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第3章 真夏の逢瀬

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「母もタマのことが好きだったし、一緒に使っても一向に構わないと思うんだけど?」

純粋無垢な瞳は彼女の美点でもあり、そして同時に醜さでもあると思う。
あまりものその無邪気さに僕は少しだけ嫌気が差してきた。

女神は女神のままで、天界にだけ存在していて欲しいのに。

僕などという下等生物の為に慈悲深くあるその姿こそ一種の残酷さを内包していることに果たして彼女は気がついているのだろうか?
それとも、そんなことは人間ならざる者からすれば些末なことなのだろうか?

どちらにせよ、僕にとって残酷であることには変わりないか。

弄ばれた苛立ちを上手く隠したつもりで、答える他なかった。

「僕が構うんだよ」

何の意味も果たさないじゃれ合いの応酬はまだ続く。

「それなら、まずは煙草を止めるところからね」

大人ぶっただけの煙草なら砂糖菓子のそれでも良いじゃない。
まるで彼女が言いそうなことを頭の中で付け足して、僕はこのまま腐敗していくんだろうか。

本当はきっと彼女の言いたいことはそんなことじゃないって知っている。
否、そうじゃないって知っていたい。
ただの希望論だ。不毛すぎて涙も出てこない。

だから何も言い返せなくて、本心を白日の下に晒すのが怖くて、やっぱり僕は弱虫以外の何者でもなくて、ついでに才能もないから、結局、話をすり替える。

「とにかく、暫くは自分の貯金で何とかするよ」

ポチはまだじゃれ合いを続けたいようだった。

「分かった。それでどうしようもなくなったら、私の母の遺産を使うのね」

世界滅亡の時にしか本来の意味を果たさないであろう、このじゃれ合いはまるで無駄なものなのに。
知らなかったけれど、人類はもうすぐ滅亡するのかもしれない。

「ともかく、仕事を見つけるしかないな」

もう試合は終わったんだよ。
僕はリングを降りた。

「今日の雲の流れる速度は何だかきゅんとするわね」

隣で彼女は呑気にそんなことを言った。
歌姫の方が詩人らしいなんて、本当に人類は滅亡すれば良いと思うよ。

心の底から本当に。
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