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第80話 Sランク冒険者【賢者】シュタットガルドの最期②

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「得意は魔法じゃ無いのか? 爺」
「勿論魔法の方が得意じゃが、わしが魔法を使えばこの遺跡程度は全て吹き飛ばしてしまうからの。そうなればそこの農民たちが巻き添えを喰らうのが忍びないで、小僧如きの雑魚相手ならこれで十分じゃ」

 そう言うと、ギースが信者達に向かって命ずる。

「あの爺は、この神域を穢す神罰の対象だ。この世界の現人神あらひとがみたるギースが命ず。爺を殺せ」

 その言葉と共に、この場に居る信者達がにじり寄って来た。
 既にコアクリスタルにより洗脳を行われて自らの意思を失い、ギースのと言うよりはこの古代遺跡の操り人形のような存在となっていた。

(これは…… 厄介じゃな。ギースだけを素早く倒すしかあるまいて)

 シュタットガルドが、その身体にかけた身体強化フィジカルストレングスの効果を最大限に活かし、ギースの場所まで一気に詰め寄ると、四体に分身を施し、その手に持つミスリル製の杖を、一気に振り抜いた。

「どうした? それが全力か? その程度の攻撃でこのホーリークロスの結界が抜けるとでも思ったのか?」
「な……」

「次は俺の番だな。この聖剣『ゼクスカリバーン』の露と消えよ」

 ゼクスの構えた聖剣は、眩い光を放ちながら、シュタットガルドに襲い掛かる。

(…… 遅い。この程度の技量しか持たぬものが、勇者として、この強大な力を制御できるのか?)

 シュタットガルドは全力で魔法による結界を張る。
 その攻撃は…… 結界に阻まれて届く事は無かった。

「いくら武器が優れておっても、それを使うお主がその程度の技量では、『豚に真珠』という所かのぅ」
「なんだと、クソジジイ。パワーを上げればよいだけだ」

 再びギースがコアクリスタルを触りながら、何事かを呟いた。

「どうやら、お主のおかしな能力は、その水晶玉に寄る物らしいな。ではそいつを破壊させて貰おう」

 シュタットガルドがギースに向けて魔法を放った。

『ソニックムーブ』

「先ほどのわしの攻撃で結界の展開速度を見極めた。その『ホーリークロス』の結界は、わしの結界と違って攻撃を感知してからの自動結界のようじゃの。それならば展開速度を上回る攻撃を加えれば良いだけじゃ」

 シュタットガルドの魔法による一撃は、ギースの持つコアクリスタルを直撃したが、その攻撃をコアが吸収する。

 コアが今までより眩く輝き始めた。

「おお、力が溢れるぞ。今ならば聖剣の一撃で爺。お前を葬り去れる」

(あの水晶は…… 恐らく、この遺跡のコアか…… ギース程度の実力ではこの迷宮のコアを御せるとは思えんが…… どうなっておるんじゃ)

 ギースが先程よりも更に激しく輝く、聖剣『ゼクスカリバーン』を横一線に薙いで来たきた。
 その剣筋を見極めジャンプでかわす。

 すると攻撃範囲が10m程にまで伸びていた、聖剣が農民たちを一撃で10人程も切り裂いた。

「な、馬鹿かお前は。何故自分の信者と呼ぶものを簡単に殺せる」
「お前が避けたから当たってしまったんだ。しょうがない。彼らも俺の為に死ねるなら本望だろう」

 更に『ゼクスカリバーン』による追撃が襲って来る。
 シュタットガルドが避けるたびに、農民が傷ついて行く。

 驚いた事に、斬られた農民たちは死ぬと、この遺跡に吸収される様だ。
 このままではどうしようもないな。
 遠慮なしで行くしか無いか。

 シュタットガルドが怒涛の連続魔法攻撃を繰り広げ始めた。
 そのすべての攻撃を、コアクリスタルが吸い込んで行く。

 その度にどんどんコアクリスタルが輝きを増し、既にまともに目を開けない程の状態だ。

 しかもコアクリスタルの輝きが増すたびに、『ゼクスカリバーン』の攻撃距離は増し、素早さも、威力すらっも高まって行く。

(既にジュウベエと同程度までは能力が高まっておるな。ちと不味いか……)

 ギースの攻撃の余波により、既に周りの農家出身者達は殆どが斬り伏せられ、その身体は遺跡に吸収されている。

「ギース。何手間取ってるのよ。早くやっつけてしまいなよ」
「別に正々堂々と試合してる訳じゃないんだから、お前たちも手伝え」

 その言葉と共に農民とは違い、ちゃんと装備の整った一団が戦いに加わって来た。

(いよいよ、ちとヤバいな。出し惜しみは無しじゃ)

【ギガフレア】
【メテオインパクト】
【アブソリュート0】
【アースクエイク】
【ジャッジメント】

 高性能の魔法回復薬をがぶ飲みしながら、儀式級魔法を続けざまに撃ち込んだ。

 だが、その儀式級魔法達ですら、ことごとくコアクリスタルは吸い込み続け、ついにコアクリスタルの表面にひびが入った。

 危険を感じたギースが、瞬間的にコアクリスタルを手放し、地面へと転がり落ちた……

 それと同時にギースが仲間を呼び寄せた。
 ゼクスの側近らしき何名かがゼクスの周りに駆け付ける。

「バネッサ。ゴーレムを有るだけばら撒け」
 
 その言葉に従い、噂の黒曜石ゴーレムを、取り巻きの一人の女が、ぱっと見でも二千体以上を魔法の鞄から取り出した。

「俺達を囲め!」

だがゴーレム達は言う事を聞くどころか、取り出された途端にギース達に襲い掛かった。

「ギース。クリスタル持って無いのに言う事聞くわけないじゃん……」
「なんだと……」

(やはりただの馬鹿じゃったか……)

 そう思った瞬間だった。
 地面に転がったコアクリスタルが限界を超えて大爆発を起こした。

 ゴーレム達も巻き込み、更に爆発は連鎖する。
 結界の中で耐えるシュタットガルドの魔力が段々と底をつく。

(先程の儀式級魔法の連発で、魔力が持たんか…… この程度の雑魚との差し違えでは、メーガンに笑われちまうな)

 遂にはシュタットガルドの結界も失われ、古代遺跡は崩壊しギース達ともども埋もれ散った。

 それと同時に、コアクリスタルが失われたことにより、帝都の皇宮に存在するゴーレムが制御不能状態に陥り、好き勝手に暴れだし、皇宮の外にまで溢れ出した。

 
 ◇◆◇◆ 


「坊や……」
「ん? どうしたメーガン」

「うん。恐らくだけど…… 坊やが死んだわ」
「なんだと? 坊やってシュタット爺ちゃんだろ? そんな馬鹿な」

 メーガンやレオネアが魔導通信を試みるも、繋がる事は無かった。
 続いてメーガンが帝都のギルド本部に連絡を入れる。

「マスター・ボルビック。メーガンです」
「おお。メーガン様。今連絡を入れようとした所です、帝都を、帝都の民をお救い下さい……」

「なに? 一体どうなってるの」
「解りませんが、皇宮から大量のゴーレムが湧きだし、無差別に街を襲い始めました。シュタット翁にも連絡がつかず、帝都が大混乱です。既に警備に当たらせていたAランク達も半数が失われた状況です」

「解りました。すぐ向かいます。あなた方は何もせずに出来れば帝都から一時的な避難をしなさい、こちらはジュウベエとレオネアも一緒に居ますから、到着まで時間を稼ぎなさい」

 俺はその会話で状況を察し、全力で帝都へ向かう為に舵を取った。
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