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第2章 夏空の少女

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思わずそんな考えに至ってしまった自分を恥じて、下唇を噛み締めたその時。
廊下の向こう側から闊歩するミナミの姿が見えた。

その顔にはニヒルでシニカルな表情が浮かんでいて。
僕の背中は粟立った。

嫌な汗が背中を伝い、さながら僕はライオンの前に飛び出したうさぎの気持ちだった。

彼女はそんな僕の様子に気がつくと、より一層笑みを浮かべ、かつかつと高いピンヒールを前へ前へと進めてくる。

そして、僕の目の前までやってくると、その端正な顔をちょっとだけ歪ませて、

「やってられるわけないでしょ、こんなのと......全部、誰かさんと一緒にさせられるんだから!」

泣きたいみたいに笑って、そう言っていた。
その様子をどこか他人事のように僕は見ていた。

彼女は笑っていたんじゃない。
泣きそうになるのを堪えていたんだ。
僕はようやく、彼女の強がりに気がついた。

それから、どきりと僕の心臓は嫌な音をたてた。

「誰かさん」には心当たりがあったからだ。ポチのことだ。

ミナミは気づいていたのだ。とっくの昔に。
自分がポチと比べられていることに。

申し訳ない気持ちと仕方がないじゃないかと反抗する気持ちがせめぎ合って、それから僕は考えることを放棄した。
幼い頃からよく聞き慣れたポチの足音が、日本中に有り触れた安っぽい廊下を歩いていたから。

やはり、一番早くポチの存在に気がついたのは僕で。
それから次々にレコード会社のスタッフたちが気づいて、プロデューサーも気づいて、最後にようやくミナミが気づいた。

ポチに気がついた人から順に、驚き、慌て、ふためいて。
その様子がどことなく可笑しく思えた。

肝心のポチはというと。
そんな周りの様子など全く気にする様子はなく、一定の速度でこちらへと向かっている。

もしかしたら、彼女にとって、こんな風に歩いているだけで誰かに驚かれるなんてことは酷く当たり前のことだったのかもしれない。
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