その女、女狐につき。

高殿アカリ

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6.不穏

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「ねぇ、りぃくん。去年に出た死体ってなんのことだろうね?」



 男たちの会話の中で一つだけ府に落ちなかった言葉。



“死体”



 物騒なその言葉に、私には思い当たるものがなかった。



 寵愛姫候補が誰かは知っているのになぁ。



「一年前、誰が死んだのかしら? というか、何が起きたのかしら?」



 何も答えない里奈に、私はもう一度尋ねてみる。

 今度は里奈の顔を覗き込みながら。



 すると、何故か里奈は涙目になりながら、



「愛美、あんた本当に……」



 声に出さず、里奈は唇だけを動かしてこう続けた。



 どうしてか、私にははっきりとその言葉が聞こえてきたような気がした。



“ワスレタノ?”



 ……忘れたって何よ。

 何を忘れたっていうの。



 その疑問はそのまま心の奥の方、ぽっかりと空いた穴に落ちていった。



 何にもないその空間に、昔は何かがちゃんとあったのだろうか。



 どうにも虚しくなってきて、私は里奈の腕をぺしぺしと叩いてやった。



「変なこと言わないでよ。まるで私がおかしな子みたいじゃない」



「それはごめん。……うーん、でもおかしな子だってことは否定しないよ」



 にやりと笑う里奈は続けた。



「だって、変装までしてこんな場所に来るなんて、まともな奴はしないよ。ま、楽しいから良いんだけどさ」



 それを言われちゃあ、何にも言い返せないですぜ。



 そんな軽口を叩き合っている(里奈の優しさに乾杯)と、いつの間にか目的のバイクに辿り着いていたみたい。



 ひらりとバイクにまたがる里奈に続いて、私もその後ろに飛び乗った。
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