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1章
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つまるところ、どうやらセレナはチカラを使わないようにだけすれば良いらしい。それから、しっかりと魔法に関する知識を学んでくれというのだ。
何でも、
「学ぶことで、自らのチカラを制御出来るようになった後は、好きに生きても構わない」
とのこと。
セレナは呆然として、彼らの話を聞いていた。
本来ならば、こんなにもおかしい話はないのだ。だから、それが自分の身の上に起きている現実であるということの実感を、セレナはちっとも得ることが出来なかった。
……この人たちはおかしいのね。
変人なのよ、きっと。
魔法使いって皆こうなのかしら。
セレナは真面目にも、そんなことを考え始めた。
だって、私に魔法を学ばせるなんて!
国の中でも、限られた少数の者しか学べないこの国の財産を、得体の知れない私に教えるというのよ。
……正気じゃないわ。
「分かったかい?」
ティラーの問いかけにセレナは、はっと意識を戻した。どうやら彼女は現実逃避をしていたみたいだ。
セレナはただ黙って、こくこくと何度も首を縦に振った。
……これで良いのかしら? もちろん、私にとっては良いことなのだけれど。
ずっと覚悟していたから。
アランドを追い出された時から。
盗賊を殺してしまった時から。
私は罰せられるんだとばかり……。
想像以上に、いや想像さえ出来ないほどに、この魔法学校ハザールは優しい世界なのかもしれない。
……でも、判断するのはまだ早いわ。
セレナは固唾を飲んで、ティラーを見つめていた。
だって、このままで終わるはずがないのよ。絶対に何かあるはずよ。
セレナの訝しがる視線には気付かず、ティラーは続けてこう言った。
「ただし、そうは言っても君には巨大なチカラがあるからね。少しだけ条件を付けさせてもらう」
……ほらね。
「……承知致しました。……それで、その条件とは何でしょうか?」
「君に、監視役の先生を付けさせてもらう。君は週に一度、その先生の元へ行き、個別で指導されるんだ。もちろん、君がハザール内で何か問題を起こした場合も、その先生が対処をすることになるだろう」
「はい、分かりました」
にこりともせず、セレナはそう告げた。
監視役の先生、ね……。個別指導だなんて、体の良い牢獄ってことかしら?
能面のような無表情の顔の下でセレナはティラーの言葉をそんな風に感じていた。
それから、その監視役の先生がマスターティラーだったら良いのにな、という思いも少しだけ。
けれども、ティラーは無情にもこう続ける。
「その監視役の先生だが……マスターイヴァン、お願い出来ますかな?」
ティラーは円卓の一番端に座っていた魔法使いにそう問うた。セレナもまた、ティラーの視線を追い、自分の監視役となるその人を見た。
二人の視線に晒さられたイヴァンは、優雅な仕草で席を立つと、そのままセレナの前へとやってきた。
監視役を引き受けるということなのだろう。
「初めまして、セレナ」
彼はそう一言発した後、魔法使いの象徴である黒いローブのフードを取り払った。
暗くぽっかりと開いた闇の中から出てきたのは、若い男の人だった。
男の人にしては少し長めの髪を小麦色に輝かせ、端正な顔立ちの中心にある象徴的な青い瞳でセレナを見つめるイヴァン。
それから口角を上げ、目を細めた彼に、セレナは何も言えなかった。文字通り、絶句したのだ。
なぜなら、彼の若さにセレナは心底驚いたからだ。
大仰な若作りをしているのだ、というように考えたところで、どう見ても私の一回りほど上くらいよ、彼。
衝撃を受けるセレナに、楽しそうにティラーは告げた。
「驚いたかい? 彼はハザールの歴史上一番優秀な魔法使いなんだよ。なんせ、史上最年少でここの先生になった人だからね」
セレナはティラーに顔を向けた後、次にイヴァンへと視線を移した。
……この人が、私の監視役。年も近くて、優秀な人材。まさに、私の監視役にはうってつけってことね。
「……よろしく、お願いします」
姿勢を正し、セレナは頭を下げた。とても綺麗な所作であった。
そして、その姿はまさしく、教えを乞う生徒の姿そのものであった。
何でも、
「学ぶことで、自らのチカラを制御出来るようになった後は、好きに生きても構わない」
とのこと。
セレナは呆然として、彼らの話を聞いていた。
本来ならば、こんなにもおかしい話はないのだ。だから、それが自分の身の上に起きている現実であるということの実感を、セレナはちっとも得ることが出来なかった。
……この人たちはおかしいのね。
変人なのよ、きっと。
魔法使いって皆こうなのかしら。
セレナは真面目にも、そんなことを考え始めた。
だって、私に魔法を学ばせるなんて!
国の中でも、限られた少数の者しか学べないこの国の財産を、得体の知れない私に教えるというのよ。
……正気じゃないわ。
「分かったかい?」
ティラーの問いかけにセレナは、はっと意識を戻した。どうやら彼女は現実逃避をしていたみたいだ。
セレナはただ黙って、こくこくと何度も首を縦に振った。
……これで良いのかしら? もちろん、私にとっては良いことなのだけれど。
ずっと覚悟していたから。
アランドを追い出された時から。
盗賊を殺してしまった時から。
私は罰せられるんだとばかり……。
想像以上に、いや想像さえ出来ないほどに、この魔法学校ハザールは優しい世界なのかもしれない。
……でも、判断するのはまだ早いわ。
セレナは固唾を飲んで、ティラーを見つめていた。
だって、このままで終わるはずがないのよ。絶対に何かあるはずよ。
セレナの訝しがる視線には気付かず、ティラーは続けてこう言った。
「ただし、そうは言っても君には巨大なチカラがあるからね。少しだけ条件を付けさせてもらう」
……ほらね。
「……承知致しました。……それで、その条件とは何でしょうか?」
「君に、監視役の先生を付けさせてもらう。君は週に一度、その先生の元へ行き、個別で指導されるんだ。もちろん、君がハザール内で何か問題を起こした場合も、その先生が対処をすることになるだろう」
「はい、分かりました」
にこりともせず、セレナはそう告げた。
監視役の先生、ね……。個別指導だなんて、体の良い牢獄ってことかしら?
能面のような無表情の顔の下でセレナはティラーの言葉をそんな風に感じていた。
それから、その監視役の先生がマスターティラーだったら良いのにな、という思いも少しだけ。
けれども、ティラーは無情にもこう続ける。
「その監視役の先生だが……マスターイヴァン、お願い出来ますかな?」
ティラーは円卓の一番端に座っていた魔法使いにそう問うた。セレナもまた、ティラーの視線を追い、自分の監視役となるその人を見た。
二人の視線に晒さられたイヴァンは、優雅な仕草で席を立つと、そのままセレナの前へとやってきた。
監視役を引き受けるということなのだろう。
「初めまして、セレナ」
彼はそう一言発した後、魔法使いの象徴である黒いローブのフードを取り払った。
暗くぽっかりと開いた闇の中から出てきたのは、若い男の人だった。
男の人にしては少し長めの髪を小麦色に輝かせ、端正な顔立ちの中心にある象徴的な青い瞳でセレナを見つめるイヴァン。
それから口角を上げ、目を細めた彼に、セレナは何も言えなかった。文字通り、絶句したのだ。
なぜなら、彼の若さにセレナは心底驚いたからだ。
大仰な若作りをしているのだ、というように考えたところで、どう見ても私の一回りほど上くらいよ、彼。
衝撃を受けるセレナに、楽しそうにティラーは告げた。
「驚いたかい? 彼はハザールの歴史上一番優秀な魔法使いなんだよ。なんせ、史上最年少でここの先生になった人だからね」
セレナはティラーに顔を向けた後、次にイヴァンへと視線を移した。
……この人が、私の監視役。年も近くて、優秀な人材。まさに、私の監視役にはうってつけってことね。
「……よろしく、お願いします」
姿勢を正し、セレナは頭を下げた。とても綺麗な所作であった。
そして、その姿はまさしく、教えを乞う生徒の姿そのものであった。
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