持ちつつも叔父に頼まれていた荷物を騎士団が管轄する医療施設へと向かっていると手入れされた木々の中、騎士と令嬢らしき女性が隠れるように密会している姿を目にしてしまった。
(こんな朝早くに)
ヴィアは羨ましさ半分、呆れ半分の表情で視線を向けるとそこには優しく微笑むリディスと煌びやかな雰囲気を纏わせた令嬢が懇ろにしている姿を垣間見てしまった。
「え?・・・」
それは誰が見てもお似合いで・・・自分では到底手に入れられるようなものではないことをまざまざと思い知らされた気分だった。
その後、どうやって施設から帰って来たのか、その日何をしたのか全く覚えがないような状態で気付けば夕方になり診療時間は終わっていた。
(いつの間にかこんな時間に・・・。手元に荷物がないってことはちゃんと渡して戻って来たのね)
心ここにあらずの様子で帰宅の準備を始めていると叔父に呼び止められ診療室へと招かれた。
「今日は朝からすまなかったな。少し話したい事があってだな・・・その・・・ヴィアがリディスから今言うことを聞かされてるかは不明だが、もし聞かされていないのなら他人からワンクッション挟んで聞いた方がショックが少ないかと思って・・・。勿論、私が言うことではないのは承知なんだが・・・。実はな、リディスには既に心に決めた女性がいるらしんだ。それがあって最近は社交界にも顔を出さなかったらしい。近々、その女性に求婚すると・・・数日前、リディスの父親が酒の席で兄さんに内密話として言ってたらしくてな。お前の父親も私もお前がリディスを兄以上の気持ちで慕っていることは見るからにわかっていたから・・・」
言葉を選びながら心苦しそうに話す叔父の話しを聞きながら今朝見た光景を思い出しヴィアは下唇を強く噛み締めた。次の瞬間、叔父に笑みを向けるとヴィアは気にしていない素振りを見せる。
「やだなー叔父様、気にし過ぎよ。・・・そうなんだ、その話は知らなかったわ。確かにリディスに恋心は抱いていたけど向こうには全く相手にされてないし自分でも不釣り合いなことはこの歳になって充分理解しているつもりよ。彼の身分や将来的な地位を考えたら同等身分の令嬢が傍にいるのがいいと思う。だから、そんなに気にしないで。ふふ、私よりも今の叔父様の方が辛そうで心配だわ」
「・・・そうか、お前がそう思ってるならいいんだ。兄はお前の哀しむ顔を見たくないからなかなか言い出せずにいたみたいだな。私も可愛い姪が辛い想いをするのを見たくはないんだ。私は独身だが、お前を娘のように幼い頃から可愛がってたつもりだ。幼い頃の二人を知ってるだけに複雑でな・・・本当だったらお前たちが・・・・・・いや、何でもない。引き留めてすまなかった。気を付けて帰りなさい」
「はい」
叔父の心苦しさが伝わり、それ以上の言葉が出なかったヴィアは再び帰り支度を済ませ外へ出た。暑かった夏がようやく終わりを告げ、夕風が少し肌寒く感じ左手で右腕を軽く擦った。
『僕ね、おっきくなったら体強くなってヴィアを護れるようなかっこいい騎士になるから!だからずっと僕の傍にいてね!絶対離れちゃダメだよっ!!ヴィアは僕のお嫁さんになるんだからね!約束だよっ』
『うんっ♪約束するっ!』
(自分で言ったくせに・・・嘘つき)
ヴィアは幼い頃の約束を信じていたが、大人になるにつれ現実的ではない口約束に何の効力もないことは頭ではわかっていた。事実、今のリディスの態度は自分に全く気がないのも伝わっていた。それでも、もしかしたら・・・という甘い感情が消しても消しても生まれヴィアを縫い留めていた。
それも今日見た出来事、叔父の話で見込みがゼロなんだと突きつけられどこか吹っ切れた部分もあった。囚われていた呪いの言葉の毒牙が身体から抜け落ち軽くなった分、どこか空虚で虚しさが生まれ複雑な心内にヴィアは苦笑いを浮かべた。
☆☆☆
「ヴィア、お父様がお呼びよ」
家に戻りしばらく放心状態でベッドに横になっていると、母親の声に呼ばれ応接間で座って待つ父親の向かいへと座った。
「疲れているとこすまないな。・・・ヴィア、お前ももう16になった。そろそろ・・・その・・・相手をだな」
口籠りながら歯切れ悪く話す父親が何を言いたいのか察したヴィアは、真っ直ぐ見据えニコリと微笑んだ。
「そうですね。私も成人した身ですし、叔父様の職場も産休中の看護師さんが戻ってくれば用済みになります。そういったお話をお受けするにはそろそろ良い機会になりますね」
「そ、そうか!ヴィアがそう言ってくれるなら・・・実は、父さんの知り合いの息子さんで――――」
父親との会話が終わり、部屋へ戻るとすぐさまベッドへダイブした。今日は色々なことが起こり過ぎて片頭痛を拗らせてしまい、以前鎮痛剤として処方してもらった粉薬を口に含んだ。
「笑って“おめでとう”って言えるかな。向こうは・・・もし私がお嫁に行ってもきっと笑って言うんだろうな」
ヴィアは、今朝の幸せそうに微笑むリディスを想い出すと目元がカッと熱くなった。
雫がポロポロと止めどなく溢れ出し寝具を濡らすと濃く大きな濡れ染みを広げていた。
――――――――――
「おはよう。なんかすごく久しぶりだね。いつもの注射?」
あの日から数週間が経ち、ヴィアが診療開始前に外掃除を済ませていると前からリディスが笑顔で手を振り近づいてきた。
「おはよう。ああ、今日は診察日だから。本当はもっと早く診てもらいたかったんだが、戦地からの救援物資を頼まれて俺らの部隊がそれを届けに行ってたからなかなかこっちに寄れなかったんだ。思ったよりも長丁場になりそうで兄の様子も気になっていたが、案外元気そうで逆に発破をかけられて帰って来たよ」
やれやれといった表情でリディスは大きな溜息を吐き出した。
「それより少し見ない間に痩せたか?」
誰も気付かなかったヴィアの些細な変化をリディスに当てられ心臓がチクリと痛んだ。気付いてくれたことへの嬉しさ、逆に何故そんな些細なこと気付くんだというもどかしさが入り乱れ複雑な心境になった。
「うん・・・ちょっと今ダイエット中なの」
「ダイエット、って・・・「リディス、おはよう。準備は出来てるからもう中に入っていいぞ」
リディスが話しをしている最中、遮るように叔父が出入口の扉から顔を出し入るよう手招きした。リディスは今の体型から想像すらつかないが、幼い頃は線が細く彼を知らない人が見れば女の子とよく間違えられるほどだった。体も弱く、すぐ体調を崩すため当時開業したての叔父の診療所で世話になることも屡々だった。その名残りで持病が再発しないよう大人になった今も定期的に注射投与や処方薬を貰いにやって来ていた。
「ヴィア、今日は大事な話をしに家へ帰る予定だし、勉強会が終わったら迎えに行くから一緒に帰ろう。・・・あとヴィアにも伝えなくてはいけないこともあるし」
診察が終わり鍛錬所へ向かうリディスを見送りに外へ出たヴィアは、改まって話す彼に以前一緒にいた女性を想い出した。
(そっか・・・正式に話すのね)
下唇を噛み締め、俯きそうになる顔を必死にリディスへ視線を向けると口元を引き伸ばした。
「私もね、話さなきゃいけないことがあって・・・。私、リディスがいない間にお見合いしたの。それでね、今日その人とお食事の約束をしてて。・・・だから一緒には帰れないんだ、ごめんなさい」
「え・・・見合い?」
驚いた表情で固まるリディスだったが、次の瞬間表情が見る見ると変わり凄まじい勢いでヴィアの両肩へ痛みを与えるほど強く掴み押さえた。
「いつの間にそんな話が・・・俺のいない間、何があったんだ!?」
「いたっ!」
「あ・・・悪い。あまりにも想像の範囲を超えた話で驚いてしまって・・・。そうか、・・・おめでとう。俺の話はまた今度にするよ。楽しんでおいで」
両肩を押さえていた大きな手がゆっくりと離れ、リディスは笑顔を向けるも弱々しい足取りでヴィアの元を去って行った。
(何であんな・・・自分だって結婚報告するつもりだったんでしょ)
妹と思っていた存在が急に手元から離れる兄の気持ち・・・というものなんだろう。そう思いながら診療所へ戻るとその声を聞いていたのか周りの看護師や診察に訪れた年配の女性患者たちがニヤニヤしながらヴィアに詰め寄った。
「やだー、ヴィアちゃんおめでとー♪んもうっ、言ってよー。ねえ、ねえお相手はどんな男性なの?」
「えっ・・・えっと・・・」
「ほら、ほら仕事中なんだからねー」
根掘り葉掘り聞こうとする皆を制止させる叔父の声が間に入ってくれたおかげで皆からの追及の難を逃れた。
午前の診療時間が終わり昼休憩となったため一旦診療所を閉める準備をしていると叔父からランチに誘われ近くの食堂へと足を運んだ。
「で、その見合いはどうだったんだ?この前会ったんだろ?」
食事中は他愛もない話をしていたが、やはり気になっていたのか食後の珈琲を飲みながら叔父は改まった表情でヴィアに様子を窺ってきた。
「すごく優しそうな男性だった、でも・・・。実は、このお話はお断りしたの。今後動くことのない気持ちのまま会うのは相手に失礼だなと思って。それに私、この仕事好きだから看護師になれるよう勉強しようかなって思ってるの。そしたら自分で働いて自立できるし、そうなれば未婚でも文句は言われにくいかなって。だから今は恋愛なんてしてる暇なんて私にはないの」
「ヴィア・・・。そっか、わかった。ヴィアの人生だ、お前がやりたいようにやればいいし俺で手伝えることがあればいくらでも協力してやるから遠慮なく言いなさい」
「ありがとう、叔父様」
☆☆☆
(時間潰しに教会図書館で本読んでたらいつも以上に遅くなっちゃった)
午後診察終了後、リディスに怪しまれぬよう帰宅時間を少しズラすため図書館で時間を潰すつもりが、本を読むのに夢中になってしまいいつもよりかなり帰宅が遅くなってしまった。
ヴィアは家に着き玄関扉を開けようとした時、背後から低く鋭い声色で名を呼ばれ恐ろしさから肌が泡立つ感覚に襲われた。恐る恐る振り向くと目を眇め、殺伐とした表情のリディスが足早に此方へと近づいてきた。
「お前の見合い相手は自宅に送ってもくれないのか!?こんな時間に女性を一人で帰宅させるなんてあまりいいものではないと思うが。本当にそんな男と婚姻を結んでいいのか?」
「リ・・・ディス?」
リディスに詰め寄られたヴィアは気迫から身体を強張らせ一歩後退した。恐々としながら彼を見上げると、全身からどす黒い気配を纏わせ思わず息を呑んだ。
「そっ、そんなのリディスには関係ないでしょ」
「関係ないわけないだろっ!大事な幼馴染に何かあったら俺は・・・」
(何よ・・・これ以上搔き乱さないでよ)
ヴィアは歯を食い縛り、握り拳を作るとぎゅっと力を籠めた。
「リディス・・・もう私は子どもじゃないんだから干渉しないで欲しいの。リディスだってちゃんと幸せにしたい女性いるでしょ?私のことは気にしなくて大丈夫だから大事に想う女性に注いであげて。・・・じゃあ、おやすみなさい」
リディスの返事を聞くことなくヴィアは逃げるように家の中へと立ち去った。それ以来リディスは、ヴィアの前に姿を現すことはなかった。定期的に診療所へは来ているもののそれは敢えてなのか偶々か定かではないが、ヴィアの公休日ばかり来院しているようだった。
その間、見合いを断ったせいなのか父親の落胆する姿を見る度申し訳ないと思いながらも、ヴィアは時間がある時は看護の勉強を独学で始めていた。
それから更に数週間が経ち、叔父から借りた医学書を手に帰宅するため診療所を後にした。
(学校に通うためにも早くお金を貯めなくちゃ)
最近少しずつだが、時間がある時に皆からアドバイスを受けたり医学用語など覚えてきたヴィアは、楽しくてしょうがない様子で早く家に帰って勉強しようと足早に家路へと向かっていた。
「ヴィア、おかえり」
「リディス!?どうし・・・って大丈夫!?顔色悪いけど・・・」
夕暮れの中、血の気が引き蒼白い顔色のリディスがヴィアの帰宅する道を塞ぐように立ちつくしていた。
久々に会ったリディスに困惑した表情を向けるヴィアとは対照的に、穏やかな表情を向けるリディスと視線が重なる。
「わっ!大丈夫!?どうしてこんな。どうしよ・・・叔父様を呼ん「待って」
ヴィアに近づこうとした刹那、急にリディスが眩暈を起こしたのか倒れそうになったところを寸前で走り寄ったヴィアによって抱き抱えられた。リディスとの体格差から思わずヴィアの足元がグラつき、逆にリディスに支えられ言葉を遮られた。
「すまない、大丈夫だ・・・最近、ちゃんと眠れてないだけだ。ここから少し歩いたところにシスフェル家が所有するゲスト用宿泊施設があるんだ。すまないがそこまで連れて行ってもらえないか?そこで少し休めば落ち着くと思うから」
少し息が荒くなった180センチある体格のリディスをヴィアは何とか抱え、言われた場所へと向かう。街からどんどん外れていき、鬱蒼とした木々で覆われた道を不安げな表情で歩いてゆく。まだ明るいはずの空模様が木々で隠れ薄暗さが色濃く薄気味悪さから背筋を冷たくさせた。
(・・・ほんとにこんなとこにあるの?)
不安げな様子で兎に角案内を受けるがまま進むと重厚感のある立派な洋館が現れた。年代を感じさせる外観だが立派な造りというのは素人目線のヴィアにもわかり『さすが侯爵家』と思わせるような造りの建物だった。
「だい、じょうぶ?着いたよ、っと」
無人の屋敷に使用人なんているはずもなく、ヴィアは事前に手渡されていた鍵で玄関扉を開錠すると何とか一階にあった客室へと入りベッドへ寝かせた。向かっている最中、そして今もずっと無言のまましんどそうな表情のリディスを心配そうに見つめながらヴィアは考え込む。
「何もないよね・・・どうしよ。一旦家に帰って何か持ってこようか、それとも街に戻って何か買って来ようかしら」
あれこれ考えながらとりあえず一旦部屋から出ようとドアノブに手を掛けた刹那、背後から目元と口元を同時に塞がれ取り押さえられ動きを阻止された。
「むーーっ、んーーーッッ」
押さえつけられている大きな手を口元から剥がそうと抵抗するも力強く全くビクともしない。
「はあ・・・さっきも我慢するのが大変だったが、やっぱり安心する・・・この匂い」
すんすんと項から肩口付近をリディスに嗅がれ、その度に鼻息がかかり擽ったさから身を捩る。何度も両手を使って抵抗するもリディスは一向に止めてくれず、しまいには舌を耳の縁に這わせ耳朶を舐めしゃぶられた。
「んッーッ・・・ふんッ、んッッ」
(あれ?リディスってこんな毛深かったっけ?それになんかリディスの舌が・・・人間の舌ってこんなに大きいモノなの・・・ん?ん?)
「駄目だ・・・もう限界、抑えられない」
「ふあッ!?」
勢いよくぐるりと向かい合うよう変えられるとすぐさまリディスに貪られるような口づけをされた。・・・いや、貪る以上に
(食べられてない!?私の口っ!)
ヴィアは大きく口を開けさせられるとリディスの大きな舌が咥内に捻じ込まれむしゃぶりつかれた。
キス自体も初めてのヴィアは瞑っていた瞼を恐る恐るゆっくりと開けた。薄暗かった部屋はカーテン越しの隙間から満月が見え、柔らかな月明かりが室内に差し込んできた。そこには、今まで見たこともない欲情するリディスの姿を露わにすると同時にヴィアは自身の目を疑った。
頭頂部付近に二つの耳、前に突き出した鼻と大きな口。その口元からは噛みつかれたら痛そうだなーなんて思う程の鋭く尖った牙が見え隠れしていた。そして180センチもある見慣れた体格より更に一回り大きくなったカラダ・・・。頬辺りから伸びる細くピンと張った白銀の髭と琥珀色の瞳に吸い込まれ思わず魅入ってしまった。
「・・・えっ?狼っ!?ちょっ、なん・・・リディス、獣人だったの!?いや、そんなはずは・・・だって今までそんな姿見たことないし、そもそもシスフェル家は獣人家系ではなかったはず」
「そうだ、シスフェル家は後にも先にも人間の純血種で獣人の遺伝子は入ってない。昔、俺が乗馬中大怪我をし手術したのを覚えてるか?多分あの時の輸血に半獣人の血が混ざってたんだ。しかも普通なら半獣人になるはずが、何故か完全な獣人になれてしまうから困ったもんだよ」
「で、でも、普段は普通だったし・・・こんなことがあればみんな気付くはずなのになんで」
「輸血後、すぐこうなったわけじゃない。実際、俺自身も獣人になるなんて数年前まで気付きもしなかった。ただ、ここまで至るにはあるきっかけがあったんだ」
「きっかけ?」
「・・・匂いだよ。成長期に差し掛かった頃合いから特定の人物の匂いを嗅ぐとカラダが変化を起こし始めた。初めは誰にも言えなかったが、医院長・・・ヴィアの叔父さんにだけ相談したんだ。彼は若い頃、獣人研究をする教授の元にいたのを父から聞いたことがあったからね。それからは、変貌しないよう抑制剤の注射と処方薬で何とか抑えることが出来たんだ」
「んっ、こ・・・アッ、のこと、おじ様たちはご存じ、うンッ、なの?」
「家族は俺が獣人の血が入ってることはまだ知らない。それをこの前伝えようとしたが、それどころではなくなってしまった」
リディスは鼻先をヴィアの首筋に宛がい再び嗅ぎだすと恍惚な表情をし充足感に満たされているようだった。
「本当はもうしばらく言うつもりはなかったんだ。抑制剤もあるし、更に俺がもう少し精神を鍛えさえすればコントロール出来ると思っていた。しかし色んな事があったせいか最近、抑制剤を打っても抑えが効かず暴走しそうになっていた・・・厳密に言えば、普段は問題なかった。仕事をしていれば邪まな感情は忘れられたからな・・・だが」
「んッ・・・やっ、いっ・・・ん」
リディスの大きく長い舌が首元を舐め上げ甘噛みされた。正直、恐怖はなかった。姿が変わっていても微かに彼から放たれる安心するような香りがそのままだったから。それでも、理性を失いかけたリディスから普段以上の力が加わっているためか押さえる腕の力が強すぎてヴィアの身体に痛みが走る。
鋭い爪が何度も衣服生地に引っかかりその度ビリビリと裂ける音が聞こえ、気付けばほぼ裸のような状態になっていた。ヴィアは自身の現状に驚いた表情で彼の顔を見つめると先程の琥珀色から深い赤みがかかり更に煽情的な空気を漂わせていた。
(どうしよ・・・何とかいつものリディスに戻ってもらわなきゃ)
「リ、リディス、こんなことお互いに良くないと思うの。絶対後悔するから止めよ?」
理性を失っているからとはいえ、リディスには心に決めた女性がいる限りこんな状況下で襲えば確実に彼が後悔することは目に見えている。誰も幸せにならないこの行動を何とか抑えてもらおうとヴィアは何度も説得した。
「後悔?初めからそんなもの持ち合わせていたらこんなことはしない。・・・そうだな、もしこのまま俺がお前を犯せば見合い相手とは破談になってしまうな」
不気味な笑みで見下ろすリディスに畏怖したヴィアは声を出せなくなってしまった。
「ふあっ!」
(お、お、お、お姫様抱っこ!?!?)
急に身体を持ち上げられた勢いで変な叫び声をあげてしまいヴィアの頬が一気に熱を帯びた。そんな様子を気にすることなくリディスはヴィアを横抱きに抱え、そのままベッドへと下ろし覆い被さった。咄嗟に逃げ出そうとするヴィアを押さえつけ顔を近づけた。
「怖がるな。直、慣れる」
「んふッ・・・ヴッ・・・ん」
リディスの大きな口から現れた熱い舌先でヴィアの咥内を蹂躙し食される。ヴィア自身、先ほど初めて唇を奪われただけでもパニックを起こしているのにまさか獣人姿のリディスに犯されるとは思いも寄らなかった。
「ふぁめ・・・ふぉんな・・・ん、あっ、んん」
「見合い相手に操でも立てているのか?それは残念だったな。綺麗な身体でもうそいつの元へは戻れないな」
厭らしい笑いをヴィアに浴びせ首筋に甘く牙を立て噛み痕を刻んでゆく。痛みと込み上げる甘い痺れに涕と口端から唾液が溢れシーツを濡らしていった。
「はは、綺麗な痕がついたな。これで俺の物だ・・・ふふっ」
「はッん、んッ・・・あっ、あっ・・・」
引き裂かれた生地からこぼれ出る胸元を大きな手で包み込み揉みしだく。小さな痙攣が全身に伝わり快楽を逃がすようにシーツを力いっぱい握り締めた。
「甘いな・・・ヴィアわかるか?お前の乳首が硬く美味しそうなベリーみたいになってるぞ」
「ふぐッ、んッ・・・うっ・・・」
ぴちゃぴちゃ、わざと大きな音を立てながら先端を舐めしゃぶられ、厭らしい水音が鼓膜に響き耳を覆いたくなった。何度も止めてくれるよう懇願するもリディスは効く耳を持たず行為を止めようとはしなかった。
「もう俺の服もボロボロだな」
自嘲しながらリディスは、裂けてしまった着衣を全て脱ぎ捨て生まれたままの姿になる。人間の姿で何度か彼の上半身裸の状態を見たことはあったがそれ以上の逞しい胸板、腹筋に圧倒されそのまま視線を下げていく。
(おっ!?・・・む、無理、無理、無理ッッ!!!)
今まで大人の男性器を見たことがないヴィアでも規格外というのは漠然とながら感じ取った。
「やっ!だめっ、だめっ!!」
無理矢理ショーツを脱がされたヴィアは抵抗するも全く歯が立たず両膝を広げられ秘部を晒されてしまった。はあ、はあ、と昂奮しているのかリディスは息を荒げ舌を割れ目に沿って舐め上げた。
「ひぃッ・・・あッ・・・あァッ」
「指は爪を整えていないから今日は舌で気持ち良くしてやるよ」
膣口に長く厚みのある舌が這入り込み膣内を蠢いた。奥まで伸びる舌はヴィアがおかしくなる場所まで辿り着くと激しい動きでヴィアを翻弄させた。そのたびに厭らしい淫靡な水音が下肢から響き、臀部へと零れ落ちた。
「あッ・・・あァッ、んぐっ・・・なん、へん・・・あっ、ンンッ!」
リディスの口元が動く度、前にある牙の先端が陰核を掠め強い刺激に襲われる。膣内と陰核へ同時に刺激が加わるせいでヴィアは自然と下腹部に力を入れる。ゾワゾワと下半身から沸き上がり無意識に腰が浮きだした瞬間、身体を何度も弾ませ小さな痙攣が止まらなかった。
「イッたか。初めてのくせにヴィアがこんなに厭らしい女とはね」
リディスはヴィアの体液で濡れた口周りを大きな舌でべろりと舐め上げるとピクピクと身体を震わせぐったりするヴィアをうっとりとした表情で見下ろしていた。
「はあ、はぁ・・・、ち、が・・・」
仕事での疲れとは全く違い、初めて感じる身体中を支配する気怠さと痺れのせいで涕でぐちゃぐちゃになった顔を手で拭う元気さえも残されていなかった。
「そろそろ俺もキモチ良くしてくれ」
抵抗出来る力を持ち合わせていないヴィアは、だらりと伸びた両脚の膝を掴まれると左右に大きく開かされた。リディスはごくりと生唾を呑み、屹立し凶暴化した自身の逞しいモノを濡れ光るヴィアの秘部の中へ割って入ると上下に何度も擦りつけた。時折、気持ち良いのかリディスから小さく婀娜めく声が洩れ恍惚な表情で自身を扱いた。
目的の場所で動きがピタリと止まるとだらだらと溢れ出る膣口にモノの先端を宛がう。
「んっ・・・はっ・・・狭・・・いッッ・・・くっ」
「痛・・・っい・・・リ・・・んっ、や、挿れちゃ、んッ!痛いッ・・・ひっ」
モノが大きすぎて中々前へと進めず拒まれているような気分になったリディスは、泣きながら止めてくれるよう懇願するヴィアを無視し己の欲望を無理矢理彼女の身体に打ち付けようとしていた。
先端部分がずずず・・・と膣口を大きく拡げ挿入り込み、その行為によって更に激痛が襲ってきた。
「も、うやだーッッ、うぅッ、こわいッ・・・よぉ、ひぅッ・・・はっんッ・・・ひッ、ひっ」
初めて自身の身体が下肢から真っ二つに裂けてしまうような感覚を味わったヴィアは、恐怖と激痛から限界の糸がプツリと切れパニックを起こし幼児のように大声を出しながら泣き叫んだ。
ここまでの感情を出した見たことのないヴィアの姿を目の当たりにし正気に戻ったリディスは、膣口付近を圧迫していた先端部分を急いで引き抜いた。
「俺は・・・なんて、ことを・・・すまないっ!ヴィア・・・こんな泣かすつもりはなかったんだ。ただ・・・ただ・・・お前の傍にずっといたかっただけなのに」
我に返ったリディスは、覆い被さっていた自身の上体を起こしヴィアを引き起こすと力いっぱい抱き締めた。理性を取り戻したリディスはいつの間にか元の人間の姿に戻りいつもの見慣れた姿になっていた。
「すまない・・・すまない・・・」
何度も何度も唱えるようにヴィアに贖罪を乞う。先ほどまでの激しさから一転、弱々しく身体を震わせ声を詰まらせた。リディスの見たことのない姿に少しずつ落ち着いてきたヴィアは、腕を背に回し赤ん坊をあやす様に背中をテンポよく優しく叩いてあげた。
「もういいよ。いつものリディスに戻ってくれたから。私は大丈夫だからもう泣かないで。でもだめだよ、あんな綺麗な女性泣かせることしちゃ」
「綺麗な女性・・・誰のことを言ってるんだ?」
抱き締めていた手を緩めヴィアを見据え首を傾げ放心した表情をするリディスに、誤魔化しているのかと感じヴィアは軽く睨んだ。
「前に見たの・・・隠れるようにリディスとどこかの令嬢が逢引しているところ。他の人にあんな表情を出すリディス見たことなかった・・・正直哀しかったけど、貴方が心に決めた女性なら私は応援しようって思ってる」
泣きそうになるのを歯を食い縛りながらグッと堪え微笑んだ。それでも尚、リディスはキョトンとした表情で考え込み何かを思い出したかのように声をあげた。
「俺が気を許した表情で喋るとしたら・・・クラディス家の令嬢。・・・・・・なるほどそういうことか」
一人納得し解決してしまったリディスを怪訝な表情で見つめていると、先ほどとは全く違う見慣れた優しい笑顔を零しヴィアの頬に指先でそっと触れた。
「これはまだ正式に発表してない手前、俺の口から言うのは躊躇うんだが、ヴィアに誤解を生んだままは嫌だし言うよ。実は、彼女はクラディス家の三女のベリーナ嬢で・・・兄の恋人だ」
「クラディス家ってあの公爵家の!?そんな凄い方が・・・んっ?兄の恋人って・・・セルディア兄様!?」
あまりに衝撃的な内容について行けず眩暈を起こしそうになった。
「兄とベリーナ嬢はアカデミーの同級生でね、周りには内緒で交際していたんだ。兄が騎士団に入ってからは遠征や公務で忙しくて国を離れることが多くなって。だから、俺が渡せる環境がある時は彼女が書いた手紙を兄に直接届けていたんだ。内容は検閲官に見られたくなかったらしくて・・・規律違反になるからこっちも命がけなのに二人ともこき使ってくれて」
リディスは、はあー・・・と呆れから大きな溜息を吐き滅入るような表情をしていた。
「そうだったんだ、だからあんな安心したような表情を」
「まあ、いずれは義姉になる女性だから無意識に家族と話すような表情になっていたのかもしれないな。俺たち家族は何となく兄から聞かされていたが、戦地から戻り次第、正式に発表する予定だったんだ・・・。それなのに以前酔った勢いでヴィアの親父さんにチラッと口が滑ったらしくて・・・嬉しいのはわかるが、困ったもんだ」
(・・・ってことは、前に叔父さんが言ってた話はリディスではなく、セルディア兄様のことだったんだ。きっとお父様も酔ってたからちゃんと話しを聞いてなかったのね)
ヴィアもリディス同様、呆れ嘆息を洩らしていると再びリディスに強く抱き締められ彼の胸元に顔を埋める体勢になった。
「ヴィアが見合いをしたって聞いて頭に血が上った。それと同時に頭にもきた。幼い頃の約束を破られて・・・俺は約束を守るため弱かった体を鍛えた、王宮騎士団にも入った。それなのにヴィアは・・・。俺のことなんてどうでもよくなったんだって思った。・・・ヴィアが成人するのを俺がどれほど待ち侘びていたか今まで気付きもしなかっただろ」
哀し気な声色が胸元から伝わり、頬を寄せるヴィアはキュッと心臓が締め付けられた。
「じゃあ、なんで私の誘いを断ってたの?近づいたら離れるし・・・あんな態度されたら」
「確かにそうだな・・・。仕方なかった。さっきも言ったが匂いが・・・ヴィアから漂う香りが理性を崩壊させるんだ。そうならないために鍛錬していたはずなのに」
「え?私、なんか臭いの!?」
リディスの言葉に咄嗟に胸元から距離をとりショックな表情をしながらくんくん、と自身を嗅いでいると上から噴き出す笑い声が降ってきた。
「違う、違う。そういう匂いじゃなくて・・・んー、フェロモンみたいなもんだな。ヴィアの近くにいるだけで欲情しそうになって、少しでも人通りがある時間帯なら自制も出来るが流石に二人っきりになったら・・・。ヴィアが大人の女に近づけば近づく程、正直限界だった。俺も男としての機能が発達するにつれ獣人の力を抑えるのに必死で。医院長には無理を言って強めの薬を処方してもらうこともあったな」
「いつも診察してたのは獣人の力を抑えるためってこと?てっきり持病薬を処方してもらいに来てるものだと」
リディスは小さく頷き虚ろな表情を向けヴィアの乱れた髪を手櫛で直し頭を撫でた。
「持病は、とっくに完治している。隠している手前そういうことにしてあっただけだ。それより・・・本当にすまなかった。こんなことならないために鍛えていたのに水の泡だ。嫌われても仕方ないとは頭ではわかっているが・・・そうなったら俺は」
力なく笑うリディスにヴィアは彼の胸元に再び飛び込んだ。
「・・・こんなことをして言うことではないが、ギリギリ見合い相手を裏切らせることにならずに済んで幸いだった。もしあのまま無理やりヴィアを犯していたら誰も幸せにはなれなかった」
あ・・・ヴィアは見合いの話しを断っていることを知らせていないことに気付き、慌てるようにリディスにそうなった経緯も一緒に伝えた。
「ってことは、俺は自分で自分の首を絞めていたのか・・・自業自得だ。はあ・・・」
リディスは何度も自分の不甲斐なさに怒りと情けなさに卑下を繰り返し呟いているとヴィアは軽くキスをした。
「ヴィっ!?」
「それは私が成人するまで、しっかりと大人になるまで待っていてくれてたってことでしょ?手を出そうと思えば出せたのにずっと我慢して。何も知らなかったとは言え・・・私、リディスにたくさん我慢をさせていたのね。ごめんなさい」
「それは違うっ!俺が甲斐性がないだけであって」
互いに互いを庇い合う態度に同時に含み笑いが零れ大声で笑い合い口づけを交わした。
「でも、本当に良かった。もしヴィアが結婚でもしようものなら俺はきっとお前を・・・いや、何でもない」
何となく語尾の言葉に恐ろしさを感じ取り身震いしたヴィアは、敢えて触れないでおこうと心の中で思案した。
「それよりっ、体調は大丈夫なの?」
「あー、あれは演技だから心配ない。・・・とは言っても寝不足は本当だ。お前が見合いなんて言う衝撃ワードを投げてきたせいで寝れなかったのは事実だ。・・・だから今夜は朝まで看病してもらうぞ」
「リ、リディス・・・み、耳が・・・」
全身ではないが、一旦元に戻ったはずの獣耳がぴょこんと顔を出し薄っすら瞳の色が変わり始めていた。
「大丈夫だ。今は自我があるから暴走はない、完全体にはならないよ。それにさっきよりは小さいからヴィアがリラックスすればすんなり挿入できるだろう」
「え?いや・・・ちょっと待っ、ひぃッ」
再びベッドに押し倒されたヴィアは、リディスに唇を塞がれた。先ほどの食べられる感覚はないが、また違った感覚で貪られ脳内がとろんと溶けるような刺激に襲われる。
熱く厚みのある舌が咥内を蠢きヴィアの舌へ絡みつく。
「もう・・・いいか?先ほどお預けをくらったせいで下半身がおかしくなりそうだ」
ヴィアは、肩で息をしながら汗でしっとりとしたリディスの胸元の皮膚に触れ小さく頷いた。リディスは片手で張り詰めた竿を持ち、膨らみ硬くなった先端を濡れた膣口へ口づけするようにピタリと張りつけた。
「さっきよりはマシだと思うが、やはり痛いか?力をかけると痛みが増すから力を抜け」
「いーーーっ・・・うぅッ・・・んんッッ」
本当に先程よりもマシなのか?と思う程、ほとんど変わりない激痛と大きな異物がメリメリと引き裂くように膣肉をかき分け貫いてゆく。思わずはしたない声をあげぎゅっと目を閉じ下唇を噛み締める。
(世の中の女性はこんな大変な思いをして愛する男性を受け入れているの!?)
「いっ・・・!」
「あ、アッ・・・ご、めんな・・・ンッ」
「ああ、気にするな。お前の痛みが少しでも楽になるなら傷の一つや二つ造作無い。逆に嬉しいくらいだ」
リディスの腕の皮膚にヴィアから力強く掴まれた手の爪が食い込むと薄っすら血を滲ませたが、全く気にすることなく律動する。はっ、はっ、と息を荒げ小刻みに腰を動かし膣内へと穿ちながらリディスは愉し気な表情でヴィアを見下ろしていた。
目いっぱい拡げられた膣内はリディスのモノでぴたりと埋め込まれ、時折収縮し締め上げられるたびリディスから婀娜めく声が上がり膣内でピクピクと痙攣するのが伝わった。
「本当に俺はどうしようもない男だな。ヴィアが苦しんでいるのに何故か心が躍るんだ。俺で啼かされているんだと思うと下半身が熱くなる」
「ひっ・・・んうッ・・・ん」
それってもうただのヘンタ・・・と脳内で浮かぶもヴィアは正直それどころではなく律動のたびに身体を揺さぶられ嬌声しか出せなかった。
「何も隔てるものがないと理性が飛んで行ってしまいそうだな・・・んっ、はっ・・・」
厭らしい声が上から降ってきたと同時にヴィアはふと我に返った。
(・・・あれ?普通こういった行為をする時は赤ちゃんが出来ないよう男性器に膜のようなものを付けるって・・・そんなもの持ってないし着けてなかった・・・よね?)
「やっ、ちょっちょっと止まって、止まって!このままじゃ大変なことになっちゃうからっ!!リディス!お願い!一旦抜いてっ」
ヴィアは現実に戻され今のこの状態はかなり危険なことを察知し再びリディスに行為を止めてもらうよう懇願した。
「大変・・・あー、大丈夫だ。そもそも、先ほどヴィアの家族には俺の気持ちをしっかりと告げてきた。だからもしそうなっても大丈夫だから気にしなくていい」
「ふぇっ?あ、待っ・・・そんな・・・動いちゃ・・・あっ」
太く長い大きな塊がぐぷぐぷと卑猥な粘着音をさせ膣内で抽挿し壁を擦られるたび身震いし痺れに襲われた。根元まで咥え込むと最奥にある子宮口にあたり更に刺激を与えられ身体が勝手に仰け反った。
「あー、気持ちいい・・・こんな快感初めて味わう。ずっとヴィアの膣内に埋めていられればいいのに」
「あ、やっ!おかし・・・ひっ、なんか・・・へ、ん・・・んッ、あぁッ、あッ」
リディスは何度も締め付けるように収縮する膣内に耐えながら激しく腰を打ち付け律動を繰り返す。ぱんぱんと皮膚を打ち付ける破裂音と共に迫り上る快感が脳天まで一気に突き抜けた瞬間、ヴィアは大きく身体を痙攣させ意識が遠のいてしまった。
「俺も・・・もう、はっ、イ・・・でる・・・あっ、射精る、イクっ、んくッ!!」
開いた子宮口に宛がうように脈を打ち膨らんだ鈴口部分から大量の熱い白濁が子宮内目掛けてびゅるびゅると注ぎ込む。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
荒い息を整えながらリディスは、いまだ衰えない自身を名残惜しそうにヴィアの膣内からゆっくり引き抜くと、膣口からどろりと白濁が零れ落ち尻に伝う。その様子にごくりと喉を鳴らすも気絶してしまったヴィアにこれ以上の無理は出来ないと観念し歯を食い縛りながら耐えていた。
「まあ、先は長いんだ。今はこれで我慢するよ」
隣で気絶し眠るヴィアを起こさないようにそっと優しく口づけするとリディスは彼女を見つめながら嬉しそうに尻尾をパタパタと靡かせていた。
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