4 / 45
第1'章 この世界に足されたもの④
しおりを挟む
空腹の学生で混み合った購買でいくつかパンを買って、人の波から抜け出す。あとは教室に戻れば解放されると思っていたけど、なぜか神崎はそのまま校舎の外に向かおうとしていた。
このまま神崎が教室に戻らなければ、戻ってくるのを待っている女子たちに何を言われるかわからない。呑気に外へと向かおうとする神崎の腕を慌てて掴み、とどまらせる。
「教室に戻らないのか?」
「昼休みは気分転換に教室の外でって決めてるから」
なんだよ、それ。それならそうと教室でそう言えば購買から外まで付き合ってくれた女子もいただろう。
いや、もしかして。初めからこれが神崎の目的だったとしたら。
もし神崎があの教室に息苦しさを感じるというのなら、少しだけシンパシーを感じる。といっても、何だこいつっていうのが99%で、残る1%くらいの共感にすぎないけど。
「ねえ、宮入君。外でどこか落ち着いてお昼食べられるところってある?」
神崎の手を取っていたつもりが、いつの間にか神崎に腕を握られていた。とっさに振り払いかけるけど、購買の周りには多くの生徒が行き交っていて、ここであまり目立ちたくないという気持ちが上回る。
いつのまにか、またこうやって退路を塞がれている。
「あるけど、あまり期待すんなよ」
そう答えて手を引っ込めると意外とあっさり解放された。なんか、俺がどんな反応をするか神崎に読まれているような気がする。そんなにわかりやすい人間でもないと思うんだけど、やっぱり俺が覚えていないだけでどこかで会ったことがあるのか。
とにかく校舎の外に出て、グラウンドを横切り敷地の端に向かう。この辺りは色々な木々が植えられているだけで休み時間も寄り付く生徒はほとんどいない。そんな校内でも一際閑散としたエリアだけど、一歩入り込んだところにちょっと上等なベンチが据えられている。
「わあ、秘密の場所みたい!」
神崎は瞳をキラキラとさせて早速ベンチに腰を掛ける。帰る素振りを見せようものならまた退路を塞がれそうで、諦めて最初から神崎の隣に腰掛ける。雑然とした校内の音は遠く、聞こえるのは若葉が風で揺れる音。一人になりたいときに見つけた不思議な場所だった。
「やっぱり、ここに来てよかった」
買ってきたばかりの焼きそばパンを頬張りながら神崎がポツリと零す。
「まあ、うちの学校では珍しく静かな場所だから」
一学年400人いるから、校舎内はどこでも大体人の声がする。そういったものから遠ざかることが出来るこの場所を見つけたのは偶然だったけど、昼休みは時々ここで時間を過ごすようにしていた。
だけど、神崎は少し不思議そうな顔で俺を見た後、パッとそこにイタズラっぽい笑みを重ねた。
「ううん、そうじゃなくて。この学校に転校してきてよかったなって」
「この半日だけで、そこまで言い切れるのか?」
神崎の前の学校は都会にあって、一切自然がなかったとかそういうことだろうか。
だけど、神崎はフルフルと首を横に振って、すっと顔を寄せてきた。
「言い切れるよ。宮入君、君がいるから」
不意に覗かせた神崎の艶っぽい表情にドキッとしてしまい、慌ててこいつは今朝いきなりタイムトラベルがどうこう聞いてきた人物だと自分に言い聞かせる。それに、神崎とは今朝初めて会ったばかりのはずで、俺がいるからなんていう言葉の意味がわからなかった。
「あのさ。俺たちって会うのは今日が初めてだよな?」
「ううん。これまでに会ったことはないよ」
ちょっとだけ変わった言い回し。まあ、気にするほどのことでもない。
「じゃあ、なんでこんなに俺に構うんだよ。それに、なんか俺のこと知ってる感じだし」
「君が、宮入君だから」
神崎の答えはまるで答えになっていなかった。でも、神崎はいたって真面目な顔をしていて、これ以上質問を続けても埒が明かなさそうだ。
仕方ない。本当に神崎とこれまで会ったことがないかは別に確かめるとして、今は紙袋の中のカラリと揚がったカレーパンに集中することにする。隣の神崎も食事に集中することに決めたようで、ニコニコとしながら次のメロンパンを手に取った。
「うん、そう。きっと私の選択は、間違ってない」
神崎の不思議な独り言を聞きながら、スパイスの香るカレーパンを飲み込んだ。
このまま神崎が教室に戻らなければ、戻ってくるのを待っている女子たちに何を言われるかわからない。呑気に外へと向かおうとする神崎の腕を慌てて掴み、とどまらせる。
「教室に戻らないのか?」
「昼休みは気分転換に教室の外でって決めてるから」
なんだよ、それ。それならそうと教室でそう言えば購買から外まで付き合ってくれた女子もいただろう。
いや、もしかして。初めからこれが神崎の目的だったとしたら。
もし神崎があの教室に息苦しさを感じるというのなら、少しだけシンパシーを感じる。といっても、何だこいつっていうのが99%で、残る1%くらいの共感にすぎないけど。
「ねえ、宮入君。外でどこか落ち着いてお昼食べられるところってある?」
神崎の手を取っていたつもりが、いつの間にか神崎に腕を握られていた。とっさに振り払いかけるけど、購買の周りには多くの生徒が行き交っていて、ここであまり目立ちたくないという気持ちが上回る。
いつのまにか、またこうやって退路を塞がれている。
「あるけど、あまり期待すんなよ」
そう答えて手を引っ込めると意外とあっさり解放された。なんか、俺がどんな反応をするか神崎に読まれているような気がする。そんなにわかりやすい人間でもないと思うんだけど、やっぱり俺が覚えていないだけでどこかで会ったことがあるのか。
とにかく校舎の外に出て、グラウンドを横切り敷地の端に向かう。この辺りは色々な木々が植えられているだけで休み時間も寄り付く生徒はほとんどいない。そんな校内でも一際閑散としたエリアだけど、一歩入り込んだところにちょっと上等なベンチが据えられている。
「わあ、秘密の場所みたい!」
神崎は瞳をキラキラとさせて早速ベンチに腰を掛ける。帰る素振りを見せようものならまた退路を塞がれそうで、諦めて最初から神崎の隣に腰掛ける。雑然とした校内の音は遠く、聞こえるのは若葉が風で揺れる音。一人になりたいときに見つけた不思議な場所だった。
「やっぱり、ここに来てよかった」
買ってきたばかりの焼きそばパンを頬張りながら神崎がポツリと零す。
「まあ、うちの学校では珍しく静かな場所だから」
一学年400人いるから、校舎内はどこでも大体人の声がする。そういったものから遠ざかることが出来るこの場所を見つけたのは偶然だったけど、昼休みは時々ここで時間を過ごすようにしていた。
だけど、神崎は少し不思議そうな顔で俺を見た後、パッとそこにイタズラっぽい笑みを重ねた。
「ううん、そうじゃなくて。この学校に転校してきてよかったなって」
「この半日だけで、そこまで言い切れるのか?」
神崎の前の学校は都会にあって、一切自然がなかったとかそういうことだろうか。
だけど、神崎はフルフルと首を横に振って、すっと顔を寄せてきた。
「言い切れるよ。宮入君、君がいるから」
不意に覗かせた神崎の艶っぽい表情にドキッとしてしまい、慌ててこいつは今朝いきなりタイムトラベルがどうこう聞いてきた人物だと自分に言い聞かせる。それに、神崎とは今朝初めて会ったばかりのはずで、俺がいるからなんていう言葉の意味がわからなかった。
「あのさ。俺たちって会うのは今日が初めてだよな?」
「ううん。これまでに会ったことはないよ」
ちょっとだけ変わった言い回し。まあ、気にするほどのことでもない。
「じゃあ、なんでこんなに俺に構うんだよ。それに、なんか俺のこと知ってる感じだし」
「君が、宮入君だから」
神崎の答えはまるで答えになっていなかった。でも、神崎はいたって真面目な顔をしていて、これ以上質問を続けても埒が明かなさそうだ。
仕方ない。本当に神崎とこれまで会ったことがないかは別に確かめるとして、今は紙袋の中のカラリと揚がったカレーパンに集中することにする。隣の神崎も食事に集中することに決めたようで、ニコニコとしながら次のメロンパンを手に取った。
「うん、そう。きっと私の選択は、間違ってない」
神崎の不思議な独り言を聞きながら、スパイスの香るカレーパンを飲み込んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる