16 / 46
第一章 再会は突然に
15
しおりを挟む
私はなるべくふらりと立ち上がりながら、馬車の扉を開けた。
そこにいたノエル、サイモン、レジナルド、名も知らぬ不良くん、護衛騎士の青年が一斉に私の方を見る。
よかった、まだ誰も怪我一つしていない。
「もう大丈夫なのか!」
レジナルドの表情は硬い。
「まだ無理をしてはいけないよ」
ノエルは笑顔を浮かべ、相変わらず本心が見えない。
「姉さん、どこか痛いところはない?」
サイモンは良い弟に育った。私は嬉しいよ。
「おい、何起き上がっているんだ。寝ておけ」
そして、不良くん。実は君、優しい男だな?
彼らは調子の悪い私と不良くんをどう扱うかで言い合いをしていたようだ。
不思議なことに、不良くんとノエルたちに会話の齟齬は起きていない。
世界の方程式が私の生きていた場所とは違う作用をしているのだろう。
ほっと安堵の息を吐きながら、私はあたかも弱々しく彼らに返事をした。
「えぇ、痛みは一旦収まりましたわ。ただ、今日のところはお屋敷に帰らせていただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ、そうだな。医者を手配しよう」
「この不審者はどう処理する?」
「不審者じゃねぇよ」
「彼は一旦、ロイド公爵家に預けてもらえませんか。助けて頂いたのは事実ですもの」
「姉さん……」
「ふむ、分かった。追って正式な判断が下るまで、ロイド公爵家にて保護してもらうことにしよう。異論はないな?」
ノエルがその場にいた全員に視線を送る。
不良くんが私に視線を送ってきたので、私は優しい笑みを浮かべた。
「手荒な真似は致しませんわ」
「まぁ、それなら」
致し方なし、と彼は覚悟を決めてくれたようだった。
皆の意見がまとまりかけた、その時だった。
茂みの向こうから強力な魔力のエネルギーの塊がやってくるのを感じたのは。
それは真っ直ぐにノエルに向かって放たれていた。
自動翻訳の方程式を編み出した世界も、どうやら『こいまほ』のイベントストーリーを書き換える力はなかったようで。
私は急造した病弱設定のこともすっかり忘れて、ノエルの前に飛び出した。
驚いた榛色の瞳が私を見つめていた。
「なっ、パトリシア嬢……⁉」
ウインクの一つでもキメたかったのだが、そんな余裕はない。
私は両手を広げてノエルを背後に庇い、ぎゅっと瞼を閉じた。
やって来る衝撃に備えていると、瞼の向こう側に大きな影を感じた。
次の瞬間、身体の横から突風が吹いて衝撃が通り抜けていった。
爆音が辺りに響いたあとは、沈黙が森の中を支配するばかり。
そこにいたノエル、サイモン、レジナルド、名も知らぬ不良くん、護衛騎士の青年が一斉に私の方を見る。
よかった、まだ誰も怪我一つしていない。
「もう大丈夫なのか!」
レジナルドの表情は硬い。
「まだ無理をしてはいけないよ」
ノエルは笑顔を浮かべ、相変わらず本心が見えない。
「姉さん、どこか痛いところはない?」
サイモンは良い弟に育った。私は嬉しいよ。
「おい、何起き上がっているんだ。寝ておけ」
そして、不良くん。実は君、優しい男だな?
彼らは調子の悪い私と不良くんをどう扱うかで言い合いをしていたようだ。
不思議なことに、不良くんとノエルたちに会話の齟齬は起きていない。
世界の方程式が私の生きていた場所とは違う作用をしているのだろう。
ほっと安堵の息を吐きながら、私はあたかも弱々しく彼らに返事をした。
「えぇ、痛みは一旦収まりましたわ。ただ、今日のところはお屋敷に帰らせていただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ、そうだな。医者を手配しよう」
「この不審者はどう処理する?」
「不審者じゃねぇよ」
「彼は一旦、ロイド公爵家に預けてもらえませんか。助けて頂いたのは事実ですもの」
「姉さん……」
「ふむ、分かった。追って正式な判断が下るまで、ロイド公爵家にて保護してもらうことにしよう。異論はないな?」
ノエルがその場にいた全員に視線を送る。
不良くんが私に視線を送ってきたので、私は優しい笑みを浮かべた。
「手荒な真似は致しませんわ」
「まぁ、それなら」
致し方なし、と彼は覚悟を決めてくれたようだった。
皆の意見がまとまりかけた、その時だった。
茂みの向こうから強力な魔力のエネルギーの塊がやってくるのを感じたのは。
それは真っ直ぐにノエルに向かって放たれていた。
自動翻訳の方程式を編み出した世界も、どうやら『こいまほ』のイベントストーリーを書き換える力はなかったようで。
私は急造した病弱設定のこともすっかり忘れて、ノエルの前に飛び出した。
驚いた榛色の瞳が私を見つめていた。
「なっ、パトリシア嬢……⁉」
ウインクの一つでもキメたかったのだが、そんな余裕はない。
私は両手を広げてノエルを背後に庇い、ぎゅっと瞼を閉じた。
やって来る衝撃に備えていると、瞼の向こう側に大きな影を感じた。
次の瞬間、身体の横から突風が吹いて衝撃が通り抜けていった。
爆音が辺りに響いたあとは、沈黙が森の中を支配するばかり。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
魔王様はマンガ家になりたい!
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
私は斉木まーぶる(本名:凛々子)、二十六歳。干物女子と言われるような恋愛事には無縁のマンガ家である。徹夜続きで脱稿済ませた解放感で、寝る前に食料を買い込みに外に出て、飛び出した黒猫に驚いて急性心不全で亡くなるが、目覚めたのは異世界のホーウェンという国の魔王城。
黒猫が魔王クレイドその人だったようで、驚かせたのが原因で亡くなってしまい、大変申し訳なかったと謝罪されるが、あちらで生き返らせるのは無理だと言われる。自分が無理を重ねていたせいもあるので、勝手に自分が驚いたぐらいで死ぬのは自業自得だから気にしないでいいと答える。ただ、弟に会えなかったのが唯一の後悔だったので、せめて弟に一目会えないかと問うと、霊体でも親族なら分かってくれるかも知れない、と弟の元へ。
超がつくほどのシスコンだった弟は、日本に戻ったら半透明の姉でもちゃんと分かってくれ再会を喜ぶが、弟の棚にあったマンガの並ぶ棚(ほぼ姉の)に興味を惹かれた魔王がマンガを読んだことで、私はまーぶる先生と呼ばれ、何故か自分もマンガ家になりたいと目を輝かせるクレイドに、弟と自分が何故か協力する羽目になる。
何故か他の三人の魔王まで加わって、死んでからも何故か忙しいまーぶると、魔王クレイドの師弟&恋愛ドタバタラブコメ。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
悪役令嬢は冷徹な師団長に何故か溺愛される
未知香
恋愛
「運命の出会いがあるのは今後じゃなくて、今じゃないか? お前が俺の顔を気に入っていることはわかったし、この顔を最大限に使ってお前を落とそうと思う」
目の前に居る、黒髪黒目の驚くほど整った顔の男。
冷徹な師団長と噂される彼は、乙女ゲームの攻略対象者だ。
だけど、何故か私には甘いし冷徹じゃないし言葉遣いだって崩れてるし!
大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた事に気がついたテレサ。
断罪されるような悪事はする予定はないが、万が一が怖すぎて、攻略対象者には近づかない決意をした。
しかし、決意もむなしく攻略対象者の何故か師団長に溺愛されている。
乙女ゲームの舞台がはじまるのはもうすぐ。無事に学園生活を乗り切れるのか……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる