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1章
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魔法学校ハザールへ行くには、王城の中を通らなくてはならない。
王に認められた者だけが、ハザールへの入学資格を持つのだ。
セレナの場合、ティラーという後見人がいるので何の問題もなくハザールに入れるというわけなのだ。
しかし、もし彼女が何の力もないただの平民であり、かつ貴族や魔法使いから何の推薦もなかったとしたら、セレナはただ、王城の段階で門前払いを食らっていたことだろう。
セレナとティラーは、王城の前に着くやいなや、護衛たちから歓迎を受けた。
彼らはひとしきり熱烈な歓迎した後、とある場所に二人を連れていった。
護衛たちに引き連れられた先には、王城内専用の馬車がセレナとティラーを待っていた。
ティラーはいつものことだとばかりに、特に驚いた様子もない。
一方、セレナは。
城に入る前の長い真っ白な跳ね橋が降りてきた時もそうであったが、ここでもまた彼女の口は大きく開いており、閉じるという機能を忘れてしまったみたいであった。
ティラーに導かれて馬車に乗り込んだ時に馬丁が、
「お嬢ちゃん、口はあまり開かない方が良いですぜ。王城内とは言え、ハザールまではちっとばかし距離があるのでね。飛ばせるところは飛ばします。すんません」
と伝えたので、それからのセレナの口はきちんとその機能を思い出していたようだったが。
王城は、白色を基にして作られている。ときどき、青や赤、黄色の模様や大きなステンドグラスの窓がある以外は、真っ白だ。
セレナはハザールに着くまでの間、馬車の窓からそれらを眺めていた。
庭園の横を通る時には、遠くの方に貴婦人たちが茶会を開いている姿が見えた。
あるいは、庭師たちがせっせと薔薇の手入れをしていたり、メイドたちが洗濯物を干していたりもした。
城にいる誰もが居場所を持っていた。そしてそこで、生活を営んでいた。
それらの活気を馬車の窓からセレナは、ただひたすらに見つめていた。
その静かな眼差しから、彼女が何を思っているのかは推し量れない。
人を死なせてしまったこと。
例えその人が悪人だったとしても、その事実はセレナの心に重くのしかかっている。
華やかな貴婦人たちの笑い声。
草木が色鮮やかに形作られていく。
純粋無垢であるとばかりに主張する真白の城。
陽の光を浴びて輝くのはステンドグラス。
セレナは目を細めた。
限りなく生命に満ち溢れたこの世界に。
絶望や暗闇などとは程遠いであろうこの場所に。
「......私は相応しくないのかもしれないわ」
彼女の心は疲弊し、彼女の命は淘汰される。
穏やかな日常こそが奇跡であり、何気ないやり取りこそが希望なのだ。
セレナの瞳は、何を写し取っていたのだろうか。
王に認められた者だけが、ハザールへの入学資格を持つのだ。
セレナの場合、ティラーという後見人がいるので何の問題もなくハザールに入れるというわけなのだ。
しかし、もし彼女が何の力もないただの平民であり、かつ貴族や魔法使いから何の推薦もなかったとしたら、セレナはただ、王城の段階で門前払いを食らっていたことだろう。
セレナとティラーは、王城の前に着くやいなや、護衛たちから歓迎を受けた。
彼らはひとしきり熱烈な歓迎した後、とある場所に二人を連れていった。
護衛たちに引き連れられた先には、王城内専用の馬車がセレナとティラーを待っていた。
ティラーはいつものことだとばかりに、特に驚いた様子もない。
一方、セレナは。
城に入る前の長い真っ白な跳ね橋が降りてきた時もそうであったが、ここでもまた彼女の口は大きく開いており、閉じるという機能を忘れてしまったみたいであった。
ティラーに導かれて馬車に乗り込んだ時に馬丁が、
「お嬢ちゃん、口はあまり開かない方が良いですぜ。王城内とは言え、ハザールまではちっとばかし距離があるのでね。飛ばせるところは飛ばします。すんません」
と伝えたので、それからのセレナの口はきちんとその機能を思い出していたようだったが。
王城は、白色を基にして作られている。ときどき、青や赤、黄色の模様や大きなステンドグラスの窓がある以外は、真っ白だ。
セレナはハザールに着くまでの間、馬車の窓からそれらを眺めていた。
庭園の横を通る時には、遠くの方に貴婦人たちが茶会を開いている姿が見えた。
あるいは、庭師たちがせっせと薔薇の手入れをしていたり、メイドたちが洗濯物を干していたりもした。
城にいる誰もが居場所を持っていた。そしてそこで、生活を営んでいた。
それらの活気を馬車の窓からセレナは、ただひたすらに見つめていた。
その静かな眼差しから、彼女が何を思っているのかは推し量れない。
人を死なせてしまったこと。
例えその人が悪人だったとしても、その事実はセレナの心に重くのしかかっている。
華やかな貴婦人たちの笑い声。
草木が色鮮やかに形作られていく。
純粋無垢であるとばかりに主張する真白の城。
陽の光を浴びて輝くのはステンドグラス。
セレナは目を細めた。
限りなく生命に満ち溢れたこの世界に。
絶望や暗闇などとは程遠いであろうこの場所に。
「......私は相応しくないのかもしれないわ」
彼女の心は疲弊し、彼女の命は淘汰される。
穏やかな日常こそが奇跡であり、何気ないやり取りこそが希望なのだ。
セレナの瞳は、何を写し取っていたのだろうか。
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