金魚鉢

高殿アカリ

文字の大きさ
上 下
10 / 29

10

しおりを挟む
 最後の"馬鹿"がとっても温かく心に響いて、私の目から一粒涙が溢れた。

そして、一度溢れるともうそれを止めることはできなくて。



 まるで張り詰めていた糸が切れたみたいに、私は大きな声で泣いた。

 そんな私を兄はただ受け止めて、その胸に引き寄せてくれた。



「ふぇ、お兄」



「どした」



「私、おかしいのかなって思ってた。だって、優ちゃんは優しくて、」



「だから、あんなのは優しいんじゃないんだって」



「じゃあ、何て言うの?」



 私がそう聞くと、兄は頭をガシガシと掻いて、



「あー、それはな。ただの執着ってやつだ」



「え?」



「だから、あいつはお前に執着してんだよ。キモいほどにな。だから、お前も嫌だったんだろ? 纏わりつかれているみたいでさ」



「嫌だったってわけじゃ……。ちょっとだけ息が詰まるなって」



「だぁから、それを嫌気が差してたって言うんだろ?」



「そ、それに! 優ちゃんが私に執着しているなんてあり得ないよ。だって、優ちゃんは学校中の人気者で、女の子たちの王子様的存在で……」



「でも、知ってるか? あいつ、毎朝お前を迎えに来たとき、いつも俺の部屋の窓を睨み付けんだぜ。俺はいつ襲撃にあうか怖くて、夜道も歩けねーよ」



「嘘だ」



「嘘じゃねーよ。あいつは兄貴の俺にさえ嫉妬してんだよ」



「そうじゃなくって。お兄が夜道も歩けないなんて、嘘だってこと」



「お前、そっちかよ! まぁ、歩けるけどよ」



 なぁんて、いつもの会話をしていたら。

 どうやら私の感情も随分と収まったみたいで。



「……ま、ありがと。お兄」



 ちょっと照れくさいながらも、私は兄にお礼を言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

推し活、始めました。

桜乃
恋愛
今まで推し活できなかった分、推して、推して、推しまくれ!!(by 月子さん) 五十嵐月子(いがらしつきこ)35歳。 アイドル、葉月輝良(はづききら)の大大ファン。 訳ありで推し活できなかった分、やっと叶った推し活生活。満喫しまくります! 葉月綺良(はづききら)23歳。 職業、アイドル。 僕の推しの押しが強すぎる! 葉月綺良(23歳)アイドル✕五十嵐月子(35歳)ファン ※推しごと・推し活……推し(好きなアイドルやアニメキャラなど)を応援する活動。 ※20000文字程度の短編です。9/16完結予定。 ※1ページの文字数は少な目です。 ※自作短編「お仕事辞めて、推しごと解禁!」を加筆修正しておりますので、そちらと重なっているページもございます。 約15000文字加筆いたしました。元作品の3倍の加筆……それは加筆と言っていいのか、些か疑問です……(;´∀`) ※ちょこっと恋愛入ってます。 ※題名、本文等、修正する可能性がございます。

処理中です...