上 下
89 / 134

第89話 SS 清川八郎

しおりを挟む
(清河八郎)

 天才と言う言葉は俺の為にある。
 庄内藩では、俺に教える事ができるものは居なく為った。

 しょうが無いから、江戸に来た。
 古学派の東条塾で学んでみた。
 すぐに塾頭を命ぜられたが、俺の才能をこんな所で埋もらせる訳には行かない。

 武芸をやってみた。
 江戸でも当時一番人気の有った、千葉周作の玄武館で北辰一刀流を学んだ。
 日本中から有望と言われる剣士が集まっている中で、今まで大して剣を振った経験も無かった俺が免許皆伝を得た。

 才能とは恐ろしいな、次は幕府の昌平坂学問所で学んでみた。
 そこでも一定の満足を得た俺は、習うのではなく、教えることをしてみた。
 清河塾と言う名前で江戸でも唯一、武芸と学問を俺一人で教える塾だ。

 駄目だな、習いに来る奴らに才能がない。
 俺の言うことを何も理解してない。
 辞めた。

 日本全国を旅してみた。
 世の中は倒幕の機運が高まっていた。
 これを利用してやるか……

 尊皇攘夷を掲げて人を集めてみようと思い、江戸へ戻った。
 しかし江戸ではまだ幕府の威光が強く尊皇攘夷では思うように人が集まらなかった。
 しょうが無いから、人を集めるために幕府に金を出させて、京都の尊王攘夷派を牽制するための佐幕派を集め、京都に乗り込んだ。

 勿論時代の流れが佐幕ではやっていけない事など、とうに理解している俺は京都で尊王攘夷派と親交を深め、逆に京で人を集め江戸に尊王攘夷派の人間を送り込むことを考えていた。

 その頃に、ダンジョンと言う物がいきなり現れた。
 興味を持った俺は、浪士隊として京に連れて行った中で、リーダー格だった芹沢鴨を口車に乗せ、ダンジョン討伐を行った。
 多くの浪士隊の人間を盾として使ったが、なんとか討伐し今までの常識では考えられない力を得た。

 ダンジョン討伐をする事で得た力を見せつける事で、一度は話を聞く事を断られた、薩摩、長州、土佐の要となる人間たちを、うまく仲間に引き込んだ。

 芹沢は納得はしていないようだが、俺がダンジョンマスターとして力をつけ、ダンジョンコアからの情報により、新たな文明を起こす事が可能な状態であることを、客観的に理解できていたので、行動を共にする事に渋々ながらも納得した。

 近藤達のグループは駄目だ。
 佐幕で集まったのに、真逆の行動を取るのは言語道断だと対立してきた。
 面倒くさかったから、ダンジョンで身につけた能力を使って、敵対する奴らは暗殺した。

「俺の言うことさえ聞けば、間違いないのに馬鹿な奴らだ」俺は天才だからな。

 だが俺にはちゃんとした理想がある。
 幕府による抑制から人民を開放し、当然俺が中心となるが、俺を認め、俺に媚びる奴らにはいい生活を送らせてやる。

 俺を認めないやつは、今まで通り搾取され続ければいいさ。

 俺は子供の頃から思い続けてきた。
 俺は天才だ。

 すべての女は俺に惚れて当然だ。
 すべての男は俺を引き立てるために存在する。

 ダンジョンはその後定期的に日本に現れた。
 黒船に乗って訪れる外国人から話を聞けば、世界中でもダンジョンが出てきているらしかった。
 だが俺は世界に選ばれた存在だ。

 D1と名乗るコアを獲得したものでなければ、ダンジョンを討伐するための、最低限の知識を手に入れる事すら出来ない。
 俺は仲間になった連中には、鞭と飴を使い分けダンジョンマスターにしてやったり、スキルを習得させてやったりしながらダンジョンを討伐していった。

 その頃には幕府も俺に頭が上がらなくなっていた。

 今更日本の幕府などに興味はない。

 言うことを聞くなら俺に金だけを出しさえすれば、今まで通り日本を治めるくらいの事はさせてやる。

 俺は世界を手に入れる。
 日本ではダンジョンの発生数は多くなかったので、世界に目を向け仲間になってる奴らを連れて旅立った。

 いくつかのダンジョンを討伐して、さらなる力を手に入れて日本に戻ると…… 日本は無くなっていた。
 俺が旅立って以降に現れたダンジョンが氾濫して、全ての日本人を殺し尽くしてしまってた。

 まぁしょうが無い。
 終わったことを言ってもどうしようもない。
 俺と行動を共にしている奴らは、俺になにか文句があるようだが、俺から見ればみんな雑魚だ。
 逆らえば殺せばいい。

 最初のダンジョンが現れて三年が経過した頃には、世界中何処に行っても日本と同じ様な状況になっていた。
 
 あれ? おかしいな??

 俺を崇め奉るはずの人間どもが誰も居ない。
 俺に惚れる女も居ない。
 違うこうじゃないだろ……

 コアと話をして南極に新しいダンジョンがあることを知りそこに向かう。
 今までのダンジョンと違い人が居た。

 かつて俺が暗殺した近藤が出てきた。
 ヤバイと心に警鐘がなる。
 この近藤は俺が殺した近藤と違う。
 圧倒的な強者の雰囲気を持っている。

 今戦うのは馬鹿のやることだ。
 取り敢えず仲間になったふりをして、やり過ごすことにした。

 俺が連れてきた連中は、その様子を見て俺から離れていった。
 だが芹沢達、浪士隊の連中は、近藤とは馬が合いそうにないと言って俺のもとに残った。
 まぁいいだろう俺がこのダンジョンの近藤を倒せるだけの材料を手に入れれば、再び重用してやるか。

 ある日芹沢が話しかけてきた。

「なぁ清河お前は何がしたかったんだ?」

 俺は答えた
「世界中の人間が、俺を凄いと言ってくれる世界が作りたかった」

「子供か」
 芹沢は呆れたように俺を見たが、今更どうしようもない。

「凄いと言ってくれる人間自体が、既に存在してないけどこれからどうするんだ?」

 俺は答えた
「このダンジョンには人もいる。俺は天才だから反省もできる。同じことが起こらないように民を守って、その対価として俺を凄いと言わせる」

「そうか」芹沢は短くそれだけを呟いた。

 俺の次の理想を叶えるためには近藤を超える力を手に入れる事だ。
 さてどうやって力を蓄えよう。

 転機は突然に訪れた。
 今まで起こったことが無いような大人数で、このダンジョンにやって来た奴らが居た。

「面白いな、俺が指揮をすれば近藤に勝てるかもしれん」
 そう思った俺は、うまく丸め込めようと会話を試みた。
 おかしい、全く相手にされない。
 それどころか俺の最高の攻撃「神竜召喚」ですら一撃で屠った。
 そして俺は腕を切り落とされ、その場に取り残された。

 俺は何か間違ったのか? 俺はただ自分の凄さが見せつけたかっただけなのに……

 既に、芹沢達もさっきの奴らについて行った。
 俺は一人になった。

「何故こうなった」

 それから一時間ほどが経ち、治療することも忘れて呆然としていたら、さっきの奴らが二人ほど戻ってきた。

 男と女だ、女は中々に綺麗だ。

 男が話しかけてくる「おいクソガキ、目は覚めたか?」

 失礼なやつだ。
 俺は無視をした。

 女が話しかけてきた「怪我治してあげるね」

 俺が見た事も無い魔法を使った。
 スキルではなく魔法だ。

 その場に転がっていた俺の腕は無事に繋がり、血も通い始めた。

 指もちゃんと動く。

 その女が再び声をかけてきた「貴方の力も貸してもらえないかな?」

 俺は答える「お前が俺の女に成るなら考えてやっても良い」

 男が「馬鹿かお前は、それで女にモテるわけがないだろ」と言った。

 俺は答えた「俺は天才だ、馬鹿っていうやつが馬鹿なんだぞ」と

 女は「貴方が世界を救うお手伝いをしたらきっとモテるようになるかもね。でも私は無理だよ人妻だからね」と言った。

「本当か? 俺が世界を救えばモテるんだな? ならば救ってやる。何をしたら良い?」

 話は纏まった。

 取り敢えず二人について行った。
 そして何千年ぶりかに外の世界に出た。

 大阪城だ。
 俺の居た時代よりはずっと前のようだな。
 そこには木下藤吉郎と名乗る王が居た。

 そして俺を斬った男のでかい銅像があり神として崇められていた。

 羨ましい、俺がなりたかったのはこれだった。

 そしてその町には美しい少女たちが溢れていた。
 その全てが銅像を拝み讃えていた。
 どうすればこうなれる。

 俺は天才だ。
 俺が真剣に考えれば、簡単になれるはずだ。

 そして俺なりの答えを出した。


「この少女たちの笑顔は俺が守る!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜

きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。 ※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎ ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

妹の物を盗んだということで家を追い出された。その後、妹のでっちあげだったことが発覚し・・・?!

ほったげな
恋愛
身に覚えがないのに、妹のジュエリーボックスを盗んだということ家を追い出された。その後、妹のでっちあげだったことが発覚。しかも、妹は子爵令息と婚約しており・・・??!

勇者だけど幼女使いと言われていますが何か?

KeyBow
ファンタジー
異世界に勇者として転生さかた筈が転生時にエラーが発生し、結者としてサポートを受けられず、兵卒にさせられ、その後色々な出会いがあり勇者としての?一歩を踏み出す。やがて幼女使いの二つ名を冠する一人の少年の物語

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

ヒナの国造り

市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。 飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第三巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

うさぎの楽器やさん

銀色月
ファンタジー
森1番のオリーブの木にオープンした、うさぎの楽器やさんのお話です。 児童文学系ファンタジー✨ 大人の方にも。 <うさぎの楽器やさん>のお話 <森のオルガン>のお話 <やまねこのふえ>のお話  の、3部構成になります。 …カテゴリー迷子です。

処理中です...