上 下
44 / 104

第44話 Sランク達の動向

しおりを挟む
(ジュウベエ)

「ジュウベエ様、指名依頼が届いております」
「めんどくせぇな。断っておいてくれ」

「ジュウベエ様。金額くらい見てからにした方が良いですよ?」
「金は十分あるし、別に構わん」

「そうですか、受注だけで金貨1000枚、依頼完了でプラス金貨4000枚の依頼だったんですが残念です。それに…… レオネア様と会える機会だったかもしれませんよ?」

「何だと? レオネアと会えるなら考えても良いがどんな依頼だ」

 今、俺に指名依頼の事を話しているのは、アケボノ国の東都ギルドで、俺専人の受付嬢をしている『アサミ』だ。

 先日通商連合国で、古代遺跡が探索され、その時に出土した魔導具の【魔導通話機】がSランク冒険者には強制的に持たされた。

 その魔導具を使っての連絡だった。
 
「先日の帝国の王国への侵攻は聞かれてますよね?」
「ああ。勿論だ帝国が10万の兵を出して8万が死んだと言う話だろ? 俺は戦争に関わる気はないぞ?」

「いえ、依頼はヒュドラの討伐です。依頼主は帝国。先日の侵攻の際8万の兵を殺したのが、そのヒュドラだったそうです。帝国が4人のSランク冒険者に対してヒュドラの討伐を指名依頼で出したのです」
「って事は、レオネアだけでなくメーガンやシュタットガルドの爺さんにも話は言ってるのか?」

「その筈です」
「手を組む事はしない。それでいいなら受けてやろう」

「ありがとうございます。今から手付の金貨1000枚をギルド口座に入金しますから、1週間以内に現地の『慰霊の壁』と呼ばれる場所へ向かって下さい。帝国のマクレガー大佐と言う人物から情報を貰って、今では王国領になった現地で活動する事になります」

「解った。他の連中の受注状況は解かるか?」
「シュタットガルド様は既にお受けになられたと伺っております」

「あの爺さんは、いつも酔ってるから、あてには出来ん。すぐ地形を変えてしまいやがるしな」

「他の二名はまだ確認が取れておりません」


 ◇◆◇◆ 


(シュタットガルド)

「わしに、軍の尻拭いを持ってきおったのか?」
「いえ翁。今回の軍の壊滅はヒュドラだと判明しまして、相手が王国軍であれば翁の手を煩わすような事はございませんが、200年前に確認されて以来初めて人前に姿を現したヒュドラの討伐は、冒険者ギルドの管轄だと言われまして。そうであればここは翁に出て頂くしか無いと……」

「適当な事をぬかしおって。他の三人にも声を掛けたんだろう? ボルビック。カレンから聞いておるぞ?」
「念には念をでございます。他の三名は他国からの遠征になりますので、到着に一週間以上は掛かります。翁であればヒュドラに出会えさえすれば、三名が到着する前に依頼を終わらせて頂けるのでは? と思っております」

「戯言を申すな。ヒュドラを見たと言うマクレガーの奴は既に慰霊の壁に行っておるのか? 小僧どもにヒュドラの素材は渡せぬな。出ようでは無いか」

「翁。もう一つご相談が」
「年寄りに余り話を振るな。ボルビック」

「聞き流していただいても構いません。王国のカール村の古代遺跡に、Sランクダンジョン攻略パーティの、『ドラゴンブレス』が向かったと言う情報も入っております。これを攻略すれば奴もSランクに上がって来るでしょう。顔だけでも見ておかれたらいかがでしょうか?」
「ふむ。古代遺跡とヒュドラか。わしの感じゃがこの二つの発生が距離も近すぎるし、無関係とも思えぬな。マクレガーの話の内容によっては、行ってみるかもしれぬ」

「翁。差し出がましいですが、今回の件一筋縄ではいかないようにも思えます。他の三名をうまく使って見るのも翁にしか出来ぬ事と思いますが?」
「状況によっては考えてみよう」


 ◇◆◇◆ 


(レオネア)

「どうなさいますか? レオネア様」
「ヒュドラには興味が湧くなぁ。しもべにする事が出来ればSランクダンジョンであろうと、単独攻略は可能になるかもね!」

「それでは受けると言う事でよろしいですか?」
「ジュウベエは出てくるのかな? あいつしつこいんだよね。結婚しろって」

「お嫌いなんですか?」
「なんて言うかさ。僕ってクールじゃん? ジュウベエは一々台詞が暑苦しくて生理的に無理な感じ?」

「ヒドッ…… ではお断りを?」

「いや、僕はちょっと他に興味が湧く事があってね」
「何でしょうか?」

「まだ確認できてないから今は言えないんだけどね」
「では、受けて頂けるので?」

「カール村の側の古代遺跡。あそこをベッケンに続いて私が解放すれば、もう一生贅沢しても使いきれないくらいのお金になりそうだから、そっちをメインで動いても文句言わないんだったらいいかな?」

「えーと…… レオネア様。一応情報として王国の『ドラゴンブレス』が密命を受けて、調査に入ってるそうですよ? 貴族でもあり今回の作戦地域の領主代行らしいですから、余計な揉め事は控えたほうが」
「ん-…… どうなのかな? そのドラゴンブレスって本当に実力はあるの?」

「解りませんが。Sランクダンジョン『絶望の谷』は彼らのクランによって攻略されたのは事実です」
「クランか…… 大人数なんて僕には無理だな」

「ジュウベエは別として、メーガンには久しぶりに会いたいから、取り敢えず行くよ」
「解りました、参加で返事しておきます。即時で依頼料が振り込まれますので1週間以内に、帝国のマクレガー大佐に接触してください、慰霊壁の帝国側に居る筈です」


 ◇◆◇◆ 


(メーガン)

 ヒュドラ討伐の指名依頼か、あり得ませんね。
 前代のヒュドラの討伐からまだたったの200年。
 復活には後800年は必要な筈です。

 エルフである私は前代のヒュドラの討伐に参加しました。
 それどころか私がこの手で止めを刺しました。

 エルフ以外では既にその事実を知っている人族は、存在しないんですけどね。
 同種のエンシェントドラゴンは、一度死ねば復活に1000年の時が必要な事は、精霊界では一般常識にも等しい情報です。

 一体だれがどういう理由で、そんな虚偽の情報を流したのでしょうか?
 依頼人が帝国だと言う事は、一国を騙せるほどの情報の提供元からと言う事ですが、今は私が動くべきタイミングでは無さそうですね。

 それに、今回の帝国の言い分には全く、共感の余地がありません。
 王国も似たり寄ったりですが、エルフを含めた亜人族の奴隷を正当化する法を掲げる国に、私が協力する理由は全く存在しません。

 勝手に、古代遺跡の発掘を狙って王国に攻め入った帝国が、何者かの逆鱗に触れて壊滅。

 どこに正当性があると言うのでしょうか?

 私が、最低限恩義を感じて指名依頼を受ける事があるとすれば、奴隷制度の完全撤廃を行った、この聖教国の教皇猊下のご依頼であれば、話は伺うかもしれませんが……

 それにまだ年若い者ばかり成れど、現在のSランク冒険者達は、私が冒険者になってからの300年間で最強のメンバーだと言えます。

 彼らが破れるような事があれば、話だけは伺って見ましょう。

 そんな事を考えていると、私の魔導通話機に着信があった。

『はい。メーガンです』
『わしじゃ。シュタットガルドじゃ』

『あら坊や、久しぶりね』
『おい、姉御。エルフ基準で歳を判断するな。60を迎えたわしに坊やは無かろう』

『あなたが私の年齢を追い越せるわけじゃ無いから、いつまでたっても坊やは坊やのままだわ』
『まったく…… 姉御と話すと調子が狂うわい』

『要件は何なの? 帝国や王国に私が向かう事はありませんけどね』
『そう言うとは思っていたが、一応姉御が聞いた事があるかどうかの確認だけだ』

『何をですか?』
『黄金のヒュドラの事をじゃ』

『黄金のヒュドラですか? いえ、初めて聞きますね。もしかして今回の相手がその黄金のヒュドラ何ですか?』
『そうじゃ。現場を見たと言う帝国の幹部軍人が5mサイズの黄金のヒュドラが、氷、炎、雷の三属性攻撃であっという間に8万の将兵を殺して、そのまま消えたと言っておる』

『私の知っているヒュドラは、体長こそ10mを超えるサイズですが、使える属性は火、風、水の三属性でした。それに身体は赤黒い肌で、どう見間違っても黄金色には見えませんね』
『わしは、既に現地に入り痕跡を調べておるのじゃが、全く手掛かりが掴めん。少しこの近所にある古代遺跡を調査しようと思ってな。もしわしに何かあった場合の事を、姉御に連絡して置こうと思ったんじゃ』

『あら、坊やの癖に随分行動が慎重になったのね。あなたが行方知れずになれば、骨くらいは拾いに行ってあげるわ』
『頼んだぞい』

 何が起こってるのでしょう?
 今では無くても、私も行かなければならないかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...