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Story 02 side.TYAKO

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餡子があたしの後を追ってきてくれたのはとても嬉しかった。

しかし、そんなあたしの心とは裏腹に何の力もないあたしたちの現実には厳しいものがあった。



一緒に生活するために、あたしは仕方なくまた夜の仕事を始めた。

餡子には秘密にしているが、実はあたしも未成年だ。



そのため、年齢詐称しても構わないという店でしか働くことが出来ない。

そしてそういう店は決まって他にも後ろ暗いことをしているところだった。



だから、あたしが貰えるお金も想像より少ないことはしょっちゅうだ。



あたしは他者に蔑ろにされることに慣れ過ぎていて、染まり過ぎていて、感覚が麻痺しているんだ。

何とも思わないフリばかり上手くなって、そんなの虚しいだけなのに、さ。



夜の街は女で未成年で弱い立場にあるあたしをとことん搾取してくる。

それが分かっていても、尚、学のないあたしが稼げるのなんて夜の仕事しかなかった。



餡子が笑う。

美味しそうに高級な和菓子を頬張りながら。



餡子が話す。

転校先はどうしよう、実家に帰らない方法で転校したい、なんて頭を悩ませながら。



餡子が欲しがる。

クソ親父どもとよく似た目つきで、健全な乙女の皮を被って、あたしの唇を舐め回しながら。



餡子が欲しがる。

あたしの心を、あたしの身体を、あたしの未来を、ただ己の安寧の為だけに。



あたしも餡子に対して同じことをしても構わないらしい。

そして、それらを許し合うことが餡子の言う「愛」というものらしい。



だから、あたしの感情は間違ってないはずだ。

明け方、ふらふらになりながら、身も心も憔悴しきって帰宅したあと、健やかに眠る餡子の横顔をあたしはずっと眺めている。



殺したいなあって思うんだ。



羨ましいなぁって思うんだ。



たまに、そっと彼女の首に手をかけてみたりする。

あと枕を餡子の顔に乗せてみたりも。



殺意を向けても、餡子は許してくれる。

だって彼女はあたしを愛しているし、あたしも彼女を愛しているんだから。



だけど、餡子の身体が無くなったら、餡子の愛も無くしちゃうから、あたしは殺意の真似事をするだけ。

こんなの、ただのおままごとだよ。



ぼぅっとする頭はいつも思考を鈍らせる。



あ、そうか。今日はお客さんに変な薬を鼻に入れられたんだっけ。

冷や汗が止まらなくて、がたがたと身体は震えて、こんなにも辛いのに、朝日はちゃんと地球を照らしてる。



……あたし、一体なんのために家を出たんだっけ。
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