その女、女狐につき。

高殿アカリ

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1.主人公は寵愛姫の親友さん

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 不機嫌な背中の二人を小走りで追いかけて、息が軽く切れるころ、私は大きな倉庫の前に立っていた。



 うーん、やっぱりいつ見ても色味がないわねぇ。

 ここに通うのも、そろそろ一カ月になる。



 入学式の後すぐに、一花は黒閻の寵愛姫になった。



 寵愛姫というのは、その名の通り黒閻みんなが愛する、守るべき姫様のことだ。



 寵愛姫は、毎日黒閻の溜り場である倉庫に通わなくてはならない。



 それは、寵愛姫が他の族から狙われる可能性を防ぐためでもあり、寵愛姫がその族の顔でもあるからだ。



 あるいは、これらのことは全て諸説であり、本当はただただ側に置いておきたいだけだ、という話もある。



 あ、最後の説は私が考えたの。

 一番有力だと思うわ。



 大概の女の子たちは寵愛姫になりたがる。



 私ももちろん、そのうちの一人。



 だって、格好良くて強い彼らに寵愛されるのよ?

 逆ハーレムよ?

 守ってもらえるのよ?



 そして何より、お姫様なのよ?



 まぁ、結局選ばれたのは一花だったんだけど。



 これも想定内。



 だって彼女、黒閻のこと知らなかったし。

 男の子のルックスにも興味ないみたいだったし。



 たぶん、そういう擦れていない(ズレたとも言う)ところを彼らは気に入ったのだと思う。



 まぁ、つまり一花は女の子たちが羨む寵愛姫に選ばれちゃったわけ。



 彼女は優しいから、多分断れなかったんだろうな。



 ただ、その時彼女は寵愛姫になる代わりに、一つの条件を彼らに出した。



「……私の、友達の愛美ちゃんも一緒に、いられるなら……」



 彼らはしぶしぶ頷いた。



 一花の友人ならば、もしかしたら彼女と同じような、黒閻の肩書なんか目にもくれない子なのかもしれない。



 そう、期待したのかも。



 けれど実際、蓋を開けてみれば、愛美ちゃんは派手子だったの。



 ギャル、というほどではないけれど、黒閻の肩書に憧れている一人だったってわけ。



 初めて顔を合わせたときの、彼らの落胆と嫌悪が凄かった。



 その時の彼らの表情を思い返して、私はふっと笑った。



 今はまだ嫌われているけれど、いつか絶対に振り向かせるわ。



 だって、そのために一花と友達になったんだもの。



 一花がこの場所に、私を導いてくれるって信じていたわ。



 入学式の日、あなたを初めて見た時から。



「大好きよ、一花」



 私は一人呟いて、通い慣れ始めた倉庫に足を踏み入れた。
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