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第一章 再会は突然に

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実際のところ、まだ若干の混乱が残っていた私はいつも通りの反応を返してしまっただけに過ぎなかったりもする。

要するに、社交辞令には社交辞令を、だ。



あと、推し作品の流れを出来るだけ特等席で見ていたいっていう願望もちょっとだけ、ね?

ほら、『こいまほ』ってかなり平和な乙女ゲームだから、悪役令嬢の私の末路だって平民としてのんびり生きていくだけだったはずだし。



寧ろ推し作品世界の貴族側も庶民側も隅々まで満喫出来る世界線とか、幸せでしかないって言いますか。



オタクの打算って本当に怖いわよね。

一瞬で損得勘定を終えた私は、五歳児らしからぬ笑みを返したんだから。



「では、もう少し休ませていただきますわ。わざわざお越しくださり、ありがとうございます」



綺麗なカーテシーを見せると、ノエルは戸惑った様子であった。

きっと聞き分けがいい私は見慣れないのだ。



だが、淑女の対応をすれば反射的に彼も紳士の対応を返すほかない。

ノエルは曖昧に頷くと、首を傾げながら部屋を出ていった。



自室の扉が閉まるのを見届けて、私は保っていた微笑みを崩した。



「ふぅ、何とか切り抜けたわ」



額の汗を拭きながら、ほっと胸を撫で下ろした。

と同時にじわじわと『こいまほ』の世界に来てしまったのだという実感が湧いてきた。



にんまりと上がる口角を抑えることが出来ず、鏡の中の自分に目をやった。

そこには興奮する美しき幼女がいた。



これはこれで、美味しいですわね。

前世の私に登場人物になり切る願望はなかったのだが、なってしまったものは仕方がない。



悪役令嬢パトリシア・ロイド。

それがこの世界における私の役割なのだ!



拳を天井に突き上げて、声にならない叫び声をあげたのだった。









一方、扉の向こう側にいるノエルは少々頬を赤らめながら、口元に腕を持ってきた。



「あのような令嬢、であったか?」



我儘で自分勝手で周りに迷惑をかけるお子様だと思っていた。

いずれ王妃になる相手だから、と初対面で丁寧に扱ったのが運の尽き。



彼女は自分を特別だと勘違いし始めたのだ。

高慢なパトリシアの姿は、ノエルの嫌う階級主義の大人と何ら変わらない。



そのことに酷くがっかりしたことも記憶に新しい。



しかし、今日の彼女は少し様子が違っていた。

彼女が浮かべた清濁併せ吞む微笑みは、普段ノエル自身が浮かべるそれだった。



どくどくと不規則に刻む心臓の音は、動揺故かはたまた他の原因によるものであるのか。



「パトリシア・ロイド……見定めさせてもらおう」



思いもしなかった現状に、けれども結論を出すのはまだ早いと、ノエルは早足にロイド公爵邸を後にしたのであった。
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