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第二章 愉快な学園生活
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目が覚めると、目の前にすやすやと眠るパトリシアがいた。
瞼を閉じ、うっすらと開かれた唇は桃色に色付いている。
あまりにもの無防備さに、翔梧は思わず目線を逸らした。
まるで見てはいけないものを見ている気分になったのだ。
木々から落ちてきた朝露が、パトリシアの頬にかかる。
その雫の冷たさに、僅かに眉根を寄せ、彼女は唸った。
「ん、うぅ」
悩ましげな吐息に、翔梧は視線の落ち着く先を定められないでいた。
そうこうしているうちに、パトリシアが翔梧に少しずつ擦り寄ってくる。
まるで猫のように無邪気で、無自覚で、故にどこまでも凶悪であると、翔梧は思った。
ぎゅっと翔梧に抱き着くと、パトリシアはそのまま再び眠りに落ちていった。
彼女の年齢には釣り合わない、少々豊満な胸元が柔らかく翔梧に当てられた状態だった。
「一体、俺にどうしろってんだ」
据え膳食わぬは、男の恥。
とはよく言ったもので、まぁこの場合はパトリシアの無自覚な据え膳ではあるのだが。
翔梧はそっと彼女の柔らかな銀桃の髪に指先を通した。
「お嬢は俺だけのものには、なってくれないだろうけどな」
ふっと苦々しく笑って、今だけはと彼女の美しい髪を存分に楽しむことにした。
『こいまほ』の世界を楽しんだあと、下町で自由に生きるのが夢だと語ったパトリシアにとって、転移者として常に監視される自分の存在はあまりにも足枷でしかなかった。
翔梧にはそのことが分かっていたから、彼女に自分の想い伝えるわけにはいかないとずっと気持ちに蓋をしてきたし、その方針を今後も変えることはないだろう。
大切で大事で、稚拙にも愛しているからこそ。
やっぱり彼女にはどこまでものびのびと生きていて欲しいと願う。
彼女が望むのなら、ノエルとの政略結婚に路線変更したって構わない。相手がサイモンでも、レジナルドでも、マシューでもいいだろう。
今のところ、ノエルたちはどうやらパトリシアのことしか見えていないようであるし、彼女の幸せがそこにあるのなら――――。
「俺は全力でお嬢を導くだけだ」
指先で掬い取った毛先を自らの口元まで持ってくる。
余すところなくどろどろに甘やかして、俺なしでは生きられない身体にさせて、このままこの腕の中で閉じ込めてしまいたい。
そんな我儘で強欲な思いを今だけは隠すことなく唇に乗せて、翔梧はパトリシアの毛先に優しく口付けた。
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目が覚めると、目の前にすやすやと眠るパトリシアがいた。
瞼を閉じ、うっすらと開かれた唇は桃色に色付いている。
あまりにもの無防備さに、翔梧は思わず目線を逸らした。
まるで見てはいけないものを見ている気分になったのだ。
木々から落ちてきた朝露が、パトリシアの頬にかかる。
その雫の冷たさに、僅かに眉根を寄せ、彼女は唸った。
「ん、うぅ」
悩ましげな吐息に、翔梧は視線の落ち着く先を定められないでいた。
そうこうしているうちに、パトリシアが翔梧に少しずつ擦り寄ってくる。
まるで猫のように無邪気で、無自覚で、故にどこまでも凶悪であると、翔梧は思った。
ぎゅっと翔梧に抱き着くと、パトリシアはそのまま再び眠りに落ちていった。
彼女の年齢には釣り合わない、少々豊満な胸元が柔らかく翔梧に当てられた状態だった。
「一体、俺にどうしろってんだ」
据え膳食わぬは、男の恥。
とはよく言ったもので、まぁこの場合はパトリシアの無自覚な据え膳ではあるのだが。
翔梧はそっと彼女の柔らかな銀桃の髪に指先を通した。
「お嬢は俺だけのものには、なってくれないだろうけどな」
ふっと苦々しく笑って、今だけはと彼女の美しい髪を存分に楽しむことにした。
『こいまほ』の世界を楽しんだあと、下町で自由に生きるのが夢だと語ったパトリシアにとって、転移者として常に監視される自分の存在はあまりにも足枷でしかなかった。
翔梧にはそのことが分かっていたから、彼女に自分の想い伝えるわけにはいかないとずっと気持ちに蓋をしてきたし、その方針を今後も変えることはないだろう。
大切で大事で、稚拙にも愛しているからこそ。
やっぱり彼女にはどこまでものびのびと生きていて欲しいと願う。
彼女が望むのなら、ノエルとの政略結婚に路線変更したって構わない。相手がサイモンでも、レジナルドでも、マシューでもいいだろう。
今のところ、ノエルたちはどうやらパトリシアのことしか見えていないようであるし、彼女の幸せがそこにあるのなら――――。
「俺は全力でお嬢を導くだけだ」
指先で掬い取った毛先を自らの口元まで持ってくる。
余すところなくどろどろに甘やかして、俺なしでは生きられない身体にさせて、このままこの腕の中で閉じ込めてしまいたい。
そんな我儘で強欲な思いを今だけは隠すことなく唇に乗せて、翔梧はパトリシアの毛先に優しく口付けた。
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