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1章
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一時間ほど走っただろうか、遠くの方に黒っぽい塔が見えてきた。
「あれが魔法学校ハザールでさぁ」
馬丁がセレナたちに荒っぽく告げる。
「懐かしい……」
ティラーは瞳を細め、そう呟いた。
セレナはただひたすらに、高くそびえ立つ黒の塔を見つめるばかり。
「あそこが、ハザール......」
吐息のように吐き出されたセレナの囁きは、誰の耳に入ることもなく、宙に消えていった。
ハザールに着くと、馬丁への挨拶もそこそこにティラーはセレナを連れて、門を潜った。
大きくて荘厳な門だった。
がちゃん。
門の閉まる音がセレナの耳に大きく響いた。
魔法学校ハザールは幾つかの黒い塔で構成されていた。
門があるのは王城とハザールの間のみであり、ハザールの裏側には何の仕切りもない。
というのも、そこには荒野が広がるばかりだからだ。時に魔法使いたちはその広大な土地を使い、実験や生徒たちへ実習を行わせることがある。
そんな話をティラーから教わりながら、セレナはティラーの後を追うように、幾つもそびえ立つ黒の塔の、一番奥の大きな塔へと足を運んだ。
ティラーは慣れたように一番大きな塔の下に立ち、その視線をもってセレナを自分の元に呼び寄せると、彼女をそのまま自分の隣に立たせた。
一体何が始まるのかとセレナが訝しがっていると、二人の足元に青白く光る魔法陣が現れた。
そしてそのまま、二人は白い光に包み込まれ、セレナの気が付いたときには真っ黒い部屋へと移動していたのだった。
その部屋には、厳かな表情のこれまた漆黒のローブを着た魔法使いたちが陳列していた。
弧を描くように約十人ほどの魔法使いたちが円卓型の机の向こう側の椅子に座り、こちらに視線を向けている。
それもフードを深く被っているため、魔法使いたちの性別や年齢は推測すら出来ないのだから、セレナの心がちっとも落ち着かないのも仕方のないことだろう。
セレナは思わず、隣にいるティラーへと視線を向けた。
彼ならこの状況を何とかしてくれるかもしれない。
無意識にそんな思いがあったのだろう。
しかし、ティラーはセレナの視線に気付くことなく、彼もまたフードを深く被り、魔法使いたちの方に向かって歩き始めたのだ。
そして黒いテーブルの向こう側、たった一つだけ空いていた席に着席すると、周りにいる魔法使いたちと同じように、セレナへと視線を投げかけた。
彼女を値踏みするかのような、そんな視線を。
ティラーのその様子に、セレナの心は打ち砕かれた。
そうね、彼もそっち側の人間だったわ。今更の事実にどうしてこうも傷つかなくてはならないのかしら。
急速にセレナの心は、冷え込んでいった。彼女の瞳は遠くを見つめ、何を考えているのか、その断片さえも感じ取らせなかった。
ティラーはセレナの心の動きに気付いていた。また、どうして彼女がそんな思いを抱いているのかにも。
けれど、彼は何も言わなかった。セレナを慰めるようなことは何も。
否、言えなかっただけなのかもしれない。なぜなら彼は一介の魔法使いであり、幾らセレナのことを娘のように感じていたとしても、ここでは彼女は得体の知れない存在なのだから。
そう、幾ら彼がセレナのことを大切に思っていたのだとしても。
「あれが魔法学校ハザールでさぁ」
馬丁がセレナたちに荒っぽく告げる。
「懐かしい……」
ティラーは瞳を細め、そう呟いた。
セレナはただひたすらに、高くそびえ立つ黒の塔を見つめるばかり。
「あそこが、ハザール......」
吐息のように吐き出されたセレナの囁きは、誰の耳に入ることもなく、宙に消えていった。
ハザールに着くと、馬丁への挨拶もそこそこにティラーはセレナを連れて、門を潜った。
大きくて荘厳な門だった。
がちゃん。
門の閉まる音がセレナの耳に大きく響いた。
魔法学校ハザールは幾つかの黒い塔で構成されていた。
門があるのは王城とハザールの間のみであり、ハザールの裏側には何の仕切りもない。
というのも、そこには荒野が広がるばかりだからだ。時に魔法使いたちはその広大な土地を使い、実験や生徒たちへ実習を行わせることがある。
そんな話をティラーから教わりながら、セレナはティラーの後を追うように、幾つもそびえ立つ黒の塔の、一番奥の大きな塔へと足を運んだ。
ティラーは慣れたように一番大きな塔の下に立ち、その視線をもってセレナを自分の元に呼び寄せると、彼女をそのまま自分の隣に立たせた。
一体何が始まるのかとセレナが訝しがっていると、二人の足元に青白く光る魔法陣が現れた。
そしてそのまま、二人は白い光に包み込まれ、セレナの気が付いたときには真っ黒い部屋へと移動していたのだった。
その部屋には、厳かな表情のこれまた漆黒のローブを着た魔法使いたちが陳列していた。
弧を描くように約十人ほどの魔法使いたちが円卓型の机の向こう側の椅子に座り、こちらに視線を向けている。
それもフードを深く被っているため、魔法使いたちの性別や年齢は推測すら出来ないのだから、セレナの心がちっとも落ち着かないのも仕方のないことだろう。
セレナは思わず、隣にいるティラーへと視線を向けた。
彼ならこの状況を何とかしてくれるかもしれない。
無意識にそんな思いがあったのだろう。
しかし、ティラーはセレナの視線に気付くことなく、彼もまたフードを深く被り、魔法使いたちの方に向かって歩き始めたのだ。
そして黒いテーブルの向こう側、たった一つだけ空いていた席に着席すると、周りにいる魔法使いたちと同じように、セレナへと視線を投げかけた。
彼女を値踏みするかのような、そんな視線を。
ティラーのその様子に、セレナの心は打ち砕かれた。
そうね、彼もそっち側の人間だったわ。今更の事実にどうしてこうも傷つかなくてはならないのかしら。
急速にセレナの心は、冷え込んでいった。彼女の瞳は遠くを見つめ、何を考えているのか、その断片さえも感じ取らせなかった。
ティラーはセレナの心の動きに気付いていた。また、どうして彼女がそんな思いを抱いているのかにも。
けれど、彼は何も言わなかった。セレナを慰めるようなことは何も。
否、言えなかっただけなのかもしれない。なぜなら彼は一介の魔法使いであり、幾らセレナのことを娘のように感じていたとしても、ここでは彼女は得体の知れない存在なのだから。
そう、幾ら彼がセレナのことを大切に思っていたのだとしても。
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