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少年アンバーと夜空ストロー(序章)
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ぼくの両親は預言死守党派と対立する帰還協会に所属していた。協会の取り決めでは十七歳未満のクルーの就寝時間が厳正に定められているため、最も新しい情報を発信するミスターポールの『夜空ストロー』の生配信は観れない。しかし重要な放送の内容は、必ず翌朝の学習センターで仲間から共有された。
争い好きの人たちには皮肉なこと。戦後世代の対立構造が終わらない限り、ぼくらの世代ではみんな自然と仲が良くなる環境が整っているということ。ぼくらはセンター生のうちから当たり前に共和意識が育まれ、その慣習と関係性向は三十年ぐらい終わらないぞとミスターポールが断言している。そこまではずっと前からみんな知った話だし、大人たちも容認してた。
今朝はちがう。昨夜のミスターポールの『夜空ストロー』は朝のセンターを大騒ぎにさせることになった。問題の配信、そのリスナー煽りの下りで彼はもっと過激な発言をしていたから。
★
「──スレイブにゃなれないんだ。親の派閥が違うことなんか関係ないね。だって俺たち新しい世代が新しい世代なりの向上思考を寄せ集め、新しい世代だけで結成する同期同盟と同期ランキングから誰に飛車八号の舵を取らせるかってところが将来の基準になるんだぜ。今のところ常にランキング上位のアンバーが最有力候補だろう。そう俺の友達さ。もちろんリスナー諸君の友達でもある。合ってるよね? それでだ、よく聞いてくれみんな。今ごろおねんねしてるアンバーにもあした会ったらぜひ伝えてくれよ。記者たちが噂してたが、俺はこりゃただの噂じゃないってすぐわかった。みんなもきっとピンとくる。言うよ。何やら。繰り返される言葉が。死守党派の委員たちの頭に……響いているって。……っイエエエーイ! みんな驚け成功だぜー! 飛者八号の船内でとうとう原因不明の病が流行しはじめたんだ! ははは、まあ、原因は俺たちの作戦にありなんだがね。とにかく喜ぼう。サノバース! 未来は明日だ! そう、なれ!」
ミスターポールがその危険な(大人たちにとっては危険だろうという意味の)問題の認知を広めようとしたことは、配信基地局の管理長官に打撃を与えた。その後すぐ別の情報パーソナリティが呼ばれて緊急特別報道番組がはじまったらしい。
「ミスターポールは虚偽の症説を配信したとして、先ほど隔離棟へ送られました。えっと、繰り返します、先ほどのミスターポールの配信は虚偽の症説です」
特番に中立母星振興市からのリモートゲストとして参加したのはアンジェリナ市長だった。平気な顔してうそぶいたという。
「彼も一種の共感病かと思われます」
そんなコメントも出たそうだ。結果的にポールの言葉がコロニーの一部を震わせた反動は多大。ポールの言葉がただの虚言だったか、あるいは虚言だったことにされてしまったって、コロニー全体に広がった。あくまでも可能性としてだが。
こうも言われたらしい。
「戦後は共感しやすい人が増えている、それだけのことと考えられます」
こうも言われたらしい。
「発症した人たちはみんな同じ言葉が聞こえるというんですよ。ぼくも同じ、わたしも同じ、奇妙な幻聴が聞こえると。そういうことなんですね」
「はい。『なれ』と」
「ええ。『なれ』です。何に? 何になれというのか、それはわかりません。ナレ、ナレ、ナレ、それだけ。実害は特にありません。今のところありません。動揺してはいけません」
どうとでも言え。
★
「アンバー、ねえアンバー。おねしょはしなかったかい? ポールはいつ戻ってこれるかな? 何とか言えよ」
陽気な仲間たちがにやにや顔で群がってくる。徹底的に防護された学習センターへ立ち入れる大人なんていやしない。
ぼくは何もしらない、そういうことになってるから、ビビる理由なんてあるもんか。なるようになれって、すました風に笑ってやった。
争い好きの人たちには皮肉なこと。戦後世代の対立構造が終わらない限り、ぼくらの世代ではみんな自然と仲が良くなる環境が整っているということ。ぼくらはセンター生のうちから当たり前に共和意識が育まれ、その慣習と関係性向は三十年ぐらい終わらないぞとミスターポールが断言している。そこまではずっと前からみんな知った話だし、大人たちも容認してた。
今朝はちがう。昨夜のミスターポールの『夜空ストロー』は朝のセンターを大騒ぎにさせることになった。問題の配信、そのリスナー煽りの下りで彼はもっと過激な発言をしていたから。
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「──スレイブにゃなれないんだ。親の派閥が違うことなんか関係ないね。だって俺たち新しい世代が新しい世代なりの向上思考を寄せ集め、新しい世代だけで結成する同期同盟と同期ランキングから誰に飛車八号の舵を取らせるかってところが将来の基準になるんだぜ。今のところ常にランキング上位のアンバーが最有力候補だろう。そう俺の友達さ。もちろんリスナー諸君の友達でもある。合ってるよね? それでだ、よく聞いてくれみんな。今ごろおねんねしてるアンバーにもあした会ったらぜひ伝えてくれよ。記者たちが噂してたが、俺はこりゃただの噂じゃないってすぐわかった。みんなもきっとピンとくる。言うよ。何やら。繰り返される言葉が。死守党派の委員たちの頭に……響いているって。……っイエエエーイ! みんな驚け成功だぜー! 飛者八号の船内でとうとう原因不明の病が流行しはじめたんだ! ははは、まあ、原因は俺たちの作戦にありなんだがね。とにかく喜ぼう。サノバース! 未来は明日だ! そう、なれ!」
ミスターポールがその危険な(大人たちにとっては危険だろうという意味の)問題の認知を広めようとしたことは、配信基地局の管理長官に打撃を与えた。その後すぐ別の情報パーソナリティが呼ばれて緊急特別報道番組がはじまったらしい。
「ミスターポールは虚偽の症説を配信したとして、先ほど隔離棟へ送られました。えっと、繰り返します、先ほどのミスターポールの配信は虚偽の症説です」
特番に中立母星振興市からのリモートゲストとして参加したのはアンジェリナ市長だった。平気な顔してうそぶいたという。
「彼も一種の共感病かと思われます」
そんなコメントも出たそうだ。結果的にポールの言葉がコロニーの一部を震わせた反動は多大。ポールの言葉がただの虚言だったか、あるいは虚言だったことにされてしまったって、コロニー全体に広がった。あくまでも可能性としてだが。
こうも言われたらしい。
「戦後は共感しやすい人が増えている、それだけのことと考えられます」
こうも言われたらしい。
「発症した人たちはみんな同じ言葉が聞こえるというんですよ。ぼくも同じ、わたしも同じ、奇妙な幻聴が聞こえると。そういうことなんですね」
「はい。『なれ』と」
「ええ。『なれ』です。何に? 何になれというのか、それはわかりません。ナレ、ナレ、ナレ、それだけ。実害は特にありません。今のところありません。動揺してはいけません」
どうとでも言え。
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「アンバー、ねえアンバー。おねしょはしなかったかい? ポールはいつ戻ってこれるかな? 何とか言えよ」
陽気な仲間たちがにやにや顔で群がってくる。徹底的に防護された学習センターへ立ち入れる大人なんていやしない。
ぼくは何もしらない、そういうことになってるから、ビビる理由なんてあるもんか。なるようになれって、すました風に笑ってやった。
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