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異世界地球編

10歳 城下町で休暇

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 魔王国海軍航空隊のナベリウス隊長は、戦功が大であった4人から話を聞き、サキュバスの生命探知が大いに役に立つ魔法だということに気付いた。
 そして、航空隊の面々に生命探知を覚えさせるべく、最高の講師を用意した。
 名をリリスという。
 リリスは週に2回、生命探知を教えることになった。
 その時、生命探知を覚えている4人はリリスのお手伝いである。

「今日もありがとう。助かったわ。」

 リリスはとても人当たりが良かった。
 面倒見も良く、悩んでいる者がいれば一緒に悩み励まし解決に導いた。
 そんなリリスは人間には悪魔とされ、魔王の妻とも言われている。
 もちろんそんなことはないのだが、人間達には何を言っても無駄と諦めている。

「リリスさんこそ、我々に教えていただきありがとうございます。本来なら、海軍省内でどうにかすべきなのでしょうが、優秀な人材がいないとかでリリスさんに頼ってしまって……。私が海軍を代表するというのもおかしな話ですが、リリスさんには感謝しております」

 アモルはリリスと話すときはいつもこんな調子だった。

「ありがとう。それじゃあ、また来週にね」

 そう言ってリリスは帰っていった。
 リリスに教えてもらっている生命探知魔法以外の魔法についても訓練は激しさを増していた。
 まず、飛行魔法については北のマクドネル山脈と南のマスグレーブ山脈をぐるっと1周するコースが設定された。
 全長にすると約2.5キロになる。
 これを3時間で飛行しなければならない。
 他の人が魔法陣や状態:飛行に頼る中で、イツキ達4人は通常飛行で3時間を切るようになっていた。
 また魔法精度の訓練ではついに1キロ先の的に当てる訓練を開始。
 ここに至ってアモルは別の魔法を学ぶことを決断。
 炎弾、水弾、氷弾、魔力エネルギー弾を習得した。
 他の人は1キロ先の的に苦労するなかで、イツキ達4人は速攻で終わらせ、飛行を楽しむ余裕さえあった。
 戦闘訓練では、イツキはマルコシアス将軍の攻撃を回避し、距離を取ることができるようになっていた。
 もちろん回避だけでは詰められてしまうので、杖の先端で切る動作をしてみたり、持ち手を石突きとして使ったりして距離を取っていた。
 アウィスもマルコシアスの障壁を突破することに成功、その時は大いに喜んだ。
 アモルやウェスは表に出てこないものの、影からの一撃や首狩りは2人の得意とするところだ。
 そうした訓練の中で、残念ながら落ちこぼれてしまう者たちも出てくる。
 まず初めに落ちこぼれたのは、風以外の魔法に特性が無く、また他の魔法の習得を怠った者たちだ。
 魔法精度の訓練についていけず、気づいたらいなくなっていた。
 実は陸軍が落ちこぼれの飛行魔法使いを拾っていたのだが、これはまた別の話だ。
 次に落ちこぼれたのは、騎獣に乗っていた者達だ。
 飛行魔法の訓練に必要な速度が上がるにつれ、ドラゴン以外の騎獣は速度不足となってしまっていた。
 騎獣に対して速度上昇の魔法陣を使うことは困難で、純粋な騎獣の能力しか当てにできるものではなかった。
 この者達についても陸軍が拾っている。
 そうして人数を減らしながらも飛行隊は訓練を続けていく。
 訓練ばかりではない。
 飛行隊としての任務も行われることになる。

「マラッカ海峡ですか?」
「そうだ。マレー半島を手中に収めた人間達はスマトラ島に上陸すべくマラッカ海峡に船を集めていると聞く。それを叩くのが今回の作戦だ」

 隊長がイツキ達の部屋に訪ねてきて、アモルと話をしていた。

「君達4人は任務中、休暇とする。買い物するなり、空を飛ぶなり自由にするといい」
「なぜか理由をお聞かせいただいても?」
「この夏にも航空隊は空軍となる。その時には階級のバランスを考えなければいけない」
「階級のバランスですか?」
「ああ。私をトップに何人か将官がいる。その下は君達4人だ。更に下は二十余名の海賊討伐の功労者がいて、その下に一般の兵士がいることになる。具体的にいえば、君達4名は空軍発足と同時に中佐に、海軍討伐の功労者は中尉に、他は少尉となる。これではバランスが悪いだろう?」

 組織というのはいい感じにピラミッド構造になるのが望ましい。
 しかし、今の飛行隊ではイツキ達4人が突出しすぎていて、他の者はあまり表に出てはいなかった。

「確かに、あまりよいとは言えませんね」
「だから他の物に戦功を与えようというのが今回の作戦の目的だ。君達に出しゃばられてまた階級を上げられたのでは本末転倒だからな。だから休暇だ。3日ほど思い切り楽しんでくるといい」
「了解しました」
「うむ、頼んだよ」

 そう言って隊長は帰っていった。

「ということで明日から休みになるが、どう過ごす?」
「とりあえず休みといえばホテルよね」

 アウィスは休みといえばホテルという気分が残っていた。

「じゃあ、城の前のホテルのスイートを取りに行こう。他には?」
「買い物でしょうか?訓練ばかりであまり外に出てませんからね。どんなものが売っているのか気になります」

 ウェスが提案する。

「適当に買い物と。イツキは何かあるか?」
「買い物とかぶりますが、アクセサリーでも見にいきましょうか。それと、本屋か図書館にでも寄りたいです」
「わかった」

 翌朝、アモルは魔王城前のホテルに到着、スイートを2泊頼んだ。
 そうした一行は街へと繰り出した。
 まず、朝市だ。
 と言っても新鮮な野菜やフルーツが売っているわけもなく、日持ちをする野菜や小麦粉、乾物が売られていた。
 その中で食べ歩きできたのは、焼き鳥とケバブ、タコ焼きである。
 次は商店街でショッピングだ。
 洋服、アクセサリー、懐中時計と様々な商品が売られていた。
 ここでイツキは懐中時計とルビーの指輪を10個購入し、両手の指に全部嵌めて店を出た。
 ウェスもエメラルドの指輪を買っていた。
 コーヒー屋もあったのでコーヒー豆を補充する。
 本屋もあった。
 中を見るとイツキの書いた魔法陣の本も売られていた。
 ここでイツキは魔法の教科書7種と歴史書、魔法陣のために人英辞典と魔人辞典を購入した。
 荷物は魔法のトランクの中に入れた。
 ウェスは欲しい本がいっぱいあるが自分の予算と相談しているようだった。

「ウェスは何が欲しいのです?」
「世界の童話集とかロミオとジュリエットとか魔王物語とか色々あって悩んじゃいますね」
「悩む必要はないよ」

 そう言うと今言われた本を全部買ってウェスにプレゼントした。

「ありがとうございます」
「いいですって。いつもお世話になってますし」
「いいえ、出世払いにしましょう」

 ウェスの決意は固そうだ。

「ウェスが言うならいいけど、別に返さなくていいよ」
「絶対返しますから、その時をお待ち下さいね」

 買い物をしたら次は食事だ。
 ホテルの隣にある高級なレストランで食事を摂る。
 魚はなかったが、ベーコンやチーズ、ステーキは美味しかった。
 そして午後は美術館見学だ。
 まず入り口に大きな魔王様の肖像画が飾ってあってびっくりした。
 その後は戦争の様子を描いた絵が飾られている。
 その次は風景画だ。
 半島の突端から日が出る様子など、きれいな描写が多い。
 静物画もある。
 お皿からはみ出すフルーツの絵が特に気に入った。
 最後は抽象画。
 正直なところ抽象画は好みではなかった。
 訳がわからなかった。
 最後に売店で気にいった静物画のポストカードを2枚購入、1枚は父親に、1枚は祖父母に届ける予定だ。
「お元気ですか、わたしは元気です。イツキ」と余白に書くと郵便局へ持っていった。

「どちらまでお届けですか?」
「あ、島の名前がわからないんです。地図はありませんか?」
 そう言うと東アジア地域の地図が出てきた。
 日本を指さすと、「この島です」と言った。
 するとさらに拡大された。

「この島のどこになりますか?」

 そう聞いてきたので、富士山の辺りを指差した。

「ペルペトゥス山でよろしいですね?」
「はい。宛名はアラウダとアーディン、それからドーヴァで」
「かしこまりました」

(いつごろ着くかは見当がつかないけど安心してくれるといいな)

 そう思いながら手紙を出した。
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