上 下
59 / 104

第59話 ドラゴンブレス⑫

しおりを挟む
(ギース)

 俺は、この場で高らかにドラゴンブレス帝国の建国を叫んだ。

 だが…… 今一番大事な事は……

 食料が尽きる前に、ここから今この場に居る新人冒険者80名とドラゴンブレスのメンバー9名が果たして脱出できるのかと言う問題だ。

「ねぇギース。どうやって外に出るつもり? それにこのゴーレムって言う事聞くの?」
「ミルキー。俺は誰だ? 俺が望めばそれは必ず叶うんだよ! それがドラゴンブレス帝国初代皇帝ギース・フォン・ドラゴンブレスの持って生まれた運で、それが全てだ」


「なんだかよく解んないけど…… ギースがそう言えば、何とかなる様な気がしてきた」
「そうだろ?」

 今この場に残っているクランのメンバーは

 ミルキー  魔導師
 チャールズ クレリック
 バネッサ  サポート(ポーター)
 ウエールズ 槍術師

 カレン   騎士
 シーラ   魔法騎士
 アンナ   クノイチ
 スーザン  サポート(美容師)

 の8人が残っている。
 ミルキーの所の斥候ミカエルを失った事が惜しいが、バランスは取れているし、何とかなるだろう。

 冒険者予備軍の80人も、みんなまだ若いし体力は十分だろう。
 指示さえ出してやれば、役には立つはずだ。

 使えなければ、肉壁替わりにすればいいだけだしな。
 
「いいか、既にお前たちの命はあのマグマの池の中で一度失ったと考えろ。今この場で生きていられるのは、勇者である俺の加護によるものだ。俺を信じて付いて来い」

「「「「うおおおおおお! ギース様! ギース皇帝万歳!!」」」」

 ふっ簡単なもんだ。

 サポートの二人が持つ魔法の鞄と、冒険者予備軍の80人が持っていた食料を取り敢えず全部出させてみたが、節約しながらだったら二週間は食い繋ぐ事が出来そうだ。

 逆に言えば二週間で脱出手段を見つけなければ全滅の可能性もある。
 どうする?

 冒険者予備軍の奴らを、皆殺しにしてしまえば、二か月程度持たせる事は出来るが、それでは根本的な問題解決には成らない。

 今、やらなければならない事は、ここで作られるゴーレムを支配下に置く事と、ここから脱出する方法を見つける事だ。

 それが出来れば今ここに居る奴らは、みんな俺の手足として忠誠を捧げるだろう。

 俺の帝国の前提条件として、このゴーレムたちを無限に生み出すこの工場の維持も必須だ。

 その問題を全て片付ける起死回生の一手を見つけなきゃな。

「ミルキー。脱出方法を考えてくれ。アンナとチャールズを連れて行ってくれ」
「解ったよ」

「スーザンとバネッサは冒険者と協力して、食事を用意してくれ。腹が減ってちゃいい考えは浮かばないからな」

 意外にまともな指示を出すギースだった。
 この辺りの微妙なバランスの取り方が、仲間に見捨てられる事無くギースの豪運を引き寄せているのだろうか?
 
「残りのメンバーは、俺と一緒にこの部屋の中を探索だ。何か気になる物を見つけても手を触れるなよ。 必ず俺に報告しろ」
「「「了解しました。皇帝陛下!」」」

 そう返事を返されたギースはもう、世界を手に入れた気分になっていた。

 探索を始めたゴーレム工場の中で、集中管理室のような場所があるのを発見したのは、ウエールズだった。

「ギース陛下。この場所で生産状況の管理などを行うようですが、操作方法が解りませんね」
「誰か魔導具に詳しい者はいないのか?」

「一般論程度でしたら、解りますが……」
「それでいい。言って見ろ」

「殆どの魔導具は、魔法陣が刻まれていますので、そこに魔力を流して発動します。大規模な魔導具にはコアクリスタルが装着してあり、そこに同じように魔力を流す事で稼働させると聞いた事があります」

「そうか、この規模なら間違いなくどこかにコアクリスタルがある筈だ。それを探し出そう」

 中々発見出来なかったが三日後には、この集中管理室の良く解らないパネル類を覆うカバーを剝がした中から、コアクリスタルらしき物を発見した。

 ここで製造中のゴーレムは、まだ稼働前の様で襲って来なかった事は幸いであった。

「どうやら、これのようだな。これに触れたらいいのか?」

 そう言った時に、スーザンが「お食事の用意が整いました」と声を掛けて来た。

「ここまでくれば後一息だ。先にみんなで飯を食ってから、みんなが見てる中で、俺がここを支配する瞬間を見せてやろう」

 出口の探索を続けるミルキー達も一度呼びよせて、食事を共に取る事にした。

「凄いね。もう手掛かりを見つけちゃったんだ。流石だねギース。後は出口だけど、これも大体の見当はついたんだけどね」
「本当かミルキー? それなら食事が終わったら、ここを支配してさっさと脱出しよう」

 そう言って、みんなで食事を始めた。

「みんな、もうこの世界を俺が統一するのは決まった様なもんだから、前祝で量は少ないが、俺が持って来ていた酒を振舞おう」

 俺は最高に気分が良かったので、持ち込んでいた酒も全員に分け与えて、これからの明るい未来を祝った。

「でもさ、ギース。ドラゴンブレス帝国を名乗っても最初に支配する国はどうするの?」
「そうだな。一応王国は世話にもなったし、他の国を武力で支配して、友好的に接する判断を王国がするなら、残してやっても良いかもな」

「そうなんだ。じゃぁ最初は?」
「ここからも近くて、8万もの兵を失った帝国を落とす。一応人口も大陸最大の国だし、最初にオルドラ帝国を落とせば、世界征服も簡単だろうからな」

「凄いけど…… オルドラ帝国には1億の民と50万とも言われる兵が居るけど大丈夫なの?」
「その辺りは任せろよ。俺に策がある」

「へー。でもギースに付いて行くって決めたんだから、信じるよ」

 ミルキーとそんな話をしていた時だった。

「ギース・フォン・ドラゴンブレス子爵。残念ですが貴方を王国への反逆罪で告発しなければなりません」
「なっ…… カレン。どういう事だ」

「私達は、元々王国の近衛騎士です。Sランクダンジョンを踏破しそうなギース子爵のクランに潜入調査で訪れていました」
「なんだと……」

「今までの流れの中で、あくまでも王国貴族として振舞っている間は、協力もしましたし、応援もしておりました。しかし王国を裏切る判断を成された以上は見逃すわけには行きません。シーラ。今のうちにこのゴーレム製造工場のクリスタルに触れて、支配権を奪いなさい。私はギース子爵をいえ…… 謀反人ギースを足止めします」

 そう言われたシーラは既にコアクリスタルの前に立っていた。

「シーラ。お前もか」

「ギースが姫騎士なんかに鼻の下伸ばすからだよ」
「ミルキー済まん……」

 次の瞬間、シーラがコアクリスタルに触れた。

「こ、これは…… なる程。これでこの製造工場は王国が手に入れたと同じね。残念ですがギース子爵とは、ここでお別れです……」

 しかし様子が変だった……
 コアクリスタルに触れたシーラの姿は、どんどんその魔力を吸い取られて行ったのか、美しかった姫騎士の姿が老婆の様に成っていた……

 そしてそのままやせ衰えて息絶えた。

 その姿を呆然と見ていたカレンを、クノイチのアンナが後ろから音もなく近寄り、その首筋に匕首あいくちを当て、一気に引き裂いた。

「駄目よカレン? 私はギース皇帝の夢物語に魅力感じたんだから、邪魔しないで!」

 他のメンバーは今の間の出来事に全く頭がついて行かず立ち尽くしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...