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第2章 嘘つきたちの宴

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体力の限界が訪れて、座り込んだ場所は学園の森でした。

私は息もたえだえに、震える足からパンプスを剥ぎ取りました。
運動に向かないこの身体と、走ることに向いていないこの可愛らしい靴とで、私の足先は細かな傷を沢山こしらえていました。

それでも今ここには誰もいません。
そのことが不思議と私を絶望から救ってくれるようでした。

普段は生徒も先生も訪れることのない森であることを言い訳に、私はふわりと身体全体を柔らかな地面に預けることにしました。

ころん、と寝転んで空を仰ぎます。

大地の芳しい香りが私を癒し、まっさらな青い空が私を許してくれているかのようでした。

このまま、知らない世界に連れていってくれてもいいのですよーーーー。

そう思い、ゆっくりと目を閉じたときでした。

かさりと葉を踏みしめる音がして、森の奥の方から誰かの気配を感じました。

私は驚き、咄嗟に身体を起こしました。
と同時に、森の奥深く、陽のあたらない木立の向こう側から1人の青年が現れたのです。

彼のその漆黒の瞳が私を貫いてきます。
一瞬が永遠にも感じられ、私の呼吸は止まりました。

どくん、とひとつ大きな鼓動が私の内で鳴り響き、続いて早鐘のように忙しなく心臓が動き始めました。

大地の息吹だけが聴こえてくる静謐な森のなか、こうして私たちは出会ったのです。

彼の端正な顔は驚きに満ち、それからふわりと笑って口を開きました。

「ーーーー私はアダム。お嬢さん、貴女の名前は?」

これが、私が「ただのイヴリン」として初めて他者に認められた瞬間でした。
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