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第一章 再会は突然に

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ノエルと出逢ってから、早くも二年が過ぎた。

七歳になる年、私は正式にノエル殿下の婚約者となった。



「ここまではストーリー通りね。順調じゃないかしら?」



日本語で書いた『こいまほ』年表を広げ、私は鼻息を荒くしていた。

パトリシア視点から見た『こいまほ』年表を合法的に仕方なしに作ってもいいとか幸せすぎた。



って、そんな事今はよくって。



私は右の人差し指をつつーと七歳の年に合わせる。

そこには二つの名前が記載されていた。

「サイモン・ロイド」「レジナルド・グレイグ」の名前だ。



私が第一王子の婚約者になったことで、ロイド公爵家の跡継ぎ問題が発生するのだ。

そこで私の父は優秀な後継者を没落貴族の子息から引き取ってくるのである。



それがサイモン、『こいまほ』における宰相の息子役であり、私の義理の弟となる人物であった。

実は私の父は現国王の宰相をやっており、ロイド公爵家は歴代優秀な宰相を排出している文官貴族なのだ。



没落したあと、貧民街で何とか毎日を耐え忍んできたサイモンは、地獄から救ってくれたロイド公爵家の力になりたいと願い、ロイド家の良き後継者となる。



漆黒の瞳と同じ色の綺麗な長髪を持つ彼の容姿は、柔和で紳士な印象を与える。

しかし、その見た目とは裏腹にかなりの女嫌いでもあった。



パトリシアとの折り合いも悪かったのだろう。私の義弟の女嫌いは成長と共に助長していく。

もちろん、ヒロインと出会うまでの話である。



一方、ノエルの方も私という婚約者の存在により王位継承者としてさらに本格的な扱いを受けることになる。

その一環として、レジナルド・グレイグが彼の護衛役に抜擢されるのであった。



つまり、将来の側近候補である。



金髪に近いくらいの明るい茶髪に明瞭な赤い髪が一部顔を覗かせている。金髪赤メッシュの子犬系男子だ。

現代日本ならば確実に髪がきしきしに傷む容貌なのだが、当然彼らは地毛なので、そのふわふわと緩い天然パーマ状の髪の毛はさぞかし触り心地が良いことだろう。



おっと、涎を拭いて……っと。



そんな子犬系騎士の血筋、つまりグレイグ公爵家は近衛兵として名を挙げた貴族であった。我がロイド家が国王の右腕なら、グレイグ家は左腕と言ったところか。



しかし、レジナルドの上には三人もの優秀な兄がいた。

たまたま同年代であったという理由でレジナルドがノエル王子の側近候補になったことを、兄たちは快く思うわけがなかった。

兄弟間において小さな不和が生じてしまう。



誰にも相談することの出来ないコンプレックスに塗れた彼は、これまたヒロインの純粋で明るい性格によって救われる、はずである。



王子ルートしか攻略していないので、彼らの細かい設定は曖昧である上に正確な流れも知らないのだ。



否。

だからこそ、彼らとヒロインの絡みは非常に拝みたい光景の一つでもあった。



「幼少期のヒーローたちを拝めるなんて役得よね」



無論、ただ壁から覗くだけである。それが良いのだ。通の食べ方なのである。



正規のルートを出来る限り円滑に進めるという目標は二年前に決めたのであるが、ヒロインが誰を選ぶかは正直賭けであった。

ヒロインを誘導することも可能だが、そんな無粋な真似は作品への冒涜だ。絶対にしたくない。

ヒロインの自由意志を尊重することをここに誓いますわ。



とは言え、しかし、ほんの僅かな願望を述べるとするならば。

あわよくば、見たことのない物語だと嬉しい。これに尽きる。

つまり、ヒロインが王子ルート以外に進んでくれることを祈るばかりなのであった。



そして今年、私は彼らと出会う。

ストーリーの進行上、どうしても、仕方なく。



だ、だから、涎なんて出ていないんだからねっ!



私は枕に顔を埋め、ばたばたと見悶えた。

攻略対象者たちの期間限定ショタスチルに、期待と期待と期待で、胸がいっぱいなのであった。
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