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第3章

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「初めて……?」

雪の目がチカチカと拒否反応を起こす。

大吾の「初めて」をあの女が奪った。
突如として湧き上がる激動に、雪は自分の感情をコントロール出来なかった。

あの女が「初めて」大吾に快楽を与えた。
あの女が「初めて」大吾のものを咥えこんだ。

先ほどの光景が雪の中にフラッシュバックしてくる。

気持ち良さそうな声を出す大吾。
快感に顔を歪ませる大吾。

「大吾くん」なんて女に呼ばせて。
それはずっと僕だけが呼んできた君の名前だ。

今更、どこの馬の骨ともしれない女にどうしてーーーー。

どうして?
どうして僕が大吾くんの初めではなかったの?

どうしてだろう。
どうしてだろう。

……どうすれば時間が戻る?

どうすれば、君の「初めて」は僕のものになる?
僕だけのものに?

……あぁ、そうか。
簡単な事じゃないか。

僕が彼の貞操を奪えばいい。
挿れるよりも、挿れられる方が気持ちいいと思わせれば良いんだ。

そうすれば、あんな女の上に大吾が跨ることは無くなる。

なぜなら、彼女には出来ない事だから。
男である僕にしか出来ない事だから。
大吾くんの処女を奪うなんて。

そうなれば、もう誰も僕から大吾くんを奪えやしない。

僕がその顔を歪ませてあげるよ。
もっともっと気持ちよくさせてあげる。
僕の元から離れられないように。
そんな馬鹿な考えなど決して浮かんでこないように。

大吾たちを見つめる雪の瞳はどこまでも澄み渡り、そこには何の邪心も下心もなかった。


あの日から雪の中の何かが変わった。
そして三年が経っても、雪の心が満たされることはなかった。

雪は大吾の口内に自分の勃ったものを含ませる。

「んぅ」

大吾は眉根を寄せて苦しそうにそれを咥えこむ。

「大吾、ごめんな」

雪は寂しそうにそう言うと、そのまま激しく腰を動かした。

苦しいのか、大吾のベッドに固定されている手足がもがいている。
ぎしぎしと軋むベッドのスプリングの音が大吾を蹂躙しているのだと雪を安心させる。

酷いことをしているのだと頭では分かっていても、止められない欲望が雪の心を支配していた。

あのときの光景が今も雪を苦しめる。
優しい顔をして「大吾くん」と呼びかけても、その視界に浮かぶのはあの夜の女。

香水の匂いを撒き散らして、柔らかな胸を押し付けて、大吾の「初めて」を奪った女。

二人の行為を思い出す度、雪は大吾の身体を貫く日を夢見た。
大吾の処女に恋焦がれた。

優しくなんてしてやらない。
真っ白なシーツに赤い鮮血の華を咲かせてやる。

それから、ベッドの上では絶対に「大吾くん」なんて呼んでやらない。

誰かのものになった「大吾くん」なんていらないから。
……僕だけの「大吾」になってよ。

「大吾、苦しい?」

雪の問いかけに大吾は睨みを返す。
しかし、雪は嬉々としてより深く腰を押し付けた。

「あぁ、大吾……」

雪は大吾に見られないようにそっと涙を流しながら、大吾の口の中を犯した。
大吾が雪の欲望を飲み干すまで、彼は腰を口から離さなかった。

「これが僕の想いだよ。さぁ、ちゃんと味わって」

それから、と雪は誰にも聞こえないほどの声量でこう続けた。

ーーーーこんな風にしか愛せない、僕を許して。
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